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九話
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※※※
「はぁっ……はっ、あー疲れたっ」
俺は拓海を最後にギリギリ追い抜かすと、そのまま砂浜の上に転がった。すぐに拓海も隣に大の字になる。
「……きっつ……はぁっ、はっ……僕……体力、落ちてる……」
「だな……、こんな無駄に走ったのも、俺もっ……久しぶりだし」
「あはっ……だね……」
俺たちは肩で息をしながら、満点の星空の下、呼吸を繰り返す。藍色の夜空には星々が競うように瞬いて月が優しくこちらを照らしている。
夏休み最後の夜だからだろうか。
いつもは学生のグループやカップルがチラホラいるのだが、今夜の海は貸し切りだ。互いの呼吸音と波の音だけが聞こえてくる。
「……綺麗だね」
そう言うと、ようやく呼吸が整ってきた拓海が俺の方に顔を向けた。
「ほんとだな、マジで星ってこんな綺麗だっけ。堕ちてきそう」
星に向かって掌を翳した俺を見ながら、拓海がにんまり笑った。
「なんだよ?」
「葵って、時々ロマンチックなこというよね」
「あー……そう言われたら途端に恥ずいじゃん」
「ははっ、僕はそういう葵も好きだけどね」
葵の無邪気な『好き』という言葉に俺の心臓がどくんと音を立てた。
「ど……どうも」
「あははっ、やけに素直! じゃあ、星より綺麗かわかんないけどやろっか」
拓海がゆっくり起き上がると、リュックから花火を取り出した。
「ねぇ。葵と二人だけの花火って初めてじゃない?」
「確かにな」
俺も起き上がると拓海の前にしゃがみ込んだ。
「長い付き合いの僕たちにも、初めてやることがあったなんてね」
「なんだよそれ、って……まぁ確かにな。拓海としてないことの方が少ないよな」
「だね、キャッチボールも葵としたのが初めてだったし」
「屋根伝いに互いの家出入りしたのもな」
「あはは、それこの間やったよね」
「やってること、子供の頃から変わってねーじゃん」
何気ない俺の言葉に拓海が少しだけ寂しそうな顔をした。
「……そう見えるけど……でもさ」
「拓海?」
「ううん。なんもない」
拓海はふっと笑うと、俺に花火を手渡しライターで火を点けた。ジュッという音と共にすぐに花火の先端から火花が上がった。
「すっげ」
「僕にも火もらっていい?」
俺は拓海の花火に自分の花火を近づけて点火した。瞬く間に拓海の花火からも火花が上がり、二つのまばゆい明かりが煌めきながらゆっくりと根元めがけて燃え上がっていく。
「ライターでつけんの面倒だから火絶やさないようにしようか」
「りょーかい」
俺と拓海は互いの花火が終わりそうになるたびに、どちらかの花火を点火させて絶やすことなく繫いでいく。
なんだかその様が互いを無意識に求めて、気づかぬうちに足りない何かを補い合ってきた俺と拓海の関係のように思えて、俺は花火の明かりを目に焼き付けるようにじっと見つめていた。
花火は赤から黄色になって緑になり、白銀の光をひときわ強く放つと最後は白い煙となって、ゆらゆらと星空へ吸い込まれていった。
「はぁっ……はっ、あー疲れたっ」
俺は拓海を最後にギリギリ追い抜かすと、そのまま砂浜の上に転がった。すぐに拓海も隣に大の字になる。
「……きっつ……はぁっ、はっ……僕……体力、落ちてる……」
「だな……、こんな無駄に走ったのも、俺もっ……久しぶりだし」
「あはっ……だね……」
俺たちは肩で息をしながら、満点の星空の下、呼吸を繰り返す。藍色の夜空には星々が競うように瞬いて月が優しくこちらを照らしている。
夏休み最後の夜だからだろうか。
いつもは学生のグループやカップルがチラホラいるのだが、今夜の海は貸し切りだ。互いの呼吸音と波の音だけが聞こえてくる。
「……綺麗だね」
そう言うと、ようやく呼吸が整ってきた拓海が俺の方に顔を向けた。
「ほんとだな、マジで星ってこんな綺麗だっけ。堕ちてきそう」
星に向かって掌を翳した俺を見ながら、拓海がにんまり笑った。
「なんだよ?」
「葵って、時々ロマンチックなこというよね」
「あー……そう言われたら途端に恥ずいじゃん」
「ははっ、僕はそういう葵も好きだけどね」
葵の無邪気な『好き』という言葉に俺の心臓がどくんと音を立てた。
「ど……どうも」
「あははっ、やけに素直! じゃあ、星より綺麗かわかんないけどやろっか」
拓海がゆっくり起き上がると、リュックから花火を取り出した。
「ねぇ。葵と二人だけの花火って初めてじゃない?」
「確かにな」
俺も起き上がると拓海の前にしゃがみ込んだ。
「長い付き合いの僕たちにも、初めてやることがあったなんてね」
「なんだよそれ、って……まぁ確かにな。拓海としてないことの方が少ないよな」
「だね、キャッチボールも葵としたのが初めてだったし」
「屋根伝いに互いの家出入りしたのもな」
「あはは、それこの間やったよね」
「やってること、子供の頃から変わってねーじゃん」
何気ない俺の言葉に拓海が少しだけ寂しそうな顔をした。
「……そう見えるけど……でもさ」
「拓海?」
「ううん。なんもない」
拓海はふっと笑うと、俺に花火を手渡しライターで火を点けた。ジュッという音と共にすぐに花火の先端から火花が上がった。
「すっげ」
「僕にも火もらっていい?」
俺は拓海の花火に自分の花火を近づけて点火した。瞬く間に拓海の花火からも火花が上がり、二つのまばゆい明かりが煌めきながらゆっくりと根元めがけて燃え上がっていく。
「ライターでつけんの面倒だから火絶やさないようにしようか」
「りょーかい」
俺と拓海は互いの花火が終わりそうになるたびに、どちらかの花火を点火させて絶やすことなく繫いでいく。
なんだかその様が互いを無意識に求めて、気づかぬうちに足りない何かを補い合ってきた俺と拓海の関係のように思えて、俺は花火の明かりを目に焼き付けるようにじっと見つめていた。
花火は赤から黄色になって緑になり、白銀の光をひときわ強く放つと最後は白い煙となって、ゆらゆらと星空へ吸い込まれていった。
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