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「お子さんに勝手を許してはいけません」
「学校には通わせる必要があります」
担任だけでなくそうした指導担当らしい教師もたびたび訪問してきて説き伏せようとしたが、もう親子とも耳を貸そうとしなかった。
一昔前と変わってこうした不登校対策として「子どもに無理をさせない」ことが肝要、という学説も目にするようになっていた。両親はそちらに従うことにしたという。すべて子どもと家庭に問題があることにしようとする、学校側への不信感が拭えなくなっていたという事情もある。
あたしも姉から相談を受けたけれど、結局本人の意向に合わせようという結論になった。
子どもの勉強が遅れる、という心配はまったくなかった。
颯人は教科書のすべてを読み終え、完全に理解している。親が買い与えた学習教材も、どんどん消化していく。算数だけを言えばあっさり理解を進め、高学年用の教材もこなすようになっていた。
読書も広範囲に手を広げ、市役所図書館の子供用図書を制覇しそうになっている。
心配なのは友だち付き合いの面、だけど。
少し離れた地区の放課後児童クラブに通わせることにしたところ、それなりに周りとうまくやっていた由。どうもそちらでは、勉強の出来をひけらかすような真似を控えるようにしたらしい。
そうして、月日は過ぎ。
小学校では、二年ごとにクラス替えがある。三年生に進級した時点で改めて学校側からの勧めがあり、通学を試みた。
新しい若い男性教師は、かなり気を遣ったらしい。
結果、これ以上考えられないほどの腫れ物扱いになる。
颯人の方も以前の反省から、授業で積極的に答えるということをしない。ほとんどいるかいないか分からない存在になる。
一方で他の子たちにとって、彼が特異な存在であることは変わらない。当然ながら元のクラスの子も一定数いる。「ワガママ小鹿原さん」なる呼称も記憶されていて、秘かに聞こえよがしに蒸し返される。
ひと月経たないうちに、颯人は登校をやめた。
意味がない、と言う。
教室内で居心地が悪い上、授業内容はすでに理解していることばかりなんだから。自宅で読書している方が、よほど得るものがある。
その後校長に説得されて、図書館登校の形でしばらく通っていた時期もあるらしい。カウンセラーのような人が傍についているが、基本自由に図書室で読書をしていられるのだそうだ。
しかしそれも、二ヶ月程度で終わりとなった。図書室のめぼしいものは読み尽くしたから、だという。
そのまま学校側からはもう諦めたのか、交渉はなくなっていた。
五年生から六年生に上がる頃、家族の中で話し合いが持たれた。
「中学はどうする?」
という問題だ。
学校が変わるのだから、教師側の対応も違ってくるかもしれない。
ただ、このままの住所で進学する中学では、ほとんどが同じ小学校からの生徒になる。
父親からは、住居を変えようかという提案があったらしいけど。今住んでいるのは、夫婦二人が結婚後購入したマンションだ。持ち家を手放すとなると面倒が多いし、今の家に愛着もある。
そんなところに、あたしが案を持ち込んだ。
「私立中学という選択もあるんじゃない?」
知り合いにそちらの関係者がいたので資料をもらって、姉の家に持参した。
「生徒の個性と才能を伸ばす」という謳い文句が何処まで鵜呑みにできるかは定かでないけど、中高一貫で大学進学に実績を上げているというのはよく知られている。少なくとも公立義務教育校のように、周囲から突出しているのを抑えられるということはないだろう。
いろいろ情報を漁って、説明会も聞きに行って。
それなりに、颯人本人が気に入ったようだ。
今のあたしから振り返って、体感ひと月あまり前、入学試験に臨み。数日前、合格を知らされた。
「学校には通わせる必要があります」
担任だけでなくそうした指導担当らしい教師もたびたび訪問してきて説き伏せようとしたが、もう親子とも耳を貸そうとしなかった。
一昔前と変わってこうした不登校対策として「子どもに無理をさせない」ことが肝要、という学説も目にするようになっていた。両親はそちらに従うことにしたという。すべて子どもと家庭に問題があることにしようとする、学校側への不信感が拭えなくなっていたという事情もある。
あたしも姉から相談を受けたけれど、結局本人の意向に合わせようという結論になった。
子どもの勉強が遅れる、という心配はまったくなかった。
颯人は教科書のすべてを読み終え、完全に理解している。親が買い与えた学習教材も、どんどん消化していく。算数だけを言えばあっさり理解を進め、高学年用の教材もこなすようになっていた。
読書も広範囲に手を広げ、市役所図書館の子供用図書を制覇しそうになっている。
心配なのは友だち付き合いの面、だけど。
少し離れた地区の放課後児童クラブに通わせることにしたところ、それなりに周りとうまくやっていた由。どうもそちらでは、勉強の出来をひけらかすような真似を控えるようにしたらしい。
そうして、月日は過ぎ。
小学校では、二年ごとにクラス替えがある。三年生に進級した時点で改めて学校側からの勧めがあり、通学を試みた。
新しい若い男性教師は、かなり気を遣ったらしい。
結果、これ以上考えられないほどの腫れ物扱いになる。
颯人の方も以前の反省から、授業で積極的に答えるということをしない。ほとんどいるかいないか分からない存在になる。
一方で他の子たちにとって、彼が特異な存在であることは変わらない。当然ながら元のクラスの子も一定数いる。「ワガママ小鹿原さん」なる呼称も記憶されていて、秘かに聞こえよがしに蒸し返される。
ひと月経たないうちに、颯人は登校をやめた。
意味がない、と言う。
教室内で居心地が悪い上、授業内容はすでに理解していることばかりなんだから。自宅で読書している方が、よほど得るものがある。
その後校長に説得されて、図書館登校の形でしばらく通っていた時期もあるらしい。カウンセラーのような人が傍についているが、基本自由に図書室で読書をしていられるのだそうだ。
しかしそれも、二ヶ月程度で終わりとなった。図書室のめぼしいものは読み尽くしたから、だという。
そのまま学校側からはもう諦めたのか、交渉はなくなっていた。
五年生から六年生に上がる頃、家族の中で話し合いが持たれた。
「中学はどうする?」
という問題だ。
学校が変わるのだから、教師側の対応も違ってくるかもしれない。
ただ、このままの住所で進学する中学では、ほとんどが同じ小学校からの生徒になる。
父親からは、住居を変えようかという提案があったらしいけど。今住んでいるのは、夫婦二人が結婚後購入したマンションだ。持ち家を手放すとなると面倒が多いし、今の家に愛着もある。
そんなところに、あたしが案を持ち込んだ。
「私立中学という選択もあるんじゃない?」
知り合いにそちらの関係者がいたので資料をもらって、姉の家に持参した。
「生徒の個性と才能を伸ばす」という謳い文句が何処まで鵜呑みにできるかは定かでないけど、中高一貫で大学進学に実績を上げているというのはよく知られている。少なくとも公立義務教育校のように、周囲から突出しているのを抑えられるということはないだろう。
いろいろ情報を漁って、説明会も聞きに行って。
それなりに、颯人本人が気に入ったようだ。
今のあたしから振り返って、体感ひと月あまり前、入学試験に臨み。数日前、合格を知らされた。
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