チョーゴーキン! ――車両模型に転生したアラサー女子、異世界の街道をひた走る

eggy

文字の大きさ
103 / 122

103 補充した 1

しおりを挟む
 それからしばらくして、王宮の中はすっかり寝静まったということになるようだ。起きて動いているのはおそらく、不寝番の衛兵くらいなのだろう。
 王宮は大きく分けて、王族たちの生活棟と貴族や職員が通って勤務する執務棟で構成されている。今ここで就眠しているのは王族たちとその生活を支える住み込みの職員がほとんどで、原則として執務棟の方で働く者は残っていないはずだ。
 他にどの程度いるか知らないが例外になるのはエトヴィンとその護衛と助手で、翌日明け方すぐから調薬に入るためこの日も執務室に泊まり込んでいるという。
 静まり返った建物の中に、『夢会話』が通じるかどうかの小手調べで探りを入れてみる。昼間より人は大きく減っているとはいえこれほど人口密度の高い状況での試行は初めてなので、改めての発見があった。
 探りを入れていくと、会話が繋がりそうな睡眠中の人が見つかる。これは、今までも経験してきたことだ、
 それが複数見つけていくと、だいたいの相手の区別がつくことが感じられた。まあおおよそながらの、性別や年齢、身分によるのかどうか不明ではあるけど落ち着き具合、といった程度だけれど。
 この第三王子の居室より奥側はほぼ王族の私室になるわけで、見つかるのは圧倒的に女性が多い。かなり奥の方に壮年らしい落ち着いた男性の手応え、おそらくこれが国王だろう。かなり手前側の若い男性は、第二王子か。しかしここのオーラフのような男の側仕えもいるようで、はっきり区別はつかない。妃たちの存在も分かるような分からないような、あまり自信が持てないところだ。
 とはいえ現状で国王や妃と会話を繋げる気にもなれないので、その辺明瞭にする緊急性も感じない。
 そういった、やや暢気な試行を続けているのは。
 ふだんならもう寝ついているはずのエトヴィンと何度も繋げようと試みているのだけど、それが果たせないでいるせいだった。
 泊まり込んでいるということにまちがいないなら、まだ眠っていないというわけだろう。王子から、十分休息をとっておくように、と声をかけられていたはずだけど。
 もしかして緊張で眠れないのかな、と想像する。何にせよ、もうひと月以上も苦労を重ねてきた成果の、ゴールが数時間後に迫っているんだ。無理もないところと言える。

 そんな探りをくり返しているうち。
 やはりエトヴィンは見つけられないけど、カルステンの手応えがあった。
 こちらはこの日まで二泊三日の遠出をして、その間ほとんど睡眠をとれなかったはずなんだから、当然この時間は他の者に不寝番を任せて休んでいるんだろう。

『失礼する』
『おお、ハル殿ですか』
『遠出から戻って疲れているところ、申し訳ないが』
『いえ、構いません。エトヴィン様によると、この会話は睡眠に影響しないということですし』
『このたびは私を遠くから運んでくれて、たいへん助かった』
『助かったのは、私どもの方です。本当にエトヴィン様は王宮に戻ったところで最後の薬草を失ったことを知り、まるで生きる気力を失われたようなご様子だったのです。そこへハル殿が、希望をもたらせてくださったのですから』
『まったく、無事に到着できてよかった。カルステンさんの功績だ』
『エトヴィン様や王子殿下のお役に立てたのでしたら、幸甚です』
『ところでね、今この時間、エトヴィンさんと会話が繋がらないんだが、まだお休みになっていないんだろうか』
『いえ、私が休憩室に引き揚げる前に、お休みになったはずです』
『それではやはり、明日が気になって眠られないということか』
『それはあるかもしれません。いよいよこれで、ずっと難航してきた目的を成し遂げるわけですから』
『そうだな。無理からぬところか』
『はい』

 その点は確認が取れたので、納得。
 あとは、カルステンの身体に負担のようなものはないと思われるので、世間話というかこの世界の知識について補充させてもらうことにする。暴風鷲に攫われて彼らと離れてから、そういう会話の時間が十分とれていなかったので。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

婚約破棄されて森に捨てられた悪役令嬢を救ったら〜〜名もなき平民の世直し戦記〜〜

naturalsoft
ファンタジー
アヴァロン王国は現国王が病に倒れて、第一王子が摂政に就いてから変わってしまった。度重なる重税と徴収に国民は我慢の限界にきていた。国を守るはずの騎士達が民衆から略奪するような徴収に、とある街の若者が立ち上がった。さらに森で捨てられた悪役令嬢を拾ったことで物語は進展する。 ※一部有料のイラスト素材を利用しています。【無断転載禁止】です。 素材利用 ・森の奥の隠里様 ・みにくる様

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

指令を受けた末っ子は望外の活躍をしてしまう?

秋野 木星
ファンタジー
隣国の貴族学院へ使命を帯びて留学することになったトティ。入国しようとした船上で拾い物をする。それがトティの人生を大きく変えていく。 ※「飯屋の娘は魔法を使いたくない?」のよもやま話のリクエストをよくいただくので、主人公や年代を変えスピンオフの話を書くことにしました。 ※ この作品は、小説家になろうからの転記掲載です。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

処理中です...