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雨宿りと青髪の男
しおりを挟む(降りそうだな)
私はないと思いつつも鞄の中を漁るが、やっぱり折り畳み傘は入っていない。
「あ……」
空を見上げれば、案の定、ぽつりぽつりと降り出してきた雨に私はたまたま目についた、古びた商店街のアーケード下へ移動した。
古い商店街であることと、時間的に店のほとんどにシャッターが下りている。
(暫くここで雨宿りか……)
雨足はあっという間に強まる。駅までは五分ほどだが、傘無しでは駅に着く頃にはシャワーを浴びたようになってしまうだろう。
「はぁ……いつ止むんだろ」
スマホで雨雲レーダーを検索してみれば、ちょうどこの辺りの雨雲は一時間ほどで移動するようだ。
(一時間なら待てるかな……)
──そう思った時だった。後ろから声が聞こえてくる。
「雨宿りですか?」
低すぎず高すぎず、どこか中世的な凛とした声だった。
ゆっくりと振り返れば、淡いブルー髪色が印象的な、モデル並みに背の高い男性が私を見ていた。
男性は清潔感のある真っ白なシャツに黒いデニムを履いていて、とても端正な顔立ちをしているが、どことなくミステリアスな雰囲気を纏っている。
「……あの……そう、ですけど」
顔に不信感が出てしまっていただろうか。
男性はすぐに眉を下げた。
「すみません、突然話しかけて驚きましたよね。僕、雨宮といいます。そこで喫茶店やってる者です」
「え……、こんな時間に喫茶店?」
「はい、今日は雨宿りの方のために開けてるんです」
(雨宿りの方のために?)
もう少し詳しく聞こうかとも思ったが初対面の為、私は相槌だけ打った。
「あそこなんですけどね」
雨宮と名乗る男性が手のひらで指し示しているのは、商店街の角だ。少し離れているが、確かに昔ながらの喫茶店が見える。
(あれ……さっきここに来たときは気づかなかったな……)
「何も頼まなくても結構ですから。雨宿りして行かれませんか?」
「え……っ、いやそんな訳には……それに一時間ほどで止むはずなので」
私は顔の前でぶんぶんと手を振り、すぐに断った。
「そうですか、一時間で止みそうもないですが……」
(……そんなはず……)
雨宮さんの言葉に私が再びスマホで雨雲レーダーを見れば、雨が上がるのは二時間後になっている。
「嘘……二時間……」
「雨があがるの伸びてましたか?」
「はい……」
私の微妙な顔を見ながら、雨宮さんは柔らかく笑った。
「では、雨が止むまでということで」
私は雨宮さんのどこか安心する不思議な微笑みに小さく頷くと、喫茶店へと向かった。
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