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89 入室した 1
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「おお、無事でしたかハル殿」
開かれた布の上に大映しに迫るエトヴィンの顔が、ひそめた声をかけてきた。
その顔の前へ、あたしは小さな動作で五枚の薬草を持ち上げた。
「おお、確かに! ありがとうございます、感謝します」
「無事でしたね、ありがたい」
変わらず、盗聴のようなものを警戒しているらしい。
最大限声をひそめ、エトヴィンとカルステンは笑顔を見合わせている。
そうして二人は、あたしに向けて大きく頭を下げた。
「こんな状況ですので、ひどい扱いで申し訳ありませんが、もうしばらくここで辛抱していただけますか。急いでこれを加工のため、研究室に運ばなければなりません。カルステン、供を頼む」
「畏まりました」
ほんのわずか、すぐ近くでないと見えない程度に、あたしは頷きを返した。
以前に聞いていたことだけど、薬草の加工は難しくはないもののやや時間がかかる。既存の魔素回復薬というものに半日程度浸けておいた後、磨り潰して攪拌し漉す、という手順らしい。
とにかく状況は急を要している。
この場であたしと正常な会話はできないのだし、エトヴィンはこの薬草の活用に急ぐのが正解だ。
その前に。一応手早く、カルステンはこの日の襲撃を受けた二件について、主に説明していた。
「王宮の門内で、攻撃を受けただと?」
「はい、実行犯は中で控えていた門番の交代要員だったようです。朋輩に取り押さえられて、わけ分からないなどと叫んでいましたが」
「何と……」
エトヴィンは、蒼白の顔に目を剥いている。
「とにかくどんな事態が起こるか予想もつかない、ということだな。何を置いても研究室へ急ぐしかない」
「は」
主従二人は、後をも見ず部屋を出ていった。
ふう、とあたしは一息つく。
二人が出ていって、室内は無人になっている。
エトヴィンの執務室ということになるのか、そこそこ広い、十五~二十畳くらいの広さはありそうに見える。
あたしが載せられているのは執務机のようで、以前の知識なら学校の校長や大きな会社の重役程度の設えという気がする。室内には他に、部下用なのか一回り小さな机と椅子、応接用途らしい長椅子とテーブル、大きめの本棚が設置されている。建物の中央寄りにあるのか、窓はない。
そこそこ立派な机にそぐわない、燃えかけ汚れ放題の布に包まれて。その意味では落ち着かない現状だけど、あたしはこのまま当分動かないことにした。ここしばらく留意しているように、何処から監視されているか分かったもんじゃないからね。
こんな王宮の奥でそんな心配しなきゃいかんのか、という気もしないじゃないけどさ。これまでの経緯で、明らかにエトヴィンの周囲から情報が漏れていると思わなけりゃならないようなんだ。あれだけ周囲に知られないよう配慮したというカルステンの外出も、結局薬草入手目的と看破されたらしく、今日の掏摸と火魔法攻撃に至ったことになるんだろう。
おそらくは王宮でエトヴィン一派の本丸ということになるんだろうこの執務室も、どんな監視をされているか分かったものじゃない。少し前に考えたように、監視カメラや盗聴器があるわけじゃないだろうけど、とにかくも魔法がある世界なんだからね。どんなことが実現されているか、想像が及ばないことがあるかもしれないじゃないか。
――しかしせっかく王宮なんていうめったに入れないところに来ているというのに、この室内しか見ることができないというのも情けない話だよねえ。
勝手に廊下に出て散歩するというなど、論外な話だろう。誰に見つかっても、大騒ぎになる顛末しか想像できない。
仕方なくここで、思いを巡らすことしかできそうにないわなあ。
考え、思い返してみて。ちりちりと気になることがあるんだ。
開かれた布の上に大映しに迫るエトヴィンの顔が、ひそめた声をかけてきた。
その顔の前へ、あたしは小さな動作で五枚の薬草を持ち上げた。
「おお、確かに! ありがとうございます、感謝します」
「無事でしたね、ありがたい」
変わらず、盗聴のようなものを警戒しているらしい。
最大限声をひそめ、エトヴィンとカルステンは笑顔を見合わせている。
そうして二人は、あたしに向けて大きく頭を下げた。
「こんな状況ですので、ひどい扱いで申し訳ありませんが、もうしばらくここで辛抱していただけますか。急いでこれを加工のため、研究室に運ばなければなりません。カルステン、供を頼む」
「畏まりました」
ほんのわずか、すぐ近くでないと見えない程度に、あたしは頷きを返した。
以前に聞いていたことだけど、薬草の加工は難しくはないもののやや時間がかかる。既存の魔素回復薬というものに半日程度浸けておいた後、磨り潰して攪拌し漉す、という手順らしい。
とにかく状況は急を要している。
この場であたしと正常な会話はできないのだし、エトヴィンはこの薬草の活用に急ぐのが正解だ。
その前に。一応手早く、カルステンはこの日の襲撃を受けた二件について、主に説明していた。
「王宮の門内で、攻撃を受けただと?」
「はい、実行犯は中で控えていた門番の交代要員だったようです。朋輩に取り押さえられて、わけ分からないなどと叫んでいましたが」
「何と……」
エトヴィンは、蒼白の顔に目を剥いている。
「とにかくどんな事態が起こるか予想もつかない、ということだな。何を置いても研究室へ急ぐしかない」
「は」
主従二人は、後をも見ず部屋を出ていった。
ふう、とあたしは一息つく。
二人が出ていって、室内は無人になっている。
エトヴィンの執務室ということになるのか、そこそこ広い、十五~二十畳くらいの広さはありそうに見える。
あたしが載せられているのは執務机のようで、以前の知識なら学校の校長や大きな会社の重役程度の設えという気がする。室内には他に、部下用なのか一回り小さな机と椅子、応接用途らしい長椅子とテーブル、大きめの本棚が設置されている。建物の中央寄りにあるのか、窓はない。
そこそこ立派な机にそぐわない、燃えかけ汚れ放題の布に包まれて。その意味では落ち着かない現状だけど、あたしはこのまま当分動かないことにした。ここしばらく留意しているように、何処から監視されているか分かったもんじゃないからね。
こんな王宮の奥でそんな心配しなきゃいかんのか、という気もしないじゃないけどさ。これまでの経緯で、明らかにエトヴィンの周囲から情報が漏れていると思わなけりゃならないようなんだ。あれだけ周囲に知られないよう配慮したというカルステンの外出も、結局薬草入手目的と看破されたらしく、今日の掏摸と火魔法攻撃に至ったことになるんだろう。
おそらくは王宮でエトヴィン一派の本丸ということになるんだろうこの執務室も、どんな監視をされているか分かったものじゃない。少し前に考えたように、監視カメラや盗聴器があるわけじゃないだろうけど、とにかくも魔法がある世界なんだからね。どんなことが実現されているか、想像が及ばないことがあるかもしれないじゃないか。
――しかしせっかく王宮なんていうめったに入れないところに来ているというのに、この室内しか見ることができないというのも情けない話だよねえ。
勝手に廊下に出て散歩するというなど、論外な話だろう。誰に見つかっても、大騒ぎになる顛末しか想像できない。
仕方なくここで、思いを巡らすことしかできそうにないわなあ。
考え、思い返してみて。ちりちりと気になることがあるんだ。
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