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序
気になる兄弟の話
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side:早川 英人
「おっ、弟君じゃん」
近くの生徒たちの声が偶然耳に入ってくる。そちらを向けば、3人の生徒が仲良く歩いているのが目に入った。
一人は聖川健斗1年生。あとの二人は兄弟で、まんなかのが兄の篠原元、隣のが弟の秋だったと思う。もともと元は入学当初から学校側も配慮をしていたし外部生ということもあり、学内では有名だった。成績もよく、友達も多い。
体調は崩しやすいので運動は控えているもののクラスでは体育祭などでも団結して青春を楽しめているようだった。
「はー、今日も仲いいよなー」
「この時期から兄貴も公認のカップルですーってすごいよなあ」
健斗と秋が付き合っているというのも学校の中では周知のことだった。そりゃあんだけ毎日くっついてるし何より健斗が「アキは俺の恋人だからな」なんて言ってるんだから当然なんだけど。教員の中には苦い顔をする奴もいれど、大方は好意的にその様子を見守っていた。
「おお…春だなー」
ここに着任して3年目。養護教諭としても元にはそれなりに注意をするようにとお達しが出ている。それもあってか、ついつい目で追ってしまう。
「にしてもこの間電話で真奈美が言ってたのって本当にあいつらか?」
姉もまた公立学校で養護教諭をやっていた。守秘義務があるから深い話はしないけれど、姉と弟の関係性としては世の中ではそこそこ仲が良い方だろう。この間法事のことで電話で話したときに、元と秋が彼女の当時赴任していた小学校に通っていたと言われたのには驚いた。
『二人のお母さんとこの間お会いしたときにあんたのいる学校に二人とも行ったっておっしゃってたのよ。英人知ってる?』
「あー、まあ有名だな」
『そっかぁ』
いつも明瞭な言葉を話す姉の声のトーンが、少し落ちた。何かあるのだろうか。
「なんだ?」
『んーいや、小学生のころに元君がけがをしたことがあるんだけどね…』
それくらい男の子なんだからしょっちゅうだろう。まして元は運動能力はあまり高くない。
何が言いたいのかと眉を顰めると、真奈美はさもあたりを気にするかのようにさらに声の調子を下げた。
『そのとき、お母さんが秋君に「どうしてちゃんとみてなかったの!あなたなら大丈夫だと思ったのに!」ってすごい剣幕で叱っていてね…秋君も泣きそうだったのに何も言わなかったのがずっと気になってて…』
「それはまた面倒な母親を持ったもんだな」
『でしょう!?小学生に兄貴の世話なんてできるかって』
まあ、あの「弟」は親に反抗することはできなかったんだろうな、とぼんやりと兄弟の姿を思い出していた。家族であれども他人なのだから本来は衝突していくものなのだ。もしかしたら反抗期もまだなのかもしれないし、喧嘩なんてしたことあるんだろか。兄を間に挟んで恋人と過ごすとか、相当仲が良くてもハードルが高いだろう。
「まぁたしかに兄を世話する弟ってのがここでもそれなりに定着してるな」
あれがいままでずっと続いてきたのならそれなりにストレスもためそうなものだが。すくなくとも真奈美の世話をずっと焼くなんて自分には到底考えられない。それでも毎日気にした風もなく楽し気に3人で帰る姿は別に他人がどうこう言うようなものでもないだろう。
『それなりに気を付けてみてあげてよ、英人も』
「まあ、言われなくても気を付けてはいるけどな」
元の両親は、元が入学するときにわざわざ学園まで出向いて配慮を頼むと頭を下げたらしい(その時俺は研修の為に不在だったけれど)。それほど子供を心配する親心のある家庭であるならば、秋だって邪険にされたりはしていないだろう。
『この間会った時のお母さん、ちょっと神経質になってるみたいだから心配なのよ』
「親ってのはそんなものかもしれないしな……とりあえず何かあればまた連絡する」
見ている限りだと、恋人もいて、仲の良い兄弟もいてなんなら学園の中では充実した生活をしている方ではないか。たしかに、ちょっと貧乏くじを引きそうというか器用貧乏なタイプには見えるけれども。
「まあ、楽しめてるならそれでいいか」
ぼうっと見ているうちに、いつのまにか予鈴が鳴ってしまった。今日の持ち授業はないが保体の教材選定を頼まれていたのを思い出し、慌てて保健室へ歩き出した。
「おっ、弟君じゃん」
近くの生徒たちの声が偶然耳に入ってくる。そちらを向けば、3人の生徒が仲良く歩いているのが目に入った。
一人は聖川健斗1年生。あとの二人は兄弟で、まんなかのが兄の篠原元、隣のが弟の秋だったと思う。もともと元は入学当初から学校側も配慮をしていたし外部生ということもあり、学内では有名だった。成績もよく、友達も多い。
体調は崩しやすいので運動は控えているもののクラスでは体育祭などでも団結して青春を楽しめているようだった。
「はー、今日も仲いいよなー」
「この時期から兄貴も公認のカップルですーってすごいよなあ」
健斗と秋が付き合っているというのも学校の中では周知のことだった。そりゃあんだけ毎日くっついてるし何より健斗が「アキは俺の恋人だからな」なんて言ってるんだから当然なんだけど。教員の中には苦い顔をする奴もいれど、大方は好意的にその様子を見守っていた。
「おお…春だなー」
ここに着任して3年目。養護教諭としても元にはそれなりに注意をするようにとお達しが出ている。それもあってか、ついつい目で追ってしまう。
「にしてもこの間電話で真奈美が言ってたのって本当にあいつらか?」
姉もまた公立学校で養護教諭をやっていた。守秘義務があるから深い話はしないけれど、姉と弟の関係性としては世の中ではそこそこ仲が良い方だろう。この間法事のことで電話で話したときに、元と秋が彼女の当時赴任していた小学校に通っていたと言われたのには驚いた。
『二人のお母さんとこの間お会いしたときにあんたのいる学校に二人とも行ったっておっしゃってたのよ。英人知ってる?』
「あー、まあ有名だな」
『そっかぁ』
いつも明瞭な言葉を話す姉の声のトーンが、少し落ちた。何かあるのだろうか。
「なんだ?」
『んーいや、小学生のころに元君がけがをしたことがあるんだけどね…』
それくらい男の子なんだからしょっちゅうだろう。まして元は運動能力はあまり高くない。
何が言いたいのかと眉を顰めると、真奈美はさもあたりを気にするかのようにさらに声の調子を下げた。
『そのとき、お母さんが秋君に「どうしてちゃんとみてなかったの!あなたなら大丈夫だと思ったのに!」ってすごい剣幕で叱っていてね…秋君も泣きそうだったのに何も言わなかったのがずっと気になってて…』
「それはまた面倒な母親を持ったもんだな」
『でしょう!?小学生に兄貴の世話なんてできるかって』
まあ、あの「弟」は親に反抗することはできなかったんだろうな、とぼんやりと兄弟の姿を思い出していた。家族であれども他人なのだから本来は衝突していくものなのだ。もしかしたら反抗期もまだなのかもしれないし、喧嘩なんてしたことあるんだろか。兄を間に挟んで恋人と過ごすとか、相当仲が良くてもハードルが高いだろう。
「まぁたしかに兄を世話する弟ってのがここでもそれなりに定着してるな」
あれがいままでずっと続いてきたのならそれなりにストレスもためそうなものだが。すくなくとも真奈美の世話をずっと焼くなんて自分には到底考えられない。それでも毎日気にした風もなく楽し気に3人で帰る姿は別に他人がどうこう言うようなものでもないだろう。
『それなりに気を付けてみてあげてよ、英人も』
「まあ、言われなくても気を付けてはいるけどな」
元の両親は、元が入学するときにわざわざ学園まで出向いて配慮を頼むと頭を下げたらしい(その時俺は研修の為に不在だったけれど)。それほど子供を心配する親心のある家庭であるならば、秋だって邪険にされたりはしていないだろう。
『この間会った時のお母さん、ちょっと神経質になってるみたいだから心配なのよ』
「親ってのはそんなものかもしれないしな……とりあえず何かあればまた連絡する」
見ている限りだと、恋人もいて、仲の良い兄弟もいてなんなら学園の中では充実した生活をしている方ではないか。たしかに、ちょっと貧乏くじを引きそうというか器用貧乏なタイプには見えるけれども。
「まあ、楽しめてるならそれでいいか」
ぼうっと見ているうちに、いつのまにか予鈴が鳴ってしまった。今日の持ち授業はないが保体の教材選定を頼まれていたのを思い出し、慌てて保健室へ歩き出した。
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