スパルタ学園

ましゅまろ

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従順の果て

朝。
武道場は凛とした冷たい空気に包まれていた。

天音は白いブリーフ一枚で木刀を構え、腰を沈めていた。
その隣には、いつもの先輩が同じ姿で並んでいる。

桐島がゆっくりと歩み寄り、二人を見下ろした。

「今日はどうする?」

その問いに、天音は自分から一歩前に出た。

「……先生。今日も、もっと稽古をつけてください。」

言葉が出た瞬間、自分の胸が熱く満ちるのを感じた。

(俺……自分から……)

でも、それを恥ずかしいとも恐ろしいとも思わなかった。
それどころか、身体の芯からじんわりと温かさが広がっていった。

「いい目をしているな、天音。」

桐島は初めて見せるような優しい目で微笑み、天音の頭に手を置いた。

「よくここまでになったな。」

「……はい。」

声が震えた。
恐怖ではない。胸がいっぱいで、涙が出そうになっていた。

 



 
その後の訓練は厳しかった。
型の一つひとつを何度も繰り返し、膝は痺れ、腕は上がらなくなる。

でも桐島の「いいぞ」「その調子だ」という声が、何よりのご褒美だった。

(もっと見てほしい……もっと褒めてほしい……)

木刀を振るたび、心の奥が甘く痺れる。
もう「痛くなりたくないから」じゃなかった。

褒められたいから、先生に見てほしいから、頑張ってしまう。

それが、何よりの支配だと薄々分かっていながら。

 



 
訓練が終わると、先輩が隣に立って小さく笑った。

「な、気持ちいいだろ?」

「……はい。」

その「はい」は、以前のような渇いた返事じゃなかった。

確かに自分の口から、柔らかく甘い声で出ていった。

「俺、お前がこうなるって最初から思ってた。」

「……やだな、先輩。」

言葉は軽口なのに、声は泣きそうだった。

「もう俺たち、同じだな。」

「はい……」

二人で小さく笑いあった。

その笑顔は、確かに幸福そうに見えただろう。

 



 
「全員、整列!」

桐島の声が響き、武道場にいた少年たちが一斉に並ぶ。

皆、白いブリーフ一枚で、尻には薄く残る古い痣があった。
それはもう誇りのようですらあった。

「今日もよくやった。お前たちはもう立派なスパルタ学園の生徒だ。」

「はいっ!」

天音も、先輩も、全員が同じ声を揃えた。

誰も恐怖に怯えるような顔はしていなかった。
むしろ静かに、満たされた微笑みを浮かべていた。

 



 
整列が解かれ、天音は先輩と肩を並べて歩いた。

木刀を脇に抱え、白い布越しにお互いの尻にある痣を見て、ふっと笑う。

「なぁ、天音。」

「はい?」

「俺たち、よくやったよな。」

「……はい。」

胸がじんとした。
そのまま歩きながら、先輩の手がそっと天音の手を握った。

(……あったかいな……)

握り返した指は、わずかに震えていた。

 



 
ふと、胸の奥に小さな声が湧いた。

(これで……本当にいいのか……?)

でもそれは一瞬だった。

次の瞬間には桐島が視界に入り、自然と背筋が伸びる。

「よし、次は昼の点呼だ。」

「はいっ!」

声を張る自分がいた。

その声はもう、完全にこの学園に馴染んだ声だった。

 



 
天音は先輩と肩を並べて、小さく笑いあった。

それが本当に心からの笑みなのか、ただ支配された笑顔なのか、自分でも分からなかった。

でも、もうどうでもいいと思った。

先輩の手はあたたかく、桐島の視線は優しくて——

(……これで、いいんだ……)

もう二度と逆らうことはない。

そうして天音は、完全にこの場所に染まっていった。
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