<第一部 完結> お前がなれるわけがない!

mokono

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第1部 第41話

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アッシュとラドは、役場の様子が気になりながらも、この日は、一旦、役場を後にしたのだった。



役場を出てから、次の行動を思案しながら、事務所を目指して歩く二人の前に、昨日、メイから聞いた特徴のおばあさんの姿が目に入って来た。



『あれ?あの人、確か、病気のおじいさんがいるとかの・・』



アッシュが役場で働いていた時にも、何度も顔を合わせては、おじいさんの容態など聞いていたおばあさんが役場の方へ歩いて来るのが見えた。



「おばあさん、おはようございます。お元気でしたか?」



思わず、アッシュはおばあさんのところに駆けつけ声を掛ける。



「えっ?あんたは、誰でしたかいね?」



おばあさんは、アッシュの顔をじっと見つめているが、彼が誰かはわからないようで、何度も首を傾げている。



「あっ、すみません。先日まで、役場で働いていたもので」



アッシュがそう告げると、おばあさんは漸く、「そうだったねぇ、あんた見た事あったねぇ」と笑顔を向けた。



「これから、どちらに行かれるんですか?」



笑顔が見られたことから、アッシュは答えは解っていたが、おばあさんに確認の為に聞いてみた。



「役場さね。いやーねぇ。昨日さね、役場にさ、税金をな、納めに行ったらな。期限切れとか言うんだわな。で、そたらこっと、おかしいでねーか、言うてもさ。決まりだとか言うばっかでさ。おまけに、払わねえーと、金額がよ、増えるぞ!とか言われちまってよ。今日、慌ててさ、金さ、持ってきたんだよ」



そう言って、おばあさんは持っていた手提げカバンから、二つの巾着を取り出した。



「えっと、おばあさん、その支払いの追加のお金はいくらと言われたんですか?」



おばあさんが手にする二つの巾着には重みを感じて、思わず、アッシュは問いかけた。



「何でもよ。うちはさ、じいさんが病気だから割安するとかでよ。銅貨800枚でええって話だったなぁ」



おばあさんは、そう言って、また手提げかばんに二つの巾着を直し、おまけに、思い出したかのように



「こんこと、他にゃ言ってはなんねぇって話らしいけどよ」とまで付け加えて、ご丁寧に教えてくれた。



「おばあさん、銅貨800枚も用意するの大変だったんじゃないですか?」



アッシュはおばあさんの苦労を思って、つい踏み込んでまで聞いていた。



「あぁ、参ったさ。家中の金さ、かき集めたさね。本当に困ったことするもんだ。国の奴らはよ!」



おばあさんは憤慨して、文句を口にしだした。



「おばあさん、私の方でも、その話、所長に聞いておくよ。あと、今日の支払いだけど、支払ったら、ちゃんと支払いの証明を貰っておくといいよ。出来たら、そのお金を受け取った人の名前、それに今日の日付も書いて貰っておくといいよ」



「あぁ、わかったよ」



アッシュの言葉を少し疑問に思いながらも、おばあさんは軽く会釈をしてから、役場へ向かって行った。



その姿を、アッシュは、ただ苦い思いを胸に抱きながら見送った。



「銅貨800枚。人を見て金額調整していますね」



ラドが、おばあさんの姿を見ながら呟いた。



このビスタの国は、平民の月収はだいたい銀貨20枚ほどだ。でも、これは主に、王都周辺の話で、この町トウなどは、平均月収も、それよりももっと低い。



おばあさんが持っていた銅貨は、この国では、重さも大きさも含めた一番小さな硬貨となり、平民が常に手にして売り買いで使用する硬貨である。



だいたい、銅貨3枚でパンが1つ買えるたりする。そして、この銅貨を銀貨に変えるには、銅貨1000枚がいる。なので、こんな片田舎の老人には、毎月の税金の支払いの上、追加とされる800枚の銅貨を用意するのは本当に大変なはずだ。



あのおばあさんのとこは、確か、畑仕事で生計を立てているはず・・・



アッシュは、そのことを思いだして、ますます、怒りが込み上げてきた。



「とりあえず、事務所に戻りましょうか・・」



ラドに言われ、アッシュも事務所の方角に再び向きを変えて歩み出した。



「ただいま、戻りました」



事務所に帰ると、ロビンたちが荷物を運んでいる所に遭遇した。



「お帰りなさい」



大きな箱を抱えて、事務所内を歩くロビン。



「なに、それ?」



ロビンが抱える箱に目を向けながら、問い掛けると、



「あぁ、これ?ハロルド商会の商品です!」



ロビンは、そう言って、手短な場所に箱を置き、中から大きな筒の入れ物を取り出した。



「新しいお茶なんですがね。兄さんから「使え!」と言われて」



「お茶?何に使うの?」



ロビンが、筒の入れ物の蓋を開けて匂いを嗅いでいるのを、アッシュは眺めながら口にした。



「いい香り。あっ、そうですね?どう使いますか?まずは味見しますか?」



ロビンの言葉に、アッシュはため息を零す。



『使い途を聞いてから、貰って来いよ!』



項垂れているアッシュとは違い、ラドも茶葉の匂いをロビンと共に嗅ぎ出す。



「本当に、良い香りですねぇ。これ、演説の際に、集まった方に配ればいいですね。香りもいいし、集まる人も増えるかもしれないですよね?」」



にこやかにラドが微笑みながら、そう告げると、ロビンの顔が華やいでいく。



「ラド―、天才!兄さんの「使え!」はそれだね!」



うんうんと、ロビンが頷き、上機嫌になっていった。



「他にもありますか?」



ラドはそう言いながら、他の者が運んでいた箱の中を見る。



「こっちは菓子。王都の貴族街で販売しているやつの訳アリ商品。訳アリなんだけど、これは王都の平民街で売ってるんだ」



ふーんと、言いながら、ラドが一つ菓子を取り出し、口に運ぶ。



「輸送日数を考えると、今まで、トウまで運んで売ることとか出来なかったんだけど、菓子自体にひと手間かけて保存期間が延ばせたらしくて。今、それで人気がますます出ているらしいんだ」



ラドが食べたことにより、ロビンはこちらの菓子の説明をし出す。



「うん、美味しいですね。カリカリとした食感が、今までにない」



ラドも評論家のように、菓子の感想を述べていく。



「これも同じ理由で?」



「うん。兄さんがね」



二人が菓子を眺め、食しながら話をする。



「いいですね。このお茶と菓子、振る舞いましょう。ねっ!アッシュさん!出来たら、役場のとこでやりませんか?」



そう言って、ラドは、また、菓子を口に放り込み、カリっと音を立ててみせる。



「そのアイデア最高かも!」



ロビンもニヤリと笑い、再び、茶葉を嗅いで見る。



そんな二人に、アッシュもさっきのおばあさんの話、役場での光景、セフィの顔をも思い出してから、自分の片方の手で拳を作り、その拳をもう一つの掌にバッシッとぶつけて大きく頷いてみせる。



「よし、いいんじゃないか!やってみるかっ!」



アッシュの言葉を合図に、三人は、役場での演説に向けて動き出すのであった。

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