【R18】SM学園

ましゅまろ

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調教の始まり

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目を覚ますと、薄い天井の木目が揺れて見えた。どうやら泣き疲れて眠ってしまっていたらしい。
 僕はそっと首に手をやった。そこには昨日巻かれたばかりの黒いチョーカーがある。滑らかな革の冷たさを感じて、胸がひどくざわついた。

 「……これで、僕は……」

 呟く声はかすれていた。
 でも、もう決まってしまった。僕はこの学園で、従順な奴隷になるために育てられる。いや、調教される。そう決まった。

 どんなに怖くても、逃げられない。だってここでしか、生きる道がないのだから。

    ◇ ◇ ◇

 朝の点呼が終わると、僕は他のM候補生たちと一緒に、大きな石畳の中庭へ連れ出された。
 そこにはすでに何十人もの同じくらいの歳の少年たちが並ばされていて、それぞれが首に同じ黒いチョーカーをつけている。みんな怯えた顔をしていて、その目に自分を重ねてしまう。

 「――静粛に」

 中庭の真ん中で、一人の女の教官が声を上げた。ぴり、と空気が張り詰める。
 栗色の髪をきっちり結い上げた美しい人だったけれど、その冷たい眼差しは人形のようで、誰のことも人間だとは思っていないようだった。

 「これより、お前たちの『適応訓練』を行う。最初の課題は……衣服を脱ぎ、全裸になること」

 その言葉に、僕を含め多くの少年たちが小さく息を呑んだ。
 「……え?」
 「ま、待って……」
 あちこちから戸惑いの声が上がる。

 「命令に逆らうなら、その場で退学処分だ。もっとも――退学になれば、お前たちは街へ送り返されるだけだ。その身体に刻まれたチョーカーが『落第の烙印』となって、一生まともな職も与えられず、物乞いか奴隷市場へ堕ちていくだろうが」

 僕はぞくりと背中を冷たいものが這い上がる感覚を覚えた。
 退学になれば、もうどこにも居場所がなくなる。それだけは嫌だ。

 (大丈夫……大丈夫……服を脱ぐくらい、耐えられる……)

 そう何度も心の中で繰り返して、僕は震える手で制服のボタンを外した。
 周りの少年たちも次々に服を脱ぎ始める。小さな悲鳴や、嗚咽が微かに聞こえてくる。

 そして僕も、最後の下着をそっと脱ぎ取った。

 「……っ……」

 冷たい空気が肌を撫で、羞恥が一気に胸を突いた。
 小さく脚を閉じて身を縮める。目を合わせたくなくて、下を向いた。

 (僕……何やってるんだろう……)

 泣きそうだった。でも泣いたらもっと惨めになりそうで、必死に堪えた。

    ◇ ◇ ◇

 「よろしい。全員裸になったな」

 女教官は微かに口元をつり上げた。
 「今から調教師候補のS達が視察に来る。お前たちがどれだけ従順に立っていられるか、確認するためだ」

 すぐに黒い制服の少年たちが数人、中庭へ入ってきた。
 彼らはS候補生だ。奴隷を支配する側になる資質を見込まれた少年たち。中には僕より少し年下の子もいたけど、みんなもう自信に満ちた顔をしていて、僕らを値踏みするように視線を走らせる。

 「……うわ……可愛いのいるじゃん」
 「おい、あいつ見ろよ。震えてんじゃねえか」

 くすくすと笑う声が聞こえた。
 彼らの視線が僕の体に這うだけで、胸の奥が締め付けられるようだった。

 (やだ……見ないで……)

 なのに、その視線が離れてくれなくて、逆に少しホッとした。
 (――ああ、ここにいるって認められてる……)

 その自分の感覚が恐ろしくて、また涙が溢れそうになった。

    ◇ ◇ ◇

 視察が終わると、今度は調教師の青年が一人、僕の前に立った。二十歳前後くらいの凛々しい顔立ちで、氷のように冷たい瞳をしていた。

 「君……名前は?」

 「ぼ、僕……九条玲です……」

 「玲。そうか」

 青年は細い顎を指でそっと持ち上げた。その手が熱く感じられて、僕は思わずビクリと体を強張らせた。

 「繊細だな。だがいい反応だ。首輪をつけられてからの君は、実に素直だ」

 「……っ」

 彼は僕の頬を軽く叩いた。痛くはない。でも、軽い衝撃に全身が跳ねる。

 「そうやって怯えるのは悪くない。可愛い。俺の言うことを、何でも聞けるか?」

 「……はい……」

 喉が引きつりそうだったけれど、それでも小さく頷いた。

 「良い子だ」

 くっと頬が緩む。彼の口角が上がるのを見て、なぜか僕もホッとしてしまった。

 (褒められた……僕、ちゃんと従順にできてるんだ……)

    ◇ ◇ ◇

 その日の夜、僕は自分の部屋で小さく膝を抱えていた。
 昼間の視察と、その後の簡単な服従テストが終わり、もうへとへとだった。

 首のチョーカーにそっと触れる。そこがじんわり熱い。あの調教師の青年に触られた場所が、まだそこだけ別の皮膚みたいに敏感になっていた。

 「僕……やっぱり、おかしいのかな……」

 怖いはずだった。屈辱的なはずだった。
 けれどあの青年に「良い子だ」と言われたとき、胸の奥がぎゅっとなって、少し嬉しかった。

 それはきっと、ずっと褒められることも認められることもなかったからだ。
 家では失敗ばかり責められ、貧民街では役立たずと蔑まれ、ずっと居場所なんてなかった。

 でもこの場所では――従順でいるだけで、存在を許される。

 「……僕……ちゃんと、頑張ろう……」

 ぎゅっと胸に手を当ててそう誓った。
 そうじゃなきゃ、ここにいる意味がなくなる。

    ◇ ◇ ◇

 次の日から、本格的な訓練が始まった。

 最初は礼儀作法、そして体の扱い方を叩き込まれる。裸のまま直立し、調教師の命令に一切逆らわず従う訓練。恥ずかしくて、死にそうになるくらい屈辱的だった。

 でも、逃げ出すことはできなかった。

 時折与えられる微かな褒美――優しく頭を撫でられるだけでも、それが僕には何よりの救いだった。

 (僕は、従順でいることでしか生きていけないんだ……)

 そう思うと悲しいのに、それでも心の奥底でほんの少しだけ、安心している自分がいた。
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