意味が分かると怖い話（解説付き）

雨戸

　私のマンションからは向かいのマンションが見える。

　特に私は視力が良いため、向かいのマンションの部屋の住人までしっかりと見えてしまう。
　こちら側のマンションは、窓に覗き見防止のフィルムが貼ってあるため向こうからは見えていない。

　良くない事とは分かっているが、他人の私生活というのはついつい見てしまうものだ。

　向かいの住人は、大学生になったばかりくらいの女性だ。
　いつも長い黒髪をハーフアップにし、前髪の束をヘアピンで留めている。

　贅沢ではないが、品の良い暮らしをしている様だ。

　毎朝きちんとベッドメイキングをしたり、毎日一汁三菜が揃った夕食を食べていたり。

　大学生の一人暮らしなんてものは、どれだけ手間を削ぎ落とすかが勝負で、皆ギリギリ人間といった風な生活を送っているのだと思っていた。

　彼女を見ていると自分もしっかりしなければという気持ちになる。


　しかしある日から、向かいの部屋の雨戸が閉まったままになった。

（私が見ていたのがバレたのだろうか。それとも引っ越してしまったのだろうか。）

　少し不安になりつつ、いつもの癖で向かいの部屋を覗いて見る。

　しかし私の不安とは裏腹に、向かいの彼女は何事もなく過ごしていた。

　どうやら間接照明にハマっているらしく、ぼんやりと柔らかな光が彼女を包んでいた。

（相変わらず丁寧な暮らしをしているな。
　意識高い系というか、一人暮らし始めてすぐだからだろうか。）

　昼間から間接照明を楽しんでいる辺り、迷走している様な気もしなくはないが、やはり、ああいう生活には憧れる。

　私は彼女に触発されてキャンドルセットを買うため家を出た。

　――
（解説）

　雨戸が閉められているにも関わらず、主人公はどうして向かいの部屋の中を見ることができたのだろうか。

　間接照明を楽しんでいたとすれば、一時的にでも雨戸を開けていたとも考えにくい。

　彼女をぼうっと包んでいた光は、本当に間接照明のものだったのだろうか。

　雨戸越しに見えていた彼女は、本当に人間だったのだろうか。