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始まり
現実
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現実的じゃない。
そう思いながらも、夢の中の《姫巫女》の表情が忘れられないでいる。
切迫した緊張感に溢れた顔。
一体、私に何を伝えようとしているんだろう。
そう思っては、非現実的だと思い直す。を繰り返す。
夕食も勉強もお風呂さえも上の空で、ベッドに入るまでの間ずっと《姫巫女》の事が頭から離れなかった。
ベッドでウトウトし始めると、聴き覚えのある柔らかな声が私を呼んだ。
《美沙希、美沙希。私の声が聴こえていますか?》
昨日、夢の中で聴いた声。
『姫?聴こえているのは本当に、幻じゃなく、あなたが私に話しかけているの?』
夢とも現実とも言えない。あるはずのない空間。だけど、暗闇の中の【今】を私は確かに感じている。
《美沙希、ここの世界で残酷な争いが始まろうとしています。今から、私の遣いの者が美沙希の処へ行きます。今、私が美沙希に言える事は…決して、決して利津と若葉を失ってはいけないという事だけ》
か細くも聴こえる声は、それだけ言うと気配を消した。
『姫待って!利津と若葉を失うなって、どう言う事なの!?』
そう叫んだ私はベッドから勢いよく上半身を起こした。
いつの間にか寝てしまっていたらしい。
やっぱり夢なのか…
釈然としないまま、そう思った時、窓の方に気配を感じた。
気配の方に目を向ける。
髪の長い着物姿の女の人が優しい目をしてこちらを見ている。ふと頭の中をよぎった言葉が私の口を開かせる。
「あなた…津薙?」
何故、この女の人の名前を知っているのか自分でもわからない。だけど、私はこの人を知っている。
「お生まれ変わりになった姫巫女様。なんだか懐かしゅうございます。美沙希様。憶えていてくださって…嬉しく思っております」
そう言って、深々と頭を下げた津薙。
「これは…現実なの?」
私の問いに、頭を上げた津薙は自分達の置かれている状況を話し始めた。
「ここまでが、今わたくしに話せる全てです。元から争いの絶えなかった間柄ですが、これから起ころうとしている争いは大きなものになるでしょう。姫様も何とかお止めになりたいと思われておりますが」
津薙の顔には悲しみと戸惑いが現れていた。
一通り話を聞いても、まだこれが現実の事だと信じ切れずにいる。
「そう。だけど、わからない。こんな事、津薙が目の前にいて話をしていても現実的にはありえない事よね?」
私は、泥棒に欺されている。そんな気分にすらなる。
津薙はそんな私を見て、複雑な顔をする。
腕を伸ばし、手のひらを私に向けた。
「美沙希様。その《石》を身につけていらっしゃるあなた様になら、おわかりになる事でございましょう。必ず姫様のお力になって頂けると信じております。姫様から文をお預かりしてまいりました」
そう言って、着物の襟元から文を取り出した。
両手を添えて、私に差し出す。
「手紙?」
姫巫女の時代の文字が私に読めるだろうか。
呑気な事を思いつつ、手紙を受け取ると
「それでは、わたくしはこれで下がらせて頂きます」
最初に見た優しい目をした津薙の姿がすぅと薄くなっていく。
「え、ちょっと待って。まだ聞きたい事がたくさんあるのよ。津薙、待って!」
引き留めようとベッドに座っていた私は立ち上がり津薙に腕を伸ばすが、伸ばした腕は空を切っただけだった。
次の日、学校に着いて早々に他の5人を使われてない教室に呼んだ。
「《姫巫女様》の遣いの女の人が?」
目を丸くする葉月。気持ちわからなくもない。
「私や若葉が?どう関係しているっての?」
首を傾げる利津。
「それはわかりませんけど、過去の世界から美沙希に危害を加える事なんて出来ませんわ」
難しい顔をして、冷静に話す若葉。
「なんにしても『石』ってなんだろう?」
考え込む私の袖を葉月が引っ張った。
「ねぇ、私達にも手伝わせてよ?」
「まさか、美沙希と利津と若葉3人だけで…なんて考えてないでしょうね?」
腕を組んで睨み付けるように言う理沙。いや、完全に睨んでいる。
「なんだか大変な事になりそうだね」
ぷぅっと頬を膨らまして呟く未奈が珍しく難しい顔をしている。
私は思わずため息をついた。
「私達が関わりたくなくても、向こうからやってきたものは仕方ない。非現実極まりないけど、どうやら現実みたいね。この目で津薙を見て話してるんだもん」
組んでいた腕を頭に持っていき理沙が頷いた。
「そんなもんね。誰に言っても信じてもらえないヤツ。でもうちらの間では現実」
「ねぇねぇ!美沙希と利津と若葉がkeyだよね!」
未奈が目をキラキラさせて声を上げる。
「…だから、そう言ってるじゃん。それより、授業をサボってるっていうのも現実よ」
葉月の冷静な一言に、ハッとして顔を見合わせる。
みんな…出席日数大丈夫よね?
これって…私の責任かっ?
利津がお手上げと言わんばかりに空を仰いだ。
そう思いながらも、夢の中の《姫巫女》の表情が忘れられないでいる。
切迫した緊張感に溢れた顔。
一体、私に何を伝えようとしているんだろう。
そう思っては、非現実的だと思い直す。を繰り返す。
夕食も勉強もお風呂さえも上の空で、ベッドに入るまでの間ずっと《姫巫女》の事が頭から離れなかった。
ベッドでウトウトし始めると、聴き覚えのある柔らかな声が私を呼んだ。
《美沙希、美沙希。私の声が聴こえていますか?》
昨日、夢の中で聴いた声。
『姫?聴こえているのは本当に、幻じゃなく、あなたが私に話しかけているの?』
夢とも現実とも言えない。あるはずのない空間。だけど、暗闇の中の【今】を私は確かに感じている。
《美沙希、ここの世界で残酷な争いが始まろうとしています。今から、私の遣いの者が美沙希の処へ行きます。今、私が美沙希に言える事は…決して、決して利津と若葉を失ってはいけないという事だけ》
か細くも聴こえる声は、それだけ言うと気配を消した。
『姫待って!利津と若葉を失うなって、どう言う事なの!?』
そう叫んだ私はベッドから勢いよく上半身を起こした。
いつの間にか寝てしまっていたらしい。
やっぱり夢なのか…
釈然としないまま、そう思った時、窓の方に気配を感じた。
気配の方に目を向ける。
髪の長い着物姿の女の人が優しい目をしてこちらを見ている。ふと頭の中をよぎった言葉が私の口を開かせる。
「あなた…津薙?」
何故、この女の人の名前を知っているのか自分でもわからない。だけど、私はこの人を知っている。
「お生まれ変わりになった姫巫女様。なんだか懐かしゅうございます。美沙希様。憶えていてくださって…嬉しく思っております」
そう言って、深々と頭を下げた津薙。
「これは…現実なの?」
私の問いに、頭を上げた津薙は自分達の置かれている状況を話し始めた。
「ここまでが、今わたくしに話せる全てです。元から争いの絶えなかった間柄ですが、これから起ころうとしている争いは大きなものになるでしょう。姫様も何とかお止めになりたいと思われておりますが」
津薙の顔には悲しみと戸惑いが現れていた。
一通り話を聞いても、まだこれが現実の事だと信じ切れずにいる。
「そう。だけど、わからない。こんな事、津薙が目の前にいて話をしていても現実的にはありえない事よね?」
私は、泥棒に欺されている。そんな気分にすらなる。
津薙はそんな私を見て、複雑な顔をする。
腕を伸ばし、手のひらを私に向けた。
「美沙希様。その《石》を身につけていらっしゃるあなた様になら、おわかりになる事でございましょう。必ず姫様のお力になって頂けると信じております。姫様から文をお預かりしてまいりました」
そう言って、着物の襟元から文を取り出した。
両手を添えて、私に差し出す。
「手紙?」
姫巫女の時代の文字が私に読めるだろうか。
呑気な事を思いつつ、手紙を受け取ると
「それでは、わたくしはこれで下がらせて頂きます」
最初に見た優しい目をした津薙の姿がすぅと薄くなっていく。
「え、ちょっと待って。まだ聞きたい事がたくさんあるのよ。津薙、待って!」
引き留めようとベッドに座っていた私は立ち上がり津薙に腕を伸ばすが、伸ばした腕は空を切っただけだった。
次の日、学校に着いて早々に他の5人を使われてない教室に呼んだ。
「《姫巫女様》の遣いの女の人が?」
目を丸くする葉月。気持ちわからなくもない。
「私や若葉が?どう関係しているっての?」
首を傾げる利津。
「それはわかりませんけど、過去の世界から美沙希に危害を加える事なんて出来ませんわ」
難しい顔をして、冷静に話す若葉。
「なんにしても『石』ってなんだろう?」
考え込む私の袖を葉月が引っ張った。
「ねぇ、私達にも手伝わせてよ?」
「まさか、美沙希と利津と若葉3人だけで…なんて考えてないでしょうね?」
腕を組んで睨み付けるように言う理沙。いや、完全に睨んでいる。
「なんだか大変な事になりそうだね」
ぷぅっと頬を膨らまして呟く未奈が珍しく難しい顔をしている。
私は思わずため息をついた。
「私達が関わりたくなくても、向こうからやってきたものは仕方ない。非現実極まりないけど、どうやら現実みたいね。この目で津薙を見て話してるんだもん」
組んでいた腕を頭に持っていき理沙が頷いた。
「そんなもんね。誰に言っても信じてもらえないヤツ。でもうちらの間では現実」
「ねぇねぇ!美沙希と利津と若葉がkeyだよね!」
未奈が目をキラキラさせて声を上げる。
「…だから、そう言ってるじゃん。それより、授業をサボってるっていうのも現実よ」
葉月の冷静な一言に、ハッとして顔を見合わせる。
みんな…出席日数大丈夫よね?
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利津がお手上げと言わんばかりに空を仰いだ。
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