BAD ENDしかないゲームの世界で、俺は幸せを掴んでみせる 〜導きのカケラと呪われた転生者〜

🍚🐴

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第一章 腐蝕の魔女イデア

14話 姉の幻影

「う……ぐぅ……!」

首元に巻き付く数本の蔓が、翔に不快感を与える。
手を伸ばし乱雑に掻き毟ると、それは簡単に縛りを緩めた。
拍子に翔の身体は地に落とされる。息苦しさから解放されると、翔は急いで上体を起こした。

「はァッ!!はぁっ、はぁ……こ、こは……」

風の音が、葉擦れとともに響いていた。
足元に、焼け焦げた草が広がる。
奇妙にもソレは、先ほどまで翔を連れ去った人間に擬態した——のかも分からぬ花の化物の残骸に見えた。

「ひっ!?し、死んだのか?焦げくさい……アイツルークが……?」

ハッと気づき、辺りを見渡す。
けれど、ルークの姿はどこにも見えなかった。

「あぁ、クソ。俺がちゃんと……言うこと聞かなかったから……」

(アイツが妙に距離が近くて、ちょっと気まずかったからって……)
罪悪感に苛まれ、頭を落とす。だが、すぐに首を振る。
この国では油断は足元を掬われる。ここで悔やんでいたって仕方ないと、翔は立ち上がる。

「後悔したって仕方がない……アイツを探しに行かねぇと……」


足元の苔がやわらかく光り、歩くたびに緑の波紋を広げる。
空は見えず、枝が天を覆い尽くしている。

森の霧は、音を飲み込む。
風も、鳥も、息すらも、薄い膜の向こうに閉じ込められたように遠のいていく。

翔はひとりで歩いていた。
蔓に身体を覆われ、ルークの姿が掻き消えてから、どれほど経ったのか分からない。
ただ、木々がゆっくりと「形」を変えているのを見た。
枝が腕のように絡み、根が道を塞ぐ。
まるで森が、意志を持って行く手を拒むように。

(……おかしい。さっきまで、こんな道なかったはずだ)

右手のひらの紋章が微かに疼く。
その痛みは、まるで何かを呼び覚まそうとするようだった。

——その時。

「翔……」

耳元で、柔らかい声がした。
一瞬で、全身の血が凍る。

振り返ると、森の奥に人影が立っていた。
白い影。ゆらりと揺れる、後ろに一つで結ばれた黒髪。
……見間違えるはずがない。

「姉……さん……?」

姉ーー満がそこにいた。
二年前に消えたはずの、あのままの姿で。
白いドレスに、淡く光る瞳。
しかし、近づくたびにその輪郭が歪んでいく。

「どうして、そんな顔をするの……?わたし、嬉しいのに……また会えたのに」

「姉さんっ!!姉さんなのかっ!?ずっと探して……っ、心配してたんだぞ!!」

翔が叫ぶと、森が蠢いた。
満の足元から、黒い蔓が広がり始める。
その先端が花弁を模しており、触れた地面を腐らせていく。
花の中心からは、うっすらと血のような液が滲んでいた。

「姉……さ……」

「帰ろう、翔。……“ここ”で、一緒に眠ろう?」

声は優しかった。
それなのに、なぜか心が削がれていく。
息をするたび、胸の奥が軋む。

(分かっている……これは幻覚だ……でもっ!!)

「翔、ずっと会いたかった」

「……黙れ!!姉さんのフリをして俺を惑わすな!!バケモノ!!」

翔は叫び、手のひらを握りしめた。
紋章が焼けつくように光る。
眩い閃光が走り、蔓の群れを焼き払った。
悲鳴。女の声。姉の影が崩れていく。

「そんな力、使っちゃ……だめ……“器”が壊れちゃう……」

その言葉だけを残して、幻は霧に溶けた。

翔は膝をつき、荒く息を吐く。
掌からは微かな煙が上がり、皮膚が焦げついている。
それでも止まらない。
あの紋章が、まるで喜んでいるように脈打っていた。

(……やっぱり俺は、もう普通じゃないんだ……)

その呟きは、誰にも届かない。
だが、森の奥から——ルークの声が、微かに響いた。

「翔……聞こえるか……!そこにいちゃダメだ、森が——!」

「……っ、この声は……っ」

「そこは迷宮になっている!惑わされるな——!」

その瞬間、空気が変わった。
ふっと光が翳り、辺りが淡い靄に包まれる。
足元の感触が、ぬるりと変わった。


リオヴェラの森——“生ける迷宮”と呼ばれる場所。
道は木々の意思で変化し、侵入者を惑わせる。

「ルーク……!?おい、どこだ!?」

「翔」

「——ッ!!」

声が鮮明になる。どこにもいなかったはずなのに、突如、目の前に現れた。
ルークは小さく微笑み、こちらを見ている。

「ここは、音も光も“記憶”として囚われる迷宮だ。進むほど“過去”に惑わされる。ほら、もっとこっちにおいで」

「る、ルーク……?お前、いつの間に……」

姿形は変わらないが、どこか魂の抜けたような光のない瞳。
手招く彼の姿に、翔はすぐに後ずさる。

「お前、ルークじゃないな。俺の前から消えろ」

クス、クス、クス、と花々が撫で合う笑い声が空気に溶ける。
ルークに擬態した化物は花びらとなり散り去り、翔の体に届く寸前までゆらゆらと蔓を伸ばしている。

「っ、油断も隙もならねぇ……どうなってんだよ、ここ……あれ?」

翔は顔を上げる。
そこは同じ森のはずだった。
だが景色の色が違う。——否、空が見えていた。
橙の夕暮れのような光が木々を染め、遠くで誰かの笑い声がする。
けれど、すぐに歪んで消えた。

代わりに木々の間から小さな光の粒が漂ってくる。
まるで彼を誘うように、ゆらり、ゆらりと浮かぶ。

理性が警鐘を鳴らす。だが、その光の中に、誰かの影が見えた。

花のように美しい女性だった。
その女の背中が、木々の奥に揺れている。

「っ!誰だ!?」

恐怖で一歩身を引く。
けれど、踏み出すたびに地面が変わる。
道が、花弁のようにねじれていく。
やがて、光の先には女性ではなく“花の少女”が立っていた。

その少女の瞳は、透き通るような緑色。
けれど、口元は裂け、無理やり笑っていた。

『わらわは、民を救えなかった。ならばいっそ地に還そう。それこそが、幸福の在処』

囁きと同時に、周囲の花が開いた。
中から人の手が伸びる。翔は叫び、反射的に下がるが——
背中を掴まれた。

次の瞬間、足元が崩れる。
視界がひっくり返り、世界がひとつの花弁のように閉じていった。

(……今のは……何だ?)

その瞬間、遠くから声が響く。

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