49 / 122
49 復帰した 1
しおりを挟む
やがて、東の森の上辺りが薄ぼんやり明るくなってきた。
すぐに、村人たちが動き出す。
相談してあった通り、若い者中心の十人が鎌や庖丁のような刃物を手に、出発していった。
女たちも集めて、村長が「避難はもう少し様子を見てからにする」と説明している。それを聞いてわけ分からない様子ながらも、全員がいつもの朝の作業に入ったみたいだ。
十人が戻ってきたのは、それから二時間程度経過してからだった。
「聞いてくれ、ゴブリンは全頭征伐した!」
「何だと?」
「征伐できた? 思ったより少なかったんかい」
「いや、数えたとこじゃ、百頭以上いた。それがどうしたわけか、みんな転がって呻いていたんだ。俺たち十人で首を斬って殺して回るのに、造作もなかったさ」
「転がって呻いてた?」
「何だ、そりゃ?」
「俺たちにも、わけ分からん。とにかく、その集落にいた全頭、まちがいなく息の根を止めてきた」
「何と――」
「信じらんねえ」
「村長の夢の通り、心配は晴れたわけかい」
「奇跡――か?」
「本当に、神のお告げだったんか?」
「いやとにかくもお前ら、ご苦労さんだった」
男も女も、村の大人たちほぼ全員が集まって、納得できないまま納得しているようだ。「これで安心していいんかい?」と女たちが歓喜の声を上げ、その周りで子どもたちもつられて笑っている。
森へ遠征してきた十人は、半苦笑の顔でどっと疲れた様子になっている。
「何だかわけの分からんことの連続で、百頭以上も奴らの首斬って回って、ほとほと疲れたさあ」
「夜の見張りをして睡眠不足だしなあ、お前らご苦労さん、家に帰って少し寝直せや」
「そうさせてもらうぜえ」
笑い合って、それぞれ家族で家に戻っていくようだ。
いくつもの家から笑い声が飛び交い、やがて落ち着いていく。
朝食を終えて、ということらしく、何人もの男女がまた外に出てきていかにも日頃の作業に入っていく光景になる。
言い交わしの通り、さっきの十人は寝直したことになるんだろう。
そうした一軒の裏に、あたしは近づいていった。
念じると、初顔の男の夢に入ったみたいだ。
『失礼する』
『え、何だ、あんた』
『何でもいいが、少し話ができるか』
『いや、なん――え、もしかしてあんた、村長の言っていた夢の中に出てきた人ってやつか?』
『そこは勝手に思っていてくれ。とにかく、訊きたいことがあるんだ』
『いや、そうだとしたらあんた、村の恩人ってことになるが――何、訊きたいこと?』
『ここは何領の何村というのだろう』
『ティルピッツ侯爵領のアヒレス村さ』
『あの森への途中の街道、ずっと北へ向かっていくと王都に通じることになるんだな?』
『ああ、そうだ。俺は行ったことがないが』
『すぐここを過ぎたところで分かれ道になっているが、王都に通じるのはどっちだ?』
『ああ、左だ』
『分かった。ありがとう』
『いや、とにかくあんた――何――』
『じゃあ、失礼する』
すぐに、会話を打ち切る。
それだけ聞けば、もう用はないからね。
この村で、十分時間を浪費した。すぐにも、出発したいと思う。
あたしは家並み裏の茂みから村を出て、街道に向かう。
街道に出て、左折。
一時間かからずにあの三叉路に当たり、左の道をとる。
――ようやく、北行路に復帰したことになる。長い寄り道だったね。
遅れを取り戻したいところだけど、こちらの最高速度は変わらない。やっぱり人の速歩程度で、粛々と歩みを進めることになる。
街道には変わらず人も獣も姿を見せず、坦々とした道行きになった。
雨が降ろうとあたしにはさほど関係ないけど、とりあえず空に青い面積が多く周囲は明るい。それだけである程度、気分が晴れてくる。
遠ざかっていくあの村で人助けをしたという自己満足程度はあるけれど、思い返そうとするとあ奴らののた打ち顔と金切り声ばかりが蘇って、胸糞悪くなるばかりなんだよ。当分はあのビジュアル、思い出したくないという気がする。
だから、ただ坦々と前を見て進行を続けるんだ。
すぐに、村人たちが動き出す。
相談してあった通り、若い者中心の十人が鎌や庖丁のような刃物を手に、出発していった。
女たちも集めて、村長が「避難はもう少し様子を見てからにする」と説明している。それを聞いてわけ分からない様子ながらも、全員がいつもの朝の作業に入ったみたいだ。
十人が戻ってきたのは、それから二時間程度経過してからだった。
「聞いてくれ、ゴブリンは全頭征伐した!」
「何だと?」
「征伐できた? 思ったより少なかったんかい」
「いや、数えたとこじゃ、百頭以上いた。それがどうしたわけか、みんな転がって呻いていたんだ。俺たち十人で首を斬って殺して回るのに、造作もなかったさ」
「転がって呻いてた?」
「何だ、そりゃ?」
「俺たちにも、わけ分からん。とにかく、その集落にいた全頭、まちがいなく息の根を止めてきた」
「何と――」
「信じらんねえ」
「村長の夢の通り、心配は晴れたわけかい」
「奇跡――か?」
「本当に、神のお告げだったんか?」
「いやとにかくもお前ら、ご苦労さんだった」
男も女も、村の大人たちほぼ全員が集まって、納得できないまま納得しているようだ。「これで安心していいんかい?」と女たちが歓喜の声を上げ、その周りで子どもたちもつられて笑っている。
森へ遠征してきた十人は、半苦笑の顔でどっと疲れた様子になっている。
「何だかわけの分からんことの連続で、百頭以上も奴らの首斬って回って、ほとほと疲れたさあ」
「夜の見張りをして睡眠不足だしなあ、お前らご苦労さん、家に帰って少し寝直せや」
「そうさせてもらうぜえ」
笑い合って、それぞれ家族で家に戻っていくようだ。
いくつもの家から笑い声が飛び交い、やがて落ち着いていく。
朝食を終えて、ということらしく、何人もの男女がまた外に出てきていかにも日頃の作業に入っていく光景になる。
言い交わしの通り、さっきの十人は寝直したことになるんだろう。
そうした一軒の裏に、あたしは近づいていった。
念じると、初顔の男の夢に入ったみたいだ。
『失礼する』
『え、何だ、あんた』
『何でもいいが、少し話ができるか』
『いや、なん――え、もしかしてあんた、村長の言っていた夢の中に出てきた人ってやつか?』
『そこは勝手に思っていてくれ。とにかく、訊きたいことがあるんだ』
『いや、そうだとしたらあんた、村の恩人ってことになるが――何、訊きたいこと?』
『ここは何領の何村というのだろう』
『ティルピッツ侯爵領のアヒレス村さ』
『あの森への途中の街道、ずっと北へ向かっていくと王都に通じることになるんだな?』
『ああ、そうだ。俺は行ったことがないが』
『すぐここを過ぎたところで分かれ道になっているが、王都に通じるのはどっちだ?』
『ああ、左だ』
『分かった。ありがとう』
『いや、とにかくあんた――何――』
『じゃあ、失礼する』
すぐに、会話を打ち切る。
それだけ聞けば、もう用はないからね。
この村で、十分時間を浪費した。すぐにも、出発したいと思う。
あたしは家並み裏の茂みから村を出て、街道に向かう。
街道に出て、左折。
一時間かからずにあの三叉路に当たり、左の道をとる。
――ようやく、北行路に復帰したことになる。長い寄り道だったね。
遅れを取り戻したいところだけど、こちらの最高速度は変わらない。やっぱり人の速歩程度で、粛々と歩みを進めることになる。
街道には変わらず人も獣も姿を見せず、坦々とした道行きになった。
雨が降ろうとあたしにはさほど関係ないけど、とりあえず空に青い面積が多く周囲は明るい。それだけである程度、気分が晴れてくる。
遠ざかっていくあの村で人助けをしたという自己満足程度はあるけれど、思い返そうとするとあ奴らののた打ち顔と金切り声ばかりが蘇って、胸糞悪くなるばかりなんだよ。当分はあのビジュアル、思い出したくないという気がする。
だから、ただ坦々と前を見て進行を続けるんだ。
2
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。
婚約破棄されて森に捨てられた悪役令嬢を救ったら〜〜名もなき平民の世直し戦記〜〜
naturalsoft
ファンタジー
アヴァロン王国は現国王が病に倒れて、第一王子が摂政に就いてから変わってしまった。度重なる重税と徴収に国民は我慢の限界にきていた。国を守るはずの騎士達が民衆から略奪するような徴収に、とある街の若者が立ち上がった。さらに森で捨てられた悪役令嬢を拾ったことで物語は進展する。
※一部有料のイラスト素材を利用しています。【無断転載禁止】です。
素材利用
・森の奥の隠里様
・みにくる様
最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
指令を受けた末っ子は望外の活躍をしてしまう?
秋野 木星
ファンタジー
隣国の貴族学院へ使命を帯びて留学することになったトティ。入国しようとした船上で拾い物をする。それがトティの人生を大きく変えていく。
※「飯屋の娘は魔法を使いたくない?」のよもやま話のリクエストをよくいただくので、主人公や年代を変えスピンオフの話を書くことにしました。
※ この作品は、小説家になろうからの転記掲載です。
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる