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8話 思い知る
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「……なん……で、」
「遅かったな。ほら、早く座れ」
向かった先に座っていた人物は、その長い脚を組み、僕を見るなり横柄な態度を向ける。
「ど、どうして……」
どうして、そこにお前が座っているんだ。
喉まで出かかったセリフを押し殺す。
「なんか言ったか」
心拍が上がり、握りしめた拳が震える。
冷たい瞳が、僕を突き刺す。
大きくなった肩幅や腕の太さ。
十年前とは比べものにならない存在感。
覚えているのか。
覚えていないのか。
それとも、試しているのか。
判断できず、ただ震えた。
千紘はいつまでも突っ立っている僕に痺れを切らしたように、追い討ちをかける。
「おい、何ボケっと立ってんだ。もう膝に来たいのか?」
「……ッ」
慌てて隣に腰掛ける。威圧感と恐怖で押しつぶされそうなのを堪え、息を潜める。
視線を逸らすと、本来ここに座る予定だった刑事が、隣のテーブルについているのが見えた。
何食わぬ顔で、千紘は淡々と告げる。
「斜め左を見ろ。あそこにいるのが主犯格だ。怪しい動きがあればすぐ動く」
「……」
「おい、聞いてんのか?」
「…………」
「おい!」
「……ハッ!」
店の喧騒と相まって、完全に意識が飛んでいた。
千紘はさらに鬼の形相で、こちらを睨みつける。
そして大きなため息をついて悪態をついた。
「交番で道聞かれてるわけじゃねえんだぞ。集中しろ」
「はいっ、すみません……」
腑に落ちることはないが、今は千紘の言うことが正しかった。
この男が過去にしたことがなんであれ、今はこの連続殺人事件の容疑者確保に努めなければならない。
本来の目的を思い出し、首を振る。
容疑者のテーブルを穴が開くほど注視していると、また呆れた声が降りかかる。
「ったく……バカかお前は。そんなに睨んだらバレるだろ。自然にしとけ」
「ッ……!!」
千紘の腕が僕の肩に回る。
指先が肩に触れただけで、反射的に身体が震える。
冷や汗が首筋を伝う。
顔が見られない。少しでも気を紛らわせようと、テーブルの上の冷を一気に飲み干す。
「談笑しているように横目で追え。俺の位置からだと死角なんだ。お前にかかってる」
「は、はい……」
恐る恐る千紘の顔を見上げる。
学生時代と比べ、やはり大人らしさを兼ねた顔立ちは、一段と男前になっている気がする。
地位もあり、役目や責任も、全てにおいて格が違う。
僕は“あの頃とは何も変わっていない”と思い知らされるように、丈の短いスカートの裾を握りしめる。
こんなハズじゃなかったはずなのに。
何も成長していない。またこんな格好をしていては、もうバレてしまっているのではないか。
そもそも既にバレているのか。悶々と考えては、横に座る男の考えが読めなかった。
こんなに近く密着していても、平然としている千紘に対し、どうして僕はこんなに気まずく、頬が熱くなるんだろう。
「様子は?」
容疑者の様子を観察しながら報告する。
キャストと酒を交え、楽しそうに談笑しているように見えた。
「今のところ変わった様子は……ないです」
「やっぱりダウンタイムを狙ってくるか……」
「?……なんですか、それ」
聞き馴染みのない言葉に、疑問が口に出る。
すると突然、店内の照明が一気に落ちた。
僕は驚いて思わず声を上げてしまう。
「えっ、急に暗……」
言い終える前に、千紘が僕の身体を引き寄せた。
「遅かったな。ほら、早く座れ」
向かった先に座っていた人物は、その長い脚を組み、僕を見るなり横柄な態度を向ける。
「ど、どうして……」
どうして、そこにお前が座っているんだ。
喉まで出かかったセリフを押し殺す。
「なんか言ったか」
心拍が上がり、握りしめた拳が震える。
冷たい瞳が、僕を突き刺す。
大きくなった肩幅や腕の太さ。
十年前とは比べものにならない存在感。
覚えているのか。
覚えていないのか。
それとも、試しているのか。
判断できず、ただ震えた。
千紘はいつまでも突っ立っている僕に痺れを切らしたように、追い討ちをかける。
「おい、何ボケっと立ってんだ。もう膝に来たいのか?」
「……ッ」
慌てて隣に腰掛ける。威圧感と恐怖で押しつぶされそうなのを堪え、息を潜める。
視線を逸らすと、本来ここに座る予定だった刑事が、隣のテーブルについているのが見えた。
何食わぬ顔で、千紘は淡々と告げる。
「斜め左を見ろ。あそこにいるのが主犯格だ。怪しい動きがあればすぐ動く」
「……」
「おい、聞いてんのか?」
「…………」
「おい!」
「……ハッ!」
店の喧騒と相まって、完全に意識が飛んでいた。
千紘はさらに鬼の形相で、こちらを睨みつける。
そして大きなため息をついて悪態をついた。
「交番で道聞かれてるわけじゃねえんだぞ。集中しろ」
「はいっ、すみません……」
腑に落ちることはないが、今は千紘の言うことが正しかった。
この男が過去にしたことがなんであれ、今はこの連続殺人事件の容疑者確保に努めなければならない。
本来の目的を思い出し、首を振る。
容疑者のテーブルを穴が開くほど注視していると、また呆れた声が降りかかる。
「ったく……バカかお前は。そんなに睨んだらバレるだろ。自然にしとけ」
「ッ……!!」
千紘の腕が僕の肩に回る。
指先が肩に触れただけで、反射的に身体が震える。
冷や汗が首筋を伝う。
顔が見られない。少しでも気を紛らわせようと、テーブルの上の冷を一気に飲み干す。
「談笑しているように横目で追え。俺の位置からだと死角なんだ。お前にかかってる」
「は、はい……」
恐る恐る千紘の顔を見上げる。
学生時代と比べ、やはり大人らしさを兼ねた顔立ちは、一段と男前になっている気がする。
地位もあり、役目や責任も、全てにおいて格が違う。
僕は“あの頃とは何も変わっていない”と思い知らされるように、丈の短いスカートの裾を握りしめる。
こんなハズじゃなかったはずなのに。
何も成長していない。またこんな格好をしていては、もうバレてしまっているのではないか。
そもそも既にバレているのか。悶々と考えては、横に座る男の考えが読めなかった。
こんなに近く密着していても、平然としている千紘に対し、どうして僕はこんなに気まずく、頬が熱くなるんだろう。
「様子は?」
容疑者の様子を観察しながら報告する。
キャストと酒を交え、楽しそうに談笑しているように見えた。
「今のところ変わった様子は……ないです」
「やっぱりダウンタイムを狙ってくるか……」
「?……なんですか、それ」
聞き馴染みのない言葉に、疑問が口に出る。
すると突然、店内の照明が一気に落ちた。
僕は驚いて思わず声を上げてしまう。
「えっ、急に暗……」
言い終える前に、千紘が僕の身体を引き寄せた。
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