私の夏休み

AYANA0722

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私の夏休み

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恋をしたあの日・・・。初めて高鳴った鼓動が今でも胸を締め付ける。初恋は実らない。誰かはそんな風に言っていたけど・・・。
ねぇ・・・この想いはどうしたら君に届くのかな・・・。違いすぎる二人だからね。私は決めたの。君の為に変わりたい。・・・そう夏休みの間だけ・・・。



「・・・出来た・・・。」
私は鏡の前に立ち、その仕上がりに目を見開いた。初めての染髪。まさか髪の色一つでこんなにも自分が変わるなんて・・・。
「・・・本当に金髪になっちゃった・・・。」
キラキラ輝く髪の毛が私の心をわくわくさせる。ずっとしてみたいと思っていた金髪。鏡の中に移る別人の私に満足すると、今度は買ってきたばかりの化粧品に手を掛けた。
この日の為に化粧品の口コミサイトを沢山見て、評価の高かった物だけを買った。初めての化粧品売り場に戸惑ったりしたけれど、何とか主力の化粧品は揃える事が出来た。


私の名前は松永理子。今年で高校二年生。
お父さんは会社の社長で、お母さんはインテリアデザイナー。いわゆる世間でいうお嬢様だ。でも私の場合、他のお嬢様とは違い、華麗でも優雅でもなかった。親が厳しいせいで髪の毛を染める事も許されず、勉強ばかりしてきたせいか目が悪くメガネ。小学校時代からほとんど友達もいなく、いじめられる事が多かった。高校生になった今もそれは変わらない。
いじめの原因を外見だと思ってきたけど、それでも綺麗になることを親が許してくれなかった。


そんな私が・・・どうして髪の毛を染めてお化粧をしようとしているのかと言うと・・・。
それは・・・恋をしてしまったから・・・。


ずっと隠してきた恋心・・・。彼に初めて出会ったのはもう遠い記憶。まだ高校に入りたての四月・・・。たまたま同じ電車に乗り合わせた彼に一目ぼれしてしまった。明るくて笑顔が素敵な彼・・・。
でも彼は・・・いつもギャルと戯れているような今時の男の子。偶然聞いてしまった彼の好みがギャルっぽい女の子である事に驚きはなかった。
でも・・・全然イケてない私だけど・・・どうしても彼の事を知りたい。そう思った・・・。
そんな矢先、父と母が夏休み中イタリアへ出張に行く事が決まった。いくら夏休みであろうと髪の毛を染めたり夜遊びしたりを禁止していた両親がいない。
こんなチャンスはあと百年待ったって訪れないかもしれない。私はそのチャンスに賭けた。
彼に近づく為に・・・。少しでも彼の目に留まるように・・・。私は髪の毛を染め、お化粧をして素顔を隠した。



「・・・いいかも・・・。」
一通りメイクを終えると私は新しい自分に驚いた。メガネをはずしてコンタクトに変えただけでもだいぶ印象が違うのに、つけまつげをしてチークをはたいてリップグロスを丁寧に塗ったらまったくの別人がそこにはいるようだった。


「・・・後は髪の毛を巻くのか・・・。」
私はギャル雑誌を片手に、鏡の中の自分ばかりを見つめていた。少しお化粧しただけでこんなにも変わるなんて・・・。楽しい・・・♪

「・・・コテを温めて・・・。」
初めて使うヘアアイロン。髪の毛を巻く・・・うまくできるかな・・・。
私はドキドキしながら髪の毛をコテに巻きつけた。雑誌の女の子みたいに可愛くなりたい・・・。
私はドキドキしながら髪の毛をほどいた。
「・・・いいかも・・・。」
ほどいた髪は綺麗に巻かれ、くるくるした毛先が可愛かった。


「・・・次は・・・。」
髪の毛を巻き終えると、今度はネイル。薄いピンクのマニキュアを一本一本に丁寧に塗った。
「・・・よし・・・。」
私は乾いた爪を高くにかざすと、ピンクのネイルがキラキラ輝いた。爪が可愛くなるだけでもテンションが上がる。
「最後は洋服か・・・。」
私はマニキュアが落ちない様に気をつけながら立ちあがると、買物袋に手を掛けた。
これも夏休み前に準備しておいた戦闘着。黒髪メガネで109に行くのは本当に恥ずかしかった・・・。

でもたまたま接客してくれたお姉さんがいい人で可愛い洋服を見立ててくれた。
水玉柄のワンピースにヒールの高いサンダル。さっき巻いた髪の毛を可愛いシュシュでポニーテールにしたら・・・。
私は鏡の前で立ちつくし、初めてのその姿に嬉しさを隠しきれなかった。


「・・・夢みたい・・・。」
いつもコンプレックスだった外見が・・・。髪の色を変えてお化粧しただけでこんなにも変わるなんて・・・。
私が鏡の前の自分にうっとりする思いだった・・・。
これで・・誰かを羨ましいなんて思う気持ち・・・もう持たなくてもいいのかな・・・。


「・・・お嬢さん?」
コンコン・・・と部屋のドアをノックする音が聞こえた。家政婦の富永さんだ・・・。
「・・・はい・・・。」
富永さんにも・・・ばれたらまずいかな・・・。どうしよう・・・。
「・・・入りますよ~・・・。」
「はい・・・。」
「ガチャ・・・。」
「・・・えっ・・・?お嬢様?」
富永さんは私の姿を見て、目をまん丸くして立ちつくした。
・・・そうだよね。驚くよね・・・。
「・・・えへへっ・・・あの・・・夏休みなんで・・・。」
「・・・。」
「・・・お母さんとお父さんには内緒にしてもらえますか?」
私は凍りつく富永さんに笑顔を作った。
「・・・いいじゃないですか♪」
「・・・えっ?」
「すごく可愛いですよ♪」
「・・・富永さん・・・。」
「思春期の女の子なんだから・・・そうですよね。色々ありますよね。」
「・・・はい・・・。」
「言わないですよ。大丈夫。でも一ついいですか?」
「・・・はい。」
「その格好だったら、シュシュはこっちの方が可愛いと思いますよ♪」
富永さんは嬉しそうにそう言うと、近くに落ちていたピンク色のシュシュを私に手渡した。
「・・・富永さん・・・。」
「うちは息子ばかりだから・・・。娘とこうやっておしゃれを楽しみたかったんですよね~・・・。やっぱり女の子は可愛いなぁ・・・。お嬢様。素敵ですよ。」
「・・・。」
「旦那様達には内緒にしますから、思う存分おしゃれ楽しんで下さい。・・・でも夜遊びはほどほどにね。何かあったら大変ですから・・・。」
「・・・はい。」
「じゃあ、夕飯は下に用意してありますので、私は上がらせて頂きます。お疲れ様でした。」
富永さんはそう言うと嬉しそうに頭を下げて、私の部屋から出て行ってしまった。
「はい。ありがとうございました。」
私は呟くようにそう告げると、富永さんの反応にほっと胸を撫で下ろした。
・・・良かった・・・。これで私を縛るものは何もない・・・。さて・・・。私は時計を見ると時刻はもう八時過ぎだった。
・・・ご飯を食べたら出かけよう・・・。この格好で・・・。
私は一人階段を下りると、富永さんの作ってくれた親子丼ととん汁でお腹を満たした。



「・・・行ってきます・・・。」
私は小さい声で呟くと、静まり返った住宅街をさっそうと歩いた。
・・・夏の夜・・・。虫の音が聞こえる。なんて気持ちがいいのだろう・・・。私はそよそよと吹く心地よい風に包まれながら駅までの道を歩いた。
髪型やメイクをしただけで、まるで別人になったような気持ち・・・。前の自分よりも自信を持って歩けるのが不思議・・・。
私は顔を上げながら、ほんのり笑みを浮かべて歩き続けた。



「すごい・・・。」
駅に着くと、さっきの住宅街が嘘のようにたくさんの人が楽しそうに屯していた。
いつもなら家で勉強している時間・・・。夜の町にはこんなに人がいたんだ・・・。私はその人の多さに驚いていた。

「えっと・・・渋谷に行くには・・・。」
私は目的地の渋谷に向けて電車に乗り込んだ。電車の中も人が多く、皆楽しそうにしていた。


「次は渋谷~・・・渋谷~・・・。」
山手線内にアナウンスが流れると、私は鏡でメイクをもう一度チェックした。
ドキドキ・・・ドキドキ・・・高鳴る鼓動・・・。夜の渋谷に行くのなんて初めて・・・。こんなにも近くに住んでいたのに・・・。
私は人波に流されながら、ハチ公口へと無事に辿り着いた。周りをキョロキョロと見渡しながら、胸のドキドキが止まらない。
この町で・・・私を知っている人はいない・・・。



「・・・一人?」
私が立ちつくしていると、一人の男の子が声を掛けてきた。
「・・・いいえ・・・。」
初めてのナンパ・・・私は怖くて体が固まってしまった。
「嘘~・・・一人じゃん♪ねぇ飲み行こうよ♪」
「・・・いいえ・・・。」
「てかめちゃめちゃ可愛いよね♪」
「・・・いいえ・・・。」
・・・てか・・・どうしよう・・・めちゃめちゃ怖いよ・・・。どうしよう・・・。
「・・・なんで固まってんの?こういうの慣れてるっしょ♪ねぇいいじゃん遊ぼうよ♪」
・・・どうしよう・・・。どうしよう・・・怖い、怖い、怖い・・・。どうしたら・・・。私は目をぎゅっと瞑ると恐怖のあまり、体震え出してきた。どうしよう・・・。怖いよ・・・。


「・・・やめろよ。」
「はっ・・・?」
その瞬間、別の男の子の声が聞こえてきた。
「・・・この子俺の連れだから。」
私は目を見開くと、心臓が飛び出しそうなほど驚いた。だって・・・その声の主は・・・私の求めていた彼だったから。
「・・・ちっ・・・。」
ナンパしてきた男の子は、舌打ちをして諦めたかのようにその場を去って行った。
私は一連の出来事に驚きを隠せなかった。・・・でも怖いところを彼が助けてくれた・・・。私の心臓はドキドキと震えたままだったけど・・・どうしよう・・・お礼を言わなくちゃ・・・。
「・・・ありがとう・・・。」
「ええよ・・・。じゃあ・・・。」
彼はさらっとそう言うと、笑顔で方向転換をした。
「・・・あっ・・・。」
・・・彼を探す為にやってきた渋谷・・・。せっかく会えた彼・・・このまま行ってしまったら・・・。
「あっ・・・ちょっと待って下さい・・・。」
私は震える声を精一杯に発した。
「・・・うん?」
「・・・お礼させて下さい・・・。」
「・・・礼?」
「・・・はい。あの・・・お茶でも・・・。」
「えっ・・・?お茶?」
彼は・・・裕也君は私の提案に驚いた表情を見せた。
「・・・お酒はあの・・・飲めないんで・・・。」
私は申し訳なくそう言うと、彼は少し笑って頷いた。
「ほな、お茶御馳走して貰うわ♪」
「・・・はい♪」
彼の優しさに、私の心臓はドキドキと大きな音を立てた・・・。そう・・・私は彼の優しさに一目ぼれしたの・・・。外見じゃなくて・・・。



「・・・良くナンパされるやろ?」
 裕也君は嬉しそうに言った。
「・・・はい・・・。」
私は嘘をついた。ナンパなんてされたのは初めて・・・。でも黒髪メガネの理子だって・・・ばれちゃうのは嫌だから・・・。
「・・・名前なんて言うの?」
「えっ・・・。」
 名前・・・名前・・・考えていなかった・・・
「・・・うん?」
「・・・リリコ・・・。」
「リリコ?」
「・・・そう♪リリコです。よろしくね。」
「OK♪リリコ可愛い名前やん。俺は裕也よろしく♪」
「うん♪」
私はとっさに嘘をつくと、嘘の笑顔でごまかした。理子だからリリコ・・・。良かった。すぐに思いついて・・・。
「あっ・・・スタバあるやん♪」
「本当だ・・・。」
「俺、スタバ好きやねん。ここでええ?」
「もちろん♪」
私はスタバを好きと笑顔で言う裕也君にまたも心臓がドキドキと音を立て始めた。スタバが好きなんだ・・・。また一つ知れた・・・。



「キャラメルフラペチーノと抹茶フラペチーノ下さい・・・。」
私は裕也君の注文を聞くと、一人カウンターに注文しに走った。
裕也君とお茶が出来るなんて・・・理子のままだったらありえない・・・。私は嬉しさのあまりついつい笑顔がこぼれてしまった。


「お待たせ~♪」
私は笑顔で裕也君の待つ席へと急いだ。
「おっ♪リリコは抹茶にしたんや♪」
裕也君は嬉しそうに私に微笑んだ。
・・・ドキン・・・。裕也君の笑顔・・・。こんなに間近で見られるなんて・・・。
「ほな、頂きます♪」
裕也君は私からキャラメルフラペチーノを受け取ると美味しそうにストローを口に運んだ。
「・・・渋谷には良く来るの?」
私はゆっくりと腰掛けると、裕也君を見つめた。
「・・そうやなぁ。高校がこの辺やからまぁ・・・遊ぶのは渋谷が多いかな。」
「・・・そうなんだ。」
「リリコはいくつのなの?」
「えっ・・・と私は十七歳・・・。」
「同じやん。高校二年?」
「・・・そう。」
「そっか♪」
「・・・今日お友達は?」
「うん。これから合流する予定やねん。」
「そうなんだ・・・。」
やっぱり・・・裕也君はいつも渋谷で遊んでいたんだ・・・。今日渋谷に来てよかった・・・。
「・・・リリコもくる?」
「えっ・・・?」
「もし予定なかったら♪リリコならすぐに仲良くなれると思うで♪」
「・・・裕也君・・・。」
私は裕也君の言葉に驚きを隠せなかった。裕也君と友達と一緒に遊ぶ?私も?
・・・でも学校からの帰り道・・・いつも楽しそうに仲間と遊びに行く裕也君を羨ましく見つめていた。たくさんの笑い声に包まれながら男女混合で・・・。放課後、裕也君が楽しく遊んでいる時・・・私はいつも一人だったから・・・。


「・・・じゃあ行こうかな・・・。」
「OK♪じゃあこれ飲んだら行こうや♪」
「・・・うん。」
私は精一杯の笑顔を作った。壊れそうなほどドキドキした心臓を隠す為に・・・。


「おっす♪」
「おぉ裕也~♪」
「・・・あれ?」
「・・・今晩は・・・。」
裕也君の友達がいるカラオケの部屋に入ると、皆一斉に私を見つめた。
「リリコ♪可愛いやろ?ナンパしてきた♪」
裕也君はふざけてそう言うと、場の空気が一気に和んで皆に笑顔が戻った。
「裕也~やるなぁ♪可愛いじゃん♪」
「だろ~?」
「リリコよろしく♪」
ドアの近くにいた男の子が嬉しそうにそう言ってくれた。
「・・・はい♪」
夜のカラオケ・・・。裕也君の友達は女の子二人に男の子二人・・・。いつも下校を共にしているメンバーだ・・・。


「・・・あれっ・・・?」
一人の女の子が私に近づいてくると、私は本能的に下を向いた。
「・・・どっかで見たような・・・。」
女の子は不思議そうに私を見つめた・・・。やばい・・・。理子だって・・・ばれちゃう・・・。
「・・・う~ん・・・誰だっけ・・・?」
「あれじゃね?あのほらっ・・・今テレビに良く出ている♪」
もう一人の女の子が思い出したかの様に言った。
「あぁ♪そうだ♪星野あゆみね♪」
「そうそう♪」
「星野・・・あゆみ?」
私は知らない名前にきょとんとした。
「えっ?星野あゆみ知らないの?マジで?今、画画像出してあげるよ♪」
女の子はそう言うと、私の隣に座って手慣れた様子でスマフォをいじり始めた。
・・・良かった・・・。理子だって・・・ばれたのかと思った・・・。
私の隣で一生懸命画像を探してくれているこの女の子・・・知っている。隣のクラスの桜井美奈ちゃん・・・。学校一可愛いって噂されている。ずっと羨ましいと思っていた女の子・・・。美奈ちゃんは私の事・・・理子の事なんて知らないよね・・・。



「あっ・・・あった♪」
「・・・どれ?」
「ほらっ♪この子♪」
美奈ちゃんは嬉しそうに画像を私に見せてくれた。
「・・・似ているかな・・・?」
「似ているよ~♪ねっ陽菜もそう思うでしょ?」
美奈ちゃんは奥に座っている陽菜ちゃんを呼んで陽菜ちゃんにも画像を見せた。
「あっ♪似ているかも~♪」
「どれどれ?」
そんな会話を交わしていると裕也君も興味心身に私達の方へ寄ってきた。
「これがリリコに?う~ん・・・まぁ・・・ちょっと似ているかもなぁ・・・。」
「でしょ~♪」
美奈ちゃんと陽菜ちゃんは嬉しそうに声を揃えてそう言うと、私達は皆で笑った。


学校で見る、裕也君のお友達は皆怖そうに見えた。金髪に長い髪・・・。濃い化粧に短いスカート・・・。そのどれもが羨ましくもあり、近づきにくさでもあった。でも・・・こうして話してみると美奈ちゃんも陽菜ちゃんも優しくて・・・私はビックリした。


「リリコって良く渋谷くるの?」
美奈ちゃんが嬉しそうに私を見つめた。
「・・・うん♪」
「そうなんだ♪可愛いからモテそうだよね♪」
「・・・そんな事・・・。」
「彼氏いるの?」
「・・・いないよ♪」
「そっかぁ♪美奈はね・・・あの裕也の隣に座っている人いるじゃん。淳也っていうんだけど・・・。あれと付き合っているの♪」
美奈ちゃんは嬉しそうに彼を見つめた。
「・・・素敵だね♪」
「えへへっ♪うちらね、高校一年の時に皆同じクラスだったから仲良くなったんだ♪」
「へぇ♪」
「リリコはどこの高校なの?」
「えっ・・・と・・・。」
「・・・?」
「・・・F高校。」
「えっそうなの?うちらの隣の学校じゃん♪」
「うん・・・♪」
「そっかぁ♪」
「・・・何かいいね。こういうの・・・。」
「えっ・・・?」
美奈ちゃんは不思議そうに私を見た。
「・・・いやっ・・・仲間の中に彼氏もいて羨ましいなぁ・・・と思って♪」
「あぁ♪リリコも彼氏欲しんだ♪」
「・・・うん♪」
「私はね・・・実は最初に裕也の事が好きだったんだ♪・・・でもあいつ好きな人がいるみたいでさ・・・。」
「・・・えっ?」
「それで、淳也のアプローチに負けたって感じ・・・。まぁ・・・結果的にはラブラブだけどね♪」
美奈ちゃんは嬉しそうに言った。・・・でも話しの後半部分・・・私には一つも入ってこなかった。
・・・裕也君・・・好きな子がいるの?
「・・・あっ・・・さっきの話し内緒ね♪」
美奈ちゃんは申し訳なさそうに笑うと、携帯電話を持ったままトイレへと行ってしまった。



「どう?」
美奈ちゃんと入れ替わりに裕也君が嬉しそうに私の隣に腰かけた。
「・・・うん♪」
私はウーロン茶を口に含みながら目をそらした。
「いい奴やろ?俺の仲間。」
「・・・そうだね♪」
私は、裕也君が隣に来てくれた事はとても嬉しかったが、さっき聞いた話に混乱していた。やっと近づけたと思ったのに・・・。早速失恋?
「・・・俺さ・・・中学まで大坂やってん・・・。」
「えっ・・・?」
「親の離婚がきっかけで、高校生になるのと同時にこっちに越してきたんやけど・・・最初正直馴染めんくて・・・。」
「・・・。」
「でもさ・・・一年の時、同じクラスになったこいつらがあまりにも明るくて・・・一緒に遊ぶようになったら不思議と東京が好きになっていた。」
「・・・。」
「分からんかもしれんけど・・・中学まで大坂やったから・・・なんや抵抗があるっていうか・・・東京には染まらん!みたいな♪」
裕也君はポッキーを食べながら、真っすぐに前を向いて話していた。
「・・・そっか・・・。」
「でも・・・今はこっちに来て良かったって思う。どこにいても俺は変わらないし♪」
「・・・うん。」
「・・・なんや・・・不思議や・・・。」
「えっ・・・?」
「初対面やのに・・・何身の上話してるんやろ・・・♪」
「・・・裕也・・・。」
「リリコは話しやすいわ♪うん。馴染みやすい♪」
裕也君は嬉しそうにそう言うと、私の頭をなでなでしてから立ちあがった。
・・・裕也君の手が・・・私に触れた・・・。私はその瞬間心臓が今にも飛び出しそうになった。えっ・・・?今・・・何が起こったの・・・?



「・・・どうしたの?」
入れ違いに戻ってきた美奈ちゃんが固まっている私を不思議そうに眺めた。
「あっ・・・えっと・・・私も・・・トイレに・・・。」
私はドキドキした心臓を抱えたまま、美奈ちゃんに悟られない様にそそくさと席を離れた。ドキドキ・・・。ドキドキ・・・。ドキドキ・・・。
裕也君の手・・・大きい手が・・・私に触れた・・・なでなでって・・・。
染めたばかりのこの髪の毛を・・・優しく撫でてくれた。
私は目を瞑ると、部屋の外で一人大きいため息をついた。今日の今日で・・・。裕也君と触れ合える事が出来るなんて・・・。
・・・髪を染めて良かった・・・。メイクをして良かった・・・。洋服を買って良かった・・・。やっぱり・・・理子じゃダメだったんだ・・・。メイクをしてリリコになれたから裕也君もすんなり受け入れてくれたんだ・・・。
どうしよう・・・泣きそうだ・・・。





あの日・・・電車の中で座りながら騒ぐ若者のそばで大きいお腹を抱えた妊婦さんが居心地悪そうに必死で吊革を掴んでいた。
その様子を・・・私はただ見ているだけだった・・・。頭ではいけない事だって分かっているのに・・・。声にはならなかった・・・。
その時・・・それが当たり前と言う様に、若者に近づき、彼は・・・裕也君は大きい声で言った。
「お前ら・・・見てみ。分かるやろ?妊婦さんいてんで・・・?はよ席ゆずったれ。その方が百倍気持ちええから♪」
「・・・はっ?」
「・・・まぁ♪穏便にな・・・♪」
裕也君はそう言うと、笑顔で立ち去った。そしてその若者も諦めたかのように、妊婦さんに席を譲り車両を移動して行った。
私を含め、その場にいた皆は安どの表情を浮かべ、また電車には平和な空気が流れ始めた。
・・・その時に・・・私は彼に一目ぼれをした。争わずに・・・言葉だけで調和できるすごさ・・・。それはきっと彼にしか出来ない暖かい雰囲気のおかげ・・・。
瞬時に感じた。この人がいい・・・。
この人を知りたい・・・近づきたい。出来るなら・・・もっと彼を知りたい・・・。そう思ったの・・・。
だから・・・裕也君に触れられた瞬間に・・・胸のドキドキが飛び跳ねそうだった。ずっと近づきたい・・・。そう思っていたから・・・。



「・・・はぁ・・・。」
私はトイレで息を整えると、鏡を見つめた。リリコになって良かった・・・。私はリップをもう一度塗り直すと鏡に向かって笑顔を作った。
よしっ・・・。私は気合を入れ直すと、ドキドキした心臓を抱えたまま、カラオケルームへと戻って行った。



「あっ・・・リリコ戻ってきた♪」
裕也君は嬉しそうにそう言うと、部屋の中に居た皆は帰り支度を始めていた。
「・・・もう帰るの?」
「そうやねん。最近、お巡りさんが見回りしているからな。」
「・・・そっか・・・。」
「・・俺らこの後、淳也の家に行くけどリリコも来る?」
「・・・淳也君家に・・・?」
このままバイバイするのは淋しいと思っていたけど・・・今日は・・・。
「・・・ううん♪私はこれから行くところがあるから・・・。」
私は嘘をついた。派手な恰好しているのに・・・家に帰るなんて言いづらい。
「・・・そうなんや。」
「うん♪」
「したら、また遊ぼうや。良かったら連絡先教えて?」
裕也君は嬉しそうに私に近づいてきた。
「・・・連絡先?」
「ええやろ?イタ電せえへんから♪」
「・・・裕也君・・・。」
あの憧れの裕也君から連絡先を聞かれるなんて・・・。私は嬉しさのあまり、また心臓がドキドキと音を立て始めた。
「ほらっ♪」
裕也君はそう言うと、私のメルアドを一生懸命打ち込んでくれた。
「あっ♪裕也、私にもリリコのアドレス送っておいて♪」
美奈ちゃんは嬉しそうにそう言うと、
「私も~♪」
陽菜ちゃんも同じようにそう言ってくれた。

「じゃあ、また連絡するわ♪」
お店から出た所で、裕也君達は笑顔を作ると、楽しそうに淳也君の家の方へと消えて行った。




「・・・はぁ・・・。」
私は皆を見送ると、一人カラオケ店の前に立ちつくした。
何だか色々あった一日だったなぁ・・・。
裕也君のタイプの女の子になるためにお化粧して・・・ナンパされて・・・裕也君とお茶をして憧れていた裕也君のお友達と皆でカラオケに行って・・・。
私は今日の自分の行動力に驚きを隠せなかった。がんばって勇気を出して良かった・・・。そのおかげで裕也君と携帯番号を交換する事が出来た・・・。
私は持っていた携帯電話を握りしめると、その中にいる裕也君の番号を抱きしめた。そして閉じていた目を見開き、ゆっくりと駅の方へと歩き出した。



「あつ~い・・・。」
翌日はあまりに暑さに目が覚めてしまった。夜かけたはずの布団を全部剥いで、お腹を出しまま寝ていた。
「・・・今日は・・・。」
重い体を抱えたまま、ベッドから這い上がると、私はサイドテーブルに置いてあった水を飲みほした。
・・・最近の日本の夏は暑すぎる・・・。沖縄でもないのに・・・毎日猛暑日が観測される毎日・・・。何もやる気が起きない・・・。
私がベッドでボッーとしていると、下の部屋から鼻歌と掃除機を掛ける音が聞こえてきた。
・・・富永さんだ・・・。
私はボッーとしながらもそんな事を思っていた。
「・・・あっ!そういえば・・・。」
私は瞬時に昨日の出来事を思い出して、すぐに携帯を入れっぱなしのバックに向かった。・・・もしかしたら・・・。


「おはよう~リリコ(^^♪起きている?今日は昨日のメンバーでボーリングに行くんやけど、リリコも暇やったら一緒にどう?」

私は裕也君から届いていたメールに心臓が飛び跳ねそうだった。えっ?えっ?なにこれ?私も誘ってくれているの?
メールが届いていたのが三十分前・・・。まだ間に合うよね?私は時計を確認すると、すぐに裕也君にメールを送った。


「おはよう♪昨日はありがとう。楽しかったです。今日暇です(*^^)私も一緒にいいのかな?」


私は、ドキドキしながら裕也君に初めてのメールを送った。ギャル文字とか・・・絵文字とかあまり得意ではないからシンプルなメールだけど・・・。

「当たり前やん♪皆もリリコに会いたがっているし。じゃあ、三時に渋谷のハチ公前で♪ナンパされんなよ♪」

裕也君からの返信・・・。私は嬉しさのあまり今にもはね出したい気持ちだった。・・・でも三時か・・・。急いで準備しなきゃ・・・。
私は急いで、シャワーへと向かうとその様子を見ていた富永さんは不思議そうに顔を傾けていた。



「・・・出来た・・・。」
シャワーを浴びて、髪の毛を乾かして・・・。今日は昨日よりもメイク時間を短縮する事が出来た。まぁそれでもかかった時間は四十分分・・・。まだ慣れないなぁ・・・。
さぁて・・・。今日の予定はボーリング・・・。ボーリングだったらスカートよりもショーパンやパンツの方が安心だよね・・・。
私は新しい買物袋に手を掛けると、事前に用意しておいた可愛い花柄のスキニーパンツを取り出した。
これに合わせるのは、少し長めのTシャツ・・・。夏だからこれだけでも大丈夫かな・・・?鏡の前で洋服を合わせると中々可愛い感じだった。
髪の毛も今日は巻いた後にポニーテールにしよう♪少しカジュアルな感じで・・・。うん。いいかも♪
頭の中でコーディネートが出来上がると私は、鼻歌を歌いながら準備をすすめた。



「失礼します。」
ちょうど、準備を終えたタイミングで富永さんが部屋へと入ってきた。
「・・・富永さん、今日のコーディネートはどうかな?」
「いいじゃないですか♪」
「・・・本当?」
「はい♪可愛らしいですよ♪どこに行くんですか?」
「今日はねボーリング♪」
「なるほど♪」
「夕飯はいらないかな・・・。」
「・・・分かりました♪」
「・・・あのね・・・。」
「・・・何ですか?」
「・・・今日遊ぶ友達の中に好きな人がいて・・・。」
私はドキドキしながら富永さんに打ち明けた。
「・・・はい。」
「・・・どうやって両思いになったらいいのか分からなくて・・・。」
初めての恋・・・。初めて好きになった人・・・。番号を聞かれて、こんな風に遊べるようになったけど・・・その先はどうしたらいいのだろう・・・。昨日の夜ずっと考えていた。
「まずは、楽しむ事を優先してみたらどうですか?」
「・・・えっ?」
「恋は幸せだけど、人を深刻にもさせる・・・。でもお嬢様には今まで知らなかった世界を楽しんで欲しいと私は思います。」
「富永さん・・・。」
「大丈夫・・・。可愛いですよ。それに純粋な気持ちはきっと伝わると思います。いつかもう少し自信がついたら告白したらいいんですよ。」
「・・・そっか・・・。」
「焦らないで・・・今を楽しんで下さい。」
優しく微笑む富永さん。まさに今の私に必要なアドバイスだと思った。
「わかった。うん。そうだよね。楽しむよ♪」
「はい。」
「じゃあ、行ってくるね♪」
「はい。」
「あっ・・・。」
「・・・何ですか?」
「もう少し仲良くなれたら、友達を家に呼んでもいいかな?」
「・・・もちろんですよ♪」
「ありがとう。」
「御馳走作りますからね。」
「うん。その時はよろしくお願いします。」
「はい。」
富永さんは笑顔でそう言うと、部屋の掃除の続きを始めた。そして私はヒールの高いサンダルをはいて家を出た。

暑い、暑い夏・・・。眩しい日差しが照りつけ・・・すぐに汗が出てくる。
私は額の汗を拭いながら、駅へと急いだ。
富永さんの言うとおり・・・今は今を楽しもう・・・。美奈ちゃんや陽菜ちゃんとも、もっと仲良くなりたいし・・・。
でも皆・・・私が黒髪メガネの理子だって知ったらきっともう仲良くしてくれないのだろうな・・・。



「リリコ~♪」
ハチ公前辿り着くと、そこには昨日のメンバーが嬉しそうに私に手を振っていた。
「お待たせ~♪」
私は皆の笑顔に引き寄せられるかのように、裕也君達の元へと急いだ。

「暑いな~しかし・・・。」
裕也君は大好きなキャラメルフラペチーノを飲みながら、空を見上げた。
「行こうか♪」
「うん♪」

「昨日はあのまま淳也くん家に泊まったの?」
「うん。俺とあつしだけね。美奈達は途中で帰ったよ。」
「・・・そうなんだ♪」
「おう♪」
 
私は裕也君の言葉を聞いて何故かほっとするのを感じていた。
美奈ちゃん達の事大好きだけど・・・あのまま美奈ちゃん達も泊まるかと思ったら胸が苦しかったから・・・。

「リリコ~♪」
私と裕也君が楽しそうに話している所に、嬉しそうに美奈ちゃんが駆け寄ってきた。
「美奈ちゃん♪」
「昨日は楽しかったねぇ♪今日も会えて嬉しい~♪」
美奈ちゃんは嬉しそうに言った。
「うん♪」
「そういえば、リリコは昨日あの後どこ行ったの?」
美奈ちゃんは不思議そうな顔で私を見つめた。
「えっ・・・と・・・。」
昨日・・・そうだ・・・帰り際についた嘘・・・。
「・・・?」
「あっ・・・そうそう・・・友達の家にね・・・。」
「そうなんだ♪」
「そうそう♪」
「それって男?」
「えっ・・・?違うよ~・・・。」
私はその瞬間にちらっと裕也君を見た。けれど彼は何も気にせずにキャラメルフラペチーノを夢中に吸い込んでいた。
「そっかぁ♪」
「・・・うん。」
「あっ・・・♪そういえば、来週ね、皆で花火大会に行くんだけど、リリコも行こうよ♪」
「えっ・・・?」
「ねぇ裕也?」
「おう♪皆で行こうや、隅田川。」
「・・・花火大会・・・。」
私は今まで自分には無縁だったイベントに胸がときめいた。花火大会なんて・・・本当に小さい頃に一回連れて行ってもらっただけだったから・・・。
「私もいいの?」
「もちろん♪ねぇ裕也?」
「当たり前やん♪」
二人はそう言うと、嬉しそうに微笑んだ。・・・どうしよう・・・嬉しい・・・。
私は初めて友達の輪に入れてもらえた事が嬉しくて、今にでも涙が溢れそうになった。暖かくて優しい瞳・・・。裕也君の友達は皆いい人だった・・・。



「よっしゃ、じゃあチーム分けしようや♪」
ボーリング場に着くと、裕也君は嬉しそうにそう言った。
「三対三にするか♪」
淳也君がそう言うと、皆嬉しそうに頷いた。
神様・・・どうか・・・裕也君と同じチームにして下さい。
私は秘かな願いを胸に秘めて、グーを作った。ドキドキ・・・ドキドキ・・・。
「じゃあ、行くで~・・・グーパージャス!」
裕也君の掛け声で、私達は一斉に手を出した。
「あっ・・・!」
その瞬間、私の願いは叶った。裕也君と同じチーム・・・。
私は飛び跳ねたい気持ちを堪えながら、一人心の中でガッツポーズを作った。
「俺と、リリコと、透が同じチームやな。」
裕也君は嬉しそうに言うと、二つに別れた一つのレーンの椅子へと腰掛けた。
「何賭ける?」
美奈ちゃんが嬉しそうに言った。
「そうやなぁ・・・。じゃあ、このゲーム代にしようか♪」
「おっ・・・いいねぇ♪よし頑張ろう♪」
「うん♪」
裕也君と同じチーム・・・。嬉しすぎる・・・。私はニヤニヤしながら、裕也君の近くに腰かけた。
ちょっとでもいい・・・近づけたら・・・。
「よしっ♪じゃあ、円陣組むか♪」
裕也君はそう言うと、嬉しそうに私達の肩を掴んだ。
ちょっと・・・えっ・・・私は裕也君の行動にドキドキが加速して行った。どうしよう。嬉しい・・・。
「絶対、勝つぞ~♪」
「おぉぉぉぉ!!!!」
円陣なんて久しぶり。でも何だろう。大きい声を出したら気合も入ったみたい。

「うちらも負けないもんね~♪」
陽菜ちゃんが嬉しそうにそう言うと、陽菜ちゃんチームも円陣を組んで気合を入れた。

「順番どうする?」
透君が、裕也君に声を掛けた。
「う~ん・・・。リリコスコアどのくらい?」
「えっ・・・?スコア?」
私は初めての聞く言葉に首をかしげた。
「もしかして初心者?」
「・・・はい。」
「まじかぁ・・・。」
裕也君は少し残念そうに頭を抱えた。
しまった・・・。裕也君のお荷物になっちゃう・・・。練習しておけば良かった・・・。
「まぁまぁ♪俺がいるから大丈夫♪教えてあげるよ。」
透君は明るくそう言うと、一気に場が和んだ。
「透君・・・。」
私は優しい透君に感謝した。全然出来ないかもしれないけど頑張ろう。自分なりに。
私はもう一度気合を入れると、きゅっと靴ひもを結んで立ち上がった。

「じゃあ、練習しよう♪」
「お願いします。」
「まず、この指とこの指をボールに入れて・・・。」
「・・・はい。」
「そしたら、こうやって持って・・・。」
「うん。」
「目線は真っすぐか、下のレーンの真ん中を見ながら投げる。」
透君はそう言いながら、スラッとした手足で、レーンにボールを投げた。
「おぉ!」
そのボールは真っすぐ前へと転がり、見事にストライクを取った。
「すごーい!」
「だろ?」
「じゃあ、次はリリコやってみて♪」
「うん。」
私は、緊張しながらも、ボールを高く上げ振りかぶった。そして言われた通りに目線は真っすぐにボールを投げた。
「おっ♪いいじゃん!」
 私の投げたボールはゆっくりと左にそれ、左側の数本を倒した。
「やったぁ♪」
「初めてにしてはいいよ♪」
「ありがとう~♪」
「どうだった?」
 私はくるっと振り向くと裕也君を見つめた。
「グッー♪」
裕也君は嬉しそうに、グットの手を作って笑ってくれた。
良かった・・・。私は裕也君の反応に胸を撫で下ろすと、一息ついた。よし・・・これからが本番!頑張るぞ♪



「じゃあ、俺が行くね。」
一投目は透君。真剣な眼差しでレーンを見つめた。
そして次の瞬間、慣れた手つきでボールを投げた。
「おっ!ええやん♪」
 裕也君は興奮気味にそう言うと、透君は練習同様、早速ストライクを出した。
「やったぁ♪」
私達は、一投目からのストライクに大興奮だった。
夢にまで見ていた友達とのハイタッチ。ちょっとだけ恥ずかしいけど・・・出来た。
「よっしゃ♪俺も続くで~♪」
裕也君はボールを持って意気込むと、一回大きく深呼吸をして、ボールを投げた。
「げっ!」
裕也君の放ったボールは右側にそれ、ピンは三つしか倒れなかった。
「スペア行こう!スペア♪」
透君は明るくそう言うと、裕也君もコクンと頷いて、真剣な表情でピンを見つめた。
「よしっ・・・。」
大きく振りかぶって、左側へとボールを投げた。そして次の瞬間、裕也君の放ったボールは見事すべてのピンを倒した。
「よっしゃ~!」
嬉しそうに戻ってくる裕也君。余裕の表情で手を上げる透君を見て、私も咄嗟に手を上げた。もしかして・・・。
その用意していた手に、裕也君の温かい手がパチンと触れた。
裕也君の温かい手・・・。私は其の瞬間に胸の奥が潰れそうなほどにドキドキした。裕也君の手に初めて触れた・・・。
温かくて大きい手・・・。裕也君の手・・・。
私は様子を悟られない様に、すぐに椅子に座ると、水を飲んだ。
「ほな、次頼むで♪」
裕也君はそう言うと、嬉しそうに私にウィンクをした。
「・・・よし・・・。」
もう一口水を飲むと、私はドキドキした心臓を抱えたまま、一番軽いボールを手に取った。
透君がストライク。裕也君もスペア・・・。
私も頑張る!



「行きます。」
私は誰にも聞こえないような小さい声でそう言うと、まっすぐ前を見つめてボールを放った。
どうか・・・曲がらないで・・・。
「あぁ・・・。」
裕也君の嘆き声が後ろから聞こえてきた。結果はガーター。
「大丈夫!次行こう♪」
透君の声援も聞こえてきた。うん・・・。さっきは倒せたもんね。大丈夫!
私は大きく深呼吸すると、再び前を見つめてボールを放った。
「おっ!ええやん♪」
真っすぐに流れたボールは真ん中のピンを弾き飛ばし、周りのピンも巻き込んで結果両脇以外のピンが全て倒れた。
「やった~♪」
私は予想以上に倒れた事が嬉しくて、飛び跳ねながら二人を見た。
二人も同じように嬉しそうに拍手をしてくれた。



その後もボーリング大会は大いに盛り上がり、何とか食らいついたおかげで私達のチームが勝つ事が出来た。
「楽しかったねぇ♪」
私達は上機嫌でボーリング場を出ると、日はすっかり暮れていた。
「この後、どうする?」
「う~ん・・・俺、明日バイトだから帰るわ。」
裕也君は少し気まずそうに言った。
「私もだ・・・。」
美奈ちゃんも裕君也に乗った。
「じゃあ、今日は解散しますか♪」
「OK!」
「じゃあまたね~♪」
「バイバイ♪」
人がにぎわう渋谷駅で、私達はお互いに手を振り別れた。



「・・・楽しかったなぁ・・・。」
私は帰りの電車に揺られながら、今日の事を振り返っていた。
初めてのボーリング・・・。上手には出来なかったけど、スペアを出した裕也君とハイタッチする事が出来た・・・。そんな事、皆にとっては普通の事かもしれないけど私にとってはドキドキの連続だった。けれど一つ確信した事がある・・・。私はやっぱり裕也君の事が大好きだ・・・。
裕也君が笑うだけで嬉しくて・・・つい私も笑顔になってしまう。そして裕也君がガーターを出して落ち込んだ時は私まで暗い気持ちになってしまった。
また会いたいな・・・。


「♪~♪~♪」
「あっ・・・メール・・・。」
私はマナーモードにし忘れた携帯電話を取り出すと急いで音楽を消した。
「・・・裕也君だ・・・。」
裕也君からのメール。私はドキドキしながらメールを開いた。

「今日はお疲れ♪楽しかったな~♪さっき美奈とも話してたやん。来週花火大会リリコも来いよ(^^♪詳細が決まったらメールするわ。」

・・・裕也君・・・私はドキドキした心臓を抱えたまま、嬉しさのあまり口に手を当てた。あの日・・・ナンパされなかったら?私達はこうして繋がる事は出来なかった・・・。そう思うと今はあの人に感謝したいくらいだよ・・・。ありがとう。
でも・・・欲を言えばもう少しでいい・・・。二人きりになりたい・・・。
私は電車の窓からキラキラ輝く流れる月を眺めながらそんな事を思っていた。




「・・・これはどう?」
「・・・う~ん・・・。」
花火大会の前日、私は富永さんにお願いして浴衣の買物に付き合ってもらっていた。
初めての浴衣・・・。今は洋服と同じくらいに種類が合って迷ってしまう。
「・・・赤とかがいいのかな?」
私は赤色の浴衣を当てて首をかしげた。
「赤も可愛いんですけど・・・そうですね。お嬢様だったらこれかな・・・?」
富永さんは、迷ったあげく一枚の浴衣を私に手渡した。
「・・・白・・・?」
「そう・・・お嬢様のお顔はけっこう大人っぽいですから、この白にお花の模様が私は綺麗だと思いますよ?」
「白かぁ・・・。」
私は富永さんが手渡してくれた浴衣を鏡の前で合わせてみた。すると不思議な事にとても可愛く見えた。
「・・・可愛いかも・・・。」
「白なら大人になっても使えるし、定番色だけど可愛いですよ♪」
「・・・うん♪じゃあこれにしようかな♪」
私は富永さんの言葉に納得すると、無事に浴衣を選ぶ事が出来た。
「浴衣が決まったら後は色に合わせた小物ですね♪」
富永さんは嬉しそうにそう言うと、可愛い小物を探しに店内の奥へと消えて行った。
「・・・これなら裕也君も可愛いと思ってくれるかな・・・?」
私は鏡越しの自分を見つめがら少し微笑んだ。
誰かの為に可愛くなりたい・・・。そう思う女の子が多いから町には可愛い子がいっぱいいるんだ・・・。好き人の為に・・・。

「お嬢様これはどうですか?」
富永さんは嬉しそうに戻ってくると、可愛い下駄に巾着のバックを持ってきてくれた。
「可愛い~♪」
「これなら白にもばっちり合いますよ。それに今は帯に装飾するのが流行っているみたいですよ?」
富永さんはそう言うと、可愛い帯のアクセサリーも見せてくれた。
「可愛い~♪」
「いいんじゃないですか?」
「うん♪」
私は一通り鏡の前で合わせると、その組み合わせに満足して、お会計をした。浴衣のお金はお母さんがくれた生活費から・・・。
大きい痛手だけど、せっかくの花火大会だもん・・・。やっぱり浴衣が着たいから。
私は握りしめたお札を店員さんに手渡すと、そのお金と引き換えに浴衣の入った大きい袋を受け取った。



「いい買い物出来た~♪」
「良かったですね♪」
私達はお店を出ると近くの喫茶店でお茶をする事にした。
「・・・富永さんって何者?」
「えっ・・・?」
実はずっと思っていた。何でも簡単にこなしてしまう富永さん。センスだって抜群にいいし、お掃除だってピカピカ・・・。
「・・・昔どんな仕事していたの?」
「まぁ簡単に言えばファッションデザイナーですかね・・・。」
「えっ・・・?」
「昔の話ですよ。今はただの家政婦です。」
富永さんはそう言いながら、静かにコーヒーに口をつけた。
「ふ~ん・・・。」
私はそう言いながら、アイスティーのガムシロップをくるくると回していた。
ファッションデザイナー・・・だからセンスがいいんだ・・・。
「それよりも言っていた好きな人・・・どうなったんですか?」
「・・・特には・・・。」
「そうですか・・・。」
「あっ・・・でもハイタッチはしたよ♪嬉しかった~♪」
私は瞳をキラキラさせて言った。
「そうですか♪」
「・・・好きな人ってすごいね・・・。彼を好きになって、どんどん変わって行く自分に驚くの・・・。」
私は遠くを見つめて言った。
「・・・。」
「明日もすごい楽しみ・・・。彼の笑う顔がね・・・すごく素敵なの。もちろんカッコイイのだけどそれ以上に彼が笑うと周りが明るくなってね・・・幸せな気持ちになるんだ。」
「・・・いいですね。」
「うん♪」
「・・・その気持ち・・・宝物だと思いますよ。」
「えっ?」
「純粋に誰かを愛する気持ちも・・・今のお嬢様のお顔も本当に素敵です。」
「富永さん・・・。」
「恋って素敵だと思います。本当に・・・。」
「うん・・・。」
「どんな話でもいいですよ。お嬢様が彼の事を話したくなったら話して下さいね♪」
富永さんはそう言うと嬉しそうに微笑んだ。
お母さんには言えないこの気持ちを・・・富永さんには言える事・・・嬉しく思った。
「ありがとう。」
「はい♪」
「うん♪あぁ・・明日楽しみだぁ♪」
私は明日の花火大会に思いを寄せると、表情は自然とにこやかになっていた。


「じゃあ行ってきます♪」
私は富永さんに着付けをしてもらい、サラサラした浴衣を身にまとって家を出た。
夏の夕暮れは暑さも和らいで、心地よい風が私の浴衣を揺らした。
ドキドキ・・・ドキドキ・・・駅までの道のり、私は緊張と嬉しさでいっぱいだった。もう少しで裕也君に会える・・・。
気付けば、歩く足も軽やかで私は胸を張って歩いていた。こんな気持ち・・・初めてかもしれない・・・。
私はさりげなくショーウィンドウに映る自分を見てそう思った。



 
いつも人に怯えながら暮らしていた日々・・・。黒髪メガネの私なんて誰の目にも止まらないと思っていた。
たまに聞く言葉・・・「人は外見じゃない」ずっとそう信じてきた。でもこうしてメイクをして浴衣を着てみて気付いたの・・・。
きっと人を輝かせているのは「自信」
ずっと私は自信がなかった。自分のコンプレックスばかりに目がいって、外見を理由に逃げていた。
もし夏休みが終わって・・・黒髪メガネに戻っても・・・。
自分を好きになれたなら・・・少しは何か変わるのかな・・・。



「おぉ~い♪」
待ち合わせの駅には、いつものメンバーが嬉しそうに私に手を振った。
「お待たせ~♪」
「キャー♪リリコめっちゃ可愛い~♪」
美奈ちゃんは嬉しそうにはしゃいだ。
「本当♪浴衣似合っている~♪」
陽菜ちゃんも嬉しそうに私に微笑んだ。
優しい人達・・・。可愛いのは皆の方なのに・・・。
「ありがとう~♪美奈ちゃんも陽菜ちゃんも浴衣可愛いよぉ~♪」
「えへへ♪」
私達女子は楽しそうにそんな会話を交わすと、私は視線をゆっくりと裕也君に向けた。
「・・・似合ってるやん・・・。」
裕也君は少し顔を赤らめながら、私の事を見つめて笑った。
「・・・裕也君・・・。」
「・・・ほな、行くで♪」
その後すぐに視線をそらして歩き出してしまった裕也君。でもどうしてだろう・・・私はその反応が嬉しくて、心がスキップしているみたいに明るくなった。・・・私の事・・・少しでも意識してくれているのかな・・・?




「・・・それにしても夏の夜はやっぱり最高やな・・・。」
私は駆け足で裕也君の隣を歩き出すと、裕也君が話し始めた。
「気持ちいいね・・・。」
私は目を瞑り、風を感じた。
「俺、大坂いた頃よう家族で祭り行ってたん。」
「そうなんだ♪」
「楽しかったなぁ・・・。そん時だけは特別に色々買ってもらえて・・・。」
「うん・・・。」
「今は別に暮らしている弟も一緒で、皆でわいわい盛り上がって・・・。」
「・・・弟さん・・・いるんだ。」
「そう♪四つ離れているから、今は中一になったのかな。」
「そっか・・・。」
「・・・おかんとおとんが別れる直前も皆で祭り行ったのに・・・。」
「裕也君・・・。」
「あんなに笑ったのになぁ・・・。」
裕也君はどこか遠くを見つめながら少し淋しそうにそう呟いた。
「そうだったんだ・・・。」
「・・・だからお祭りっていうかまぁ花火大会やけど、少し感慨深くて・・・。いやおもんないな・・・こんな話。」
「・・・なことない。」
「えっ?」
「そんな事ないよ。」
「・・・リリコ。」
「私は知りたいもん・・・。裕也の事。」
私は初めて裕也君の事を呼び捨てで呼んだ。そして言葉に出した瞬間に驚いていたのは誰よりも自分だった。
「・・・おおきに・・・。」
「うん・・・。だから何でも話して・・・。私で良かったら聞くよ。どんな話しでも。」
「うん。」
二人の間に少し変な空気が流れていった。今までにない、緊張感。
「・・・したらさ・・・。」
「うん?」
「リリコの事も教えてや。」
「えっ?」
「何かないの?花火大会の思い出♪」
「・・・私は・・・。」
「うん・・・?」
「私はそんな思い出もないよ・・・。でも小さい頃一回だけ・・・家族で花火大会に行った事がある。」
「うん。」
「忙しいお父さんがたまたまお休み取れて・・・それで。」
「うん。」
「・・・でもそれだけ。私の家、皆忙しくて・・・。あまり家族の思い出がないの。だから羨ましいよ。裕也の家族が。」
「そっか・・・。」
「でもね、親には感謝しているよ。」
「分かる。俺もや♪」
「うん♪」
「あっ・・・・!リリコ、見てみ!」
その瞬間に大きい音が空に響き渡った。
遠い記憶の中・・・家族で見た花火。その姿は昔と何も変わっていなかった。
「綺麗~・・・。」
「・・・ええなぁ・・・やっぱり♪」
「うん♪」
「おぉ~い♪お二人さん、早いわぁ・・・歩くの・・・。」
私達が立ち止まって花火を見上げていると、美奈ちゃんや淳也君が私達に追いついてきた。
「ごめん。ごめん・・・。」
「もう二人は仲良しなんだから♪」
美奈ちゃん嬉しそうに言った。
「えへへっ・・ごめんね。」
「それにしても綺麗だねぇ・・・。」
「うん♪」
私達六人は、立ち止まったままその場で空を見上げた。
キラキラ夜空に輝く花火・・・。その姿があまりにも美しくて何だか涙が溢れてきそうだった。

「素敵だなぁ・・・。」
皆が空を見上げて花火に夢中になっているその時・・・。
私の手に暖かい何かが触れるのを感じた。
「えっ・・・?」
私はその感触に驚き、視線を下へと向けると、そこには裕也の手があった。暖かい裕也の手が・・・。私の少し冷えた手を包み込んでいた。
・・・裕也?
私はドキドキしながら、視線を裕也へと移すと、何事もなかったかのように空を見上げる裕也がいた。
私はその表情を見た瞬間に、心が熱くそして震えるのを感じた。ドキドキ・・・じゃない。これはどんな風に言えばいい?
裕也の手があまりのも暖かく、私の心を溶かしていくようだった・・・。




「いやぁ・・・やっぱり花火はいいね~♪」
打ちあがる花火が少し落ち着いてくると、裕也はさりげなく私の手を話し、淳也君の元へと行ってしまった。
・・・一体どういう事なの・・・?私はまだ手に残る裕也の温もりを感じながら、裕也を見つめた。
好きじゃなかったら・・・手なんて握ったりしないよね?
裕也は私の事・・・好きなの?
私は眉間に皺をよせながら、裕也の行動に混乱していた。



「リリコ♪見ちゃった♪」
次の瞬間、嬉しそうに美奈ちゃんが私に近づいてきた。
「えっ・・・?」
私は美奈ちゃんの言葉に、胸がドキンと大きい音を立てた。・・・見たって・・・まさか今の?
「二人は付き合っているの?」
「・・・えっと・・・。」
「・・・?」
「・・・付き合ってないよ。・・・でも。」
「・・・でも?」
私は生唾を飲み込むと、いつも優しかった美奈ちゃんを思い出した。きっと美奈ちゃんなら分かってくれる・・・。
「・・・裕也の事好きなの・・・。」
「えっ?そうなの?」
「・・・うん。」
私は目をギュッと瞑ると、美奈ちゃんの言葉を待った。
「そっか・・・。そうなんだ♪」
「・・・うん。」
「いいじゃん♪」
 私は美奈ちゃんの優しい言葉に目を見開いた。
「えっ?」
「うん♪いいと思う。二人お似合いだよ♪」
「美奈ちゃん・・・。」
「でも・・・。」
「・・・でも?」
「・・・ほら・・・前に言ったじゃん。裕也好きな子がいるって・・・。」
「・・・あっ・・・。」
私は美奈ちゃんの言葉に、胸が締め付けられるのを感じた。そうだった・・・。裕也には好きな子がいるんだった・・・。
「・・・でも、変だよね?好きな子がいるなら、さっきみたいな行動しないよね?」
「・・・確かに・・・。」
「もう諦めたのかもね♪分からないけど、裕也適当な気持ちで行動したりしないと思うよ。」
「・・・そうかな?」
「うん♪私が保証する♪」
「美奈ちゃん・・・。」
「だから、大丈夫。きっとうまくいくよ。ねぇ・・・私で良かったらまた相談に乗るから話してよ♪」
美奈ちゃんはそう言うと、優しい瞳で微笑んだ。
「・・・うん♪ありがとう♪」
「うん♪」
初めての友達・・・。私は美奈ちゃんの優しさに涙が出そうだった。見ているだけじゃ怖い外見も話してみるとビックリするほど優しくて・・・。


 
「おぉ~い♪屋台行くで~♪」
美奈ちゃんと私を呼ぶ声が聞こえると、二人で顔を見合わせて笑った。
「今行く~♪」
私達はゆっくりと歩き出すと、また夜空に煌めく花火が打ちあがった。
「楽しかったぁ♪」
花火を見ながら、屋台で夕飯を食べて・・・気付けば最後の打ち上げ花火がキラキラと東京の夜空を輝かせた。
 
「今まで見た中で一番綺麗やったわ♪」
裕也は満足そうにそう言うと、私に笑顔をくれた。
「・・・私も♪」
目が合ったまま、裕也を見つめて・・・私も笑った。
こんなに素敵な夜・・・初めてかもしれない・・・。好きな人と一緒に花火を見て・・・友達に本音を話せて・・・。
私の胸には新鮮な喜びでいっぱいだった。今まで数えきれないくらいの夜を過ごしたのにね・・・。



「ほな、帰りますか♪」
「うん♪」
「あっ・・・そういえばさ、来週だっけ?海行くの・・・。」
 裕也は思い出したかのようにそう言うと、淳也君を覗き込んだ。
「うん。ほらっ・・・みゆき達も行くって言っていたよ。なんか遠藤先輩が車出してくれるって♪」
「マジか♪ラッキー♪」
「・・・?」
「良かったらリリコも行く?」
「えっ・・・?」
「そうだよ♪リリコも行こうよ♪」
美奈ちゃんと陽菜ちゃんは嬉しそうに言った。
「・・・いいの?」
「当たり前やん♪大人数の方が楽しいやん。あっ・・・でも一泊するから親に聞かんとあかんか・・・。」
「・・・それは大丈夫!」
「・・・そう?なら決まりやな♪」
「うん♪」
「ほな、時間とか決まったらまた連絡するわ♪」
「うん♪ありがとう~♪」
今度は海・・・。キラキラ輝く夏の海・・・。友達と旅行なんて夢みたい・・・。私は目の前の煌めきに心が嬉しさのあまり飛び出しそうだった。


「一泊旅行~?」
「・・・そう・・・いいよね?」
私は富永さんを上目づかいで見つめた。
「・・・ダメです。」
「えっ?」
「・・・だって・・・それはさすがに・・・。」
「・・・何もないよ。女の子もいっぱいいるし・・・。」
「・・・お嬢様・・・。」
「本当にそんなんじゃないの・・・。合宿みたいなもんだよ♪」
「・・・合宿って・・・。」
「お願い・・・お願い・・・。」
私は富永さんに手を合わせ、必死にお願いした。
「・・・お母様だったら何と言うでしょうね・・・。」
「えっ・・・?」
「電話して聞いてみましょうか?」
「・・・富永さん~・・・。」
お母さんだったら・・・絶対にどんな事をしても行かせてくれない・・・。すぐに却下・・・。話し合いさえも出来ない。
だから・・・今だけ・・・今しかないチャンスなの・・・。
「・・・じゃあ一つだけ約束して下さい。」
「・・・なに?」
「高校生らしく、どんなに彼の事が好きだとしても・・・。」
「分かっている・・・。」
「絶対ですよ?」
「・・・うん。」
そんな事・・・約束しなくても守れるよ・・・。裕也の事大好きだけど、そんな勇気はない。それに裕也には好きな子がいるんだもん・・・。まだ私の事なんて思ってくれてないよ・・・。
「じゃあ・・・。」
「じゃあ?」
「健全な水着でも買いに行きましょうか♪」
「・・・富永さん。」
「ほらっ・・・・早く。」
「うん♪」
私は富永さんの優しさに胸が打たれる思いだった。良かった・・・うちの家政婦が富永さんで・・・。




「明日は夜中の三時に迎えに行くわ。」
約束通り裕也から連絡が来たのは身支度をしている最中の事だった。
初めての一泊旅行・・・何を持っていこうか?私は小さめのトランクにタオルや富永さんに見立ててもらった水着を詰め込んだ。
・・・そういえば・・・私は旅行鞄に荷物を詰め込みながらある事に気がついた。一泊旅行って事は・・・。
メイクを落とす・・・?
一泊旅行に浮かれていたけど・・・メイクを落とす事になったらどうしよう・・・。美奈ちゃんや陽菜ちゃんにもメイクしたまま寝たら絶対に変に思われてしまう・・・。でも落としたら私が理子だって気付かれてしまうかもしれない・・・。
私は急に早く鳴りだした鼓動を抱えて、一生懸命に解決策を探した。
どうしよう・・・。



「♪~♪~♪」
「あっ・・・。」
私はふと携帯電話に視線を落とすと、美奈ちゃんからの電話だった。
「もしもし・・・?」
「あっ・・・リリコ?もう少しでリリコんちに着くよ~♪」
「えっ・・・あっそっか。了解♪待っているね。」
私は時計に目をやると、約束の時間が差し迫っている事に気がついた。
・・・悩んでいる場合じゃない。今はとりあえず準備しなきゃ・・・。私は気持ちを切り替えると、急いでバックの中にメイク落としを詰め込んだ。



「今晩は~・・・。」
「おう♪乗ってや♪」
私達は小声で会話すると、早速ワゴン車の中に乗り込んだ。
「よし・・・これで全員やな。行くで~♪」
「はい♪」
真夜中の出発。真夏なのに明け方は少し寒くて、私は車の中にある毛布にくるまった。



「今、運転してくれているのが遠藤先輩。そんで助手席にいるのが先輩の妹で俺らのタメのみゆき。」
裕也は嬉しそうに私に仲間を紹介してくれた。
「あっ・・・リリコです。今日から一泊お願いします。」
私は前に乗っている二人に向けて大きい声でそう告げた。
「リリコちゃん?了解♪よろしく♪」
先輩は明るい声でそう言うと、ちらっと後頭部を見て、また運転に戻った。そして次に先輩の妹みゆきちゃんの言葉を待ったが特に何の反応も見られなかった。
・・・あれっ・・・?寝ているのかな・・・?
私はその様子を不思議に思いながらも、特に気にせず、美奈ちゃんや陽菜ちゃんと会話を始めた。



「先輩、どのくらいかかるんですか?」
裕也があくびを堪えながらそう言った。
「伊豆だからなぁ・・・たぶんあと三時間はかかるなぁ・・・。」
「・・・そうなんや・・・。」
「寝ていていいよ。まぁ俺を信じているならな♪」
「・・・なんすかそれ♪逆に怖いですよ♪」
「フフフ♪」
先輩は楽しそうにそう言うと、鼻歌を歌いながら運転を楽しんでいた。
「三時間やって♪寝るか?」
裕也は淳也君にそう言うと、淳也君もコクンと頷いて、目を閉じた。
「・・・皆は寝る?」
私は美奈ちゃんと陽菜ちゃんを見つめた。
「う~ん・・・ふぁぁぁぁ・・・でもちょっと眠くなってきちゃったかも・・・。」
陽菜ちゃんはそう言うと、目をこすってあくびをした。
「私も・・・昨日ほとんど寝てなかったから・・・。」
「そっか・・・じゃあ私も寝ておこうかな♪」
「うん♪海でいっぱい遊ぼう~♪」
「うん。おやすみ~♪」
私達は運転を遠藤先輩に任せて、三人仲良く毛布にくるまって寝息を立てた。
実は私も眠かったんだよね・・・。良かった・・・。色々考え過ぎた頭が重かったから・・・。


「あっ・・・海だぁ~♪」
外の光と美奈ちゃんの声で目が覚めた。
眩しいくらいの太陽が車に差し込んできて、私は思わず目を細めた。
「リリコおはよう~♪」
美奈ちゃんと陽菜ちゃんは嬉しそうに私を見つめた。
「・・・もう着いたの?」
「まだだよ~♪でも見て♪」
美奈ちゃんはそう言うと、嬉しそうに窓の外を指差した。
「・・・!」
美奈ちゃんの指の先には、青い海がキラキラと輝いていた。
「海だ・・・。」
「いやぁ・・・すごいわ♪」
前の席に座っている裕也も嬉しそうに海を見つめていた。
「テンション上がるよね~♪」
美奈ちゃんと陽菜ちゃんも海を見つめながらうっとりと言った。
 


・・・海なんて何年振りだろう・・・。私はその光景に目を奪われながらぼんやりと思った。
小さい頃にお母さんと二人で海を見に来た記憶が蘇っていた。あの頃はお母さんも今より忙しくなく、休みはお母さんと一緒に何かする事が多かった。
お父さんはいない分、いつも私を連れだしてくれたお母さん・・・。あの海に行った日も二人で暑いと言いながらアイスを食べたっけ・・・。


「綺麗だね・・・。」
「ねぇ♪やっぱり海っていいね♪」
「早く泳ぎたいよぉ~♪」

 
友達と一緒に海に来られる日が来るなんて・・・。夢みたい。この夏・・・私は何度夢みたいな経験をしたのかな・・・?
自分が変わると決めた時から・・・覚悟を決めた瞬間から何かが変わって行くのを感じた。
この旅行で今度はもう少し裕也に近づきたい・・・。
私は裕也の後頭部を眺めながら今度はそんな事を思っていた。



「気持ちいい~♪」
車は海水浴場の駐車場に着くと、私達は早速車から降りて大きく伸びをした。
「見て~♪キラキラしている♪」
美奈ちゃんは嬉しそうに言うと、私達は皆で微笑み合った。
「いやぁ・・・無事に着いて良かった♪」
遠藤先輩が車から降りてくると、私達は一斉に先輩にお礼を言った。
「先輩、ありがとうございます♪」
「おう♪いやぁ・・・それにしてもいい天気だなぁ・・・。」
先輩はそう言うと嬉しそうに空を眺めた。
・・・本当だ・・・。私も先輩につられて空を見上げるとそこには、雲ひとつない青空が広がっていた。
「いやぁ・・・ええなぁ♪」
その暖かい声に振り返ると、裕也も嬉しそうに海を眺めていた。
「・・・裕也と一緒だから嬉しい♪」
その瞬間、裕也の隣にみゆきちゃんが嬉しそうに近づき、裕也の腕に手を掛けた。
・・・えっ?
さりげなく裕也の腕を掴むみゆきちゃん。私はその光景を見た瞬間に、自分の心の中に暗い気持ちが広がって行くのを感じた。


「・・・。」
「泳ぐ?」
陽菜ちゃんが嬉しそうに私を見つめた。
「あっ・・・うん。」
「よしっ♪じゃあ着替えようか♪」
「・・・うん。」
裕也とみゆきちゃんに皆は特に何も突っ込む事もなく海に心をときめかせていた。
・・・あれっ・・・もしかして・・・?
私は一瞬最悪のシナリオが脳裏をかすめた。もしかして・・・裕也はみゆきちゃんって子と付き合っているの?
自然と眉間に皺が寄っていた。せっかく可愛く出したおでこも台無し・・・。でも・・・みゆきちゃんのあの感じからすると・・・。
私は二人を見てからうまく笑顔が作れなくなってしまった。・・・今もまだ腕を組んでいるし・・・。


「・・・リリコ?」
その様子を察した美奈ちゃんが私の元へと近づいてきた。
「・・・あの二人・・・」
私は美奈ちゃんに救いの瞳で見つめた。美奈ちゃんなら知っていると思ったから。二人の関係を・・・。
「・・・うん。みゆきね、裕也の事が好きなの。」
「・・・やっぱり・・・。」
「でも付き合ってはいないよ。前も言ったけど裕也には好きな人がいるから。それはたぶんみゆきじゃないと思う・・・。」
「・・・そっか・・・。」
「みゆきは、高校が違うから、たまにしか会えないんだけど、確か長いよ。片思い。まぁ・・・気持ちは分かるけどね・・・。裕也いい奴だから♪」
「・・・うん。」
「でも大丈夫だよ。ねっ♪楽しもうよ♪海だよ~♪」
「美奈ちゃん・・・。」
「水着に着替えよう♪」
「うん♪」
私は優しい美奈ちゃんの言葉に、暗くなっていた気持ちを立て直す事が出来た。みゆきちゃんが裕也を好きな事が悪いわけじゃないもんね・・・。
私も分かるよ・・・。裕也を好きな気持ち。だから・・・気にしない。そう今を楽しもう。落ち込んでいる時間はないよね♪


「可愛い~♪」
私達は更衣室で、わいわいと着替えをすると気持ちがさらに明るくなった。
富永さんに見立ててもらった今年流行の花柄のビキニ。試着した時はこんな派手な水着はありえない・・・。そう思ったけど・・・。美奈ちゃんや陽菜ちゃん・・・みゆきちゃんと一緒にいると派手だと思っていた柄も普通に感じた。

「美奈ちゃんの水玉も可愛いね~♪」
「えへへ♪これね、淳也に見立ててもらったの♪」
美奈ちゃんは嬉しそうに言った。
「仲良しだね~♪」
そう言う陽菜ちゃんは水色のストライプのビキニだった。背の高い陽菜ちゃんはすらっとしていて細く伸びた足がとても綺麗に見えた。
「みゆきのもいいじゃん♪」
陽菜ちゃんはそう言うと、女の子らしいフリフリのビキニを着たみゆきちゃんを見た。
「えへっ♪裕也こういうのスキかなぁと思って♪」
みゆきちゃんは少し照れながら大胆にそう言った。
・・・素直だ・・・。私はみゆきちゃんの発言に少しだけ息苦しくなった。


「じゃあ、男子の元へ行こうか♪」
美奈ちゃんはそう言うと、私はドキドキしながら更衣室を後にした。
みゆきちゃんじゃないけど・・・私も裕也を思って水着を選んだ。どんな柄が好きかな?どんな水着だったらドキッとしてもらえるかな?どんな色が好きかな・・・。
そんな事ばかり考えて選んだ水着・・・。裕也はどんな反応をしてくれる?

「お待たせ~♪」
私達は男子がテントを引いてくれた浜辺まで急ぐと、熱い砂に足を取られながらも無事に彼らの元へとたどり着いた。
「おっせ~よ・・・。」
テントから軽く顔を出した裕也が文句を言いながら、私達を見つめると言葉を失っていた。
「・・・どう?」
美奈ちゃんが可愛い笑顔で、くるっと回った。
「・・・短足・・・。」
「はっ?」
裕也は照れ隠しにそう言うと、テントの中へと入ってしまった。
「おっ♪いいじゃん♪」
今度は先輩と淳也君が嬉しそうに顔を覗かせた。
「えへへっ♪」
先輩達が褒めてくれると私達は一安心して、テントの中へと入っていた。
まだ午前中なのに・・・浜辺には人がわいわいと楽しそうに群がっていた。私達と同じような友達同士の集団や家族連れ。女の子だけの集団。そのどれもが、煌めく海を見つめながら楽しい時間を過ごしていた。



「飲み物買ってくるね♪」
私はそう言うと、もう一度サンダルを履き直した。
「あっ・・・俺も行くよ♪」
そう言って私を追いかけてきてくれたのは、遠藤先輩だった。
「・・・ありがとうございます。」
「お前らは?何飲む?」
「う~ん・・・じゃあコーラで♪」
「私はサイダーがいいかな♪」
「OK♪じゃあちょっと行ってくるわ♪」
先輩はそう言うと、足場の悪い私の腕を支えながら歩きだした。



「・・・今日はありがとうございます。」
「・・・?何が?」
「・・・運転してもらって・・・。」
私は先輩といきなり二人になった事に緊張していた。何をしゃべればいいのぉ・・・。ドキドキ・・・。
「リリコってさ・・・。」
「・・・はい。」
「星野あゆみに似ているよね♪」
「えっ?」
「俺ら、大ファンなんだよね~♪」
「・・・。」
「だから、ちょっと二人で話してみたくて♪」
「先輩・・・。」
私は先輩の言葉にドキドキと胸が大きく高鳴るの感じた。・・・これってどういう事?
「いやぁ・・・でも何か楽しいね♪」
先輩は嬉しそうに海を眺めると、嬉しそうに言った。
「・・・はい。本当に♪私こういうの初めてで・・・。」
「そうなの?」
「・・・はい。」
「そっか。以外だね。なんか遊んでそうに見えたけど・・・。」
先輩は悪気なくそう言った。
「・・・はい。」
私は先輩の言葉に少しだけ嬉しさを感じた。ちゃんとメイクが出来ているって事だよね。だから遊んでいるみたいに見えたんだ。
これでいいの・・・。私がなりたかったのは、裕也の好きなギャルだから♪



「リリコって彼氏いるの?」
「えっ?」
「いやっ・・・可愛いから彼氏いるのかなぁと思って・・・。」
「・・・いませんよ。」
「そっか♪うん。分かった♪」
先輩は嬉しそうにそう言うと、さっきよりも笑顔で歩きだした。
さっきから先輩の言葉がどうも心を動揺させる。



「じゃあ買物しますか♪」
コンビニに到着すると、私達は皆に頼まれた飲み物をカゴいっぱいに詰め込んだ。
「ありがとうございます。」
コンビニを出ると私は先輩にお礼を言った。
「いえいえ♪」
皆の分の飲み物を奢ってくれた先輩。男らしくてカッコ良かった。
「その水着・・・。」
先輩はちらっと私の水着を見ると、少し照れた表情を浮かべた。
「・・・?」
「本当に可愛いね♪似合っている♪」
「先輩・・・。」
私は自分の水着をもう一度眺めて、その言葉を嬉しく感じた。良かった・・・。この水着を選んで・・・。
「ありがとう♪」
私は先輩に笑顔でお礼を言った。
可愛いって言われる事がこんなにも嬉しい事だって・・・知らなかった。




小さい頃は親戚のおじさんとか近所のおばさんが言ってくれたけど・・・。
メガネを掛けるようになってから、誰も可愛いなんて言葉をくれなくなった。黒髪メガネの理子には。
だから先輩の言葉をとても嬉しく思った。 



「お帰り~♪」
美奈ちゃんや陽菜ちゃんが嬉しそうに私達の帰りを迎えてくれた。
「お待たせ~♪」
「はい。ジュース♪」
先輩はそう言うと、皆にジュースを手渡しした。
「じゃあ、乾杯しますか♪」
私達は全員ジュースのふたを開けると、炭酸のシュワシュワの音と共に乾杯をした。
「かんぱーい♪」
「かんぱーい♪」
「うまぁ♪」
シュワシュワの炭酸が喉をうるおし、私達は皆笑顔になった。
「やっぱりコーラやな♪」
裕也も嬉しそうにコーラを見つめた。
「あれっ・・・?それって新商品のコーラ?」
みゆきちゃんはそう言うと、裕也のコーラを眺めた。
「・・・飲んでみる?」
「えっ・・・?」
みゆきちゃんは裕也の言葉を待っていましたとばかりに嬉しそうな表情を浮かべた。
・・・えっ・・・ちょっと・・・。
私は二人の様子を見つめながら、この後の展開を考えると、胸が苦しくなった。
裕也が飲んだコーラを・・・みゆきちゃんが・・・。


「本当だ♪美味しい~♪」
みゆきちゃんは嬉しそうの裕也に笑顔で見つめると裕也も嬉しそうに笑った。
・・・間接キス・・・。
私は目の前の二人の行動に、切なさがこみ上げてきた。
・・・間接キス・・・。嫌だ・・・。


「よしっ♪泳ぎに行こうか♪」
そんな私の気も知らないで、裕也は張り切ってテントから出ると、みゆきちゃんも嬉しそうに裕也に着いて行ってしまった。

「大丈夫?」
そんな様子を見ていた美奈ちゃんが再び私に声を掛けてくれた。
「・・・あっ・・・うん。」
「・・・まぁ・・・良くあることだよ。大丈夫♪裕也誰にでもあぁだから・・・。」
「・・・そうなんだ・・・。」
「彼女がいたらしないだろうけどね。今はフリーだからね。」
「そうだよね・・・。」
私はテントから遠くに見える海を見つめた。
・・・メイクをして・・・彼に近づいて・・・それだけで嬉しかったのに・・・。どうしてこうも人の欲求は増していくのだろう・・・。
裕也の中の特別な存在になりたい。私はこの時初めて強く思った。


「彼を一人占めしたい。」


初めての恋・・・。ドラマで見ていた恋はいつだって爽やか・・・そして最終的にはハッピーエンド。
好きな人といられるだけで嬉しくて元気の源で・・・。今までそうだったはずの恋が・・・今は違う感情が芽生え始めているの・・・。
その思いは苦しくて切なくて・・・嫌いじゃないのに、みゆきちゃんを疎んでしまう気持ち・・・。
これが・・・やきもちって言うのかな・・・。
今までの私とは違う。彼の事が絡むと、今までの私じゃなくなるの・・・。こんな気持ちになりたくないよ・・・。出来ればただ、今を楽しみたいのに・・・。



「分かるよ・・・。」
「えっ?」
「私も裕也を好きだった時、みゆきにやきもち焼いた事があるから。」
「美奈ちゃん。」
「人を好きになるって・・・知らなかった自分を知る事もあるかもしれない。」
「・・・。」
「今だって・・・両思いになったって悩みなんて尽きないし、泣いちゃう日もあるよ?」
「美奈ちゃん・・・。」
私は幸せそうな美奈ちゃんも同じ思いでいた事が何だか嬉しかった。
「裕也を諦めようと思った時だって、忘れるまでは辛くて仕方なかった。」
「・・・。」
「でもね、それだけじゃないの。」
「・・・?」
「恋をして素敵な事もいっぱいあった。例えば今は淳也と喧嘩しながらもやっぱり一緒にいると楽しいしね。」
「・・・うん。」
「自分次第だよ。恋だって頑張れば必ずうまくいく。だから悔いだけは残さない様にリリコらしくがんばって♪」
「・・・美奈ちゃん。」
私は美奈ちゃんの言葉に心が打たれた。
そう・・・何もしないで終わったら・・・何の意味もない。
勇気を出してメイクして渋谷に繰り出したあの日を思い出して・・・。裕也と近づきたい。その思いだけで動いていたあの日みたいに・・・。
まずは自分から・・・。
「ちょっと・・・行ってくる!」
「うん!」
私は海へ向かって行ってしまった裕也を追いかけて、熱い浜辺を一生懸命に走った。待っているだけじゃダメなんだ・・・。
まず自分から・・・。勇気を出して・・・。



「はぁ・・・はぁ・・・。」
「おっリリコ♪」
「あの・・・。」
「うん?」
「私も一緒に泳いでもいい?」
私は裕也の先に居る、みゆきちゃんの瞳を見つめて言った。
「・・・?もちろん♪なぁみゆき?」
「・・・。」
「・・・じゃあ・・・。」
「・・・私ちょっと飲み物飲んでくる。」
私が二人に合流しようとした瞬間にみゆきちゃんは怖い顔でそう言うと、私に目も合わさずにテントへと戻って行ってしまった。
・・・何か・・・悪い事しちゃったかな・・・。
私はみゆきちゃんの行動にまたも気持ちが落ちてしまった。・・・傷つけたいわけじゃないのに・・・。



「気にすんなや。」
「えっ・・・?」
私の落ち込んだ表情を和らげるかのように裕也はそう言うと、優しく微笑んだ。
「あいつは、まぁ・・・ちょっと気分屋の所があるだけやから。」
「・・・そっか。」
「別にリリコの事が嫌いとかじゃないと思うで♪」
「・・・裕也・・・。」
「ほらっ・・・せっかくの海や。楽しもう♪」
「・・・うん!」
私は裕也の優しい言葉で、少しだけ気持ちが緩やかになった。恋をするとどうしても浮き沈みしてしまう感情だけど・・・。暗い気持ちのまま好きな人と一緒にいるなんて嫌だ。せっかく裕也と二人っきりになれたんだもんね。
 

「リリコは泳げるん?」
「・・・ちょっとだけ?」
「そうなんや♪」
「裕也は?」
「俺?俺はもうすごいで♪中学の時は水泳部やったからな♪」
「すごーい♪」
「見ててみ♪」
裕也は得意気にそう言うと、冷たい海の中へと飛び込んだ。キラキラ飛び散る波しぶきが私の顔を濡らした。


「・・・綺麗・・・。」
裕也は得意のスイムでどんどんと遠くの方へと流れて行った。
その姿はまるでイルカのように、穏やかで綺麗なフォームだった。
・・・やっぱりこの人がいい・・・。泳ぎが得意だと自慢する裕也・・・。綺麗なフォームで海の中を泳ぐ裕也・・・。そのどれもが・・・大好きなの。
私は裕也を見つめながら、苦しくなる胸を抑えた。


「おーい♪リリコも~♪」
遠くから裕也が私を呼ぶ声が聞こえる。その声が優しくて、私はドキッとした。・・・泳ぎなんて得意じゃないけど・・・裕也の声のする方まで・・・。
私は意を決すると、冷たい海に飛び込んだ。浮輪をしたまま波しぶきに打たれながら・・・。


「おう~♪こっちやで。」
裕也のそばまでくると、嬉しそうに浮輪につかまった。
「はぁ・・・はぁ・・・。来られた~・・・。」
「良く頑張ったな♪」
「・・・ありがと♪」
「こっからは俺がいるから大丈夫や♪」
「・・・うん♪」
水の中で掴まれた腕・・・。私はドキドキしながら次の波を待った。
「波が来たら、俺の背中に掴まれよ~♪」
裕也は嬉しそうにそう言うと、私は体を浮き輪に入れたまま裕也の肩につかまった。
ドキドキ・・・ドキドキ・・・。
「きたで~♪」
前から少し大きめの波が来ると、裕也は体を流れに任せた。そして私も裕也の肩に捕まって、二人で波にうまく乗れた。
「楽しい~♪」
「せやろ?」
「うん♪」
「おっ・・・また来るで♪」
「うん♪」
楽しくて・・・胸が高鳴る。でもこの距離・・・。心臓が飛び出してしまいまそう。裕也の耳に私のドキドキ・・・聞こえていないかな?


「・・・おっ淳也達や♪」
裕也は嬉しそうにそう言うと、私の浮き輪のひもを引っ張りながら、純也君達のいる方へと泳ぎ出した。
 
「やっほ~♪」
美奈ちゃん達も可愛く浮輪でプカプカしながら私達に手を振った。
「気持ちいいね~♪」
「最高だね~♪」
みゆきちゃん以外の女の子は合流すると、そのまま波に身を任せて空を見上げた。海を漂っているだけで気持ちいいなぁ・・・。
「・・・みゆきちゃんは?」
「・・・なんかテントで休んでいるって。」
「・・・そっか・・・。」
私はまた申し訳ない気持ちがこみ上げてきた。
「・・・大丈夫だよ♪」
「・・・うん♪」
「それよりさ・・・裕也といい感じだったじゃん♪」
「・・・うん。」
私は淳也君達と楽しそうに潜ってはしゃいでいる裕也を見つめた。
「えっ・・・?それどういう事?」
何も知らない陽菜ちゃんが浮き輪の中で可愛く首をかしげた。
「・・・あのね、私・・・。」
陽菜ちゃんにも言っておきたい・・・。この気持ち。いつも明るくて優しい陽菜ちゃんにも知っていてもらいたい。
「・・・裕也の事が好きなの・・・。」
「えっ?えっ~・・・?まじで?」
陽菜ちゃんは驚いた顔で私を見つめた。
「・・・どこが?」
陽菜ちゃんの最初の言葉。何だか可笑しくて笑ってしまった。
「どこが・・・う~ん・・・雰囲気かな?」
「へぇ・・・あっそう・・・ふ~ん・・・。」
裕也に興味のない陽菜ちゃんはいまいち理解出来ないような返事をした。
「なんか魅力的なんだよね~♪」
美奈ちゃんが私に向かって微笑んだ。
「そう♪そうなの♪」
「そっか・・・。分かった♪応援するよ。」
陽菜ちゃんは優しくそう言うと、また笑顔で微笑んだ。
「・・・陽菜ちゃんは好きな人いないの?」
私は今まで聞いた事のなかった陽菜ちゃんの恋愛話に興味を持った。
「えっ・・・?私?」
「うん♪陽菜ちゃん可愛いし、彼氏とかいるのかなぁと思って♪」
「私はね~・・・。」
陽菜ちゃんは言葉に詰まると、その後に顔を上げて少し淋しげな瞳で私を見た。
「元彼かな・・・。」
「えっ?そうなの?」
「・・・そう・・・。実は、引きづっていて・・・。」
陽菜ちゃんは悔しそうに言った。
「・・・元彼・・・。」
「一年生の時に付き合っていた彼なんだけど・・・私が遊びたくて別れちゃったの。恥ずかしいのだけどまだそいつの事スキって言うか・・・。」
「・・・陽菜ちゃん。」
私はいつも元気で明るい陽菜ちゃんの切ない思いに驚いた。陽菜ちゃんも・・・恋愛で苦しい思いをしていたんだ・・・。
「陽菜の場合ね、今その人に彼女がいるから、余計・・・ね?」
「そう・・・あの時別れていなかったらって・・・何度も思った。」
「・・・そっか・・・。」
「でもね、別れて後悔した事もあったけど、良かった事もあったよ。今・・・こうして皆と海に来られている事とか♪」
「・・・陽菜ちゃん。」
「束縛の激しい奴だったからね。付き合っていたらこういう事出来なったもん。」
「それは言えている♪」
「だから、最近はまた新しい恋したいって思っているよ♪」
「うん。うん・・・。」
「誰かを好きになるって奇跡だよね。辛い事もたくさんあるけど、やっぱり最後は恋して良かったって思える♪」
「美奈ちゃん・・・。」
「幸せになれるように、皆でがんばろ♪」
「うん!」
女の子だけのガールズトーク。海の中で・・・プカプカ浮き輪に揺られながら。皆色々な思いを経験してきている。
だからこそ、キラキラ輝いて眩しいくらいに可愛いんだ・・・。
卑屈に生きていた理子は・・・輝いている子を見ると嫉妬していたけど・・・可愛い子だって色々な事で悩んでいたんだ・・・。
私と一緒だったんだ・・・。
私はそう思うと、優しい二人の幸せを本気で願った。どうか美奈ちゃんも陽菜ちゃんも幸せになれますように・・・。そしてみゆきちゃんも・・・。


「・・・私ちょっと行ってくる。」
私は思い出したかのように、そう言うと、今度はテントにいるみゆきちゃんの元へと向かって浮輪で一生懸命に泳いだ。
・・・中途半端にじゃなくて・・・ちゃんとみゆきちゃんにも伝えよう。裕也の事。そしたら分かってくれるかもしれない。
勇気を出して・・・。

波打ち際まで来ると、私は重い足を一所懸命に踏みしめて立ちあがった。ずっと海にいたせいか少し風が吹くだけで寒さを感じたけど・・・。みゆきちゃんは今テントで何を思っているの?
大きい浮輪をテントの外に置くと、私は軽くタオルで水着を拭いてからテントを覗き込んだ。



「・・・みゆきちゃん・・・?」
「・・・なに?」
「ちょっと話があるんだけど・・・。」
「・・・なに?」
みゆきちゃんはそう言うと、テントから出てきてくれた。
「・・・さっきはごめんね。」
「・・・。」
「・・・私ね・・・。」
「分かっている。」
「えっ?裕也が好きなんでしょ?」
「みゆきちゃん・・・。」
「すぐに分かるよ。リリコちゃんの目見れば。」
「・・・そっか・・・。」
「私も・・・裕也がずっと好きだった。告白した事もあるよ。二度も・・・。」
「えっ?」
私はみゆきちゃんの口から出てきた「告白」という言葉に驚いた。
みゆきちゃんはきちんと自分の気持ちを伝えていたんだ・・・。
「でもダメ・・・。」
「・・・。」
「辛かったよ。どんなに頑張っても裕也は私を見てくれない・・・。」
「・・・みゆきちゃん。」
「いつからか、裕也を好きな子は皆敵になったの・・・。だから・・・。」
あの態度・・・。
「分かるよ・・・。」
「えっ?」
「私もさっきみゆきちゃんに嫉妬したから・・・。」
「・・・。」
「仲良くしている二人を見ているのが辛かった・・・。羨ましいと思った。みゆきちゃんになれたらって思った・・・。」
「・・・リリコちゃん。」
「・・・でも諦めたくない。ごめんね。私も私なりに頑張っても・・・いいかな?」
「・・・こんな・・・。」
「えっ?」
「こんな真っすぐ来た人初めて・・・。」
みゆきちゃんは少し笑いながらそう言った。
「・・・?」
「私の態度の悪さで、裕也の事好きな女の子は裕也を諦めるか、こっそり好きでいるかのどっちかだった。わざと私の協力をしようとして裏切った子もいたよ。」
「・・・そっか。」
「遠慮していたんだろうね。私に。でもリリコちゃんは違うね。」
「・・・うん。だって人を好きになる事は悪い事じゃないもの・・・。」
「・・・そう・・・そうだよね・・・。」
私の言葉を聞いた瞬間にみゆきちゃんは少し暗い表情になった。
「・・・どうしたの?」
「・・・うん。私もね・・・。」
「うん。」
「どこかで意地になっていたのかも・・・。」
「・・・意地?」
「例えばこうやって、一人テントで休んでいれば優しい裕也が心配してきてれるとか期待したり・・・裕也を好きな子に攻撃的になったり・・・。」
「・・・。」
「裕也を最初に好きなった時のキラキラした気持ち・・・今思い出した。」
「・・・みゆきちゃん。」
「嬉しかった。今のリリコちゃんみたいに・・・好きな人の存在だけで世界が輝くんだと知ったの。裕也が笑うだけで、世界がお花畑に包まれるみたいに明るくなって・・・話せただけでその日は興奮して眠れなくなって・・・。」
「うん。」
・・・その気持ち分かる・・・。そう人を好きになるって・・・世界が輝くんだよね。その人がいるだけで嬉しくて、目が合えば心が幸せで満たされて・・・。
そう・・・最初・・・裕也を好きになった時・・・私も同じ気持ちだった。
「なのに・・・私は・・・。」
「・・・。」
「純粋な気持ちを忘れて・・・少し計算高くなっていたのかな・・・。」
「みゆきちゃん・・・。」
「そんな私の事裕也は好きになってくれるはず・・・ないよね。」
二人の間に暑い熱風が掠めて行った。キラキラ輝く海は目の前にあるのに・・・それが何故か遠くに感じた。
「・・・もう一度・・・。」
「えっ?」
「純粋な気持ちでぶつかってみようかな・・・。」
「みゆきちゃん・・・。」
「・・・ライバルだね♪」
「えっ?」
「リリコちゃんが大切な気持ち・・・思い出させてくれた。」
「・・・そんな・・・。」
「でも負けないよ♪」
「みゆきちゃん・・・。」
「正々堂々戦ってみよ♪お互いに悔いのないように・・・。」
みゆきちゃんはそう言うと、強い目で私に手を差しのべた。

・・・まずい・・・最強のライバルを自分で作ってしまったかもしれない・・・。でも・・・。
「私も絶対に負けないから♪」
私はそう言うと、みゆきちゃんの手を握りお互いに微笑み合った。
そう・・・純粋な気持ちこそ、好きな人を振り向かせるために大切な気持ち・・・。自分のエゴを捨てて・・・今もう一度彼の事を心から想う。
大好きな裕也・・・どっちが彼女になっても恨みっこなし。その分・・・精一杯頑張るから・・・。



「なぁに、仲良くなってんの?」
ちょうどいいタイミングで裕也が嬉しそうに戻ってきた。
「ガールズトーク・・・していたの♪裕也には内緒♪」
みゆきちゃんはそう言うと、私の目を見て可愛く微笑んだ。
「なんだそれ♪」
「ねっ♪リリコ♪」
「・・・みゆきちゃん・・・。」
みゆきちゃんが呼び捨てにしてくれた・・・。その事が嬉しくて、私は少しだけ下を向いた。


少し前まで自分が嘘みたい・・・。今ここには大切な友達がいて・・・好きな人がいて・・・そしてライバルがいる・・・。
ずっと一人で完結していた世界が広がると・・・感動して涙が溢れそうな瞬間に出会うの・・・。そしてそれが今・・・。ライバルのみゆきちゃんと、裕也と三人でのんびり海を眺めているこの時間が私には幸福そのものだった。



「おぉ~い♪」
少しすると、海の方から皆が笑顔で引き挙げてきた。そんな皆に私達も手を振った。
「あれっ?みゆきの機嫌が直っている♪」
遠藤先輩はからかうように、みゆきちゃんを見た。
「うるさい!お兄ちゃんは・・・。ナンパでもしてくれば?」
「おっ・・・それは俺がイケメンって意味かい?」
「違うよ!ナンパして振られて、少し静かにしていてよ~・・・。」
「ひどい妹だよ♪」
「・・・うるさい!」
遠藤兄弟のミニコント。私達はそんな可愛いらしいやり取りに笑顔に包まれた。あぁ・・・やっぱりいいなぁ・・・。すごく楽しい。



「昼飯にする?」
裕也はそう言うと、嬉しそうに屋台を指差した。
「おっ・・・もうそんな時間か・・・。そういえば腹減ったな。」
「賛成~♪買いに行こう♪」
みゆきちゃんはそう言うと、一瞬私に微笑んで、裕也の腕を掴んで引っ張った。
さすが積極的・・・。でもまぁ・・・それがみゆきちゃんのやり方ね。
「ほらっ・・・お前らも行くで♪」
みゆきちゃんに引っ張られながらも、裕也は私達にそう言うと、おいでおいでと手を振った。
「はいはい♪」
私達はそう返事をすると、タオル地のパーカーを羽織って、ビーチサンダルをはいて歩きだした。
何故か不思議とみゆきちゃんに嫉妬していた気持ちがなくなっていた。



「迷うわ・・・。」
海の家の前に来ると、裕也は真剣な表情でメニューを見ていた。そこにはみゆきちゃんの姿はなかった。
「・・・どうしたの?」
「いやっ・・・カレーにするかラーメンにするか・・・。う~ん・・・。」
「・・・確かに迷うね・・・。」
私はさりげなく裕也の隣に並ぶと、同じようにメニュー表を眺めながら考えるふりをしながら裕也を見つめた。
子供みたい・・・。カレーかラーメンで迷うなんて・・・。可愛いなぁ・・・。私は真剣な眼差しの裕也に愛おしさを感じた。

「よっしゃ!決めた!」
裕也はそう言うと、嬉しそうに私を見つめた。
・・・ドキッ!
「どっどっちにしたの?」
「カレーうどん♪」
「えっ?」
「麺とカレーどっちも食えるやん♪それにカレーうどんってあまり外れないしな♪」
裕也は一人納得したようにそう言うと、嬉しそうに注文しにいってしまった。

「・・・あぁ・・・そう・・・。」
私はそんな裕也の背中を見つめながら、頭を掻いた。
誰にでも真っすぐで、注文一つに真剣な裕也・・・。渋谷で遊んでいる割には浮いた噂話もない・・・。
そんな裕也の好きな人って一体どんな人なのだろう・・・。裕也はきっと曲げない。好きな子一筋な男気のある人・・・。
そんな裕也を振り向かせるなんて・・・可能なの?
私は急にそんな不安に襲われ始めた・・・。でも・・・。



「お~い・・・リリコ~♪」
注文中の裕也が笑顔で手招きした。
「あっ・・・うん♪」
私は呼ばれるままに、裕也の元へと急いだ。
「お前は?」
「えっ?」
「さっき悩みに付き合ってくれたお礼♪おごったるわ♪」
裕也はそう言うと、得意気に笑った。
「裕也・・・。」
私は裕也の優しさに胸が熱くなった。
私の不安をすぐに解消してくれる優しさ・・・。ダメだ・・・。やっぱり私この人が好き・・・。
「じゃあ・・・裕也と一緒で♪」
「おっ・・・センスええなぁ♪じゃあ、兄ちゃん、カレーうどん二つで♪」
「はいよ♪」
お兄さんはそう言うと、嬉しそうに厨房へと入って行った。
「・・・ありがとう。」
「ええねん♪夏休みいっぱい稼いだからな♪」
「・・・何のバイトしているのだっけ?」
「俺は地道にスタンドや。」
ガソリンスタンド・・・。
「・・・楽しい?」
「そうやな♪学校とは違う友達も出来るし楽しいで♪」
「そっか♪」
「リリコは?」
「えっ?」
「バイトしてるん?」
「・・・私はしてないよ♪」
「そうなんや・・・。」
裕也は少し不思議そうに言った。
「あっ・・・でもそろそろ始めたいなとは思っている。」
「リリコならカラオケボックスとかえんちゃう?」
「カラオケか・・・。」
「なんか合っている♪」
「ありがとう♪」
バイトなんて・・・架空の話し・・・。うちの両親が絶対に許さない。でも裕也と話を合わせたくて・・・ついつい嘘をついてしまった。
本性がばれたくなくて、何度嘘をついただろう・・・。

「はい。お待ちどう♪」
海の家のお兄さんかは嬉しそうに言うと、私と裕也は熱々のカレーうどんを持って、テントへと二人仲良く急いだ。



「おっ・・・お二人さんはカレーうどんか♪」
テントに戻ると、淳也君が嬉しそうに言った。
「淳也は?何にしたん?」
「俺は焼きそば♪」
「私達はアボカドとサーモン丼だよ♪」
美奈ちゃんと陽菜ちゃんが嬉しそうに言った。
「お洒落やなぁ♪」
「まぁね♪」
「でっ・・・先輩とみゆきは?」
「あぁ・・・何か、揉めながら歩いていたよ。」
「そっか・・・♪」
「じゃあ、うどんも伸びちゃうし・・・先に食べちゃうか♪」
「そうだね♪」
薄情な私達は、先輩とみゆきちゃんよりも先に食べ始めてしまった。



「ただいま~♪」
先輩とみゆきちゃんは大量のハマグリの串刺しを持って戻ってきた。
「すご~い♪」
「俺のおごりや♪」
先輩はそう言うと、一人一人にハマグリを手渡した。
「うわぁ・・・ありがとうございます。」
「うまそうだったら。皆で食べよう♪」
「ありがとうございま~す♪」
私達は先輩にお礼を言うと、ハマグリを頬張った。
一瞬、固い触感が合って、その後すぐに磯の匂いが口いっぱいに広がった。そして後からバターしょうゆの風味が追いかけてきた。
「・・・おいひぃ・・・。」
「本当?良かった~♪」
先輩とみゆきちゃんは嬉しそうに顔を見合わせた。
二人が揉めている原因がこれだったんだね・・・。
「よっし♪食べたら、また泳ぐで♪」
裕也は明るい笑顔でそう言うと、私達は楽しくご飯をたいらげた。



「夜も海鮮食べたいね~♪海鮮バーベキュー♪」
美奈ちゃんが嬉しそうに言った。
「あっ・・・それだったら、近くにお魚市場があるから、帰りに寄ろうか♪」
先輩が得意気に言った。
「わぁ♪素敵♪」
美奈ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
「やっぱり海に来たからには海鮮やな♪」
裕也も嬉しそうに言った。
「うん♪」
これから・・・また海で泳いで、疲れたら休んで・・・帰りにはお魚市場に寄って夜は海鮮バーベキュー・・・なんて素敵なちょっと先の未来。
私は嬉しさのあまりつい顔がにやけてしまった。



・・・でも、そんなに素敵な未来がたった一本の電話に寄って最悪の夜になってしまう事を私はまだ知らなかった。



「海最高だったね~♪」
「超気持ちよかった♪」
私達はあの後も、一生懸命海で遊び、たくさんの思い出を作った。皆で鬼ごっこしてみたりビーチフラッグをしたり・・・。
思い出すだけで笑顔になってしまうよ・・・。

「おっ・・・あった。」
先輩がそう視線の先に、大きいお魚市場が見えた。
「・・・ちょっと道の駅みたいだね。」
「ほんまやね。ここで全部材料揃えられそうやな♪」
「うん♪」
先輩の車は左にウインカーを出すと、そのままお魚市場の駐車場で車は止まった。
「行こう♪」
 
私達は全員で車を降りると、大きい看板の前で写真を撮った。そしてそのままお店の中へと入って行った。



「うわぁ・・・。」
お店の中には水槽に入っている魚が悠々と泳いでいた。
「うまそう~♪」
「こちら、このまま裁きますからね。新鮮ですよ♪」
店員さんが嬉しそうに近づいてきた。
このまま裁くのか・・・。凄い・・・。
「さばいてもらって、焼く?」
「ええやん♪」
「じゃあ、これとこれをお願いします。」
「はい。かしこまりました。」
「後は、貝類?」
「そうやね♪」
「あっ!ハマグリとあさりがあるよ♪」
美奈ちゃんが嬉しそうに皆を手招きした。
「おっ♪ええやん♪」
裕也は貝を目の前にして嬉しそうだった。
「じゃあ、これと、これと♪」
「ホタテもあるよ~♪食べたい♪」
陽菜ちゃんが嬉しそうにホタテの貝を持ってきた。
「OK♪ホタテも買おう♪」
「ホタテバターしょうゆ♪最高だね~♪」
美奈ちゃんが嬉しそうに言った。
「したら、魚介類はこれでええ感じやな♪」
「じゃあ、次は野菜だね♪」
私達は海鮮を選び終えると、今度は野菜売り場へと足を運んだ。
「あっ!アスパラ焼こうや♪」
子供みたいに裕也がはしゃいでいた。
「リリコは?なんか食べたいものある?」
皆の様子を覗っていた私に陽菜ちゃんが優しく声を掛けてくれた。
「うん♪じゃあ、トウモロコシ♪」
私は目の前にあるトウモロコシを手にすると、陽菜ちゃんを見た。
「いいねぇ♪最高じゃん。」
「トウモロコシ?リリコいいねぇ♪」
美奈ちゃんも嬉しそうに言った。
「トウモロコシを焼いて、その上から少し醤油を塗ろうよ♪」
「いいねぇ♪想像しただけで美味しそう♪」
「うん♪うん♪」
「あっ・・・あと、きのこも買おうよ♪バターしょうゆで食べたい♪」
「いいねぇ♪」
私達は、気に行った食材をどんどんかごの中に入れた。
買い物するだけでこんなにも楽しいなんて♪私の胸は嬉しさでいっぱいだった。・・・そんな時・・・。
「・・・あれっ?」
「・・・どうしたの?」
「リリコ・・・まつ毛取れているよ。」
陽菜ちゃんはそう言うと、私の顔の近くに来た。
・・・まつげ?えっ・・・?
「本当だ。」
美奈ちゃんもそう言うと、私の顔に近づいてきた。
「顔にも着いていないし、失くしちゃった?」
「・・・あっ・・・。」
私は海に濡れてしまったつけまつげを、そのままもう一度くっつけた。だから取れちゃったんだ・・・。つけまつげ一つで顔が変わるから・・・。
私はドキドキしたまま目をつぶった。
「リリコ?・・・あれ?」
私の顔を近くで見ていた陽菜ちゃんが少しだけ不思議そうな顔をした。
「・・・あっ・・・ちょっと直してくる♪」


 
私は替えのつけまつげがある事を思い出すと、その場から逃げるようにトイレへと向かった。陽菜ちゃんに美奈ちゃん・・・。私が理子だって気付いていないよね?
私はつけまつげ一つで心臓が飛び出しそうなほどにドキドキした。
素顔がばれたら・・・もう友達でいられなくなってしまう・・・。




「いやぁ・・・いい買い物出来たね♪」
私達は大満足にお魚市場を出ると、今日お世話になる貸別荘へと急いだ。
ホテルや旅館と違ってリーズナブルな貸別荘。海の近くに佇む家は、その周辺に何軒も立ち並び、バーベキューや花火を楽しめるようになっていた。


「ここかぁ・・・。」
私達は車から降りると、目の前には家が建っていた。
本当にただの家。別荘と言う名の家。でも私達にとっては最高の宿泊先だった。

「よしっ♪じゃあバーベキューの準備をするか♪」
「おう♪」
遠藤先輩を中心に、野菜を切る人、米を研ぐ人、火を起こす人などに分担され、私は陽菜ちゃんと一緒に野菜を切る係りになった。



「なんか楽しいね♪」
陽菜ちゃんは嬉しそうに言った。
「うん♪」
「林間学校みたい♪」
「本当だね~♪」
「陽菜ちゃん、すごくうまいね。」
私は陽菜ちゃんの手元を見て驚いた。さくさくと手際よく野菜を綺麗に切って行く。
「料理好きなんだよね。高校出たら調理師の学校に行こうと思って♪」
陽菜ちゃんは少し照れくさそうにそう言うと、笑って見せた。
「そうなんだ♪素敵♪」
同じ年なのに、陽菜ちゃんはちゃんと初来の事を考えているんだ。えらいなぁ・・・。
「リリコはもう進路決めた?」
「・・・私は・・・。」
陽菜ちゃんの質問に私は困惑した。まだ将来の事なんて何も考えていなかった。
「・・・探し中かな。」
私は笑顔で陽菜ちゃんにそう言った。
「そっか♪好きな事見つかるといいね♪」
陽菜ちゃんは優しくそう言うと、また視線を野菜へと落とした。
 
一見遊んでいるように見える陽菜ちゃんがあまりにもしっかりと将来の事を考えていたので、私は一瞬だけ嫉妬を感じた。
料理が好きでその道に進みたい・・・。そんな思いをちゃんと持っている陽菜ちゃん。

「出来た!」
私達は野菜を全部切り終えると、庭にいる皆の元へと急いだ。

「あっ!火ついている♪」
「本当だ♪」
「おっ!野菜切れた?」
「うん♪」
「じゃあ、焼きますか?」
「うん♪」
熱々のあみにまだ新鮮なお野菜とお魚を乗せた。
「やばい♪テンション上がるね♪」
陽菜ちゃんはそう言うと、嬉しそうに火を見つめた。
「じゃあ、焼けるまでもう少しかかるから、先に乾杯しますか♪」
「うん♪」
私達は手にコップをもつと、シュワシュワのサイダーを一気に注いで乾杯した。
「乾杯~♪」
「乾杯~♪」



「美味しい~♪」
「いいねぇ~♪」
火照った体に冷たいサイダーがシュワシュワと喉を潤す。何とも言えない爽快感。
「じゃあ食べよう♪」
「うん♪」
「いただきます♪」
私達は、いい匂いに包まれながら、網の上で踊る魚介類を順番に口に入れた。鼻からほわっと抜ける磯の匂いが幸せを運んでくれた。
「美味しい~♪」
「最高~♪」
私達は新鮮な魚介類に夢中になりながら、楽しい会話に花を咲かせた。




「お腹いっぱい~♪」
「食べたぁ♪」
「美味しかったぁ♪」
私達は口々にそう言うと、その辺の椅子に座りながら、空を見上げた。
「星が綺麗・・・。」
「本当だ。」
「東京の夜空と違うね。」
「うん。」
見上げた空には、キラキラと輝く星が空いっぱいに広がっていた。
「気持ちいいね・・・。」
目を閉じると、サラサラとした風が吹き抜けて行った。その風の心地よさにまた幸せを感じた。
「花火しようよ♪」
遠藤先輩は、思いついたかのようにそう言うと、嬉しそうに笑った。
「ええやん♪」
裕也も嬉しそうにそう言うと、椅子から立ち上がった。
「私もする♪」
みゆきちゃんも裕也の言葉に感化されて嬉しそうに立ちあがった。
「じゃあ、花火を買い出しに行く人を決めよう♪」
「OK♪」
私達は、全体的に丸くなると、握りこぶしを作った。
「じゃん・・・けん・・・ぽん!」
先輩の掛け声で、皆が一斉に手を出した。
「あっ・・・。」
勝負は一発で決まってしまった。
私と裕也・・・同じグーで負けてしまった。
「はい。リリコと裕也が買い出し~♪」
先輩は嬉しそうにそう言うと、私達にお金を預けた。
裕也と二人きりで買い出し・・・。私はついていない自分が最高に嬉しかった。
「俺ら、先に海の方に行っているから♪」
先輩はそう言うと、脱いでいた上着を羽織った。



「・・・じゃあ、まぁ行ってきますわ。」
裕也はそう言うと、軽く私の手を取り歩き出した。
夏空の元・・・真っ暗な道を裕也と歩く・・・。
胸が高鳴って、うまく隣を歩けない。


「ついてなかったね~・・・。」
私は、ドキドキしながら裕也に声を掛けた。
「そう?まぁ・・・そうやな。」
裕也は振り向きをせずにそう言った。
「・・・でも超楽しいね♪」
「そうやな♪」
「誘ってくれてありがとう。」
「うん。」
「なんか・・・私なんて場違いなのに・・・皆優しくて。」
私はつい裕也に本音を言ってしまった。
「場違い?なんで?」
裕也は眉間に皺を寄せて立ち止まった。
「あっ・・・。」
私は裕也の怒った顔かに少し戸惑った。まずい発言しちゃったかな・・・。
「・・・場違いなんかじゃないで。皆リリコの事好きやし。」
「裕也・・・。」
「・・・リリコはおもろい奴や♪」
「・・・でも本当の私を知ったら・・・。」
私は下を向いた。
「なに?本当のリリコって?今だって本当のリリコやん。」
「・・・そうだけど・・・。」
「ありのままでええやん。」
「えっ?」
「俺だって、今リリコの前にいる俺だけが全てじゃないけど、いつだってありのままだと思っている。」
「・・・。」
「人は生まれながらにして完璧やねん。だから誰かと比べるような事しても意味がないと思うねん。」
「裕也・・・。」
「ありのままでいいと思う。」
「うん・・・。」
私は裕也の言葉に涙が溢れそうになった。人と比べてもしょうがない・・・。裕也がいつも自由で楽しそうだったのは、人と比べたりしてなかったから・・・。いつだって自分らしくいたからなんだ。
「・・・裕也には夢がある?」
「夢・・・?」
サラサラと心地よい風が私達を包み込んだ。さっき陽菜ちゃんが教えてくれた将来の夢・・・。
裕也はどんな夢を持っているのか、急に知りたくなったの・・・。
「俺は・・・。」
「うん。」
「・・・車が好きやから、そうやな。そういう会社に就職して、おかんに楽させてあげたいわ♪」
「素敵・・・。」
「まぁ・・・大それた夢ではないけど、やっぱり好きな事に関わって生きたい。」
「うん・・・。絶対に叶うよ♪」
「おおきに♪」
裕也はそう言うと、少し恥ずかしそうに笑った。
「リリコの夢は?」
「・・・私は模索中・・・。でも見つけたいな。夢中になれる事。」
「うん。見つかるよ。リリコなら♪」
「・・・ありがとう。」
私は裕也に笑顔を送ると、心が楽になって行く事に気がついた。何故かな・・・。裕也には本音で話せる。色々な事を・・・。それが不思議・・・。

「あっ・・・ちょっ・・・リリコ、耳澄ましてみ?」
裕也はそう言うと、嬉しそうに目をつぶった。
「・・・うん。」
私は言われるままに耳を澄ますと、遠くの方から、波の音が微かに耳に届いた。
「波の音だ・・・。」
「ええなぁ・・・。」
「匂いもする・・・。」
「ほんまや・・・。」
私達はお互いに目をつぶったまま、意識を海へと向けた。静かになり響く波の音が、心を綺麗にしてくれているように感じた。

「あっ・・・そうだ。これっ・・・。」
裕也は瞳を空けると、少し照れくさそうに手を開いた。
「・・・えっ?」
そこにはキラキラ輝くピンク色の桜貝があった。
「・・・なんかリリコっぽいかなぁ・・・と思って・・・。さっき海で拾ってん。」
「裕也・・・。」
私は裕也の手からそっと貝殻を受け取ると、あまりの可愛さに涙が溢れそうになった。
「ありがとう・・・。」
「・・・うん。」
「・・・うん。」
何となく照れ臭い空気・・・。私は涙を堪えながら裕也を見上げた。
「・・・さっきの嘘じゃないで。」
「えっ?」
「俺はありのままでええと思う。」
「・・・。」
「どんなリリコでもきっと・・・。」
「・・・きっと?」
裕也の真剣な眼差し・・・私はドキドキしながら言葉の続きを待った。



「♪~♪~♪」
其の瞬間に、タイミング良く私の携帯電話が鳴り響いた。
・・・こんないい雰囲気だったのに・・・。

「・・・ごめん・・・。」
「ええよ♪」
「すぐに切るから・・・。」
私は裕也にそう言うと、着信を見た。そこには富永さんの名前があった。


「もしもし?」
「あっ・・・お嬢様ですか?」
「ごめん・・・今取り込んでいて・・・後でかけ直してもいい?」
「・・・帰りになられました・・・。」
「えっ?」
「御主人さまと奥様がお帰りになられました・・・。」
富永さんの青ざめた声・・・。そして私は其の瞬間、血の気が引いて行くのを感じだ。
「・・・えっなんで?」
「事情はお話しさせていただきました・・・。」
「そんな・・・。」
「大変、お怒りでございます・・・。今すぐに帰ってこられますか?」
「・・・今から・・・。」
タクシーを使ってでも帰ってこいって事だよね・・・。でもなんで?なんで急に帰ってくるの?
「・・・分かった・・・。」
「私も出来る限りのフォローはしますので・・・。」
「・・・うん。大丈夫・・・。富永さんのせいじゃないのに・・・巻き込んでごめんね。」
「・・・はい。では・・・。」
富永さんはそう言うと、足早に電話が切れた。
真っ青な私の顔を見て、裕也は眉間に皺を寄せた。
「・・・どうしたん?」
「・・・うん。ちょっと家庭内トラブル・・・。」
「・・・。」
「ごめん・・・。どうしても帰らなくちゃいけなくて・・・。」
「・・・今から?」
「・・・今から・・・。」
「・・・明日やあかんの?」
「・・・うん。」
「そっか・・・。」
「とりあえず、荷物があるから別荘に戻って、それからタクシー拾って帰るね。」
「リリコ・・・。」
「・・・皆には裕也から事情を説明してもらってもいいかな?」
「・・・ええけど・・・。」
「じゃあ、行くね・・・。」
「・・・うん。」
私は裕也にそう言うと、足早に別荘へと急いだ。誰もいない別荘・・・。私は自分の荷物を軽くまとめると、後ろ髪引かれながらも別荘を後にした。
空には輝く星が東京よりもずっと綺麗に輝いて・・・。
どうして私だけ・・・こんな家に生まれてしまったのだろう・・・。
この星の元・・・帰って来る日が後一日遅かったら・・・。
 


「リリコ・・・。」
大通りでタクシーを待っていると、息を切らして裕也が現れた。
「裕也・・・。」
「なんか・・・」
「・・・?」
「ごめんな・・・。」
「えっ?」
「俺がガキやから、なんもしてあげられなくて・・・。」
「裕也・・・。」
「・・・くやしいわ・・・。」
「・・・せいじゃないよ?」
「えっ?」
「裕也のせいじゃないよ・・・。悪いのは私なの。だから気にしないで・・・。」
「・・・また会えるよな?」
「・・・。」
私は裕也の言葉に口を噤んだ。
両親にばれたら終わりなの・・・。金髪もメイクも終わり・・・。黒髪メガネじゃ会いには行けない・・・裕也がどんなにありのままでいいと言ってくれても・・・。



「バイバイ・・・。」
私はそう言うと、タクシーに乗り込んだ。
きっとこれが最後・・・。リリコとして裕也に会うのは・・・。また二学期から理子として皆を見て行けたら・・・それだけでも十分じゃないか・・・。

私はタクシーに行き先を告げると、一人堪えていた涙をこぼした。震える手を抱えたまま。
 
どうしてこんな事になってしまったのだろう・・・。私は目を瞑りさっきの電話を思い返していた。
富永さん・・・全部話したって言っていたけど、どこまで話したのだろう。そしてどうして今日なの・・・?
明日だったら・・・何事もなく終わっていたのに・・・。どこまでもついていない。
でも昔聞いた事がある・・・。自分のした事が必ず自分に返ってくる。これってそういう事なのかな・・・。
私は一人頭を抱えてそんな事を思っていた。確かに私は両親との約束を破った。
夏休みが始まる前・・・お母さんは真剣な瞳で言っていた。



「お母さん達がいないからって、だらけずに、きちんとした生活を送ってね。」
私はその時、思いっきり「はい。」と言ったのに・・・。
私はお母さんとの約束を思い出してさらに気が重くなった。 今まで演じてきた「いい子」その全てを裏切った事になる・・・。分かっていた事だったけど・・・。本当は分かっていなかったのかもしれない・・・。
 



「料金が二万五千円になります。」
運転手さんがそう告げると、私はお財布からクレジットカードを出して支払った。以前何か合った時に使えとお守り代わりにお財布に入れていたカード。まさか今日使うなんて夢にも思っていなかった。

私は走り去る車を見送ると、泣き腫らした目をこすり、恐怖を抱えたまま立ちつくした。タクシーの中で何度も願った。一秒でも遅く着いてほしいと・・・。
怖い・・・。きっと家には怒り狂ったパパがいる・・・。あぁ・・・どうしよう・・・。

なかなか家へと入れない。このまま逃げ出してしまいたいくらい・・・。この金髪を見たら・・・?メイクを見たら・・・?パパはもっと怒るだろう・・・。でも・・・。

私はさっき裕也と話した会話を思い出していた。

「ありのままでいい。」

そう・・・これもありのままの私なんだ・・・。私の中でずっと願っていた思い。ただそれを実現させただけ・・・。このありのままの私を・・・

私は震える足を、一歩踏み出すと家の玄関に立った。
言い訳はしない・・・。

「ピーンポーン・・・」
私は勇気を振り絞ってチャイムを鳴らした。
チャイムを鳴らすのにこんなに緊張したのは、きっと初めてだ・・・。



「・・・おかえりなさいませ・・・」
とっくに就業時間が過ぎている富永さんが申し訳なさそうな顔で玄関を空けてくれた。
「ありがとう。」
「・・・お嬢様ごめんなさい・・・。」
「・・・富永さんのせいじゃないよ。・・・大丈夫・・・。」
私はそう言うと、ドキドキして潰れそうな心臓を抱えたまま靴を脱いで、両親が待つリビングへと急いだ。


「・・・ただ今・・・。」
見慣れたリビングのソファーには怒りを露わにしたパパが座り、ダイニング用のテーブルにはママが悲しそうな目で私を見つめていた。



「・・・座りなさい。」
パパは思い口を開くと、私を目の前に座らせた。
「・・・ごめんなさい。」
「・・・その髪はなんだ・・・?」
「・・・ごめんなさい。」
「・・・お前は・・・どうして・・・。」
パパは悲しそうに頭を抱えると、私はその光景を見る事も出来なかった。

「・・・私が悪いんです・・・。」
重い沈黙に富永さんが口を開いた。その瞳はとても悲しそうに見えた。
「・・・違うよ。それは違う・・・。」
「・・・私がご主人様達の御留守に家の事を任されていたのに・・・。」
「・・・富永さんはもう今日は上がって下さい・・・。」
「パパ・・・。」
「富永さんは何も悪くない。だから・・・。」
「・・・はい。分かりました。」
富永さんは諦めたようにそう言うと、エプロンを外して、台所にそっとかけた。
重い沈黙・・・。なんだろう・・・息苦しい・・・。
「でも・・・一つ言わせて下さい・・・。」
富永さんは強い瞳でパパを見つめた。
「・・・。」
「・・・お嬢様の気持ちも分かってあげて下さい。きちんと耳を傾けてあげて下さい。十七歳はもう子供じゃありません・・・。きっと理由があるはずです・・・。」
富永さんそう言うと、ペコっと頭を下げてリビングから立ち去って行った。
・・・私の気持ちを・・・富永さんの言葉に私は涙が溢れそうだった。・・・そう。私を笑って理解してくれた。
富永さん・・・。



「お前はまだ子供だ・・・。」
パパは目をそらして言った。
「・・・子供じゃ・・・。」
「・・・誰のおかげでこんな家に住めていると思う?パパやママがどんな気持ちでお前を一人置いて仕事に行ったと思う?」
パパは頭を抱えながら行った。
「・・・パパ・・・。」
「それなのにお前は・・・俺達を裏切った・・・。」
「・・・違う・・・。」
「・・・何が違うんだ?言ってみろ!」
パパはどなり声を上げて私を睨みつけた。
怖い・・・謝って・・・謝って・・・許して欲しい・・・でも・・・。
「・・・ずっと一人だったの・・・。」
私は震える声を出した。自分でも驚くほどに・・・親に反抗した事はこれが初めてだったから・・・。
「・・・。」
「・・・中学生に上がったくらいから・・・どんどん友達がいなくなった・・・。仲良しのグループのどこにも入れずに、気がつけばいつも一人で帰っていた・・・。」
「・・・。」
「周りの女の子はいつも可愛くてキラキラしていて・・・でも私はそうじゃない・・・。地味で暗くてメガネで・・・。」
「・・・。」
「外見を変えたら・・・少し自信が持てるんじゃないかって思ったの・・・。」
「・・・。」
「外見を変えたら、実際に友達も出来た・・・。まるで自分が自分じゃないように人とも話せて、周りが可愛いって言ってくれる事で自信が湧いた・・・。」
「・・・。」
「ずっと辛かった・・・。いい子にしているのが。パパやママの期待に答えるのが・・・。」
気付けば頬には涙がこぼれ落ち・・・それでも必死に伝えた・・・。本当の気持ちを。
「・・・私の感じる幸せはパパとママとは違う・・・。」
「・・・理子・・・。」
「私は、友達が出来て・・・それだけで嬉しかった。幸せだった。」
「・・・。」
「・・・これが私の本音です・・・。」
涙を拭いながら、パパとママを見つめた。
・・・そう・・・これが私の本音・・・。嘘偽りない・・・これがありのままの私だよ?


「・・・分かった・・・。」
「えっ?」
「理子の思いは分かった・・・。」
「パパ・・・。」
「・・・でもな・・・。」
「・・・。」
「大切な事・・・忘れていないか?」
「・・・大切な事?」
「・・・他人にどう思われようが、自分を好きでいる事の方がよっぽど大切な事だとパパは思う・・・。」
「自分を好きになる・・・?」
「まだ少し難しいかもしれないけど、他人に愛されたいのならまずは自分を愛する事。そして自分から相手を愛する事・・・。」
「・・・。」
「自分を嫌いな人間を誰が好きになってくれる?」
「・・・!」
「どんな自分でも愛して上げて欲しい・・・。そうすれば、お前を愛してくれる人が必ず現れるはずだから・・・。」
「・・・パパ・・・。」
「でも・・・親として、お前が高校を卒業するまでは、その外見を見過ごすわけにはいかない。明日美容室に行ってきなさい・・・。」
パパはそう言うと、諦めたように、机に1万円札を置いてリビングを出て行ってしまった。


「・・・理子?」
「・・・はい。」
「・・・あなたは大切な私達の娘よ・・・。」
「お母さん・・・。」
「心配なのよ・・・。あなたを信じているけど・・・。今時の高校生って何があるか分からないじゃない。」
「・・・。」
私は無言で頷いた。
「ましてや男の子も一緒に一泊旅行なんて・・・。」
「ごめんなさい・・・でも・・・。」
「・・・?」
「・・・ママ・・・私ね、好きな人がいるの・・・。」
「・・・理子・・・。」
「その人は、まっすぐで、私を傷つけるような事は絶対にしない・・・。」
「・・・。」
「それにママが思っているような事は絶対にないよ・・・。誓える。」
「・・・。」
「私ね、初めて感じたの・・・。その人が笑うだけで空気が明るくなって、幸せで満たされる。人を好きになる喜びを知れたんだよ?」
「・・・理子・・・。」
「泣いてばかりいたけど・・・彼に出会って勇気を出そうって思えた。そしたら友達も出来て・・・。」
「・・・そっか・・・。」
「生まれてきて良かったって思えたの・・・。皆といる時間があまりにも楽しすぎて・・・。でも・・・。」
「・・・?」
「・・・もう終わり・・・。私は皆に嘘をついたから・・・。」
「・・・理子。」
「でもね・・・さっきのパパの言葉で少し分かった気がしたの・・・。これからはどんな自分でも好きになろうって・・・そうすればいつか嘘なんてつかないで堂々と生きていく事が出来るよね?」
「・・・うん。そうだね。」
「ママ・・・心配掛けてごめんね・・・。」
「・・・うん。」
「今日はもう寝るね・・・。」
「うん。分かったわ。お休み。」
「・・・おやすみ。」


私は部屋に戻ると、荷物を放り投げベッドに横たわり天井を見上げた。
もっと怒られるかと思った・・・。でも・・・パパもママも私の話をちゃんと聞いてくれた・・・。
私は優しい両親に感謝をすると、電源の切れていた携帯を充電した。



「・・・終わった・・・。」
私は泣き腫らした目を瞑りながら、今日の事を考えた。つい数時間前までは皆と海で過ごしていたんだ・・・。何だか嘘みたい・・。

「♪~♪~♪」
携帯電話が鳴り響き、私は目を空けて携帯を手にした。
「・・・メール五件?」
私は大量に届いていたメールにビックリした。そしてその一つ一つを開いていくと涙がポロポロとこぼれ落ちた。


「裕也から話し聞いたよ。大丈夫?今日はリリコとずっと一緒にいたから淋しいよ~・・・。美奈」

「大変だったね・・・。家も色々あるよ。家の問題って辛いよね・・・私で良かったら相談に乗るからね! 陽菜」

「先に帰るなんてずるい。でも今日は戦意喪失。また今度正々堂々戦おうね。こんな私に本音で接してくれてありがとう。本当はすごく嬉しかった・・・。 みゆき」

「お~い大丈夫か?裕也から聞いて心配したよ~。また車出すからリベンジしような! 遠藤兄」

「俺、本当に何も出来なくてごめんな・・・。リリコの背中見送るのはもう嫌やねん。また会えるよな?なんや・・・リリコがいないとイマイチ盛り上がらんよ・・・。はよ会いたい。 裕也」

皆からのメール・・・。どれも温かくて優しくて・・・。どんどん溢れ出してくる涙が止まらない・・・。
さっきパパに言ったこと嘘じゃない・・・。友達が私にとっての幸せだって・・・。皆・・・大好きだよ・・・。皆がいるから・・・勇気を出せたの・・・。
でも・・・もう遅いよね・・・。ついた嘘があまりにも大きくて・・・皆に合わす顔もない・・・。ごめんね・・・。

私は泣き腫らした目を閉じると、携帯電話を閉じた。もう返信しない。これが私の中で出した答え・・・。シンデレラの時間はもう終わり・・・。
















「エピローグ」
~二学期~
あれから数週間・・・。私は真っ黒の髪で校門も前に立った。
この一ヶ月がなかったかのように、同じ景色が広がっていた。
「よしっ・・・。」
私は小さく気合を入れると、校舎へと一歩踏み出した。
 
「おはよう~」
「おはよう~」
何気ない挨拶が飛び交う教室。いつも通り、緊張を抱えたまま席についた。誰一人私の元へ駆け寄ってきてくれる人はいない・・・。
分かっていた事・・・。
でも・・・この数週間、自分なりに出した答えがある。それは待っているだけじゃダメだってこと・・・。
あの日、自分から変わろうと思った。髪を染めてメイクをして・・・。渋谷の町に向かって乗った電車・・・。あの時の勇気をもう一度・・・。

「おはよう・・・。」
私は席を立ちあがると、少しだけ話した事のある少し控えめな女の子達が集まるグループへと声を掛けた。
「あっ・・・おはよう・・・。」
皆私を見て、驚いた表情をしていたが、私はすぐに笑顔を作った。
「あの・・・良かったら、私も混ぜてもらってもいい?」
勇気を出して、震える声で言った。
「・・・いいよ♪」
一人の女の子がそんな私を見て、笑ってくれた。
「・・・ありがとう・・・。」
「うん。てか、松永さんコンタクトにしたの?」
「そう。変えてみたの。」
「可愛いよ♪」
「うん。可愛い♪」
少しだけぎくしゃくした空気が流れてはいるものの、皆の言葉が素直に嬉しかった。
「・・・ありがとう。」
「夏休み、どっか行った?」
「うん。私は家族と熱海に言った。」
さっき私に微笑みかけてくれた丸山さんが控えめに言った。
「えぇ~♪いいなぁ♪」
同じグループの保田さんが羨ましそうに言った。
「保田はどこも行ってないの?」
「行ってない~・・・。ほとんどバイトしていた。」
「あっ・・・でもほら♪バイト先の好きな人といっぱい会えたんじゃない?」
丸山さんは嬉しそうに言った。
「まぁ・・・ね♪」
保田さんは少し恥ずかしそうに笑った。
「あっ・・・あのね、保田、今バイト先に好きな人がいて♪大学生なんだけどね♪」
話しについて行けていない私に丸山さんが丁寧に説明してくれた。
「大学生・・・。」
「まだ片思いなんだけどね♪」
保田さんは明るくそう言った。
「でも・・・バイト先一緒ならいいね♪」
私は本心でそう思った。
「うん。そうだね。バイトも楽しく感じる。でも彼大人だからなぁ~♪」
「うまくいくといいね♪」
「うん♪」
突然入れてもらったグループで、恋愛の話が出来るなんて・・・。私はドキドキしながらも丸山さんと保田さんの優しさを感じていた。
皆も恋愛して色々な思いを抱いているんだ・・・。私だけじゃないんだ・・・。保田さんが好きな人と両思いになれるといいな・・・。
私はぼんやりとそんな事を頭の片隅で思っていた。


「あっ・・・先生来ちゃう・・・。またあとでね。」
「うん。」
先生の登場に、バラバラと席に着いた。心臓はまだドキドキと大きい音を立てていたけど、大きい一歩を踏み出した私・・・。心は嬉しさでいっぱいだった。



あれから色々考えた。
お父さんが言ってくれた言葉・・・。今まで友達がいない事を外見のせいにしてきた私。でもそれは外見のせいじゃなかった・・・。
自分が卑屈になって逃げていただけ・・・。そう思ったら勇気を出すしかないと思ったの・・・。
メガネだけはお母さんと相談してコンタクトに変えてもらったけれど、染髪もメイクも高校を卒業するまでは禁止・・・。でも、もういいの・・・。そう思える。


私はぼんやりと窓の外を眺めた。
あの夏がまるでなかったみたいに流れる穏やかな風・・・。
でもあの日々はあった。時々脳裏をかすめる皆の笑顔・・・。夏の空気。裕也の手の温もり・・・。
思い出すだけでまだ胸が痛む・・・。



「おぉ~い♪」
「おう♪」
「また遅刻~?」
廊下から聞きなれた声が流れてきた。大好きな裕也の声・・・。それに懐かしい美奈ちゃんの制服姿・・・。
私は微笑ましく隣のクラスに入って行く二人を眺めていた。
良かった・・・元気そう・・・。元気そうな二人の姿に安どすると私は前を向いた。



「今日ね、皆でお昼ご飯食べに行くんだけど、松永さんも行く?」
終業式が終わると、丸山さんが私を誘ってくれた。
「・・・いいの?」
「うん♪うちらも松永さんと話してみたかったし♪」
丸山さんはそう言うと、優しい顔で笑ってくれた。
「ありがとう・・・。」
「じゃあ、行こう♪」
「うん♪」
私は自分のかばんを持って、丸山さんと一緒に歩き出した。
夢みたい・・・。友達と一緒に廊下を歩けるなんて・・・。しかも一緒にお昼ご飯を食べに行けるなんて・・・。
私はうきうきした気持ちで、靴を履き替えて校舎を出た。



「リリコ!」
校門も前で聞きなれた声で、「リリコ」と叫んでいる裕也がいた。

「えっ・・・?」
私はドキドキしながら、その様子に眉を顰めた。・・・まさか・・・。
「お~い!リリコ!」
裕也は、私を見つめて手を振った。
どういう事・・・?私はドキドキする胸を押さえながら、立ち止まった。
「・・・松永さん?」
「あっ・・・ごめん。やっぱり今日は行けない。ちょっと急用が出来ちゃって・・・。」
私は小さい声で丸山さんにそう言うと、俯いた。
「そっか・・・。うん。大丈夫♪じゃあ、明日のお昼一緒に食べよう♪またね♪」
丸山さんは笑顔でそう言うと、校門で待っていた他の友達と合流して、駅の方へと歩いて行った。

「・・・どうして?」
私は立ちどまったまま、裕也を見つめた。
そんな私に裕也は優しく微笑んだ。
 
いつから知っていたの・・・?私がリリコだって・・・。完璧にメイクして、誰にも気づかれていないと思ったのに・・・。

「・・・裕也・・・。」
私は諦めたように裕也の元へと歩いて行くと、裕也は嬉しそうに笑った。
「もう無視すんなや。」
「・・・だって・・・。」
私はすっぴんの顔で俯くと、裕也は私の顔を持ちあげた。
「ええねん・・・。」
「えっ・・・?」
「これもリリコ・・・。松永理子やろ?」
裕也・・・。私は裕也の口から出てきた「理子」という言葉に胸が締め付けられた。
「まぁ・・・ここじゃあれだから・・・。」
裕也はそう言うと、裏校舎へと歩き出した。



「知っていたの?」
私は裕也の背中に問いかけた。
「・・・うん。」
「・・・いつから?」
「・・・最初から。」
「えっ・・・?」
「・・・俺・・・。」
裕也は振り返ると、真剣な眼差しで私を見つめた。
「・・・お前が好きや。」
「・・・えっ?」
「・・・リリコやない。理子が好きやねん。」
「・・・どっ・・・。」
裕也の急な告白に頭が真っ白になった。これって・・・どういう事なの?
「だって・・・裕也・・・ギャルが好きだって・・・。」
私は電車の中で、楽しそうにそう言う裕也を思い出していた。
「・・・そんな事言っていた?」
「・・・うん。」
だから必死にギャルみたいな恰好をしたのに・・・。
「・・・じゃあ、変わったのかも・・・。」
「えっ・・・?」
「・・・理子を初めての見た時の事・・・今でも覚えている。」
「初めて?」
「・・・一人でつまんなそうな顔して歩いていた。どこも楽しそうじゃなくて・・・。」
「・・・。」
「・・・そんなお前と目が合った時、ほんのちょっとだけ・・・本当にちょっとだけ、嬉しそうに俺を見つめるお前にドキッとした。」
「・・・。」
「嘘やない。俺らを羨ましそうに見つめる、理子をどうにかしてあげたいって思った。」
「・・・裕也。」
「でも、俺は何も出来んかった。だから、お前がギャルみたいになって、俺の前に現れた時はさすがにびっくりしたわ。」
「・・・。」
「なんで、そんな恰好しているのか、分からんけど、何かあるんやろうって思った。」
「・・・。」
「理子と色々話すうちに、最初の時よりもずっとお前に惹かれていた。」
「・・・。」
「花火大会の時も、我慢きかんくなって・・・。お前の浴衣姿可愛かったから・・・。」
「裕也・・・。」
「軽いとかちゃうで・・・。あんなんしたの初めてやし・・・。」
裕也は少し下を向いて恥ずかしそうに言った。
「・・・うん。」
私はあの日を思い出して、また胸がドキドキと高鳴った。裕也の手のぬくもり、今でも覚えている。
「海の時も、本当はお前と一緒にじゃんけん負けて、めちゃめちゃ嬉しかった。でも、うまく話せんくて・・・。」
「そんな事・・・。」
「ありのままでいいって言ったのは、もう嘘ついて欲しくないと思ったから・・・。偽名使って苦しんでいるのはお前の方やって・・・。」
「裕也・・・。」
「でも、お前が帰ったあの日・・・もう終わりやと思った。連絡もくれへんし・・・。」
「・・・ごめん。」
「二学期になったら、話そうと思って・・・。ずっとこの日を待ってたんや・・・。」
「・・・裕也・・・。」
私は今までの事を思い出して涙が溢れ出してきた。好きな子がいるって・・・。初めて美奈ちゃんに聞いた時の切なさ・・・。
花火大会でほんの少し触れ合えた温もり・・・。
そして海での事・・・。全部が繋がって・・・私は涙を抑える事が出来なかった。


「理子の気持ち・・・聞かせてや。」
裕也は少し淋しそうな表情で私を見つめた。
「・・・私は・・・。」
「うん。」
「ずっと自分の事が嫌いだった。黒髪でメガネ、暗くて、いじめられっ子で・・・。」
「・・・。」
「裕也を初めて見た時、私とは違う世界の人だと思った。裕也はいつも明るい笑顔で笑っていて、仲間に囲まれていて・・・。」
「・・・。」
「ある意味で憧れだったのかもしれない・・・。」
「・・・うん。」
「裕也のように笑いたくて、髪を染めてメイクもした。そしてリリコになった。」
「・・・うん。」
「そしたら勇気も湧いた。だから渋谷にも行けた。」
「・・・うん。」
「でも・・・違ったの・・・。」
「うん・・・。」
「ありのままでぶつかれば良かったのかもしれない。」
「・・・。」
「ありのままの自分を好きになる事の方が大切だったのに・・・。」
「理子・・・。」
「でもね、無駄なんて思わない。あの日、メイクをしなかったら、やっぱり裕也のそばにはいけなかったから・・・。」
「うん・・・。」
「・・・裕也がいたから・・・裕也が私を変えたの。」
「・・・。」
「夢みたい・・・。」
私はそう言うと、大粒の涙を流して、裕也の胸に飛び込んだ。
 
こんな私を好きになってくれる人がいた・・・。ありのままの私を好きになってくれる人がいた・・・。


何故かな・・・?あの時、私は自分を信じていなかったのに、裕也の事だけは諦めたくなかった。
絶対に無理だって分かっていたはずなのに・・・。
諦めなかったから、こんな奇跡に出会う事が出来たの?諦めないで勇気を出したから、今私は裕也の腕の中にいられる・・・。
ねぇ・・・裕也・・・今あなたはどんな顔をしているの?


「・・・泣きそうや・・・。」
涙の声で裕也はそう言うと、私の肩を掴んで、涙目で笑った。

黒髪メガネで卑屈だった理子はもういない・・・。
ここにいるのは、自分で未来を切り開いた、誇れる自分・・・。頑張れば、出来ない事なんて何もないんじゃないのかな・・・。
 
お父さんの言葉が頭を浮かんだ。
「どんな自分でも好きでいてあげなさい。そうすればありのままのお前を好きになってくれる人が現れるから。」

そうだね・・・。今やっと踏み出せた一歩。私は私の事、もっと好きになってあげたい。自分の好きな人の為にも・・・。



「♪~♪~♪」
「・・・淳也だ・・・。」
裕也はそう言うと、携帯電話に出た。
「もしもし・・・。」
「・・・。」
「うん。分かった・・・。今行く。・・・うん。彼女も一緒に・・・。」
裕也はそう言うと、照れくさそうに私を見つめた。

「・・・淳也達が呼んでいるんだけど・・・理子の事、紹介してもいいかな?」
「・・・うん。」
裕也の口から出た「彼女」って言葉にまたもや胸が締め付けられた。本当に夢みたい。私は裕也の彼女になれたんだ・・・。

「はい・・・。」
「・・・うん。」
裕也が私に手を差し伸べると、私は子供のようにその手を掴んだ。・・・やっと繋がれた手・・・。裕也の温もりに胸が熱くなる。

「・・・何か恥ずかしい・・・。」
私は真っ赤な顔で裕也を見つめた。
「・・・俺も・・・。」
照れ笑いしながら、私を見つめる裕也。その笑顔が・・・愛おしい。




「おっす・・・。」
私達はあの夏の日と同じように、二人で皆の待つカラオケ店へと現れた。
「リリコ~。」
「リリコ~。」
私の登場に美奈ちゃんと陽菜ちゃんは涙を浮かべて、抱きついてきた。
「・・・ごめんね。」
「・・・いいよ~もう・・・。会いたかったぁ・・・。」
「・・・私ね・・・。」
私は、二人からそっと離れると、真剣な顔で二人を見つめた。
「嘘・・・ついていた。私の名前は・・・理子。K高校2年2組・・・。」
「・・・理子・・・。」
「・・・嘘ついて・・・皆を騙してごめんなさい・・・。」
私は、頭を下げると、涙目で俯いた。
「・・・知っていた。」
「えっ・・・?」
私は美奈ちゃんの言葉に思わず顔を上げた。
「・・・海で、つけまつげ取れた時、変だと思った・・・。隣のクラスの子に凄く似ていたから・・・。」
「美奈ちゃん・・・。」
やっぱりばれていたんだ・・・。
「でも・・・もう理子がどこの誰でもいいよ・・・だって私達もう友達でしょ?」
美奈ちゃんは涙を浮かべながら微笑んだ。
「私も・・・理子の事が大好き。淋しかったんだから・・・。」
「美奈ちゃん・・・陽菜ちゃん・・・。」
二人の温かい言葉に・・・涙が溢れて・・・私達はもう一度抱き合った。嘘偽りない本物の友情・・・。それはこんなにも温かいものだったんだ・・・。

「・・・裕也と付き合えたんでしょ?」
「・・・うん。」
「良かったね。」
「うん♪ありがとう。」
「裕也!理子の事泣かせたら許さないからね!」
美奈ちゃんは強くそう言うと、皆で笑った。あの夏の日と同じように・・・。




黒髪だから・・・金髪だから・・・そんなのもので友情は変わらない。心と心が繋がっていれば・・・。
私の好きになった人は皆、ありのままの私を愛してくれた。
でもそれは、私が私を好きになりかけているから・・・。自分を嫌いな卑屈な私だったら・・・きっとダメだった・・・。
自分から変わろうと決めた時から、未来への扉が開いた。それは自分で予想していたよりもずっとキラキラ輝く未来・・・。
頑張って良かった・・・勇気を出して良かった・・・。両親には心配をかけてしまったけど・・・両親にも本音を言えるようになれた。
 
誰かの為の自分じゃない。
自分の為にまず変わる。自分の未来を明るくするために・・・。自分が変われば、周りが変わって、気付いた時にはたくさんの愛に囲まれて・・・。
奇跡を起こす力はいつだって、自分の思いから・・・。そしてたくさんの愛を与える人になりたい・・・。



「・・・おめでとう・・・。」
抱き合う私達を見つめながら、みゆきちゃんが少し淋しそうにつぶやいた。
「・・・みゆきちゃん・・・。」
私は美奈ちゃん達の手をほどき、みゆきちゃんの元へと歩み寄った。
「・・・。」
「・・・まぁいいかな・・・。理子ちゃんなら・・・。」
みゆきちゃんは、少し涙目で私を見つめた。
「みゆきちゃん・・・。」
「裕也の事、大切にしてよね。」
「・・・うん!」
 あの日、みゆきちゃんが色々な事に気づかせてくれた。みゆきちゃんと話しながら、色々な事を知れたのは私の方だったんだよ・・・。

「なんか・・・うん。お似合いだよ♪」
遠藤先輩がそっと私に近づいてきて、笑った。
「遠藤先輩・・・。」
「実は、理子ちゃんの事、いいなぁって思っていたんだけど・・・まぁ・・・裕也が相手じゃね・・・。」
「・・・。」
「幸せになれよ♪」
「はい・・・。ありがとうございます・・・。」
私は先輩の言葉に涙が溢れそうだった。こんな私の事・・・気にいってくれてありがとうございます。

「・・・ほらっ・・・裕也の所に行きなよ。」
みゆきちゃんは少し意地悪に私の背中を押した。
「・・・うん。」

私の視線の先には、あの日と変わらない笑顔の裕也がいた。

「裕也・・・。」
「・・・うん?」
「・・・大好きだよ♪」
「・・・理子・・・。」

もう迷わない。だって・・・今ここにいる自分は世界でたった一人・・・。誰でもない。自分だもの・・・。
これから先、もしかしたら誰かと自分を比べて落ち込む日が来るかもしれない。でも忘れないでいたい・・・。
ここにいる自分が本当の自分で、自分に素直になる事が幸せへの近道だって事。

「・・・それにね・・・見つけたの。」
私は皆を見つめて、顔を上げた。
「何を?」
「・・・夢。」
そうあの日からずっと探していた将来の夢・・・。やっと見つけたの。それが私の新たな希望。
「・・・私ね、インテリアデザイナーになる♪」
「・・・ええやん。」
「・・・うん。」
私の憧れはやっぱりお母さん・・・。お母さんのように世界を股にかけて輝く仕事がしたい。その気持ちに気付いたの・・・。
「なれるよ。理子なら何やって♪」
「うん♪」

 
裕也と出会えた奇跡が・・・今日の二人の笑顔を作りだす・・・。
大好きな友達に見守られて・・・大好きな人と手を繋ぎながら。ありのままの自分を認めてあげよう。そうすれば、願いはきっと叶うから・・・。

あの日の私・・・見ていますか?不安だらけだったあの日・・・。私を駆り立てた裕也への思いが今、叶ったよ・・・。
あの時、変わろうとしてくれてありがとう。あの日の小さい一歩がね・・・未来を輝かせてくれた。
私はもう迷わない。自分を愛して・・・人を愛する。それが私の選んだ幸せ。これで良かったと今は心から思うよ。
 
小さい私の夏物語は永遠に輝いて・・・きっと未来へと繋がって行く。
そして見つけた新しい夢がまた私を成長させてくれるよね。人生は希望に満ちている。諦めない限り永遠に・・・。大切な事を教えてくれた両親、裕也、そして友達。皆がいるから今の私がいる・・・。大切にするよ。これからも・・・。出会ったすべての人に感謝を込めて・・・ありがとう。
 


終わり






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