5 / 23
5 観察した 1
しおりを挟む
装甲車模型。
颯人が、いろいろ解説していたな。ほとんどこちらの耳をすり抜けていたけど。
キャタピラで動く。
水陸両用、湖の底を走ることもある、だったか。
今真上からではよく見えないけど、上面長方形の下に、キャタピラ付きの車輪があるんだろうか。
――それを動かせば、水底も走れるのか。
思っていると。
ギギ。
――動いた。
何となくだけど、自分の身体が移動しているという感覚がある。
下方で車輪とキャタピラが回転しているのも、何となく分かる。
体感とか触覚からではないけれど、本当に何となくだ。
下はかなり軟らかい土らしいけど、キャタピラが滑ることなく踏みしめているようだ。
ゆっくりゆっくり移動する。水面から突き出した視界の風景も、ゆっくり後ろへ過ぎていく。
水底から岸へとなだらかな斜面があったようで、それを登ることができた。上昇に合わせて潜望鏡も縮め、やがて全身が水から上がっていた。
岸辺の草地に上がり、あまり広くないけど明らかな平地で一息をつく。
――息苦しくなかったとはいえ、やっぱり陸地が落ち着くねえ。
それにしても。
おかしい、とあたしは思案し始めていた。
この身体、助手席で颯人が抱えていた模型そのものだと思ったけれど、違うみたいだ。
あたしがプレゼントしたあの模型には、モーターなど動力はついていなかった。
それに、映画の中での本物の装備には、潜望鏡、レーザー砲、簡易なマジックハンドなどがあって上面の円形スライド窓から出し入れできるという設定だけど、模型にはレーザー砲だけしかついていないと颯人が悔しがっていた。つまり模型に潜望鏡は付属していないのだ。
つまりこの身体、あの模型そのものではない。
大きさは実物より小さい模型サイズだけれど、装備としては模型にない本物に近いものがついている、ということになりそうだ。
――さすがは夢の中、ご都合主義。
ますます「夢の中説」が信憑性を増す。
一方でそれに反して、見えるものはいっそう現実感満載だ。
周囲は鬱蒼とした林、密生する草々。今さっきまで潜っていた、静かに佇む池。
相変わらず、手にとれそうなほどに鮮明だ。
それも、木や草にしてもこれまで見たことのない、種類の名前も浮かばない外観のようだ。それがずっと、夢の中定番のようにぼやけたり消えたりすることなく、ずっと変わらず鎮座している。
さらに。水から上がって、気がついた。
周囲に、音がある。
さわさわと木の梢や草々が風にそよぐ。遠く、鳥が鳴いている。
ポチャリ、と池に魚が跳ねる。
見事なまでに違和感のない、自然の中、森の水辺の音声だ。
ただそう思わされているだけかもしれないけど。
――何とも見事な、現実と違和感のない夢の中。
それでも何処となく安心して、あたしは寛ぎの気分になっていた。
今のところ周囲に、身の危険を感じる類いのものはなさそうだ。
ここは一度落ち着いて、現状を考えてみるべきではないか。
十中八九、これは夢の中だと思うんだけど。もし万が一現実だとしたら、今後の行動方針を検討しなければならない。
――現状を、整理してみよう。
あたしは、宮嶋悠姫、32歳女性、独身。
地球の島国、日本国の地方都市在住、現在の職業はローカルタウン誌のフリーライター。地域のいろいろな職業や趣味講座などの、突撃体験レポート記事連載を抱えている。
1LDKのアパートに独り暮らし、比較的近所に住む姉夫婦と甥の家族とはかなり頻繁に交流。
こんな事態に至る直前の記憶は、甥の小鹿原颯人12歳と入学祝いを買いに隣市へ赴き、帰りの運転時に対向車がすぐ前に迫ってきた光景だ。
――うん、記憶に障害はなさそうだ。
颯人が、いろいろ解説していたな。ほとんどこちらの耳をすり抜けていたけど。
キャタピラで動く。
水陸両用、湖の底を走ることもある、だったか。
今真上からではよく見えないけど、上面長方形の下に、キャタピラ付きの車輪があるんだろうか。
――それを動かせば、水底も走れるのか。
思っていると。
ギギ。
――動いた。
何となくだけど、自分の身体が移動しているという感覚がある。
下方で車輪とキャタピラが回転しているのも、何となく分かる。
体感とか触覚からではないけれど、本当に何となくだ。
下はかなり軟らかい土らしいけど、キャタピラが滑ることなく踏みしめているようだ。
ゆっくりゆっくり移動する。水面から突き出した視界の風景も、ゆっくり後ろへ過ぎていく。
水底から岸へとなだらかな斜面があったようで、それを登ることができた。上昇に合わせて潜望鏡も縮め、やがて全身が水から上がっていた。
岸辺の草地に上がり、あまり広くないけど明らかな平地で一息をつく。
――息苦しくなかったとはいえ、やっぱり陸地が落ち着くねえ。
それにしても。
おかしい、とあたしは思案し始めていた。
この身体、助手席で颯人が抱えていた模型そのものだと思ったけれど、違うみたいだ。
あたしがプレゼントしたあの模型には、モーターなど動力はついていなかった。
それに、映画の中での本物の装備には、潜望鏡、レーザー砲、簡易なマジックハンドなどがあって上面の円形スライド窓から出し入れできるという設定だけど、模型にはレーザー砲だけしかついていないと颯人が悔しがっていた。つまり模型に潜望鏡は付属していないのだ。
つまりこの身体、あの模型そのものではない。
大きさは実物より小さい模型サイズだけれど、装備としては模型にない本物に近いものがついている、ということになりそうだ。
――さすがは夢の中、ご都合主義。
ますます「夢の中説」が信憑性を増す。
一方でそれに反して、見えるものはいっそう現実感満載だ。
周囲は鬱蒼とした林、密生する草々。今さっきまで潜っていた、静かに佇む池。
相変わらず、手にとれそうなほどに鮮明だ。
それも、木や草にしてもこれまで見たことのない、種類の名前も浮かばない外観のようだ。それがずっと、夢の中定番のようにぼやけたり消えたりすることなく、ずっと変わらず鎮座している。
さらに。水から上がって、気がついた。
周囲に、音がある。
さわさわと木の梢や草々が風にそよぐ。遠く、鳥が鳴いている。
ポチャリ、と池に魚が跳ねる。
見事なまでに違和感のない、自然の中、森の水辺の音声だ。
ただそう思わされているだけかもしれないけど。
――何とも見事な、現実と違和感のない夢の中。
それでも何処となく安心して、あたしは寛ぎの気分になっていた。
今のところ周囲に、身の危険を感じる類いのものはなさそうだ。
ここは一度落ち着いて、現状を考えてみるべきではないか。
十中八九、これは夢の中だと思うんだけど。もし万が一現実だとしたら、今後の行動方針を検討しなければならない。
――現状を、整理してみよう。
あたしは、宮嶋悠姫、32歳女性、独身。
地球の島国、日本国の地方都市在住、現在の職業はローカルタウン誌のフリーライター。地域のいろいろな職業や趣味講座などの、突撃体験レポート記事連載を抱えている。
1LDKのアパートに独り暮らし、比較的近所に住む姉夫婦と甥の家族とはかなり頻繁に交流。
こんな事態に至る直前の記憶は、甥の小鹿原颯人12歳と入学祝いを買いに隣市へ赴き、帰りの運転時に対向車がすぐ前に迫ってきた光景だ。
――うん、記憶に障害はなさそうだ。
1
あなたにおすすめの小説
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
社畜の異世界再出発
U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!?
ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。
前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。
けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
幻獣を従える者
暇野無学
ファンタジー
伯爵家を追放されただけでなく殺されそうになり、必死で逃げていたら大森林に迷う込んでしまった。足を踏み外して落ちた所に居たのは魔法を使う野獣。
魔力が多すぎて溢れ出し、魔法を自由に使えなくなっていた親子を助けたら懐かれてしまった。成り行きで幻獣の親子をテイムしたが、冒険者になり自由な生活を求めて旅を始めるつもりが何やら問題が多発。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる