16 / 33
絵師たちの夜
この絵は、誰にも見せるな
しおりを挟む
真魚のアトリエに、ひときわ古びた木箱があった。
それは鍵も蓋もない、ただの木の箱――だが、どこか異様な重みがあった。
「これを……君に渡すべき時が来たと思う」
真魚はそう言って、木箱を千尋に差し出した。
中にあったのは、一枚の絵。
墨と胡粉だけで描かれた、抑えられた色調。
しかし、その筆致はどこまでも鮮やかで、力強かった。
「……父さんの……?」
千尋の声が震える。
それは、見覚えのある風景――川沿いの柳、遊女屋の軒先、そしてそこに立つ二つの人影。
だが、前に見たものとは違った。
今度は、“男の顔”が、はっきりと描かれていた。
裃をまとい、傲然と立つ中年の男。
その隣には、目を伏せた花扇の姿。
そして、二人を背後から見つめる“仮面の男”――白面。
「……これが、“完成した絵”だ」
真魚の声が静かに響く。
「君の父・松庵さんは、この一枚を描いた。だが、“描いたら最後”という覚悟もあった。だから、こう書き残していたんだ」
真魚は、絵の裏から一枚の和紙を取り出した。
そこには、父の字でこう記されていた。
『この絵は、誰にも見せるな。
だが、未来に“見せるべき誰か”が現れたなら――託してほしい』
千尋の目に、涙がにじむ。
父は、誰かに伝えるために描いた。
だが、それが誰か分からないまま、命を落とした。
今、その“誰か”は――千尋自身だった。
「……父さん、僕に託したんだね」
絵を見つめる千尋の背に、夜明けの光が差し込んだ。
“真実を描いたその絵”を、守るために。
語り継ぐ者として、生きるために。
それは鍵も蓋もない、ただの木の箱――だが、どこか異様な重みがあった。
「これを……君に渡すべき時が来たと思う」
真魚はそう言って、木箱を千尋に差し出した。
中にあったのは、一枚の絵。
墨と胡粉だけで描かれた、抑えられた色調。
しかし、その筆致はどこまでも鮮やかで、力強かった。
「……父さんの……?」
千尋の声が震える。
それは、見覚えのある風景――川沿いの柳、遊女屋の軒先、そしてそこに立つ二つの人影。
だが、前に見たものとは違った。
今度は、“男の顔”が、はっきりと描かれていた。
裃をまとい、傲然と立つ中年の男。
その隣には、目を伏せた花扇の姿。
そして、二人を背後から見つめる“仮面の男”――白面。
「……これが、“完成した絵”だ」
真魚の声が静かに響く。
「君の父・松庵さんは、この一枚を描いた。だが、“描いたら最後”という覚悟もあった。だから、こう書き残していたんだ」
真魚は、絵の裏から一枚の和紙を取り出した。
そこには、父の字でこう記されていた。
『この絵は、誰にも見せるな。
だが、未来に“見せるべき誰か”が現れたなら――託してほしい』
千尋の目に、涙がにじむ。
父は、誰かに伝えるために描いた。
だが、それが誰か分からないまま、命を落とした。
今、その“誰か”は――千尋自身だった。
「……父さん、僕に託したんだね」
絵を見つめる千尋の背に、夜明けの光が差し込んだ。
“真実を描いたその絵”を、守るために。
語り継ぐ者として、生きるために。
1
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる