「大人になったら付き合ってください」──8年後、本当に来た。

ましゅまろ

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はじめての“恋人デート”

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「ねえ、おにいちゃん」

朝食を食べ終えたあと、はるがマグカップを両手で包みながら言った。

「今日さ、このままどこか行かない? デート……したい」

蒼は驚いたように顔を上げる。

「デート?」

「うん。“恋人になって初めてのデート”って、大事なやつでしょ?」

はるは少しだけ照れながらも、真っ直ぐな目をしていた。

「今まで何度も一緒に出かけてきたけど……今日は、違う意味で隣を歩きたいな」

その言葉に、蒼はゆっくりと笑った。

「……いいよ。行こうか、“恋人として”のデートに」



昼前にふたりで駅に向かい、電車で数駅先のショッピングモールへ向かった。
特別な場所じゃないけれど、“今日のふたり”にとっては、どんな景色も新鮮だった。

人混みの中で自然に手を繋ぐ。
交差点でははるがちょっとだけ距離を詰めて、蒼の肩に腕を軽く当てる。

(こんなにも自然に、こうして歩けるんだな)

蒼は、はるの手の感触を確かめるように指を絡めた。

「ねえ、おにいちゃん」

「ん?」

「歩きながら手を繋ぐのって、……こんなに嬉しいんだね」

「そうか?」

「うん。ずっと“夢”だったから。
“好きな人と手を繋いで、街を歩く”っていうの」

はるがはにかんで笑う。
その横顔があまりにも眩しくて、蒼は思わず目を逸らしそうになった。

「じゃあ、今日はその夢、たくさん叶えような」



本屋を見て、洋服屋を冷やかして、ペアのキーホルダーを選んだ。

「……これ、なんかさ、ちょっと高校生カップルみたいじゃない?」

「いいじゃん。今しかできないんだし」

ふたりが選んだのは、小さな星の形をしたキーホルダー。

「じゃあ、蒼くんのバッグにつけてよ」

「お、おう」

「その代わり、ぼくのスマホにもつけるね。お揃い」

“恋人”という言葉を交わしてからのはるは、
どこか素直で、遠慮がなくて、でもまっすぐだった。

(ああ、恋人って、こんなにも近い存在なんだな)

蒼は、はるといると自分が変わっていくのを感じていた。



カフェで遅めのランチを取りながら、はるがふと尋ねる。

「……今日、ぼくのこと、何回“好き”って思った?」

「え?」

「正直に言って?」

蒼は苦笑しながら、少し考えるふりをして答えた。

「……もう数えるのやめた」

「……ずるい。そういうとこ、ずるいよ」

はるは笑って、コップの水をひとくち飲む。

「でもね、ぼくも。
隣にいるだけで、嬉しくて嬉しくて、“好き”が止まらない」



夕方、駅までの帰り道。
蒼がふと、はるの肩を軽く抱く。

「また、すぐに会えるのに……別れるのが寂しいって思うの、変かな」

「いや、俺もだよ」

「ほんと?」

「ほんと」

はるが足を止めて、蒼を見上げる。

「じゃあ、もう一回だけ、“好き”って言って」

「……好きだよ」

「ぼくも、だいすき」

そのまま、駅前の人混みのなかで、ふたりは小さく唇を重ねた。

それは、今日の締めくくりでもあり、
新しい日々への小さな約束のようだった。
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