チョーゴーキン! ――車両模型に転生したアラサー女子、異世界の街道をひた走る

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『何か問題を抱えているのか。娘の相手もできないほど』
『まあねえ。言ってみれば、村の危機なのさ』
『村の危機?』
『そうさあ。この村のほとんどは農家なんだけどねえ。今はこの春蒔いた小麦を育てているところなのさ。それが、領の代官様からたいへんなことを言われてねえ』
『何だ、たいへんなことって』
『この領内は何処でも小麦がよくれるんだけどね、どういうわけかうちの村だけは他のところと違う種類の小麦しかよく育たないのさ。価値が低い小麦だけど仕方ないって、今まではそうしてやってきたんだけどね。今年の今頃になって、この小麦じゃ税として認められない、他と同じ種類の小麦を蒔き直せって』
『それは、強引な話だな』
『前から言われてた話じゃあるんだけどね。この村で穫れる小麦はパンにしても膨らまないし、麺とかにしても歯ごたえがない。せいぜい団子にするとか、たいして価値のないものしか作れないって』
『ふうん』

――つまり、強力粉と薄力粉の違いといったところだろうか。

『このまま今の小麦を育てても、税として認められない。今から他と同じ小麦を蒔いても、ただでさえよく育たないのに時期遅れでますます収穫が望めないさ。この村のもんに死ねって言ってるのと同じだよ』
『ひどい話だな』
『それで、村長むらおさが代官様に言い返したのさ。ここの小麦だってそれなりに価値があるはずだって。そしたら、それならその価値を見せてみろ、ここの小麦で売り物になる料理を作ってみろって言われたんだと』
『ほう』
『それで、うちの亭主が任されちまってね。この村で一軒だけ、旅人相手の料理屋をしているんで。ここの小麦だけを使って、旅人に満足される料理を作れって。でも、少し前から工夫を始めたんだけどなかなかうまくいかなくて、その期限が明後日あさってなのさ』
『なるほどな。で、どんなものを考えてみたんだ?』
『そんな驚くほど目新しいもんを思いつくわけにはいかないさ。小麦粉を衣にして肉を焼くとか、溶いた小麦粉をスープに入れてとろみをつけるとか今までにやっていることを工夫しても、そんなのじゃ小麦が主役じゃないから認めらんないって言うし。仕方ないからありふれた団子のスープで、味つけをいろいろ変えてるところだよ』
『なるほど』
『味つけったって、塩味にいろいろ野菜で風味をつけるぐらいしかできないしさあ。やることも限られるんさ』

――当然、味噌も醤油もないんだろうからなあ。

 質問してみたところ、胡椒や唐辛子みたいなものもないようだ。
 野菜で風味づけと言っても、ハーブのような特殊なものもない。まあ森の中を探せば何か見つかるかもしれないけど、そんな時間の余裕もないだろう。
 この村の産物のうち、何とか聞いてイメージできたのはキャベツみたいなのと蕪みたいな野菜程度で、確かに変わった風味を生み出せる期待は持てそうにない。
 あともしかするとタマネギに近いのかというものはあっても、その他ではジャガイモの類いも望めないみたいだ。
 つまり、たとえアドバイスするにしても、薄力粉と塩、キャベツと蕪とタマネギだけで考案する、というかなりの無理ゲーになる。
 それでもこのリーヌスとマルガという夫婦、そのミッションコンプリートで娘の気を晴らすことがあたしの解放に繋がるんじゃないかと思うと、何とか考えるしかない。

『いくつか思いつく案はあるんだが。ダメで元々で、やってみるか?』
『ああ、教えてくれるんなら、何でも歓迎さあ。もう亭主も行き詰まって、いくら頭を絞ってもこれ以上、なんにも出そうにない』
『こっちは夢の住人だから、昼間話をすることはできない。しっかり聞いて、覚えてくれ』
『あいよ、頼んだよ』

 夢なんだから、メモなんかをとるわけにもいかない。
 エトヴィンに確かめたところ、この夢会話の内容は起きた後も鮮明に覚えているということなので、そこに期待するしかないだろう。
 その後、朝になるまでくり返し、この若い女房にいくつかの説明を続けた。
 夜明けを迎えるやマルガは早々に起き出し、夫を叩き起こして厨房へ向かった。同居している夫の母と三人で、早速料理を始めるという。

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