就職先は、あやかし専門の衣装店でした

らむね

文字の大きさ
13 / 37

いろんな夫婦の形

しおりを挟む
 世の中はGWという大型連休に突入する。
 木々が青々と生い茂り、彩り豊かな花が咲き誇る季節は、過ごしやすい気候と相まって人々も活動的になるらしい。
 私の職場である衣装店Bertinaも、連休中はかなりの人で賑わっていた。

「これ、どうですか?」
「……お似合いでございます」

 あらかじめ決められている台詞のように、私は淡々と言葉を返す。
 新郎となる男性は特に気分を害した様子もなく、前髪をかき上げて気取ったポーズを取った。

「そうですよね! このタキシードを着こなせるのは俺しかいないと思ったんですよ」

 まさか、このタキシードを気に入る方がいるとは。

 シャンパンゴールドなる名称のタキシードは、眩いきらめきを発する金色に輝く衣装であった。
 シャンパンと言っても、薄っすら金色に色付く高級感のある色合いでは無い。どちらかと言うと、一度見たら忘れないド派手な黄色寄りの色である。

 おかげで私の頭の中では「はいっ、ど~も!!」と両手を叩きながら登場するお笑い芸人の姿がチラつく。

「あっ、この角度もキマっていると思いません!?」
「……そうですね」

 本日担当している新郎、市ヶ谷いちがや 宗介そうすけ様は何度も細かく顔の角度を変えたり、モデルさながらのポージングを取る。
 鏡に映る自分を惚れ惚れした様子で眺める市ヶ谷様に、私は密かに苦笑した。

 一般的に衣装を選びに来るカップルは、新婦様の方が乗り気である事の方が多い。
 三割くらいはそんな新婦様を穏やかに見守る新郎様もいるけど。大抵は手持ち無沙汰で退屈そうにしている。

 だからこそ新郎様の方が乗り気で、それもタキシード、シャツ、ベストとアイテムを変えるごとに自分に酔いしれる方に初めて遭遇した。
 今日だけで十八回も賛辞を求められると、さすがに褒め言葉のボキャブラリーが尽きてしまったのだ。

 私の事など全く気にしていないだろうけど、一応接客中なのでそれとなくお顔を拝見する。

「上下で合わせると更に輝いてますね! さっきの緑もいいけどこっちも良いな~」

 ……やっぱり、あやかしなんだ。
 来店された時は普通の顔だったのに、いつの間にか素の姿に戻っていた。
 眉毛も鼻も消えて、顔の大部分を占めるのはギョロッとした大きな眼と口だけ。

 最初に記入して貰う用紙には、種族:一つ目小僧と表記されている。
 図書館であやかしに関する話を読んでいなかったら叫んでいたかもしれない。

 学生の時に言われてもピンとこなかったけど。このお店に就職した今なら分かる。
 予習って大事だな、って。

「店員さんはどっちの方がカッコいいと思います?」
「えっ!? えーっと、そうですね」

 まさかの二択に動揺して視線が泳ぐ。
 どっちと言うのはいま着ているシャンパンゴールドと、ラックに掛けてある鮮やかな緑色のタキシードの事らしい。

 結婚式の主役は新郎新婦。だから参列する方もTPOに合わせた服装が求められる。
 だからと言ってどちらを着ても主張が強過ぎると言うか、変に悪目立ちする気がしてならない。

 接客歴が長ければ無難に場を収められるのに。就職して間もない私には、この場合の正しい返答が分からずにいる。
 叔父さん、早く戻ってきて!

 衣装店がどんな仕事をしているか覚える為にも、今日は新郎様の接客のアシスタントをする事になった。
 しかし、肝心の店長は電話対応に追われてしまい、私一人で接客を担当している。

 いつも担当の武ノ内さんはお休みで、高校生の倉地さんは課外授業で休み。
 ただでさえ人手が足りない新婦側は、早見さん&式場から招集された臨時スタッフニ名を加えてもフル稼働状態。

「うわっ……何そのタキシード!」

 ぎょっと目を丸くするウェディングドレスの女性は、裾を持ち上げて憤然ふんぜんと駆け寄る。
 私の横を通り抜ける純白のドレスはシンプルながら繊細なレースで清楚に仕立てたもの。
 その分、落ち着いた大人の魅力が引き立つデザインになっていて、洗練された美しさと気品を感じさせる。

「どうよ? あまりに似合ってて惚れ直し」
「アニメのキャラクターじゃないんだから、派手過ぎでしょ!」

 突如乱入した新婦様は市ヶ谷様の言葉に食い気味に被せる。

「市ヶ谷くんのセンスが心配で衣装選びを中断してきて良かった。危うく大事故になるところだった」

 新婦様は青ざめた顔でブルッと体を震わせた。
 袖の無いドレスなので、むき出しになった二の腕にポツポツ鳥肌が立っている。

「いやっ、聞いて? 新郎新婦が入場する時に茜が雷を落とすじゃん?
 そこに俺がこれを着て登場したら目立つから、オリジナリティ溢れる式になると思うんだよね~!」

 さすが市ヶ谷様。明らかにドン引きした様子の新婦、茜様の容赦ない物言いにも怯まない。
 むしろ、人より目立つ事に快感を覚え、恍惚としているように見える。

「そういう場所で雷なんて出して引火したらどうするの! 却下よ却下!! これは脱がして良いので、カタログのこれか、これを着せておいて下さい」

 ピシャッと言うだけ言うと茜様は両手で顔を覆い、どんよりした空気を背負って試着室に戻って行く。

 思い返してみると、茜様の種族は雷神だったような。しっかり者の新婦様で良かった。
 私はいろんな意味でほっと胸を撫でおろす。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

処理中です...