スパルタ学園

ましゅまろ

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夜の囁きと罰

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夜の点呼が終わり、寮は消灯の時間を迎えた。

部屋には二段ベッドが四台置かれ、計八人の少年が同室で寝泊まりしている。
それぞれ決められたベッドに入り、私語は禁止。少しでも声がすれば、廊下の監視が飛んでくる。

天音は下段のベッドで毛布を被り、薄暗い天井を見上げていた。

(……ちくしょう、また今日も尻が痛ぇ……)

授業で答えを間違えたせいで打たれた尻は、もう何箇所も青黒くなっている。
そっと触れると、ひりりと痛みが走った。

(こんな所、さっさと逃げ出してぇ……)

でも、逃げられない。どこへ逃げたって、あの木刀を持つ教師たちが追いかけてくる気がする。
それほど、ここの規律と恐怖は心を縛っていた。

 



 
「……天音。」

小さな声がした。
同じ部屋の、細身の少年・和臣(かずおみ)だった。

「……なんだよ。」

天音も小声で返す。声が震えた。

「お前……辛くない?」

「……辛いに決まってんだろ。」

少しして、二人ともふっと笑いかけた。笑いながらも、声は掠れていた。

「俺……毎晩、布団の中で泣いてる。」

「……お前だけじゃねぇよ。俺も……たまに、涙出てくんだよ。」

「そっか……」

その「そっか」が、やけに優しく響いた。

こんな所で優しさを感じるなんて思わなかった。
それだけで胸がぎゅっとなった。

「和臣、お前……なんでここ入れられたんだ?」

「……父さんが、この学園の卒業生なんだ。『男なら鍛えられてこい』って。……俺、ほんとは普通の学校でよかったのに。」

「……クソ親父だな。」

思わず出た毒を、和臣はふっと笑って受け止めた。

「天音は?」

「地元じゃ俺、ちょっと有名なガキ大将だったからな。問題児ってレッテル貼られて……親に連れて来られた。」

「そっか……」

二人は小さくため息をついた。

「なぁ……ここから……いつか出られるのかな……」

「……出られるよ。絶対に。」

自分でも驚くくらい、はっきり言葉にしていた。
でもそう言わなきゃ、心が潰れそうだった。

 



 
その時だった。

「……貴様ら、何を話している。」

ドアが軋んで開き、黒服の当番生が立っていた。
木刀を手にしたその影が、部屋を覆う。

「っ……」

二人とも飛び起きる。

「夜間は私語禁止だと何度言われた。」

当番生がゆっくり近づき、木刀の先で天音の顎を持ち上げた。

「お前からだ。」

「……っ!」

「布団を出ろ。ベッドの前に立て。」

和臣も隣で震えていた。
二人は並んで立たされ、パジャマの短パンを下ろすように命じられた。

(ま、また尻かよ……っ)

天音は歯を食いしばりながら、ゆっくり短パンと下着を下げた。尻が剥き出しになる。
横に並ぶ和臣も同じだった。

「……これがどういう意味かわかるな?」

当番生は木刀を肩に担ぎ、冷たい目で見下ろした。

「規律を乱した罰だ。声を上げずに耐えろ。」

「……っ」

次の瞬間、木刀が横から天音の尻を打った。

バシンッ!

「……っあ……っ」

口から息が漏れた。痛みが尻の奥まで突き抜ける。
思わず膝が崩れかけた。

すぐに和臣にも木刀が振り下ろされる。

「っ……く……」

彼は声を噛み殺した。
でも肩が震えていて、泣きそうなのが分かった。

「もう一度だ。」

バシンッ! 和臣が先に打たれ、そして天音にも。

「……っあぁ……っ!」

今度は声が出てしまった。目に涙が滲む。

「声を上げるなと言ったはずだ。」

「っ……ご、め……なさい……」

自然に謝ってしまった。涙がつうっと頬を伝う。

 



 
「次に話したら、もっと強く打つ。わかったか?」

「……はい……」

「はい……」

二人は小さく泣きながら頷いていた。
当番生はそれを見届け、ゆっくり部屋を出て行った。

扉が閉じる音がしても、二人はその場から動けなかった。

「……天音……」

和臣が、小さくしゃくり上げながら言う。

「もう……俺……やだよ……」

「……俺もだよ……」

心の底から、本音が零れた。

(もうやだ……もう痛いの嫌だ……)

思わず胸を押さえ、震える声で「はい」って言った自分を思い出す。

(あんなに絶対に屈しないって思ってたのに……)

でも、もう逆らえる気がしなかった。

少しでも痛くない方がいい。
少しでも、叩かれない方がいい。
だから自然に「はい」って返事をしてしまう。

それが、どれだけ屈辱か分かっていても。

 



 
ベッドに戻っても、天音はずっと尻を押さえて震えていた。

(……でも、俺……まだ、全部は従ってねぇから……)

そう心の中で必死に繰り返す。

けれど、それもただの慰めだと薄々気づいていた。

規律に逆らえば木刀が振るわれ、逆らわなければ痛みはない。
そんな単純なルールが、恐怖と共に心を支配し始めていた。

(俺……いつまで……このままでいられるんだろ……)

最後に小さく息を吐き、涙が枕を濡らす音だけが部屋に落ちた。
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