チョーゴーキン! ――車両模型に転生したアラサー女子、異世界の街道をひた走る

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「夢でお告げがあったんだよ。新しい料理だよ」
「何だそりゃ」
「とにかく、やってみようよ。ほら、早く準備して」

 妙に夫婦間で温度差のある会話が聞こえてくる。
 まだ眠り続けている幼女の寝顔を眺めながら、あたしは好首尾を願って待つしかない。
 この日は雨模様だけど、どうも気温が高いらしい。外に遊びに出られない娘を寝室に残し、熱中症などの心配からか戸を開いたまま大人たちは向かいの厨房で作業を続ける。
 ハイダはまた、あたしと木の人形を相手に一人遊び。
 その間に、厨房の声が漏れ聞こえてくる。
 夫婦とその母親は、さんざん苦労しながら新料理に取り組んでいるようだ。
 バタンバタンと何かを打ちつける音が聞こえてくると、ハイダが目を丸くしていた。
 やがてさんざんこねた生地を板に載せ、リーヌスが廊下の奥に運んでいった。その辺が厨房の中よりは冷暗所に近くなっているんだろう。
 それから間もなく、マルガが娘を呼びに来た。

「ハイダ、お昼だよ」
「あい」

 厨房の奥の方に食卓があるのか、そちらに入っていく。
 一家四人の会話が、ぼそぼそと聞こえてくる。
 ここへ来て初めて、あたしは戸の開いた状態で放置されたことになる。またとない機会なので、そっと戸口に寄って廊下を見回してみた。
 左手は昨日入ってきた玄関口だけど、しっかり扉が閉ざされている。やっぱり、脱出は無理そうだ。
 右手奥には、さっきリーヌスが運んできた板に載せた生地に布が被せられている。
 厨房の方の気配を窺いながら、あたしはそっとその生地に近づいた。
 布を捲って、マジックハンドの先で軽くつついてみる。
 夢の中でマルガに説明した通りの作り方ができているようだけど、少し水分が多いかもしれない。何しろ計量カップのようなものはないのだから、「手にべとつかないぎりぎりの感じ」などという説明しかできないんだ。
 少し考えて。水魔法を使ってみる。
 以前にエトヴィンとも検討したことだけど、練習工夫を重ねてある程度狙ったところから水分を奪うことができるようになってきていた。
 たぶんこれ、この世界の誰も試してみていないと思う。水魔法の際近くにある水分を移動して使われるという事実自体、エトヴィンの周辺で最近実験して確かめられただけで、まだ広く知られていないらしいんだ。
 それでもあたしは、一人になってからも夜の充電後などに練習して、かなり精度を高めている。
 今も、生地全体から少しずつ水分を抜く、という指定でそこそこ成功した。
 生地――要するに、うどんだ。
 これもまた「実体験派フリーライター」活動で、手打ちうどん教室に参加したことがある。

――あのときは爺ちゃん婆ちゃんに交じって、珍しく「若い娘さん」扱いを享受したっけ。「お嬢ちゃん」なんて呼ばれたの、人生最後の経験だったかも。

 ――それはともかく。
 その体験で、うどん生地の手触りは記憶している。マジックハンドで触覚は持たないけど、おおよその弾力は確かめられる。
 少し水分を抜いたことで、理想に近づいたと思う。
 こんなズルをしてここの調理人たちの試行として大丈夫か不安なところだけど、とにかく最初に計量してやっているわけじゃない。最終的にこの寝かせた生地の手触りを覚えてもらえば、今後失敗しながらでも再現はできるだろう。
 そう御都合的に考えて、またそっと部屋に戻る。

 ハイダが戻ってきて、またしばらく一人遊び。
 大人たちは厨房に生地を運び戻し、いくぶん声を弾ませて作業を続けているみたいだ。
 やがてまた、幼児は昼寝に入っていった。
 他にどうしようもなく。到底、褒められた行為じゃないけど。
 あたしはまた少女の夢の中に入って、『ぐすんぐすん』を聞かせてみた。
 ちらとこちらを見ただけで、ハイダはそれきり横向きから顔を上げようとしない。
 しばらく声を聞かせ、やがて諦めて夢から出る。

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