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3.帝都に蠢く影
特高警察の監視網
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昭和十六年十二月二十七日。
東京・霞が関、内務省庁舎の一室。
特別高等警察、通称「特高」。思想犯・反体制派の摘発を主務とする秘密警察組織の中心にいたのが、警視正水原和典だった。
「蒼月レイ。帝大所属、年齢十三。軍の戦略顧問的存在であり、国民的人気を獲得しつつある」
水原は資料を読み上げながら、静かに言った。
「……国家の枠組みを“思想”から変えようとする者だ。危険極まりない」
部下の刑事が訊ねる。
「直接拘束しますか?」
「いや、“英雄”には“疑念”という毒が効く。まずは徹底的に監視し、情報を収集せよ。
周囲に“何か胡散臭い”と思わせることだ」
それは、“事実”ではなく“印象”によって名声を崩す――特高流の“心理作戦”だった。
⸻
同じ頃、帝国大学。
蒼月レイの身辺には、確かに異変が起き始めていた。
帝大の一部教員が突如解任され、研究室の予算が減額。
学生たちの間には「レイは陸軍に睨まれているらしい」という噂が流れていた。
久坂が言った。
「これは情報戦だ。敵は君を殴る前に、君の“信頼”を壊しにきてる」
レイは冷静に資料の整理を続けながら呟いた。
「恐れてはいけない。国家は“顔”を見せずに攻撃してくる。だが、敵の輪郭が分かれば、戦える」
⸻
翌日。
レイはあえて正面から特高の存在に切り込んだ。
帝大内の研究発表会で、堂々とこう述べたのだ。
「……学問は、思想であり、思想は未来の設計図です。
もしこの国が、“思うこと”すら許さなくなったとき――我々が失うのは、自由ではなく“未来”です」
会場が静まり返る。
それは間違いなく、特高警察への宣戦布告だった。
その発言は翌日には新聞社によって一部引用され、国民の間で再び「少年の知性」に対する信頼が戻りつつあった。
水原は報告を受け、眉をひそめた。
「やはりただの子供ではないな。……ならば、次は“外堀”から埋めよう」
彼は新たな指令を出した。
「少年の関係者――帝大教授、補佐官、家族。
彼らを“引き裂け”。孤立させれば、自壊する」
⸻
その夜。
レイは、机に置かれた封筒を見つけた。
中には、無言の写真が一枚。
帝大内で、レイと久坂が会話する姿を、望遠レンズで撮影したものだった。
レイはそれを見つめ、表情を動かさず、ただこう呟いた。
「この国は、未来を恐れているんだな」
そして、そっと書類の下に写真を挟んだ。
「でも、僕は――この国よりも未来を信じる」
東京・霞が関、内務省庁舎の一室。
特別高等警察、通称「特高」。思想犯・反体制派の摘発を主務とする秘密警察組織の中心にいたのが、警視正水原和典だった。
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水原は資料を読み上げながら、静かに言った。
「……国家の枠組みを“思想”から変えようとする者だ。危険極まりない」
部下の刑事が訊ねる。
「直接拘束しますか?」
「いや、“英雄”には“疑念”という毒が効く。まずは徹底的に監視し、情報を収集せよ。
周囲に“何か胡散臭い”と思わせることだ」
それは、“事実”ではなく“印象”によって名声を崩す――特高流の“心理作戦”だった。
⸻
同じ頃、帝国大学。
蒼月レイの身辺には、確かに異変が起き始めていた。
帝大の一部教員が突如解任され、研究室の予算が減額。
学生たちの間には「レイは陸軍に睨まれているらしい」という噂が流れていた。
久坂が言った。
「これは情報戦だ。敵は君を殴る前に、君の“信頼”を壊しにきてる」
レイは冷静に資料の整理を続けながら呟いた。
「恐れてはいけない。国家は“顔”を見せずに攻撃してくる。だが、敵の輪郭が分かれば、戦える」
⸻
翌日。
レイはあえて正面から特高の存在に切り込んだ。
帝大内の研究発表会で、堂々とこう述べたのだ。
「……学問は、思想であり、思想は未来の設計図です。
もしこの国が、“思うこと”すら許さなくなったとき――我々が失うのは、自由ではなく“未来”です」
会場が静まり返る。
それは間違いなく、特高警察への宣戦布告だった。
その発言は翌日には新聞社によって一部引用され、国民の間で再び「少年の知性」に対する信頼が戻りつつあった。
水原は報告を受け、眉をひそめた。
「やはりただの子供ではないな。……ならば、次は“外堀”から埋めよう」
彼は新たな指令を出した。
「少年の関係者――帝大教授、補佐官、家族。
彼らを“引き裂け”。孤立させれば、自壊する」
⸻
その夜。
レイは、机に置かれた封筒を見つけた。
中には、無言の写真が一枚。
帝大内で、レイと久坂が会話する姿を、望遠レンズで撮影したものだった。
レイはそれを見つめ、表情を動かさず、ただこう呟いた。
「この国は、未来を恐れているんだな」
そして、そっと書類の下に写真を挟んだ。
「でも、僕は――この国よりも未来を信じる」
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