時の嵐の中で〜メッセージを受け止めて〜

夕妃

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始まり

私を呼ぶのは誰?

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《美沙希、眼を醒して…
思い出して。美沙希の力が必要なのです。私の声があなたには聴こえているはずです》

暗闇の中に綺麗な着物を着た、長い黒髪の女の人が浮かび上がり、私に呼び掛けている。
その表情は、蒼白で緊張感に満ちていた。


「美沙希ー!いい加減起きないと遅刻するわよ!」
母の階下からの呼び掛けに目が覚める。
「姫!…あれ?私何してるんだっけ???」
飛び起きて、声に出した言葉に自分で意味がわからない。
「何してるんだっけ?じゃないわよ!時計を見なさい。時計を!」
部屋まで私を起こしに来た母の呆れ声に促されて時計を見る。
「………きゃー!は、は、8時!?なんで起こしてくれないのよー!」
「起こしたわよ…」
目覚まし時計を見て、その時間に発狂する。
これじゃ遅刻じゃん!
ため息まじりの母の呟きをよそめにベッドから飛び降りて、ダッシュで支度。

「行ってきまーす!」
身支度を整えて、玄関から飛び出す私の後ろから母が慌てて声をかけた。
「美沙希、お弁当!」
ランチバックを腕を伸ばして私に突き出す。
「きゃー、ありがとう!」
お弁当を受取り、再び自転車に飛び乗る。
「全く、おっちょこちょいなんだから。誰に似たのかしら?」
「まぁ、お前だな」
私を見送る母の一言にそう答えたのは父だ。
「あなた!」
「行ってきます」
一瞥する母の横をしれっと通り過ぎて父も会社へ出掛けた。

「セーフ!」
教室のドアを勢いよく開ける。
近くにいた利津がニヤッと笑う。
「まーた遅刻寸前」
小柄な未奈が無邪気に笑って、席に座った私の髪を解かし始める。
「髪の毛ボサボサにしてぇ」
「1限目は数学。小テストがありましてよ」
冷めた顔で言う大和撫子の若葉。
「げっ、忘れてた…」
「間に合って良かったわね」
クスクス笑う葉月。肩までの髪がくるんとしている天然パーマが可愛い。
「また8時に起きたんだ?」
悪戯っぽく言う理沙は利津と意地悪さが似ている。
「どうしてバレるんだろ…目覚まし時計が悪いのよ!起こしてくれないんだから!」
私の言葉に5人は苦笑していた。

放課後、いつものように6人でファーストフードに寄り道。
ポテトを口に運びながら、夢の話になった。
「そういえば、なんだか変な夢見たんだよねー」
上向き加減で言う私に、口々に言葉が続く。
利津「夢?あー、あたしも見たな」
未奈「偶然だねー!私も見たよ!」
理沙「へぇ、変な夢ならあたしも見たけど揃って見るかね?」
葉月「私も見た。普段すぐ忘れちゃうのに覚えてるんだよね」
若葉「そんな偶然あるわけありませんけど、私も見ましたわ」
思わず目を見開いてしまう。
「揃って変な夢見る事ある?一応聞くけど、みんなどんな夢見たの?」
そりゃ、聞きたくなるわよね。

利津が先に口を開いた。
「それが、よくわかんないんだけど、平安時代くらいかなー。綺麗な着物着た女の人が出て来てさー、そうそう!美沙希に似てんのよね。それで『美沙希と一緒に私を助けてください』って」
「その女性「姫巫女」と名乗りませんでした?」
若葉の一言に全員の目を丸く見開いた視線が若葉に向けられた。
未奈が瞳をキラキラさせてはしゃいだ。
「私の夢もそうだよ!」
「私と一緒に…って、どういう意味だろう?それに本当に偶然じゃないのかなぁ?」
理沙がニカッと笑った。
「6人揃っておんなじ夢見る事ある?何か意味があるんじゃないの?面白そうじゃん?」
「そうだね。よくわかんないけど、何かあるのかも…。探ってみようか?」
と葉月も頷いた。
だけど、なんだか嫌な予感がして気が進まない。
「なんかヤバそうな気がすんだけど」
私の言葉に5人が顔を向ける。
少しの沈黙。破ったのは若葉だ。
「美沙希、どうしてそう思いますの?あなた姫巫女の生まれ変わりですの?」
「あたしがっ?!」
思わず自分を人差し指で指して、声を上げてしまう。そんな突拍子もない事を…。
「だから、過去から美沙希に助けを求めているんじゃないんですの?」
「きっとそうよ。じゃなきゃ、揃って同じ夢なんて普通見ないもの」
葉月がテーブルに肘をついて手を組んで最もらしく言う。
1人ハテナ顔の未奈。
「んー、わかんない?」

結局のところ、何もわからないままファーストフードを出た私達はそこで解散した。
帰り道が同じ方向の利津と若葉を家に誘う。

紅茶とクッキーを前に考え込む私達。
「でも、どうして私、嫌な予感なんかするんだろう」
アゴを手の甲に乗せてテーブルに肘をつく。
「きっと姫巫女の記憶が美沙希に流れ込んでいるのですわ」
優雅な手つきで紅茶を飲みながらしれっと言う若葉。
「そうだよ。美沙希が生まれ変わりなら、姫巫女の時の記憶を美沙希が思い出せばいいんじゃん」
いいアイデアと言わんばかりの利津。
「むちゃ言わないでよ。それに生まれ変わりだのなんだのって、本当にこんな事あると思う?全然、現実的じゃないよ」
何かある。そんな気はしているのは確かだが、こんな事は普通に考えたら、あるわけないのだ。
どんなに考えようと、夢は夢なわけで現実に何かが起こるなんて事、あるわけない。
外が暗くなり始めて、答えの出ない夢の話はここまでにしようと2人は帰った。
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