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序章 消えた姉の行方
5話 盲信的存在
「おお、ルーク様だ! そして、後ろにいる方は……レティ様が認められた、運命のお方!」
村人たちはルークに気づくと、一斉にひざまずいた。
彼らの視線はルークへ向けられ、その後ろに立つ翔へと注がれる。
それは、警戒や恐怖ではなく、ひたすらに熱狂的な崇拝だった。
「君主様と神託者様のおかげで、私たちは飢えることも、魔物の脅威に晒されることもない。その方が選ばれたお方なら、きっとこの世界に再生をもたらしてくださる……!」
村人たちは翔の足元に、自らが育てた最も美しい花や、貴重な食料を捧げ始めた。
その異様な光景に、翔は戸惑う。
「な、なんだ、こいつら!?俺は別にそんなつもりじゃ……!」
「翔、余計なことを言わないで」
ルークが静かに囁く。
「彼らにとって、この平和は絶対の真実なんだ。キミがその希望を否定すれば、彼らの狂信はたちまち敵意に変わる」
ルークは集まった物資を無表情で受け取った。
村人たちの期待に応えるようにただ無機質な微笑みを浮かべては、レティの意志の橋渡しとなる者として振る舞う。
彼の創り出す善意の循環によって、この村に安寧をもたらしている。だが、その根底にあるのは、レティの『絶対的な善』という名の、人ならざる者の非情な管理とも思えた。
「こいつら……目がいっちまってやがる……」
先程感じた背筋が凍るような感覚は、村人たちによる信仰心——安全の保証されたこの地への異常なまでの執念によるものだった。
それほどまでに、この小さな聖域の外は、より危険で邪悪なものに支配されているという事実は、想像に容易かった。
⚪︎ ×
物資の調達を終え、二人は村を出る前の腹ごしらえに、唯一賑わっているらしい酒場に立ち寄った。
粗末な木造りの酒場は、温かいスープの匂いが充満していた。
翔はルークとカウンターの隅の席に座り、スープを啜りながら先ほどの出来事に文句を垂れる。
「さっきの奴ら、気味悪かったな。つーか、はじめは俺をとっ捕まえようとしてたクセに、とんだ手のひら返しだよな」
熱気の籠るスープの、旨味がしみた野菜の熱をフーフーと息を吹きかけ冷ましている翔の横で、ルークは分が悪そうに口を開く。
「……ごめん、それは僕のせいだ。異界の人間を見つけたら、僕に報告するように言っているからね。でも、彼らは少し、認識を誤解しているようだけれど」
「はぁ!?じゃあお前のせいかよ!正直、殺されるかと思ったんだぞ!?誤解どころじゃねえよっ」
大声を上げる翔を横目に、ルークは手にしていたスープの入った椀を静かに置いた。
「仕方がないんだ。“魔王の核を持つ異界の人間”は、程度はあれど邪神的存在の匂いを強く放つから、魔族や魔物を強く惹きつける。もし僕がそう指示を下せば、彼らは迷いなくキミを殺しに来るだろう」
「ッ!?な、なんっ、脅して……るんですか!?」
翔の生意気な態度が、野菜の熱と共に冷めていく。
「違うよ。彼らもキミの存在に怯えているだけなんだ」
ルークの言葉は理知的だが、その機械的な感情のない声音が、酒場の騒めきの中で妙に冷たく響いた。
「……っ」
翔が何か口を開こうとしたその時、一人の男が二人の側に近づいてきた。
「そんな隅っこで熱っぽい視線で見つめて……コソコソと愛でも語り合っているのかと思えば、物騒な話をしているわねぇ」
カウンターを挟んで向かいに立っていたのは、この酒場の店主。
艶やかな黒髪をきれいに編み込み、目元には大胆な化粧。仕立ての良い奇抜な光沢のある服を纏った、目を引くオネエさんだった。
村人たちはルークに気づくと、一斉にひざまずいた。
彼らの視線はルークへ向けられ、その後ろに立つ翔へと注がれる。
それは、警戒や恐怖ではなく、ひたすらに熱狂的な崇拝だった。
「君主様と神託者様のおかげで、私たちは飢えることも、魔物の脅威に晒されることもない。その方が選ばれたお方なら、きっとこの世界に再生をもたらしてくださる……!」
村人たちは翔の足元に、自らが育てた最も美しい花や、貴重な食料を捧げ始めた。
その異様な光景に、翔は戸惑う。
「な、なんだ、こいつら!?俺は別にそんなつもりじゃ……!」
「翔、余計なことを言わないで」
ルークが静かに囁く。
「彼らにとって、この平和は絶対の真実なんだ。キミがその希望を否定すれば、彼らの狂信はたちまち敵意に変わる」
ルークは集まった物資を無表情で受け取った。
村人たちの期待に応えるようにただ無機質な微笑みを浮かべては、レティの意志の橋渡しとなる者として振る舞う。
彼の創り出す善意の循環によって、この村に安寧をもたらしている。だが、その根底にあるのは、レティの『絶対的な善』という名の、人ならざる者の非情な管理とも思えた。
「こいつら……目がいっちまってやがる……」
先程感じた背筋が凍るような感覚は、村人たちによる信仰心——安全の保証されたこの地への異常なまでの執念によるものだった。
それほどまでに、この小さな聖域の外は、より危険で邪悪なものに支配されているという事実は、想像に容易かった。
⚪︎ ×
物資の調達を終え、二人は村を出る前の腹ごしらえに、唯一賑わっているらしい酒場に立ち寄った。
粗末な木造りの酒場は、温かいスープの匂いが充満していた。
翔はルークとカウンターの隅の席に座り、スープを啜りながら先ほどの出来事に文句を垂れる。
「さっきの奴ら、気味悪かったな。つーか、はじめは俺をとっ捕まえようとしてたクセに、とんだ手のひら返しだよな」
熱気の籠るスープの、旨味がしみた野菜の熱をフーフーと息を吹きかけ冷ましている翔の横で、ルークは分が悪そうに口を開く。
「……ごめん、それは僕のせいだ。異界の人間を見つけたら、僕に報告するように言っているからね。でも、彼らは少し、認識を誤解しているようだけれど」
「はぁ!?じゃあお前のせいかよ!正直、殺されるかと思ったんだぞ!?誤解どころじゃねえよっ」
大声を上げる翔を横目に、ルークは手にしていたスープの入った椀を静かに置いた。
「仕方がないんだ。“魔王の核を持つ異界の人間”は、程度はあれど邪神的存在の匂いを強く放つから、魔族や魔物を強く惹きつける。もし僕がそう指示を下せば、彼らは迷いなくキミを殺しに来るだろう」
「ッ!?な、なんっ、脅して……るんですか!?」
翔の生意気な態度が、野菜の熱と共に冷めていく。
「違うよ。彼らもキミの存在に怯えているだけなんだ」
ルークの言葉は理知的だが、その機械的な感情のない声音が、酒場の騒めきの中で妙に冷たく響いた。
「……っ」
翔が何か口を開こうとしたその時、一人の男が二人の側に近づいてきた。
「そんな隅っこで熱っぽい視線で見つめて……コソコソと愛でも語り合っているのかと思えば、物騒な話をしているわねぇ」
カウンターを挟んで向かいに立っていたのは、この酒場の店主。
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