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初恋の思い出
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※※
「雨宮さん、ありがとうございました」
早紀と呼ばれていた女性が俺とマメに手を振り、スーツ姿の男性が彼女をエスコートするようにドアノブに手をかける。
「よい雨上がりを」
俺がそう言えば、若い男女は互いに微笑み合いながら、カランとドアベルを鳴らし店をあとにした。
俺は膝に丸くなっているマメを抱き上げると、窓辺に立った。
「……初恋の思い出か……」
さっきまであんなに降り注いでいた雨は上がり、星が小さく輝いている。
この喫茶店『おもひで』は俺が三年前に祖父から引き継いだ店だ。
生前、祖父は雨の日だけこの店を開けていた。
そして営業時間は雨におまかせとのだった。
──『海、この店には初恋の思い出を甦らせる不思議な魔法があるんだ』
当時、高校生だった俺は祖父の話を適当に流していたが、その時の祖父が皺皺の顔をよりくしゃっとさせた笑顔がとても印象的だった。
「魔法ね……」
始めはもちろん信じていなかった。
しかし祖父が病気でこの世を去ったとき、俺はある理由からこの喫茶店を引き継いだ。
「いつになったら……雨宿りしにくるんだろうな」
ボソリと呟いた言葉にマメが呑気にニャーンと鳴く。
(……会いたい)
──『海ー! はやくー!』
俺の脳裏に浮かぶのは艶のある黒髪を揺らし、大きな瞳で俺を見つめ、いたずらっ子のような微笑みを浮かべて俺の名を呼ぶ、一人の女。
──『また会えたら……話すから……』
そう言い残して俺の前から突然、姿を消した初恋で最愛の人。
だから雨の日になると、俺はここで待っている。
雨宿りをしているその人が、彼女である日がくるまで、ずっと──。
「……さぁ、マメ。ご飯にしようか?」
それを聞いた現金なマメは、俺の腕からぴょんと飛び降りると、すぐにカウンターに置いてあるご飯置き場に向かって一目散だ。
「本日の雨営業は終了だな」
俺はふっと笑うと、店の看板を『close』にしてからマメの待つカウンターへ向かった。
2025.6.24 遊野煌
「雨宮さん、ありがとうございました」
早紀と呼ばれていた女性が俺とマメに手を振り、スーツ姿の男性が彼女をエスコートするようにドアノブに手をかける。
「よい雨上がりを」
俺がそう言えば、若い男女は互いに微笑み合いながら、カランとドアベルを鳴らし店をあとにした。
俺は膝に丸くなっているマメを抱き上げると、窓辺に立った。
「……初恋の思い出か……」
さっきまであんなに降り注いでいた雨は上がり、星が小さく輝いている。
この喫茶店『おもひで』は俺が三年前に祖父から引き継いだ店だ。
生前、祖父は雨の日だけこの店を開けていた。
そして営業時間は雨におまかせとのだった。
──『海、この店には初恋の思い出を甦らせる不思議な魔法があるんだ』
当時、高校生だった俺は祖父の話を適当に流していたが、その時の祖父が皺皺の顔をよりくしゃっとさせた笑顔がとても印象的だった。
「魔法ね……」
始めはもちろん信じていなかった。
しかし祖父が病気でこの世を去ったとき、俺はある理由からこの喫茶店を引き継いだ。
「いつになったら……雨宿りしにくるんだろうな」
ボソリと呟いた言葉にマメが呑気にニャーンと鳴く。
(……会いたい)
──『海ー! はやくー!』
俺の脳裏に浮かぶのは艶のある黒髪を揺らし、大きな瞳で俺を見つめ、いたずらっ子のような微笑みを浮かべて俺の名を呼ぶ、一人の女。
──『また会えたら……話すから……』
そう言い残して俺の前から突然、姿を消した初恋で最愛の人。
だから雨の日になると、俺はここで待っている。
雨宿りをしているその人が、彼女である日がくるまで、ずっと──。
「……さぁ、マメ。ご飯にしようか?」
それを聞いた現金なマメは、俺の腕からぴょんと飛び降りると、すぐにカウンターに置いてあるご飯置き場に向かって一目散だ。
「本日の雨営業は終了だな」
俺はふっと笑うと、店の看板を『close』にしてからマメの待つカウンターへ向かった。
2025.6.24 遊野煌
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