<第一部 完結> お前がなれるわけがない!

mokono

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第1部 第42部

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「社長、役場から手紙が届いていますよ」



ここは、トウの町の中心部から東へ少し離れた地域である。



社長と呼ばれたこの男サンテは、この一帯では有名な動物の皮をなめし、製品にする工場を営んでいる。



そんな彼の工場で働く若い青年が、社長へと、今しがた配送人から受け取った手紙を手渡しに社長室へやって来たのだ。



「役場から?」



若い従業員から渡された手紙を受け取りながら、サンテは少し怪訝な顔をみせる。



「こんな時期に、何の手紙だ・・」



訝し気に思いながらも、サンテは封蝋を見定めてから、手紙の封をナイフで切り開いていく。



封を開けて、取り出した用紙には赤い判が押されていた。



『督促状』



手紙の表題には、そのように書かれている。



サンテは思わず、目を見開き、手紙を舐めるように読み進める。



「どういうことだ!」



文面の途中だというのに、書かれている内容に思わず声があがってしまう。



おまけに、怒りから、手元がぷるぷると震えてきて、先を読み進めることが出来なくなってきている。



「あいつら、今度はこんなことまでやり出しやがって!!」



いつもは、温和で、人が良いと評判のサンテであるが、この時の彼の顔を見たものは、決して、そのような印象を述べれないほど、彼は怒りを表わしていた。



「くそ!まだ、うちから金をせしめる気か!」



サンテはやり場のない怒りを力に込めて握る拳を、近くにあったテーブルへ叩きつけた。



ドン!と大きな音がしたことから、社長室にいる父を心配した息子が扉を開けて顔をだした。



「父さん!どうした?倒れたのかと思ったよ」



息子は、心配気な顔をしながら、父の元に駆け寄って行った。



「大丈夫か?何かあったのか?」



作業着を着込んだこの息子は、サンテにとっては長男で、ゆくゆくはこの工場を受け継ぐ大事な跡取りだ。



サンテには、この長男以外にも、もう一人息子がいて、今、この二人の息子は、将来、この工場を二人で盛り立てていくべき存在として、一から職人として仕事を教わっているところだ。



そんな息子二人であるが、長男はそろそろ職人としてだけではなく、経営者としての知識も教えていくべきかと、サンテ自身が自分の元で仕事をあれこれ教えている状況である。



だからこそ、父の様子をいち早く察して駈け込んで来たのだが、サンテは、この状況に、思わず、青ざめてしまった。



「いや、お前は気にするな・・」



急に、父がよそよそしい態度になるので、長男は驚くが、父が咄嗟に隠した用紙が目に付き、父に手を伸ばして、その用紙を奪い取った。



長男は、勢いで取ったその用紙に、そのまま目を走らせていく。



「これ?どういうこと?」



長男が用紙から顔を上げて、父であるサンテの顔を見つめる。



しかし、サンテは何も答えれないでいる。



「うちの工場は税金の延滞はしてないはずだよね?」



長男は青い顔を浮かべて、父に問い掛ける。



「あ、当たり前だ!あんなやつらに、これ以上搾取されてたまるか。弱みを見せないように、ちゃんとしている」



「じゃあ・・、僕のせいか?」



長男は下を向き、ガタガタと体を小刻みに震えさせる。



「あ・・あれは、もう片が付いた。お前は気にするな。若気の至りだ。高くついたが、いい勉強になった、それだけだ・・」



サンテは、長男に視線を合わさず、そう告げる。



「けど・・」



尚も息子が口にしかけると、サンテが再び、拳を机に打ち付け、大きな音を響かせる。



「お前は気にするなといってるだろ!あのことは済んだんだ!」



サンテは机に響かせた音に合わせるかのように声を張りあげて、長男を威圧した。



「少し、出かけてくる。お前は、仕事を続けていろ・・」



サンテはそう言って、社長室から出て行った。



残された長男は、床に膝をついて項垂れて立ち上がれないでいる。



「僕が、あんなとこに行かなければ・・」



長男は唇を噛みしめて、苦い経験を思い起こす。



サンテが営むこの工場は、動物の皮をなめすことで、製品をつくっている。



最初は、家族のみで営む小さな町工場であった。



そんな彼の工場に転機が舞い込んだのは、ケーシーたち一族の酪農家と縁が出来た事により、定期的に、動物の皮が手に入ることで、工場もそれから従業員を雇い入れるなどし、大きくなった。



その縁から、サンテとウラスも小さな頃からの知り合いで、年も近いから幼馴染として過ごしていた。



まあ、だからといって、二人が幼少期から仲良くいた訳ではないのだが、お互いの家柄からして切れない縁であったので、互いが家を受け継ぎ、また、結婚してからは家族同士も含めて付き合いをしていた。



そんな状況であったから、いつしか年頃の息子と娘がいることから、何とはなしに、この二人の子たちの間で「結婚」というのもが、知らず知らずのうちに決まりつつあった。



だが、小さな頃は子ども達も、そんな家族の影響を受けて流されつつあったのだが、成長するに連れて、周りを知るようになると、自分たちの結婚に疑問を抱くようになっていった。



それは、特に、サンテの息子である、この長男が特に感じてしまい、ウラスの娘、長女の我儘ぶりに嫌気がさして、色々と理由を付けて、結婚を避けだして行ったのである。



そんな状況に、長女は焦り、長男と顔を合わせる度に詰め入り、相手の答えが気に入らなければ喚き、怒鳴るなどとなり、二人の仲は溝が深まるばかりだった。



そんな時、長男は、ケーシーに、気晴らしに王都行きを誘われた。



初めは、彼の姉である長女との仲を取り持つ為のものだと思い、断っていたのだが。



余りにも、熱心な誘いでもあり、また、その時期、父サンテとケーシーの父ウラスがよく顔を合わせてることも多く、自分ともウラスが顔を合わせた時に、長女との結婚に話が及ぶことも恐れて、王都行きを承諾してしまった。



ちょっと数日を王都で過ごすだけの旅と思っていたのだが、王都に着いてから、ウラスの叔父が現れ、その叔父ジムラルによってトウにない大人の街へと案内されてから、長男は、よりウラスの娘との結婚に嫌気がさしていった。



そう、彼は王都の町で、美麗な女性と出会い、恋に落ちていったのだ。



本物の恋を知った彼は、この女性と結婚したいと思い、彼女に結婚の約束までしてしまう。



まだ、出会って間もない上に、良く素性もわからない、しかも、長男よりもかなり年が上の女にである。



そんな彼の様子に、さすがに、ケーシーも何度も「もう少し、考えた方がいいんじゃないか?」と諭すのだが。



長男にしたら、ケーシーは自分の姉を思って、引き留めようとしていると思い込み、ますます、意地になり、あろうことか、女のところへ転がり込んで、駆け落ち的なことまで企てる始末。



そんな長男の暴走的な恋は、それからすぐに幕を閉じた。



父サンテが、血相を変えて、長男のところへやって来たからだ。



それに驚いたのは、長男だった。



父に居場所がバレたこともだけれど、父から言われた言葉に慄いてしまったからだ。



「お前!何をしているんだ!その女とは別れろ!その女は高級娼婦だ!うちに、娼館から請求書が来たんだぞ!」



父が怒鳴る言葉に、はじめは良く解らずいた長男であったが、父から投げつけれらた請求書をみて、顔が青ざめていく。



「うそだ・・そんな、僕を愛してるって」



請求書を握る手が震える。



その姿をみながら、長男が愛した女は薄く笑う。



「愛してるわよ。お金を運んできてくれる人は、だぁーい好きなんだもの」



うふふ、と妖艶に笑う女の姿に、この時、はじめて長男は女が醜く見えたのだった。



後から、父サンテから聞いた話では、ウラスから、しつこく「上納金」の追加を迫られていたらしく、それを断っている時に、長男を王都に連れ出されたようだと言われた。



父は結局、娼館に大金を支払い、長男のつけを回収してくれたようだ。



その件があってからは、すっかり「上納金」も話題からかき消えたとかで、明らかに、ウラスらに仕組まれたものだったと知った。



それから、もちろん、ウラスの娘とは会う気にもなれず、今日までいた。



正直、長男は自分の代で、あの一族との縁を絶ちたいとさえ、思う毎日だった。



なのに、また、やつらは、仕掛けてきた。



あの一件で、父はかなりの金を使っている。



その上、また、徴収されれば、工場の運営にも影響してしまう。



長男は、頭を抱えて蹲り、「父さん、ごめん」としきりに涙しながら、謝っていたのだった。

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