チョーゴーキン! ――車両模型に転生したアラサー女子、異世界の街道をひた走る

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『まず地理的なところを調べると、本当に国の北部に、隣国から侵攻される可能性のある地域がある。このオイレンベルク王国の北東に接するクーネンフェルス王国という国はこちらと国力も拮抗して、長年戦争や小競り合いをくり返しているんだけどね。今まであまり注目されていなかったけど、ストゥッツマン伯爵領の北端にあるヒルパートという地域に、うまく山間を抜けてくるとクーネンフェルス王国の軍勢が入ってこれる可能性があるんだ』
『そうなんだ』
『そう気がついたので、僕は国王陛下と王太子殿下にそれを進言した。説明しておくと国王の息子たる三人の王子はみんな母親が違っていてね、王太子の第一王子は出生時点での正妃が母親だけどその後死亡している。第二王子の生母はマクダレーネ第二妃殿下、第三王子の生母はその後正妃になったクレスツェンツ妃殿下。そのきさきたちの勢力関係もあって、第二王子は王太子への対抗意識が強い、第三王子は王太子とかなり仲がいい、という関係なんだ。だから、王太子も僕の言うことを比較的真面目に聞いてくれるわけ』
『なるほどね』
『さすがにラノベで読んだからと言って信用されるわけはないけど、地理的な条件を説明してヒルパート地方に隣国から侵攻されかねない隙があるっていうことを指摘すると、陛下も王太子殿下も感心して聞いてくれた。その結果ストゥッツマン伯爵に警戒を促すとともに、もしもの際に迎撃が間に合うような場所に十分な数の国軍を配備することにした』
『それで最悪の事態を避けられることになったのかな』
『ところが、去年の夏のことなんだけどね。予期しない大雨に見舞われて、川の氾濫でヒルパート地方とこちら中央部の間が遮断されてしまったの。その隙に山間部から隣国軍が侵攻して、その地域を奪われてしまった』
『な――』
『その結果ラノベの展開と同じような方針で、戦後処理の話し合いが進んだんだ。あちらの第三王女とこちらの第二王子の婚約が決まって、七日後にはその王女がここの王宮を訪問する。どうもこちらの北部の領主、エクヴィルツ侯爵がクーネンフェルス王国と通じている可能性がある』

 つまり、予測不能の自然災害が隣国に味方したということになるのか。それも、ノベルストーリーをなぞるかもしれない運命に何とか抗おうとした対処を、無理矢理元通りに軌道修正しようとでもいうように。
 これが誰かの意思によるものだというならまだしも、大雨と川の氾濫など到底人力で実現できるとは思えない。

『こういうの、何て言うんだっけ。〈私、乙女ゲームの世界に転生してしまったんだわ!〉パターンのラノベによく出てくる言い回し』
『〈シナリオ強制力〉なんていう言葉をよく見るね』
『それだ』
『つまりこの世界ではこの運命がもう決定している、人間ごときの抵抗で変えることはできない、ということになるのかな』
『まだ結論を出すには早いかな、その強制力なるものの存在証明には』
『それがね、他にもあるんだ。ノベルストーリーの流れを変えようとしたのに、軌道修正されようとしていることが』
『まだあるんかい!』
『さっき言いかけていた、破滅結果に到るためのいくつか大きな要素ってやつね。もう一つ大きいのが、小麦の収穫量なんだ』
『小麦?』

 ラノベ『転生王子はさらに転生して、破滅ルートを逆転する!』では、小麦の取れ高が事態を大きく動かす要素になるという。
 一地域に攻め込んできた隣国が主人公の国に王女を送り込み、権勢に食い込もうとする。それに当たっては、建国時から王室に批判的な北方に領地を持つ侯爵が、隣国の後押しをする。
 その年偶然にも、国の穀物庫と呼ばれる西方の小麦大産地、代表的な侯爵領と伯爵領で、天候不順のため不作に陥った。それらの領に、隣国と北の侯爵が食糧援助を申し出る。
 この駆け引きで、元は中立派だったこの侯爵と伯爵が隣国王女迎え入れに賛成する意見にくみすることになったのだ。
 何しろこの二領での小麦不作は被害規模が大きすぎて、補う手段が他にあり得ない。放置すると二領だけでなく、国の大半まで困窮させる事態になりかねないのだ。

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