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言葉にできない想い
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「……来週、お別れ会があるんだって」
はるがそう呟いたのは、夕飯を食べ終えたあとだった。
「先生が言ってた。転校する子のために、みんなでメッセージカードを書いたり、プレゼントを渡したりするって」
「そうなんだ」
蒼は、コップを洗いながらその言葉を聞いた。
はるの声は、無理に明るくしているように感じられた。
「……でも、プレゼントよりも、毎日みんなと過ごしてることのほうが、ずっと大事だったんだけどな」
「それでも、きっとみんな、はるのこと思ってるよ。ちゃんと伝えようとしてる」
「うん、わかってる。……だけど」
はるは静かに俯いた。
「いちばん伝えたい人には、なんて言えばいいか、まだわからない」
蒼は手を止めた。
水音が静かに止まり、代わりに心臓の鼓動が聞こえてくるようだった。
「……おにいちゃんは、何も言わないよね」
「……」
「ぼくがいなくなったら、寂しい?」
「……寂しいに決まってる」
声に出した瞬間、自分の中にあった何かがほどけていくのを感じた。
「だけど……」
蒼は言葉を選びながら続けた。
「子どもが、ひとりで遠くへ行くのを、引き止められない。
お前が新しい場所でちゃんと生きていけるなら、俺はそれを見送らなきゃいけない」
「……おにいちゃんは、やさしすぎるよ」
はるはぽつりと呟き、そっと蒼の手に自分の手を重ねた。
「……じゃあ、もう少しだけ、わがまま言ってもいい?」
「もちろん」
「今日は、ぎゅってしてほしい」
その言葉に、蒼は少し笑って、黙ってはるの身体をそっと抱きしめた。
小さくて、あたたかくて、今にも消えてしまいそうなぬくもり。
(言葉にしたら、壊れてしまいそうな気がして)
ふたりはそのまま、言葉を交わさず、
ただ静かに、心を寄せ合っていた。
夜は、まだ優しく包んでくれていた。
はるがそう呟いたのは、夕飯を食べ終えたあとだった。
「先生が言ってた。転校する子のために、みんなでメッセージカードを書いたり、プレゼントを渡したりするって」
「そうなんだ」
蒼は、コップを洗いながらその言葉を聞いた。
はるの声は、無理に明るくしているように感じられた。
「……でも、プレゼントよりも、毎日みんなと過ごしてることのほうが、ずっと大事だったんだけどな」
「それでも、きっとみんな、はるのこと思ってるよ。ちゃんと伝えようとしてる」
「うん、わかってる。……だけど」
はるは静かに俯いた。
「いちばん伝えたい人には、なんて言えばいいか、まだわからない」
蒼は手を止めた。
水音が静かに止まり、代わりに心臓の鼓動が聞こえてくるようだった。
「……おにいちゃんは、何も言わないよね」
「……」
「ぼくがいなくなったら、寂しい?」
「……寂しいに決まってる」
声に出した瞬間、自分の中にあった何かがほどけていくのを感じた。
「だけど……」
蒼は言葉を選びながら続けた。
「子どもが、ひとりで遠くへ行くのを、引き止められない。
お前が新しい場所でちゃんと生きていけるなら、俺はそれを見送らなきゃいけない」
「……おにいちゃんは、やさしすぎるよ」
はるはぽつりと呟き、そっと蒼の手に自分の手を重ねた。
「……じゃあ、もう少しだけ、わがまま言ってもいい?」
「もちろん」
「今日は、ぎゅってしてほしい」
その言葉に、蒼は少し笑って、黙ってはるの身体をそっと抱きしめた。
小さくて、あたたかくて、今にも消えてしまいそうなぬくもり。
(言葉にしたら、壊れてしまいそうな気がして)
ふたりはそのまま、言葉を交わさず、
ただ静かに、心を寄せ合っていた。
夜は、まだ優しく包んでくれていた。
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