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第一部
雨宿り②
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※視点交錯します
side:アキ
これは、やばい。
直感的に思い浮かんだのはその一言。目の前に急に現れた男の人。たしか、保健室の先生だったと思う。兄さんが話をしているところを見かけたことがあるから。
「な、なんで…」
動揺しているのは丸わかりでも、聞かずにはいられなかった。あからさまに不自然だと分かっていても、声が震える。先生は、そんな僕を見て眉を寄せた。
「そりゃこっちのセリフだ。こんな雨の日にこんな大穴あいた倉庫で寝る気か」
ああ、やっぱりバレてるんだ……でも、ここを追い出されたら本気で行く所がない。
有紀に迷惑をかけたくないし…どうしよう。どうにか状況を打開したくてきょろきょろと視線を彷徨わせるけれど、雨脚はさらに強まるばかりで帰宅する生徒の姿も遠目にしか見えなかった。
「そ、そういうわけじゃないですよ、ただ…」
どうにか言い訳したくても何を言えばいいのかわからない。その間にも雨は止まってくれないし、傘もないから身体中はもうびしょ濡れだった。
この間の一件以来、ずっと暖かい布団で眠っていない。かたい体育用のマットではあまり休むこともできなくて、正直体調は良くなかった。だんだんと寒くなってくる。
それを見た先生は近寄って来て傘にぐいっと僕を引き寄せた。
「お前顔色悪すぎるぞ。部屋に…」
その言葉の途中で、先生は言葉を止めた。逃げるなら、いまだ。どうせ顔を見られているけれどうまく働かない頭が「今しかないぞ」と訴える。
急いで先生から離れようとして、腕をガッと掴まれる。
「離してください…」
「は?馬鹿言うな。お前体調どんだけ悪いんだ……」
押し問答するのも嫌で、腕を引き離そうとするけれどうまくいかない。そのうち足元のぬかるみにバランスが崩れて倒れそうになる。
あ、だめだ。
そう思った瞬間、つよく腕を引かれる感覚がして、じんわりとした温もりを感じた気がした。
******
side:英人
こいつ雨で濡れてるとは言え顔色悪すぎないか?そう思いながら抵抗しようとして転びかけたアキに目をやる。細身とは言え、運動部でそれなりに活躍をしているやつにしては体力がなさすぎる。
部屋に、と言った瞬間に目に入ったのは言いようのないアキの表情だった。今にも泣きそうで、思わず言葉が詰まってしまう。
掴んだ腕の冷たさに慌てて何を言うべきか探してしまう。
「…部屋に戻らなくていい。ついてこい」
ついてこい、と言いながら腕を引くと、アキはもう抵抗する力もないようだった。
「どこに…」
小さな声で聞かれて、やはり部屋には帰れないのだろうと確信する。ここで寝泊りする気かといったのは鎌掛けのつもりだったが。
「保健室」
「…なんでです」
「お前自分の顔色悪いのわかってる?」
そういうと、アキはじっと俺を見た。
「……大丈夫です」
「馬鹿言うな。俺は養護教諭だぞ?お前の自己申告より俺は自分の見る目を信用するわ」
はっきり言い切ると、アキは困ったように視線を落とした。
「…僕は、あの……でも、大丈夫です……」
「そんなに信じようのない大丈夫聞きたくもねえ」
バッサリ切り捨てると、もうアキは何も言わなかった。震えているのは、叱られることへの緊張ばかりではないだろう。
はやく、あたためてあげないと。
side:アキ
これは、やばい。
直感的に思い浮かんだのはその一言。目の前に急に現れた男の人。たしか、保健室の先生だったと思う。兄さんが話をしているところを見かけたことがあるから。
「な、なんで…」
動揺しているのは丸わかりでも、聞かずにはいられなかった。あからさまに不自然だと分かっていても、声が震える。先生は、そんな僕を見て眉を寄せた。
「そりゃこっちのセリフだ。こんな雨の日にこんな大穴あいた倉庫で寝る気か」
ああ、やっぱりバレてるんだ……でも、ここを追い出されたら本気で行く所がない。
有紀に迷惑をかけたくないし…どうしよう。どうにか状況を打開したくてきょろきょろと視線を彷徨わせるけれど、雨脚はさらに強まるばかりで帰宅する生徒の姿も遠目にしか見えなかった。
「そ、そういうわけじゃないですよ、ただ…」
どうにか言い訳したくても何を言えばいいのかわからない。その間にも雨は止まってくれないし、傘もないから身体中はもうびしょ濡れだった。
この間の一件以来、ずっと暖かい布団で眠っていない。かたい体育用のマットではあまり休むこともできなくて、正直体調は良くなかった。だんだんと寒くなってくる。
それを見た先生は近寄って来て傘にぐいっと僕を引き寄せた。
「お前顔色悪すぎるぞ。部屋に…」
その言葉の途中で、先生は言葉を止めた。逃げるなら、いまだ。どうせ顔を見られているけれどうまく働かない頭が「今しかないぞ」と訴える。
急いで先生から離れようとして、腕をガッと掴まれる。
「離してください…」
「は?馬鹿言うな。お前体調どんだけ悪いんだ……」
押し問答するのも嫌で、腕を引き離そうとするけれどうまくいかない。そのうち足元のぬかるみにバランスが崩れて倒れそうになる。
あ、だめだ。
そう思った瞬間、つよく腕を引かれる感覚がして、じんわりとした温もりを感じた気がした。
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side:英人
こいつ雨で濡れてるとは言え顔色悪すぎないか?そう思いながら抵抗しようとして転びかけたアキに目をやる。細身とは言え、運動部でそれなりに活躍をしているやつにしては体力がなさすぎる。
部屋に、と言った瞬間に目に入ったのは言いようのないアキの表情だった。今にも泣きそうで、思わず言葉が詰まってしまう。
掴んだ腕の冷たさに慌てて何を言うべきか探してしまう。
「…部屋に戻らなくていい。ついてこい」
ついてこい、と言いながら腕を引くと、アキはもう抵抗する力もないようだった。
「どこに…」
小さな声で聞かれて、やはり部屋には帰れないのだろうと確信する。ここで寝泊りする気かといったのは鎌掛けのつもりだったが。
「保健室」
「…なんでです」
「お前自分の顔色悪いのわかってる?」
そういうと、アキはじっと俺を見た。
「……大丈夫です」
「馬鹿言うな。俺は養護教諭だぞ?お前の自己申告より俺は自分の見る目を信用するわ」
はっきり言い切ると、アキは困ったように視線を落とした。
「…僕は、あの……でも、大丈夫です……」
「そんなに信じようのない大丈夫聞きたくもねえ」
バッサリ切り捨てると、もうアキは何も言わなかった。震えているのは、叱られることへの緊張ばかりではないだろう。
はやく、あたためてあげないと。
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