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『ハル殿は、街道を真っ直ぐ北上しているのですね。明日の朝すぐ、カルステンに命じてミーマで迎えに走らせましょう。ミーマは人の足の倍以上の速度が出るわけなので、単純計算でハル殿と出会うまでの時間は三分の一以下になります。そこからハル殿を背負って戻ることにしてさらに三分の一、合わせて三分の二以下の時間で王都に着くことになります』
『なるほど』
『往きのカルステンは王領内で途中ミーマを交換する場所があるので、ほぼ休みなく走らせることができます。伯爵領に入るとそうした場所がなく、伯爵にもできるだけこの騒動は知られたくないので秘密裏に事を運ぶことにして、ハル殿を拾った帰り道では一泊野宿で休むことになります。それでもその後またミーマを交換しながら走り続け、三日後には王城に戻る算段が立つと思われます』
『なるほど、了解した』
『ハル殿は他の通行人に見つからないように進行しているのでしたね。カルステンと出会うのは、二日後になると思います。ミーマの首と本人の頭に赤い布を巻かせて目印にしたいと思いますので、それを見て合図をしてください』
『分かった』
エトヴィンはあらん限りの知恵を絞って遺漏なく事を運ぼうと、腕組みで唸っている。まずまちがいなく、これが王子を救う最後の希望なのだなら、当然だ。
とにかくこれまでの経過を振り返ると、この薬草を王宮に持ち帰るに当たって、どんな妨害が起きるか予想もつかない。その妨害が人間の意思によるものか天災や偶然に過ぎないのかさえ判断がつかないのだから、ほとんど予防のしようもないんだ。
この件についてはできるだけ知る者が少ないようにしよう、カルステン一人にだけ内密に伝え、本人の出立も自宅に帰る装いで人の注意を惹かないようにしよう、と打ち合わせる。
これ以上気の回しようはないだろうというまで検討を加え、一息つく。
話題を変えて、あたしは問いかけた。
『ところで昨日森の中で、地面龍と呼ばれる巨大トカゲに多数の兵士が襲われているのを見たんだが、何か情報はあるのだろうか』
『はあ、地面龍ですか? どういう事態ですか、それは』
一通りの顛末を話すと、エトヴィンはうーーんと考え込んでしまった。
そうしてから、躊躇い混じりの口調で唸り声を漏らす。
『ハル殿……これも、くれぐれも他言無用でお願いしたいのですが……』
『例によってそれは、私にとって誓うまでもないことだが。どういうことだろう』
『現在、我が国の王太子殿下が行方不明なのです』
『何だって?』
いきなり、とんでもなく重大な話が出てきた。
王宮内でも箝口令が敷かれている案件だということで、もちろんあたしのような部外者にたやすく明かせることじゃない。しかしある程度情報を伝えてでも詳細を知るのは、急務だということのようだ。
『その兵士らしき者たち、カルステンたちと似た装備だということですね?』
『ああ。私はそうしたものに詳しくないが、かなり似た格好に見えた』
『カルステンたちは我がラングハンス伯爵領兵の装備を基本にした身なりでしたが、王宮の近衛兵のものはかなりそれと似ているのです。その現場はキュンツェル伯爵領内ということでしょうが、そちらの伯爵領兵のものは青色が基調で、かなり見かけが異なります』
『ということは、私が見たのは近衛兵である可能性が高い、と』
『はい。そして王太子殿下は、近衛兵十名余りを伴って誰にも知れず王都を出たらしい、ということです』
『その理由に、誰も見当がつかないわけか』
『はい。国王陛下も、王太子妃殿下も、何も聞いていないと』
『理由は分からないが、王太子殿下が兵を連れてあの森に現れる可能性はある、ということになるんだろうか』
『少なくとも、時間の点では整合しますね。私たちが王宮に戻った時点で、五日前から殿下の行方が分からないという話でしたから。その森の惨事まで六日ということになります。徒歩移動でも可能でしょう』
『ふうん』
『なるほど』
『往きのカルステンは王領内で途中ミーマを交換する場所があるので、ほぼ休みなく走らせることができます。伯爵領に入るとそうした場所がなく、伯爵にもできるだけこの騒動は知られたくないので秘密裏に事を運ぶことにして、ハル殿を拾った帰り道では一泊野宿で休むことになります。それでもその後またミーマを交換しながら走り続け、三日後には王城に戻る算段が立つと思われます』
『なるほど、了解した』
『ハル殿は他の通行人に見つからないように進行しているのでしたね。カルステンと出会うのは、二日後になると思います。ミーマの首と本人の頭に赤い布を巻かせて目印にしたいと思いますので、それを見て合図をしてください』
『分かった』
エトヴィンはあらん限りの知恵を絞って遺漏なく事を運ぼうと、腕組みで唸っている。まずまちがいなく、これが王子を救う最後の希望なのだなら、当然だ。
とにかくこれまでの経過を振り返ると、この薬草を王宮に持ち帰るに当たって、どんな妨害が起きるか予想もつかない。その妨害が人間の意思によるものか天災や偶然に過ぎないのかさえ判断がつかないのだから、ほとんど予防のしようもないんだ。
この件についてはできるだけ知る者が少ないようにしよう、カルステン一人にだけ内密に伝え、本人の出立も自宅に帰る装いで人の注意を惹かないようにしよう、と打ち合わせる。
これ以上気の回しようはないだろうというまで検討を加え、一息つく。
話題を変えて、あたしは問いかけた。
『ところで昨日森の中で、地面龍と呼ばれる巨大トカゲに多数の兵士が襲われているのを見たんだが、何か情報はあるのだろうか』
『はあ、地面龍ですか? どういう事態ですか、それは』
一通りの顛末を話すと、エトヴィンはうーーんと考え込んでしまった。
そうしてから、躊躇い混じりの口調で唸り声を漏らす。
『ハル殿……これも、くれぐれも他言無用でお願いしたいのですが……』
『例によってそれは、私にとって誓うまでもないことだが。どういうことだろう』
『現在、我が国の王太子殿下が行方不明なのです』
『何だって?』
いきなり、とんでもなく重大な話が出てきた。
王宮内でも箝口令が敷かれている案件だということで、もちろんあたしのような部外者にたやすく明かせることじゃない。しかしある程度情報を伝えてでも詳細を知るのは、急務だということのようだ。
『その兵士らしき者たち、カルステンたちと似た装備だということですね?』
『ああ。私はそうしたものに詳しくないが、かなり似た格好に見えた』
『カルステンたちは我がラングハンス伯爵領兵の装備を基本にした身なりでしたが、王宮の近衛兵のものはかなりそれと似ているのです。その現場はキュンツェル伯爵領内ということでしょうが、そちらの伯爵領兵のものは青色が基調で、かなり見かけが異なります』
『ということは、私が見たのは近衛兵である可能性が高い、と』
『はい。そして王太子殿下は、近衛兵十名余りを伴って誰にも知れず王都を出たらしい、ということです』
『その理由に、誰も見当がつかないわけか』
『はい。国王陛下も、王太子妃殿下も、何も聞いていないと』
『理由は分からないが、王太子殿下が兵を連れてあの森に現れる可能性はある、ということになるんだろうか』
『少なくとも、時間の点では整合しますね。私たちが王宮に戻った時点で、五日前から殿下の行方が分からないという話でしたから。その森の惨事まで六日ということになります。徒歩移動でも可能でしょう』
『ふうん』
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