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色街の影
謎の遊女と父の面影
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その夜、千尋は真魚とともに、再び吉原の裏通りを歩いていた。
灯りの少ない道を慎重に進みながら、真魚はぽつりと呟く。
「……花扇は、ただの遊女じゃなかった。聞いた話によれば、ある大名の側室候補だったらしい。だけど、ある“秘密”を見てしまって……吉原に“左遷”されたという説もある」
「秘密?」
「誰も言葉にはしない。でも、“絵”に描かれたことはある。君の父上が描いた、ある一枚の絵にね」
千尋の脳裏に、柱に掛けられていた“消された絵”がよぎる。
歪められた輪郭、消された顔。
「あの絵の、消された顔……花扇だったの?」
「いや、違う」
真魚は立ち止まった。
「消されたのは、“男”の顔だった。裃を着た、身分ある男。その隣にいた女が、花扇。つまり――絵は“密会”の場面だったんだよ」
千尋は息を呑んだ。
「その密会が、公になれば……?」
「大名の醜聞だ。将軍家の耳に入れば、改易もある。だから、描いた者は消される。“消された絵師”の話も、同じ筋かもしれない」
そのとき、どこかから三味線の音が微かに響いてきた。
千尋は音に導かれるように、ある茶屋の軒先で足を止めた。
そこに、ぼんやりと明かりが灯り、一人の女が窓辺に佇んでいた。年の頃は二十代の中頃、美しいというより“色を消した”ような女だった。
千尋が目を見開いた。
――その目元が、絵に描かれていた女と同じだった。
「……花扇……?」
女は微かに微笑んだが、名は名乗らなかった。
ただ一言だけ、言葉を投げた。
「貴方の父上は、真実を描いた。それだけは……忘れないで」
その言葉を最後に、女は障子を閉めた。
翌朝、茶屋を訪ねた千尋と真魚は、そこに誰もいなかったことを知らされる。
あの女は幻か、残影か――。
けれど、千尋の中では確かに“父の描いた絵の記憶”が結びついた。
父が描いたのは、見られてはならない密会――その真実だった。
灯りの少ない道を慎重に進みながら、真魚はぽつりと呟く。
「……花扇は、ただの遊女じゃなかった。聞いた話によれば、ある大名の側室候補だったらしい。だけど、ある“秘密”を見てしまって……吉原に“左遷”されたという説もある」
「秘密?」
「誰も言葉にはしない。でも、“絵”に描かれたことはある。君の父上が描いた、ある一枚の絵にね」
千尋の脳裏に、柱に掛けられていた“消された絵”がよぎる。
歪められた輪郭、消された顔。
「あの絵の、消された顔……花扇だったの?」
「いや、違う」
真魚は立ち止まった。
「消されたのは、“男”の顔だった。裃を着た、身分ある男。その隣にいた女が、花扇。つまり――絵は“密会”の場面だったんだよ」
千尋は息を呑んだ。
「その密会が、公になれば……?」
「大名の醜聞だ。将軍家の耳に入れば、改易もある。だから、描いた者は消される。“消された絵師”の話も、同じ筋かもしれない」
そのとき、どこかから三味線の音が微かに響いてきた。
千尋は音に導かれるように、ある茶屋の軒先で足を止めた。
そこに、ぼんやりと明かりが灯り、一人の女が窓辺に佇んでいた。年の頃は二十代の中頃、美しいというより“色を消した”ような女だった。
千尋が目を見開いた。
――その目元が、絵に描かれていた女と同じだった。
「……花扇……?」
女は微かに微笑んだが、名は名乗らなかった。
ただ一言だけ、言葉を投げた。
「貴方の父上は、真実を描いた。それだけは……忘れないで」
その言葉を最後に、女は障子を閉めた。
翌朝、茶屋を訪ねた千尋と真魚は、そこに誰もいなかったことを知らされる。
あの女は幻か、残影か――。
けれど、千尋の中では確かに“父の描いた絵の記憶”が結びついた。
父が描いたのは、見られてはならない密会――その真実だった。
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