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若衆買い
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深川の裏手、紅灯の明かりが滲む座敷――
千弥は静かに襖をくぐった。
その身には舞台を降りたばかりの紅がまだ残り、肌は香の匂いを帯びていた。
室内にはすでに客がいた。
黒羽織に無紋の裃、武士の体躯を保ちながらも、目にはどこか憂いがある男。
松平正典。
旗本にして、物静かなる狂客――
芝居への執着ではなく、舞台に立つ者“そのもの”を見つめるまなざしの持ち主。
「よう来たな。……お前の名は?」
正典は座したまま尋ねる。
「千弥と申します」
伏せたままの瞳。声に怯えはない。
数多の客を相手にしてきた若衆の声音だった。
「初めてではないな?」
「……はい。舞台に立って五年ですから…」
幼くして拾われ、化粧を覚え、しぐさを覚え、そして夜の術を覚えた。
若衆として求められるのは、美と従順、そして――痛みに耐える強さ。
だが、正典の眼差しは違った。
「新しいか否かなど、どうでもよい。……私が見ているのは、その仮面の奥だ」
千弥は一瞬、言葉を失った。
今までの客は皆、“女のふりをした少年”を求めた。
けれどこの男は――“千弥そのもの”を見ようとしていた。
「こちらへ来い」
促されるままに膝を進める。
反射のように背筋を伸ばし、頬を傾け、目を伏せる。
“演技”が、身体に染みついている。
しかし正典の指は、その演技の“かたち”を崩すように、そっと顎を撫でた。
力ではない。支配でもない。
ただ、その肌を知ろうとする、ゆるやかな動き。
「もう、演じなくていい」
囁かれた声に、胸の奥がざわめいた。
襦袢の紐を外され、晒が解かれ、白い肌が灯りの下に晒されていく。
千弥の身体は既に慣れたものだった。
触れられることも、重ねられることも、痛みも甘さも――
だが、正典の手は、どこまでも静かで、重たかった。
欲望ではなく、**“確かめるように”**触れてくる指先。
「なぜ……そのような目で、私を見るのですか」
千弥がつぶやく。
「お前が、人ではなく“器”のように扱われてきたのが、見えるからだ」
そう言って、男は唇を重ねてきた。
浅く、そして深く。
快楽ではない、救いのような口づけだった。
やがて身を重ねながら、千弥は目を閉じた。
疼きにも似た熱が腹の底で広がる。
「もう、壊れてもいい――そう思ったことがあります」
「壊れるな。お前は、壊すための道具じゃない」
その言葉が、心を打った。
快楽も苦痛も、とっくに慣れていたはずの身体が、まるで初めて恋を知ったように震えた。
その夜、千弥は久しく忘れていた**“愛されるという感覚”**を、静かに思い出していた。
千弥は静かに襖をくぐった。
その身には舞台を降りたばかりの紅がまだ残り、肌は香の匂いを帯びていた。
室内にはすでに客がいた。
黒羽織に無紋の裃、武士の体躯を保ちながらも、目にはどこか憂いがある男。
松平正典。
旗本にして、物静かなる狂客――
芝居への執着ではなく、舞台に立つ者“そのもの”を見つめるまなざしの持ち主。
「よう来たな。……お前の名は?」
正典は座したまま尋ねる。
「千弥と申します」
伏せたままの瞳。声に怯えはない。
数多の客を相手にしてきた若衆の声音だった。
「初めてではないな?」
「……はい。舞台に立って五年ですから…」
幼くして拾われ、化粧を覚え、しぐさを覚え、そして夜の術を覚えた。
若衆として求められるのは、美と従順、そして――痛みに耐える強さ。
だが、正典の眼差しは違った。
「新しいか否かなど、どうでもよい。……私が見ているのは、その仮面の奥だ」
千弥は一瞬、言葉を失った。
今までの客は皆、“女のふりをした少年”を求めた。
けれどこの男は――“千弥そのもの”を見ようとしていた。
「こちらへ来い」
促されるままに膝を進める。
反射のように背筋を伸ばし、頬を傾け、目を伏せる。
“演技”が、身体に染みついている。
しかし正典の指は、その演技の“かたち”を崩すように、そっと顎を撫でた。
力ではない。支配でもない。
ただ、その肌を知ろうとする、ゆるやかな動き。
「もう、演じなくていい」
囁かれた声に、胸の奥がざわめいた。
襦袢の紐を外され、晒が解かれ、白い肌が灯りの下に晒されていく。
千弥の身体は既に慣れたものだった。
触れられることも、重ねられることも、痛みも甘さも――
だが、正典の手は、どこまでも静かで、重たかった。
欲望ではなく、**“確かめるように”**触れてくる指先。
「なぜ……そのような目で、私を見るのですか」
千弥がつぶやく。
「お前が、人ではなく“器”のように扱われてきたのが、見えるからだ」
そう言って、男は唇を重ねてきた。
浅く、そして深く。
快楽ではない、救いのような口づけだった。
やがて身を重ねながら、千弥は目を閉じた。
疼きにも似た熱が腹の底で広がる。
「もう、壊れてもいい――そう思ったことがあります」
「壊れるな。お前は、壊すための道具じゃない」
その言葉が、心を打った。
快楽も苦痛も、とっくに慣れていたはずの身体が、まるで初めて恋を知ったように震えた。
その夜、千弥は久しく忘れていた**“愛されるという感覚”**を、静かに思い出していた。
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