ショタに癒されたいんです。

ほんとうの気持ち

その夜、はるは寝る前になっても、いつになく静かだった。

ソファに座って本を読んでいた蒼に、はるはそっと背中を預けた。

「……ねえ、おにいちゃん」

「ん？」

「ぼくのこと……ほんとうに好き？」

蒼は本を閉じて、はるの顔をのぞきこんだ。

「急にどうしたの？」

「……今日、おにいちゃんがちょっと変な顔してた。
体育の服で来たとき。笑ってたけど、なんか……本当は困ってた顔に見えた」

その言葉に、蒼は胸を突かれたような感覚を覚えた。

（……見られてた。ちゃんと、見抜かれてたんだ）

「おにいちゃんが、もし“かわいい”とか“かっこいい”とか思ってくれてたら……ぼく、すごく嬉しいけど」

「……うん」

「でも、ぼくが子どもだから……“好き”って言っちゃだめなのかなって。
気持ちだけが、ひとりで走っちゃってる気がして」

はるの声は、かすかに震えていた。

「……自分だけが“好き”って思ってて、おにいちゃんはほんとは、ただ“守ってるだけ”なのかなって……」

蒼は深く息を吸って、はるの手を取った。

「はる。俺の気持ちは……守りたいって気持ちだけじゃないよ」

「……え？」

「かわいいって思うし、かっこいいって思うし、まぶしいって感じるときもある。
今日のはるを見て、目を離せなかった。……それくらいには、“好き”なんだよ、俺も」

はるは目を見開いたまま、しばらく動かなかった。

「でも――それでも、俺が今“好きだ”って言ってしまったら、それははるのためにならないって思うこともある」

「なんで？」

「俺は大人で、はるはまだ成長してる途中で……俺の言葉が、はるの未来を決めてしまうんじゃないかって。
……はるが本当に自分の気持ちを選べるようになるまで、俺は――ちゃんと待ちたいんだ」

静かな沈黙。
やがて、はるは小さく笑った。

「……じゃあ、待ってて。ぼく、ぜったい大きくなるから。ちゃんと、自分の気持ちで、“好き”って言えるようになるから」

「うん。待ってるよ。ちゃんと、心から応えられる日まで」

ふたりは指を重ね、小さな誓いを交わした。

子どもと大人。
想いの速さは違っても――その距離は、もう手のひらひとつ分しか離れていなかった。