転生調理令嬢は諦めることを知らない!

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第1章 リュシドール子爵領

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   ***

 一日の仕事を終え、下働きの女たちが帰るのを見送って、ヴァランタンは大きく息を吐いた。全身の力が抜け、テーブルに置いた両腕に額を押しつける。
 この日の朝に続き、夕食後もまた執事から、あるじの不興を伝えられた。ヴァランタンの得意料理である野鼠肉の香草焼きも、味がお気に召さなかったという。

「何故だよ、いつもと同じに作っているのに」

 慣れているという以上にここ数年、特にこの料理で上達が見られると子爵の賛辞をもらっていたのだ。
 年々、その賛辞も高まっていたのだ。ヴァランタン自身はそれほど鍛練を重ねたわけではないが、思いつきで味つけに工夫を加えるとそれがすべて成功し、評価が高まった。
 なので、特にこの香草焼きについては自分の十八番おはこ、自分はこの料理の天才、とまで思い上がっていたのだ。
 それが。昨日のことがあったのでこの日はくれぐれも気を払い、最良と自信を持てる出来上がりとして、送り出したのに。主の反応は、最悪だった。
 さらに困惑止まらないのは、改めてその残りを自分の舌で確かめると、明らかに以前より劣ると実感されるのだ。
 さっきの仕上げ時の自信は、何だったのか。自分の舌はどうかしてしまったのか。
 おごりをおもてに表さないが、自分は天才だと思っていたのだ。それほど努力をしなくても結果を出す、天賦の才能を持つと。
 それはすべて勘違いだった、ということになる。
 はああ、と何度目かの大きな溜息が、口から漏れた。

「どうしよう、か……」

 このまま不興が続くことを覚悟の上、馘首かくしゅの沙汰が下るまで失地回復の努力を続けるか。
 この職を辞して、何処かで修業をやり直すか。
 何度も首を振り、思い悩み続けながら、ヴァランタンは使用人棟に戻った。
 二階に上がるとすぐ、つい昨日まで幼い姉弟が暮らしていた部屋がある。姉娘がずっと使っていた炊事場が、今は冷ややかに打ち捨てられている。ヴァランタンの自室はそこを抜けた通路の奥だった。
 途中に並ぶ子爵夫婦付き侍女の部屋前を過ぎ、最奥までとぼとぼ進む。
 部屋に入っても何もする気力が湧かず、寝台に身を投げ出した。

「どうしようか……」

 諦めがつかないのは、自分の腕は確かなはずだという自負が消えないためだ。
 明らかな事実として、つい最近まで主の期待に応えていたのだ。
 何もかも、つい昨日からのことだ。
 あのお嬢様が追放を言い渡されて、屋敷を出た。
 それを機会に、まるでそれまでかかっていた魔法が解けたかのように。

「魔法……?」

 確かにあのお嬢様は、調理関係に魔法のような能力を持っていたわけだが。
 しかし今自分が覚えているような効果の能力は、聞いたことがない。

「関係、ないだろうさ」

 首を振り、溜息をつき。
 もう何度目かの、堂々巡りの思い悩み。
 そのうち、ヴァランタンは眠りに落ちていたようだ。


 ドンドンドンドン――

 けたたましい音で、眠りから覚まされた。
 明らかに、ドアを叩く音。それがやや遠くから、次第に近づいてくる。
 叫んでいるのは、執事のようだ。

「起きろ! すぐ逃げろ! 魔獣が入ってきた!」
「何だって?」

 聞こえてくる言葉が明瞭になって、ヴァランタンはその場に跳び上がった。

   ***

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