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白い布切れ一枚の朝
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「起床!」
金属を打つような鋭い声が、寮の廊下を突き抜けて響いた。
続いて、壁に吊された小さな鐘がカンカンと鳴る。
(……ちっ、なんだよ……まだ外暗ぇじゃねぇか……)
天音は布団の中でぼそりと呟いた。だが、隣のベッドの少年があわてて跳ね起きるのが視界に入り、嫌な予感が腹の奥を冷やした。
すると次の瞬間、部屋のドアが乱暴に開け放たれた。
「おい!まだ寝ている奴は——」
黒い制服に木刀を携えた上級生の寮当番が、凍てつくような声で怒鳴った。
「……っ!」
布団から飛び出す。ベッドに並ぶ十数人の少年たちは、みな一様に寝ぼけ眼をこすりながら、しかし必死に体を動かした。
「全員、ブリーフ一枚になれ!」
当番が一喝した。
一瞬、部屋に不安げなざわめきが走る。だが次の瞬間、皆一斉に制服を脱ぎ始めた。
(……マジかよ……)
天音も渋々、黒いシャツと短パンを脱ぎ、指定の白いブリーフだけを身に残した。布地は薄く、少し動いただけで肌の輪郭をはっきりと映し出す。羞恥心が、じくじくと頬を熱くした。
「並べ!」
当番が木刀を床にコツンと突く。全員、ベッドとベッドの間の通路に背筋を伸ばして立つ。ブリーフ一枚の列——同じ年頃の華奢な体がずらりと並ぶ様は、まるで家畜の検査を待つ子豚のようだった。
(ふざけんな……なんでこんな格好で……)
だが反抗心をむんむんと燃やしていても、木刀を持つ当番の目が恐ろしくて、自然と首筋がすくむ。
⸻
やがて廊下から硬い靴音が響いてきた。
「整列!」
当番の声で全員がぴしりと足を揃える。寒さで脚が小刻みに震えた。
部屋に入ってきたのは、教頭の桐島だった。白い手袋をはめた手に、まるで指揮棒のように木刀を軽く持ち替えている。
「ほう……」
桐島は薄い笑みを浮かべ、列の端からゆっくり歩きながら、一人一人を舐め回すように見た。
「まだ体が甘いな。ここに来たからには、贅肉は不要だ。精神と肉体、どちらも引き締めるのだ。」
彼の視線が天音の体を這ったとき、天音はごくりと喉を鳴らしてしまった。
(くそ……見んなよ……ジジイ……)
「——よし、ブリーフ検査を始める。異物を持ち込むことは許さんからな。」
「は、はいっ!」
当番たちが声を揃えた。
桐島は少し離れた場所に立ち、木刀で床をコンと叩く。
すると当番が順に少年たちの前に立ち、ブリーフの前を掴んで、軽く引っ張る。中を覗き込むのだ。
(っ……は?)
「よし……次。」
当番は無表情のまま、すぐ隣の少年の前へ移動した。
列はどんどん進む。天音の鼓動が早鐘のようになった。
(や、やめろ……俺にだけは来んな……)
しかし当然、列の順番は変わらない。
当番が目の前に立つと、天音は思わず身を引きかけた。
「動くな。」
「っ……」
強く睨まれ、足が硬直する。次の瞬間、冷たい指がブリーフのゴムを掴んだ。
「んっ……」
布がぐいと持ち上がり、敏感な部分が一瞬、外気に触れそうになる。
当番はじっと中を見て、異物がないことを確認すると、すぐに手を離した。
「問題なし。」
「……っ……」
解放されると同時に、天音は胸を上下させて息をついた。
(クソ……恥ずかしいにもほどがあるだろ……こんなの……)
でも、見ているのは教師や当番だけじゃない。自分と同じ列に並んだ少年たちの視線も、嫌でも横から突き刺さってくる。
「——整列したまま待機!」
当番が叫ぶと、再び列は静まり返った。
桐島は悠然と近づき、一人一人の顔を覗き込む。
「貴様、今、足が震えていたな。」
指されたのは隣の少年だった。少年は顔を真っ青にして、
「す、すみません……」
「言い訳はいい。次に震えたらどうなるか……わかるな?」
「は、はい……!」
(……あいつ、泣きそうじゃねぇか……)
「天音。」
いきなり名前を呼ばれ、全身がびくんと跳ねた。
「……っ、はい。」
初めてだ。ここの教師に素直に「はい」と返事をしてしまった。
(くそ……)
桐島は薄く笑い、その顎をくっと持ち上げるように木刀の先で示した。
「貴様は前に出ろ。」
(な、なんだよ……)
恐る恐る一歩前に出る。冷たい空気がブリーフ一枚の体を容赦なく刺した。
桐島は天音の周囲をぐるりと一周した。
「お前は素質がある。従順になるにはまだ時間がかかるだろうが……じきに頭を垂れる。」
その声が、異様に耳に残った。
「列に戻れ。」
「……はい。」
口から自然と「はい」が出る。嫌だ、嫌だと思っても、桐島の視線の前ではそれを呑み込むしかなかった。
⸻
その後も点呼は続いた。全員がブリーフ姿のまま、しばらく直立不動で規律の話を聞かされる。
「これがスパルタ学園の始まりだ。ここでは教師の言葉は絶対。私語は厳禁、命令は絶対服従。逆らう者には何が待つか……昨日、お前の尻に刻んだ痛みを思い出すといい。」
桐島の言葉に、天音は無意識に尻をきゅっと引き締めた。
「よし、整列解除! 着替えて朝食だ。」
そう言われた瞬間、少年たちはほっと小さく息を吐いた。だが、朝からすでに羞恥と恐怖で心を削られ、疲労感が足元からじわじわと這い上がってくる。
(……なんなんだよ、この学校……)
制服を着なおすと、あの短い短パンがやけにありがたく感じられた。さっきまでの裸同然の時間が、どれほど屈辱だったかを思い知らされる。
(でも……俺は、絶対に屈しねぇ……)
そう思おうとしたが、さっき思わず素直に「はい」と返事をしてしまったことが頭を離れなかった。
胸の奥に、初めて感じる奇妙な敗北感が巣食い始めていた。
金属を打つような鋭い声が、寮の廊下を突き抜けて響いた。
続いて、壁に吊された小さな鐘がカンカンと鳴る。
(……ちっ、なんだよ……まだ外暗ぇじゃねぇか……)
天音は布団の中でぼそりと呟いた。だが、隣のベッドの少年があわてて跳ね起きるのが視界に入り、嫌な予感が腹の奥を冷やした。
すると次の瞬間、部屋のドアが乱暴に開け放たれた。
「おい!まだ寝ている奴は——」
黒い制服に木刀を携えた上級生の寮当番が、凍てつくような声で怒鳴った。
「……っ!」
布団から飛び出す。ベッドに並ぶ十数人の少年たちは、みな一様に寝ぼけ眼をこすりながら、しかし必死に体を動かした。
「全員、ブリーフ一枚になれ!」
当番が一喝した。
一瞬、部屋に不安げなざわめきが走る。だが次の瞬間、皆一斉に制服を脱ぎ始めた。
(……マジかよ……)
天音も渋々、黒いシャツと短パンを脱ぎ、指定の白いブリーフだけを身に残した。布地は薄く、少し動いただけで肌の輪郭をはっきりと映し出す。羞恥心が、じくじくと頬を熱くした。
「並べ!」
当番が木刀を床にコツンと突く。全員、ベッドとベッドの間の通路に背筋を伸ばして立つ。ブリーフ一枚の列——同じ年頃の華奢な体がずらりと並ぶ様は、まるで家畜の検査を待つ子豚のようだった。
(ふざけんな……なんでこんな格好で……)
だが反抗心をむんむんと燃やしていても、木刀を持つ当番の目が恐ろしくて、自然と首筋がすくむ。
⸻
やがて廊下から硬い靴音が響いてきた。
「整列!」
当番の声で全員がぴしりと足を揃える。寒さで脚が小刻みに震えた。
部屋に入ってきたのは、教頭の桐島だった。白い手袋をはめた手に、まるで指揮棒のように木刀を軽く持ち替えている。
「ほう……」
桐島は薄い笑みを浮かべ、列の端からゆっくり歩きながら、一人一人を舐め回すように見た。
「まだ体が甘いな。ここに来たからには、贅肉は不要だ。精神と肉体、どちらも引き締めるのだ。」
彼の視線が天音の体を這ったとき、天音はごくりと喉を鳴らしてしまった。
(くそ……見んなよ……ジジイ……)
「——よし、ブリーフ検査を始める。異物を持ち込むことは許さんからな。」
「は、はいっ!」
当番たちが声を揃えた。
桐島は少し離れた場所に立ち、木刀で床をコンと叩く。
すると当番が順に少年たちの前に立ち、ブリーフの前を掴んで、軽く引っ張る。中を覗き込むのだ。
(っ……は?)
「よし……次。」
当番は無表情のまま、すぐ隣の少年の前へ移動した。
列はどんどん進む。天音の鼓動が早鐘のようになった。
(や、やめろ……俺にだけは来んな……)
しかし当然、列の順番は変わらない。
当番が目の前に立つと、天音は思わず身を引きかけた。
「動くな。」
「っ……」
強く睨まれ、足が硬直する。次の瞬間、冷たい指がブリーフのゴムを掴んだ。
「んっ……」
布がぐいと持ち上がり、敏感な部分が一瞬、外気に触れそうになる。
当番はじっと中を見て、異物がないことを確認すると、すぐに手を離した。
「問題なし。」
「……っ……」
解放されると同時に、天音は胸を上下させて息をついた。
(クソ……恥ずかしいにもほどがあるだろ……こんなの……)
でも、見ているのは教師や当番だけじゃない。自分と同じ列に並んだ少年たちの視線も、嫌でも横から突き刺さってくる。
「——整列したまま待機!」
当番が叫ぶと、再び列は静まり返った。
桐島は悠然と近づき、一人一人の顔を覗き込む。
「貴様、今、足が震えていたな。」
指されたのは隣の少年だった。少年は顔を真っ青にして、
「す、すみません……」
「言い訳はいい。次に震えたらどうなるか……わかるな?」
「は、はい……!」
(……あいつ、泣きそうじゃねぇか……)
「天音。」
いきなり名前を呼ばれ、全身がびくんと跳ねた。
「……っ、はい。」
初めてだ。ここの教師に素直に「はい」と返事をしてしまった。
(くそ……)
桐島は薄く笑い、その顎をくっと持ち上げるように木刀の先で示した。
「貴様は前に出ろ。」
(な、なんだよ……)
恐る恐る一歩前に出る。冷たい空気がブリーフ一枚の体を容赦なく刺した。
桐島は天音の周囲をぐるりと一周した。
「お前は素質がある。従順になるにはまだ時間がかかるだろうが……じきに頭を垂れる。」
その声が、異様に耳に残った。
「列に戻れ。」
「……はい。」
口から自然と「はい」が出る。嫌だ、嫌だと思っても、桐島の視線の前ではそれを呑み込むしかなかった。
⸻
その後も点呼は続いた。全員がブリーフ姿のまま、しばらく直立不動で規律の話を聞かされる。
「これがスパルタ学園の始まりだ。ここでは教師の言葉は絶対。私語は厳禁、命令は絶対服従。逆らう者には何が待つか……昨日、お前の尻に刻んだ痛みを思い出すといい。」
桐島の言葉に、天音は無意識に尻をきゅっと引き締めた。
「よし、整列解除! 着替えて朝食だ。」
そう言われた瞬間、少年たちはほっと小さく息を吐いた。だが、朝からすでに羞恥と恐怖で心を削られ、疲労感が足元からじわじわと這い上がってくる。
(……なんなんだよ、この学校……)
制服を着なおすと、あの短い短パンがやけにありがたく感じられた。さっきまでの裸同然の時間が、どれほど屈辱だったかを思い知らされる。
(でも……俺は、絶対に屈しねぇ……)
そう思おうとしたが、さっき思わず素直に「はい」と返事をしてしまったことが頭を離れなかった。
胸の奥に、初めて感じる奇妙な敗北感が巣食い始めていた。
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