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『そう。今が『春の三の月』で、地球の言い方だと六月だよね。あの中ツ森に冬場に入ることは無理だから、エトヴィンたちは可能になる『春の一の月』から採取にかかる準備を進めていたんだ。僕からは大雨に遭わないように注意して、と言っておいたんだけど。最初は彼らも『そこまで運が悪いことはないでしょう』と楽観していたみたい。それが最初の採取の直後に狙ったみたいな大雨に見舞われて、認識を新たにしたみたいなんだ』
『その後もここまでしつこく妨害を巧まれたみたいに困難が続くなんて、最初は思いもしなかったろうね』
『だよね』
『それでもとにかくもまだ、すべてその破滅ストーリー通りになるとは言えないわけだ。薬草はここまで来たら不運な喪失も考えられないし、王太子も小麦もまだ最悪の事態を結論できない』
『そうなんだけどねえ。この薬草運搬途中の数々の災難だけを見ても、シナリオ強制力みたいなのを連想してしまう。他の点でも、まったく楽観できない気がするんだ。たとえば王女訪問の際に僕が国王夫妻の近くにいなければ最悪は避けられる気がするけど、これまでの経緯からすると何か強引にでもそんな状況になってしまうんじゃないか』
『うーん、何とも、だね。それでも王太子と小麦の件はすぐに対処もできそうにない。でも第三王子の発作さえ防げればかなりストーリーから外れることになるんだから、まずはそこ、治療薬の完成にエトヴィンに頑張ってもらうことだね』
『そうだね』
『あたしとしちゃその、この世界がノベルの通りだというのは信じざるを得なくなってきてるけど、シナリオ強制力の方はまだ確定じゃない、何とかしようがあるって思うよ』
『だといいんだけどね』
『ノベルの中かどうかなんて、どうでもいい。受け入れがたい運命には逆らおうっていう意思が大事っていうの、どんな世界のどんな人生でも同じじゃないのかな』
『だね』
『希望を持って、エトヴィンからの朗報を待つことにしようよ』
『うん』
そうした一応の結論で、会話は穏やかな話題に移行する。
第三王子のこれまでの人生について簡単に聞き、あたしがこの世界に落下してからのあらまし――を話そうとしてエトヴィンたちとの出会いまで進んだところで、離れたところから声がかかった。側仕えのオーラフだ。
「殿下、間もなく夕食の時間です。お起きになりますか」
「あ、うん。起きるよ」
かけられた布を側仕えに捲られ、目元を擦りながら上体を起こしている。
ふわう、と小さな欠伸を漏らし。
『この会話も、しばらくは中断した方がいいね』
『そうだね』
素直に承諾し、食堂に行くらしい主従の背を見送る。
残されたあたしは、明らかな人目がなくても動くのは自制し、ただ周囲を見回すだけに努める。
陽は落ちてきた頃合いみたいだけど、受信範囲に睡眠中の人がいるとは思えない。第三王子以外とは当面会話不可能と思うべきだろう。
――つまるところ――何もすることがない。
仕方なく、さっきまでの会話から得られた情報を頭の中で整理し直す、そんな作業で時を過ごした。
後で聞いたところ第三王子はこの時間、国王や二人の妃と夕食をとり、しばらく歓談する日課になっているらしい。
けっこう遅くなって部屋に戻り、王子は寝室に入っていった。王宮でも長時間無駄に照明を使うことはあまりしない、この時刻頃に就寝するのがふつうらしい。
そちらが床に入った頃合いに、会話を繋げた。
『夢の中でも会話はできるし、就寝を妨げることはないみたいなんだけどね。それでもそちらは病人だし明日に備えて体力を保つべきということだから、大事をとってこれでやめておくことにするね』
『うん、分かった』
『ゆっくり、お休みなさい』
『うん、お休みなさい』
『その後もここまでしつこく妨害を巧まれたみたいに困難が続くなんて、最初は思いもしなかったろうね』
『だよね』
『それでもとにかくもまだ、すべてその破滅ストーリー通りになるとは言えないわけだ。薬草はここまで来たら不運な喪失も考えられないし、王太子も小麦もまだ最悪の事態を結論できない』
『そうなんだけどねえ。この薬草運搬途中の数々の災難だけを見ても、シナリオ強制力みたいなのを連想してしまう。他の点でも、まったく楽観できない気がするんだ。たとえば王女訪問の際に僕が国王夫妻の近くにいなければ最悪は避けられる気がするけど、これまでの経緯からすると何か強引にでもそんな状況になってしまうんじゃないか』
『うーん、何とも、だね。それでも王太子と小麦の件はすぐに対処もできそうにない。でも第三王子の発作さえ防げればかなりストーリーから外れることになるんだから、まずはそこ、治療薬の完成にエトヴィンに頑張ってもらうことだね』
『そうだね』
『あたしとしちゃその、この世界がノベルの通りだというのは信じざるを得なくなってきてるけど、シナリオ強制力の方はまだ確定じゃない、何とかしようがあるって思うよ』
『だといいんだけどね』
『ノベルの中かどうかなんて、どうでもいい。受け入れがたい運命には逆らおうっていう意思が大事っていうの、どんな世界のどんな人生でも同じじゃないのかな』
『だね』
『希望を持って、エトヴィンからの朗報を待つことにしようよ』
『うん』
そうした一応の結論で、会話は穏やかな話題に移行する。
第三王子のこれまでの人生について簡単に聞き、あたしがこの世界に落下してからのあらまし――を話そうとしてエトヴィンたちとの出会いまで進んだところで、離れたところから声がかかった。側仕えのオーラフだ。
「殿下、間もなく夕食の時間です。お起きになりますか」
「あ、うん。起きるよ」
かけられた布を側仕えに捲られ、目元を擦りながら上体を起こしている。
ふわう、と小さな欠伸を漏らし。
『この会話も、しばらくは中断した方がいいね』
『そうだね』
素直に承諾し、食堂に行くらしい主従の背を見送る。
残されたあたしは、明らかな人目がなくても動くのは自制し、ただ周囲を見回すだけに努める。
陽は落ちてきた頃合いみたいだけど、受信範囲に睡眠中の人がいるとは思えない。第三王子以外とは当面会話不可能と思うべきだろう。
――つまるところ――何もすることがない。
仕方なく、さっきまでの会話から得られた情報を頭の中で整理し直す、そんな作業で時を過ごした。
後で聞いたところ第三王子はこの時間、国王や二人の妃と夕食をとり、しばらく歓談する日課になっているらしい。
けっこう遅くなって部屋に戻り、王子は寝室に入っていった。王宮でも長時間無駄に照明を使うことはあまりしない、この時刻頃に就寝するのがふつうらしい。
そちらが床に入った頃合いに、会話を繋げた。
『夢の中でも会話はできるし、就寝を妨げることはないみたいなんだけどね。それでもそちらは病人だし明日に備えて体力を保つべきということだから、大事をとってこれでやめておくことにするね』
『うん、分かった』
『ゆっくり、お休みなさい』
『うん、お休みなさい』
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