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他に警戒が必要なものとして、森の深部には猿型の魔獣が棲みついていることがある。
数頭程度ならそれほど脅威ではないが、その集落に近づくと数十、下手をすると数百頭レベルで襲ってくる危険がある。こうなるとすばしこい上に協力してかかってくるので、到底勝ち目はなくなりそうだ、という。
対策としては、群れや集落の場所を早めに見つけることくらいしかないらしい。
その他に湿地に近づくと、大蜥蜴のような魔獣が出没することがある。こちらは表皮が硬く、剣では対処しにくい。
どれも魔獣というのは肉食で人肉を好む。遭遇したとしたら、決死の覚悟で臨むしかない。
『どれもとにかく、遠くから早めに見つける程度しか対処法はありません。今の我々は護衛も半減して、この森に挑むには心許ない現状なのは否定できないのです』
『そうなのか』
夜明け前に起こされて、エトヴィンはすぐにまた風魔法の練習を始めた。護衛たちにも説明しながら、何とか草の葉を破りとる程度の効果を上げられるほどになったようだ。
損傷を与えることはできるものの、切れ味が足りないというところらしい。やっぱりあたしとの差は、カミソリのような薄くてよく切れる刃物のイメージを持てるか、という点だと思われる。
それでも練習を続ければ向上しそうだ、という手応えを掴んだみたいだ。とにかくも今は、魔力不足にして山行を続けるわけにもいかないので、練習もほどほどにして朝食をとる。
見張り番のカルステンが焼いておいた兎魔獣の肉を食べ、残りは携帯して旅程に戻る。
「ますます魔獣の棲息が増えるはずですので、十分注意して進みましょう」
「そうだな」
道の態を辛うじてなしているかという程度の山道を進みながら、カルステンの提言にエトヴィンが頷き返した。
この一行の中ではカルステンが最も目と耳がよく、周囲への警戒役を務めているという。
あたしも潜望鏡を目一杯伸ばし、定期的に三百六十度見回しながら前進を続ける。高さ一・五メートル程度だけれど、とりあえず草の上から木々の間などを見通すことができる。
見回すとときどき、木陰に動物の影が目に入る。意識して『鑑定』を続けていると、【山兎】【茶狐】などといった表示が視界に浮かぶ。
これを一歩進めて『動物や魔獣が見えたら報せてもらえないか』と念じたら、木の陰を通り過ぎるものが光って見えるようになった。なかなかに便利な機能だ。
ついでなので、薬草の発見もその報せ要請に加えておく。
そうしてしばらく、午近くまで行軍を続けて。
あたしの視界に光るもの、さらに字幕が現れた。
急ぎマジックハンドを伸ばし、カルステンの目の前に振る。続けて右手の木陰を指さすと、護衛は目を凝らした。
「みんな、身を屈めて。猿の魔獣だ」
「複数いるのか?」
「見えたのは、二匹です。しかし奥にはもっといるかもしれません」
慌てて指示に従いながらエトヴィンが問い返し、カルステンが答える。
半ば草に隠れるように身を低めて離れた木陰を窺っていると、魔獣はこちらに気づかずに遠ざかっていくようだ。
「もうしばらく、このまま前進しましょう」
「そうだな」
三人の男は、腰を屈めたまま前に進む。
やがてまったく魔獣の気配がなくなり、警戒しながら身を伸ばすことになった。
「猿魔獣に仲間を呼ばれては、たいへんなことになるからな」
「まったくです」
エトヴィンの言葉に、ヘルビヒも頷いている。
それにしても、とカルステンはあたしを見下ろした。
「ハル殿が逸早く気がついてくれましたが、その潜望鏡ですか、遠くもよく見えるのですね」
まあね、とマジックハンドで頷く。
「頼もしいです」
カルステンの真顔の発言に、他の二人も頷いている。
とにかくこの先も気を緩めずに警戒して進もう、と申し合わせ、前進を再開した。
数頭程度ならそれほど脅威ではないが、その集落に近づくと数十、下手をすると数百頭レベルで襲ってくる危険がある。こうなるとすばしこい上に協力してかかってくるので、到底勝ち目はなくなりそうだ、という。
対策としては、群れや集落の場所を早めに見つけることくらいしかないらしい。
その他に湿地に近づくと、大蜥蜴のような魔獣が出没することがある。こちらは表皮が硬く、剣では対処しにくい。
どれも魔獣というのは肉食で人肉を好む。遭遇したとしたら、決死の覚悟で臨むしかない。
『どれもとにかく、遠くから早めに見つける程度しか対処法はありません。今の我々は護衛も半減して、この森に挑むには心許ない現状なのは否定できないのです』
『そうなのか』
夜明け前に起こされて、エトヴィンはすぐにまた風魔法の練習を始めた。護衛たちにも説明しながら、何とか草の葉を破りとる程度の効果を上げられるほどになったようだ。
損傷を与えることはできるものの、切れ味が足りないというところらしい。やっぱりあたしとの差は、カミソリのような薄くてよく切れる刃物のイメージを持てるか、という点だと思われる。
それでも練習を続ければ向上しそうだ、という手応えを掴んだみたいだ。とにかくも今は、魔力不足にして山行を続けるわけにもいかないので、練習もほどほどにして朝食をとる。
見張り番のカルステンが焼いておいた兎魔獣の肉を食べ、残りは携帯して旅程に戻る。
「ますます魔獣の棲息が増えるはずですので、十分注意して進みましょう」
「そうだな」
道の態を辛うじてなしているかという程度の山道を進みながら、カルステンの提言にエトヴィンが頷き返した。
この一行の中ではカルステンが最も目と耳がよく、周囲への警戒役を務めているという。
あたしも潜望鏡を目一杯伸ばし、定期的に三百六十度見回しながら前進を続ける。高さ一・五メートル程度だけれど、とりあえず草の上から木々の間などを見通すことができる。
見回すとときどき、木陰に動物の影が目に入る。意識して『鑑定』を続けていると、【山兎】【茶狐】などといった表示が視界に浮かぶ。
これを一歩進めて『動物や魔獣が見えたら報せてもらえないか』と念じたら、木の陰を通り過ぎるものが光って見えるようになった。なかなかに便利な機能だ。
ついでなので、薬草の発見もその報せ要請に加えておく。
そうしてしばらく、午近くまで行軍を続けて。
あたしの視界に光るもの、さらに字幕が現れた。
急ぎマジックハンドを伸ばし、カルステンの目の前に振る。続けて右手の木陰を指さすと、護衛は目を凝らした。
「みんな、身を屈めて。猿の魔獣だ」
「複数いるのか?」
「見えたのは、二匹です。しかし奥にはもっといるかもしれません」
慌てて指示に従いながらエトヴィンが問い返し、カルステンが答える。
半ば草に隠れるように身を低めて離れた木陰を窺っていると、魔獣はこちらに気づかずに遠ざかっていくようだ。
「もうしばらく、このまま前進しましょう」
「そうだな」
三人の男は、腰を屈めたまま前に進む。
やがてまったく魔獣の気配がなくなり、警戒しながら身を伸ばすことになった。
「猿魔獣に仲間を呼ばれては、たいへんなことになるからな」
「まったくです」
エトヴィンの言葉に、ヘルビヒも頷いている。
それにしても、とカルステンはあたしを見下ろした。
「ハル殿が逸早く気がついてくれましたが、その潜望鏡ですか、遠くもよく見えるのですね」
まあね、とマジックハンドで頷く。
「頼もしいです」
カルステンの真顔の発言に、他の二人も頷いている。
とにかくこの先も気を緩めずに警戒して進もう、と申し合わせ、前進を再開した。
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