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近くにいたいから、ここを選んだ
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「……本当は、今日このまま泊まっていけたら、って思ってたけど」
はるは、ソファに座りながらぽつりと呟いた。
「蒼くんには彼女がいるもんね。
それに、いきなり押しかけて泊まるなんて、さすがに迷惑だよね」
蒼は苦笑しながら、はるの方を見た。
「いや……正直、来てくれて嬉しかったし、今もずっと頭が追いついてない。
でも、今の状況で“泊まっていきなよ”って言ったら、それこそダメだろって、自分でも思う」
「……うん。わかってる」
はるは、うなずきながら、かばんの中から一枚の書類を取り出した。
「でもね、ちゃんと準備してきた。
今日来たのは、約束を果たすためだけじゃないんだ」
蒼がその紙を見ると、
それは、都内某所の賃貸契約書だった。
「東京の大学、受かったんだ。春から、ここで一人暮らしする」
「……まじで?」
「うん。それも、蒼くんの家から歩いて10分くらいの場所。
駅前にある古いマンション。今日、鍵を受け取ってきた」
蒼は思わず目を見開いた。
「お前、それって……」
「……また“近くで生きたい”って思ったからだよ」
そう言ったはるの目は、冗談なんかひとつもなくて、
ただまっすぐに、蒼の目を見つめていた。
「この8年、会いたくても会えなかった。
だから、次は絶対、傍にいるって決めたんだ。
毎日じゃなくていい。週に一回でも、月に一度でも。
ただ、“すぐ会える距離”にいたくて」
蒼は何も言えなかった。
胸の奥に、じんわりと広がる温かさと、
同時に湧き上がる戸惑い。
はるがここまで“本気”で向かってきていることに、
自分がどこまで応えられるのか――その問いが静かに突き刺さっていた。
「今日は……もう帰るね。引っ越しは来週だから、まだ仮住まいだけど」
はるは立ち上がり、玄関へ向かう。
「でも……また来るから」
ドアの前で振り返ったその顔は、
少年じゃなかった。
ちゃんと、“約束を果たすために来た大人”の顔をしていた。
「8年越しの恋、逃げさせないからね」
小さく笑って、はるは出ていった。
蒼はしばらく動けなかった。
扉の向こうに消えたその背中を、ただ黙って見送っていた。
(また……近くに来るんだ)
8年前、別れを告げたその日と、まったく逆の方向へ――
運命が、少しずつ動き出していた。
はるは、ソファに座りながらぽつりと呟いた。
「蒼くんには彼女がいるもんね。
それに、いきなり押しかけて泊まるなんて、さすがに迷惑だよね」
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でも、今の状況で“泊まっていきなよ”って言ったら、それこそダメだろって、自分でも思う」
「……うん。わかってる」
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「でもね、ちゃんと準備してきた。
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「東京の大学、受かったんだ。春から、ここで一人暮らしする」
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「お前、それって……」
「……また“近くで生きたい”って思ったからだよ」
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だから、次は絶対、傍にいるって決めたんだ。
毎日じゃなくていい。週に一回でも、月に一度でも。
ただ、“すぐ会える距離”にいたくて」
蒼は何も言えなかった。
胸の奥に、じんわりと広がる温かさと、
同時に湧き上がる戸惑い。
はるがここまで“本気”で向かってきていることに、
自分がどこまで応えられるのか――その問いが静かに突き刺さっていた。
「今日は……もう帰るね。引っ越しは来週だから、まだ仮住まいだけど」
はるは立ち上がり、玄関へ向かう。
「でも……また来るから」
ドアの前で振り返ったその顔は、
少年じゃなかった。
ちゃんと、“約束を果たすために来た大人”の顔をしていた。
「8年越しの恋、逃げさせないからね」
小さく笑って、はるは出ていった。
蒼はしばらく動けなかった。
扉の向こうに消えたその背中を、ただ黙って見送っていた。
(また……近くに来るんだ)
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運命が、少しずつ動き出していた。
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