転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy

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第2章 ミニョレー伯爵領

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「いや、構いますさね」

 アルムが肩を叩くと、グウェナエルは倒れた兵たちに歩み寄った。
 その肩越しに、アルムは大声で呼ばわった。

「ほらあんたたち、龍に踏み潰されるよ! 動ける者は奥に逃げな。動けない者を引きずっていってやんな」
「あ、わ――」

 アヒイで目だけ見えなくなっていた者が、慌てて這いずり出す。
 痺れ茸を食らってそろそろ少し動けるようになった者も、必死に手足を動かして転がるように位置を変える。
 忘れ残されそうになっていた意識のない数体を、グウェナエルとジョスランが無造作に手や足を握って引きずり動かした。
 その間にも、のっしのっしと怪物が接近してくる。
 これも話に聞いたように、龍という一般的な印象に反して、驚くほど太い脚、大きな足をしている。『二足龍』と呼ばれる種の特徴だという。
 これに踏まれたら到底助からない、とジョスランは背が震える思いで観察していた。
 建物近くに寄れば少しは安全かと移動したが、指示は正確に伝わるらしく、その歩みは着実に四人に向いていた。
 倒れた兵士たちの集まる方に寄っていれば伯爵の命令も鈍るかとも思ったが、さっきからの様子では当てにならない。
 むしろアルムに指示されて、グウェナエルは兵士たちから距離をとっていった。
 ジョスランたちも続くと、やはり龍はこちらに狙いを定めてくる。

「ほら貴様ら、そこに平伏して投降せよ。今なら兵の命を奪わなかったことに免じて、貴様らの命も許してやろう」
「ありがたい仰せだねえ」

 負け惜しみにも聞こえそうな声を返して、アルムは肩をすくめた。
 それから、グウェナエルの脳天を軽く叩く。

「ほら小僧、しゃがんでおくれ」
「え、こうか?」

 言われるまま、大男は腰を屈めた。
 支えていた革紐を解いたアルムは、ひょいと地面に降り立つ。
 いつもの杖を使って、ひょこひょこと前に出る。

「あんたたちの命は護るって、約束したからねえ」
「え、何言ってんの、小母ちゃん?」
「おい待て、どうするつもりだ?」
「あんたたちはそこから、動くんじゃないよ」

 二人の制止を聞かず、アルムはそのままひょこひょこ龍の足元に近づいていた。
 片方だけで確実に数人は踏み潰すだろう巨大な足が、すぐ目の前にドシ、と下ろされる。

「ははは血迷ったか、命を捨てたいと見える」

 頭の上から、伯爵の高笑いが落ちてきた。
 聞こえない様子で、アルムの歩みは横に逸れた。
 ひょこひょこと、牢屋棟の方に向かっている。

「ほらデカブツ、こっちだよ」

 大声で呼びかけると、龍の顔はそちらを向いた。
 確かに指示された獲物と認識してか、身体ごとそちらに向き直って踏む狙いを定めるようだ。

「ほらほら、こっちだ」

 不自由な脚の許す限りという速度で、アルムは他の者たちから離れて牢屋棟に向かう。
 焦る様子もなく目を動かして、龍は照準を絞っているらしい。
 ゆっくり、その足が持ち上げられる。
 杖つきの速度で逃げる間もありようがなく、その頭上に足が下ろされていく。

「きゃあ、小母ちゃん!」
「小母ちゃん、逃げろ!」

 若夫婦の絶叫が響いた。
 隣の大男は、凍りついたように動きを止めている。
 巨獣の足が、ゆっくり下りていく。

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