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褒めてほしい
「なぁ、天音。」
食堂で昼食を取っていたとき、先輩が小声で呼びかけた。
小さな声でも背筋がびくりと反応するのは、日頃から木刀に脅えすぎた証拠だ。
「……はい。」
自然に出る返事。もう抵抗はなかった。
「今日、放課後に特別訓練があるんだ。一緒に出ようぜ。」
「……特別、訓練……?」
先輩は少し笑った。その笑顔が、妙に甘く胸に引っかかる。
「普通の授業や集団訓練より厳しいけど、その分、ちゃんとできれば……桐島先生に褒めてもらえる。」
「……っ」
(褒めてもらえる……)
その言葉に、心臓が小さく跳ねた。
(俺、いつの間に……)
嫌なのに、その胸のざわつきがどうしようもなく心地よかった。
⸻
放課後、指定された武道場に集まったのは十人ほど。
全員が白いブリーフ一枚で、木刀を手にしていた。
「特別訓練を行う。厳しく見るが、その分、規律を守り動きが正確なら褒めてやる。」
桐島の声が冷たく響く。
(褒める……)
気づけば、天音はその言葉を期待していた。
「先輩、俺……ちゃんとできるかな……」
「大丈夫だよ。」
先輩は小さく微笑んだ。
でもその瞳は何かを諦めたように静かだった。
⸻
「——構え!」
一斉に木刀を頭上に掲げる。
「いち!」
振り下ろす。
「に!」
腰を沈め、下段を守る。
「さん!」
再び構え。
繰り返し、繰り返し。
汗が額から流れ、鼻先を伝い白い布に落ちる。
太ももは熱く火照り、足の裏は小刻みに痺れていた。
(きつい……でも、もっとちゃんとやらないと……)
横目で先輩を見ると、恐ろしいほど規律正しく動いていた。
腰の落とし方も、木刀の軌道も、完全に教本通りだ。
「……っ」
天音も必死で真似た。
(俺も……褒められたい……)
自分でそう思った瞬間、ぞわっと背筋が冷えた。
(……いやだ……なんで俺……)
でも止められなかった。
⸻
「よし、天音。」
桐島が目の前に立った。
「お前、随分型が良くなったじゃないか。」
「……っ」
心臓が飛び跳ねた。
次の瞬間、桐島の木刀がそっと肩に触れた。
「よくやっている。もっと腰を沈めれば完璧だ。」
「……はいっ!」
声が震えた。
でもそれは恐怖じゃなかった。
(俺……今、嬉しいって……思っちまった……)
頭の奥が真っ白になって、涙が滲んだ。
桐島がゆっくり離れていく。
その背を見送る自分が、どこか誇らしさを感じていた。
⸻
訓練が終わると、先輩が小さく笑った。
「な?褒められるの……ちょっと嬉しいだろ?」
「……っ……はい……」
声が詰まった。自分でその返事に、胸が痛くてどうしようもなかった。
(俺、もうダメだ……完全にこいつらに……)
でも先輩がそっと肩を寄せてきた。
「辛いのも、痛いのも嫌だろ?だったらもう、ちゃんとやればいいんだ。そうすれば……あいつら、ちゃんと褒めてくれるから。」
「……はい……」
(そうだ……ちゃんとやれば、もう尻も叩かれない……)
思考がどんどん単純になっていく。
恐怖を避けるためじゃなく、褒められるのが欲しくて動いてしまう。
(俺、いつから……)
⸻
その日の夜、先輩と並んで寮へ戻った。
「今日はよく頑張ってたじゃん、天音。」
「……はい……」
自然に笑っていた。自分でも分かる。
先輩も小さく笑って、そっと手を握った。
「また一緒にやろうな。」
「……はい……」
二人の声は妙に優しく重なり合った。
でも布団に入った瞬間、また涙がこぼれた。
(……俺、もう元に戻れねぇ……)
褒めてほしくて、先生の視線が欲しくて、こんなにも必死になってる。
自分の心が壊れていく音を、はっきり聞いた気がした。
食堂で昼食を取っていたとき、先輩が小声で呼びかけた。
小さな声でも背筋がびくりと反応するのは、日頃から木刀に脅えすぎた証拠だ。
「……はい。」
自然に出る返事。もう抵抗はなかった。
「今日、放課後に特別訓練があるんだ。一緒に出ようぜ。」
「……特別、訓練……?」
先輩は少し笑った。その笑顔が、妙に甘く胸に引っかかる。
「普通の授業や集団訓練より厳しいけど、その分、ちゃんとできれば……桐島先生に褒めてもらえる。」
「……っ」
(褒めてもらえる……)
その言葉に、心臓が小さく跳ねた。
(俺、いつの間に……)
嫌なのに、その胸のざわつきがどうしようもなく心地よかった。
⸻
放課後、指定された武道場に集まったのは十人ほど。
全員が白いブリーフ一枚で、木刀を手にしていた。
「特別訓練を行う。厳しく見るが、その分、規律を守り動きが正確なら褒めてやる。」
桐島の声が冷たく響く。
(褒める……)
気づけば、天音はその言葉を期待していた。
「先輩、俺……ちゃんとできるかな……」
「大丈夫だよ。」
先輩は小さく微笑んだ。
でもその瞳は何かを諦めたように静かだった。
⸻
「——構え!」
一斉に木刀を頭上に掲げる。
「いち!」
振り下ろす。
「に!」
腰を沈め、下段を守る。
「さん!」
再び構え。
繰り返し、繰り返し。
汗が額から流れ、鼻先を伝い白い布に落ちる。
太ももは熱く火照り、足の裏は小刻みに痺れていた。
(きつい……でも、もっとちゃんとやらないと……)
横目で先輩を見ると、恐ろしいほど規律正しく動いていた。
腰の落とし方も、木刀の軌道も、完全に教本通りだ。
「……っ」
天音も必死で真似た。
(俺も……褒められたい……)
自分でそう思った瞬間、ぞわっと背筋が冷えた。
(……いやだ……なんで俺……)
でも止められなかった。
⸻
「よし、天音。」
桐島が目の前に立った。
「お前、随分型が良くなったじゃないか。」
「……っ」
心臓が飛び跳ねた。
次の瞬間、桐島の木刀がそっと肩に触れた。
「よくやっている。もっと腰を沈めれば完璧だ。」
「……はいっ!」
声が震えた。
でもそれは恐怖じゃなかった。
(俺……今、嬉しいって……思っちまった……)
頭の奥が真っ白になって、涙が滲んだ。
桐島がゆっくり離れていく。
その背を見送る自分が、どこか誇らしさを感じていた。
⸻
訓練が終わると、先輩が小さく笑った。
「な?褒められるの……ちょっと嬉しいだろ?」
「……っ……はい……」
声が詰まった。自分でその返事に、胸が痛くてどうしようもなかった。
(俺、もうダメだ……完全にこいつらに……)
でも先輩がそっと肩を寄せてきた。
「辛いのも、痛いのも嫌だろ?だったらもう、ちゃんとやればいいんだ。そうすれば……あいつら、ちゃんと褒めてくれるから。」
「……はい……」
(そうだ……ちゃんとやれば、もう尻も叩かれない……)
思考がどんどん単純になっていく。
恐怖を避けるためじゃなく、褒められるのが欲しくて動いてしまう。
(俺、いつから……)
⸻
その日の夜、先輩と並んで寮へ戻った。
「今日はよく頑張ってたじゃん、天音。」
「……はい……」
自然に笑っていた。自分でも分かる。
先輩も小さく笑って、そっと手を握った。
「また一緒にやろうな。」
「……はい……」
二人の声は妙に優しく重なり合った。
でも布団に入った瞬間、また涙がこぼれた。
(……俺、もう元に戻れねぇ……)
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自分の心が壊れていく音を、はっきり聞いた気がした。
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