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『何ともお労しい境遇の王子殿下なのです。正妃殿下の第一子でいらっしゃりながら、生後すぐにお母様を失い、ずっと王位継承争いで命を狙われる中で育ち、もともとお身体は弱いのにその上奇病を患うという』
『確かに、お気の毒な境遇だな』
『まだ十二歳だというのに、子どもらしい楽しみも知らずお育ちになっているのです。これがいいことか分かりませんが学究的好奇心の強い方なので、せめてそうした望みは叶うよう命を取り留めていただきたいと思います』
『ああ』
この夜もやはり、一時間弱で通信は途絶えた。
ほとんど最低限の情報交換を果たしたという成果だ。
こちらとしてはかなり大雑把ながら現在地の把握ができたことに加えて、向こうの進捗状況を知って目的地への焦燥が高まったという感覚だ。
新しい情報は、颯人が転生しているかもしれない少年が王子だったということ。
やっぱりそれほど詳しいことは打ち明けてはもらえないけど、勉強や研究が好きだというあたり、颯人に通じるものはありそうに思える。
――あの子も、その辺は突出していたから。
とにかく、読書や勉強と名のつくことの好きな子だ。
一方で。
颯人は、小学校の六年間をほぼ不登校で過ごした。
この辺、身内としては贔屓目などを抜きにして語るのが難しいけど。事実としてまず認識に齟齬はない。
単純に言うと原因は、颯人の頭がよすぎたことだった。
入学当初、いわゆるピカビカの一年生の頃は、本人も周囲も無邪気だった。
その中で、学校の授業になると、颯人の理解は飛び抜けて速い。当然、「これが分かる人ーー」という先生の問いかけに、率先して答える。一度や二度でなく、毎回必ずだ。
これに、担任の女性教師は難渋したらしい。
全体に考えてほしいことを、毎回一人がすべて即座に答えてしまう。これでは全体授業にならない。
仕方なく、小鹿原颯人にだけ挙手を制限して応答を進めることになる。本人たちに納得のいく理由をつけることもできず、妙な成り行きになってしまう。当然ながら、当の本人が最も承服いかない。
教師の隙を突いて挙手しようとしたり、勝手に回答を口にしたり、ということがたびたび起きるようになった、らしい。
困憊した教師が、教壇で口にしたという。
「小鹿原さんは人と協調することを覚えなさい」
「我が儘を抑えなさい」
納得はできないまま、颯人は自分が我慢しなければいけないのだということを理解した。
それだけで済めば、まあ何とか収まったのかもしれない。
ところが。
一定数の子どもにとって、これはそれなりに愉快な成り行きだったらしい。
「ワガママーー」
「ワガママ小鹿原さんーー」
そういった子らから、颯人はそんな呼称を向けられることになった。それは間もなく、クラス全体に広がっていた。
母親たる我が姉は共働きということもあって、そうした実情を知るまで時間がかかったらしい。事態を知ったときには、もう誰も手のつけようがなくなっていたようだ。
その担任教師に話を聞きに行っても、「小鹿原さんに協調してもらうしかない」という返答だったとか。
授業への参加も、教室内での交友も、自分が我慢するしかない。
そう知った颯人は、通学を拒否するようになった。
不登校が続くようになる。
担任が数度家庭訪問してきたが、出る言葉は「お子さんに我が儘を許さないで」という調子のものばかりだったという。
両親が校長に談判に行っても、のらりくらり言い逃れられたそうだ。基調は担任の言い分を聞いて「子どもの我が儘」という捉え方になっていたとしか思えない。
この時点で両親が、他の親たちや別の機関などを味方につけてうまく動けば、違った展開になったのかもしれない。しかし姉たちにそうした知恵や知識はなかった。
近所の以前からの知り合いである親に相談を持ちかけても、理解は得られなかったという。言ってみれば「子どもの頭がよすぎる悩み」といった捉え方になり、嫌味に聞こえる向きもあったのか。
一方で当の颯人はさほど落ち込む様子もなく、家で自学や読書に耽っていた。むしろ好きなだけ本を読む時間ができて伸び伸びしている、という様子に見える。
『確かに、お気の毒な境遇だな』
『まだ十二歳だというのに、子どもらしい楽しみも知らずお育ちになっているのです。これがいいことか分かりませんが学究的好奇心の強い方なので、せめてそうした望みは叶うよう命を取り留めていただきたいと思います』
『ああ』
この夜もやはり、一時間弱で通信は途絶えた。
ほとんど最低限の情報交換を果たしたという成果だ。
こちらとしてはかなり大雑把ながら現在地の把握ができたことに加えて、向こうの進捗状況を知って目的地への焦燥が高まったという感覚だ。
新しい情報は、颯人が転生しているかもしれない少年が王子だったということ。
やっぱりそれほど詳しいことは打ち明けてはもらえないけど、勉強や研究が好きだというあたり、颯人に通じるものはありそうに思える。
――あの子も、その辺は突出していたから。
とにかく、読書や勉強と名のつくことの好きな子だ。
一方で。
颯人は、小学校の六年間をほぼ不登校で過ごした。
この辺、身内としては贔屓目などを抜きにして語るのが難しいけど。事実としてまず認識に齟齬はない。
単純に言うと原因は、颯人の頭がよすぎたことだった。
入学当初、いわゆるピカビカの一年生の頃は、本人も周囲も無邪気だった。
その中で、学校の授業になると、颯人の理解は飛び抜けて速い。当然、「これが分かる人ーー」という先生の問いかけに、率先して答える。一度や二度でなく、毎回必ずだ。
これに、担任の女性教師は難渋したらしい。
全体に考えてほしいことを、毎回一人がすべて即座に答えてしまう。これでは全体授業にならない。
仕方なく、小鹿原颯人にだけ挙手を制限して応答を進めることになる。本人たちに納得のいく理由をつけることもできず、妙な成り行きになってしまう。当然ながら、当の本人が最も承服いかない。
教師の隙を突いて挙手しようとしたり、勝手に回答を口にしたり、ということがたびたび起きるようになった、らしい。
困憊した教師が、教壇で口にしたという。
「小鹿原さんは人と協調することを覚えなさい」
「我が儘を抑えなさい」
納得はできないまま、颯人は自分が我慢しなければいけないのだということを理解した。
それだけで済めば、まあ何とか収まったのかもしれない。
ところが。
一定数の子どもにとって、これはそれなりに愉快な成り行きだったらしい。
「ワガママーー」
「ワガママ小鹿原さんーー」
そういった子らから、颯人はそんな呼称を向けられることになった。それは間もなく、クラス全体に広がっていた。
母親たる我が姉は共働きということもあって、そうした実情を知るまで時間がかかったらしい。事態を知ったときには、もう誰も手のつけようがなくなっていたようだ。
その担任教師に話を聞きに行っても、「小鹿原さんに協調してもらうしかない」という返答だったとか。
授業への参加も、教室内での交友も、自分が我慢するしかない。
そう知った颯人は、通学を拒否するようになった。
不登校が続くようになる。
担任が数度家庭訪問してきたが、出る言葉は「お子さんに我が儘を許さないで」という調子のものばかりだったという。
両親が校長に談判に行っても、のらりくらり言い逃れられたそうだ。基調は担任の言い分を聞いて「子どもの我が儘」という捉え方になっていたとしか思えない。
この時点で両親が、他の親たちや別の機関などを味方につけてうまく動けば、違った展開になったのかもしれない。しかし姉たちにそうした知恵や知識はなかった。
近所の以前からの知り合いである親に相談を持ちかけても、理解は得られなかったという。言ってみれば「子どもの頭がよすぎる悩み」といった捉え方になり、嫌味に聞こえる向きもあったのか。
一方で当の颯人はさほど落ち込む様子もなく、家で自学や読書に耽っていた。むしろ好きなだけ本を読む時間ができて伸び伸びしている、という様子に見える。
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