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いろんな夫婦の形
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世の中はGWという大型連休に突入する。
木々が青々と生い茂り、彩り豊かな花が咲き誇る季節は、過ごしやすい気候と相まって人々も活動的になるらしい。
私の職場である衣装店Bertinaも、連休中はかなりの人で賑わっていた。
「これ、どうですか?」
「……お似合いでございます」
予め決められている台詞のように、私は淡々と言葉を返す。
新郎となる男性は特に気分を害した様子もなく、前髪をかき上げて気取ったポーズを取った。
「そうですよね! このタキシードを着こなせるのは俺しかいないと思ったんですよ」
まさか、このタキシードを気に入る方がいるとは。
シャンパンゴールドなる名称のタキシードは、眩い煌きを発する金色に輝く衣装であった。
シャンパンと言っても、薄っすら金色に色付く高級感のある色合いでは無い。どちらかと言うと、一度見たら忘れないド派手な黄色寄りの色である。
おかげで私の頭の中では「はいっ、ど~も!!」と両手を叩きながら登場するお笑い芸人の姿がチラつく。
「あっ、この角度もキマっていると思いません!?」
「……そうですね」
本日担当している新郎、市ヶ谷 宗介様は何度も細かく顔の角度を変えたり、モデルさながらのポージングを取る。
鏡に映る自分を惚れ惚れした様子で眺める市ヶ谷様に、私は密かに苦笑した。
一般的に衣装を選びに来るカップルは、新婦様の方が乗り気である事の方が多い。
三割くらいはそんな新婦様を穏やかに見守る新郎様もいるけど。大抵は手持ち無沙汰で退屈そうにしている。
だからこそ新郎様の方が乗り気で、それもタキシード、シャツ、ベストとアイテムを変えるごとに自分に酔いしれる方に初めて遭遇した。
今日だけで十八回も賛辞を求められると、さすがに褒め言葉のボキャブラリーが尽きてしまったのだ。
私の事など全く気にしていないだろうけど、一応接客中なのでそれとなくお顔を拝見する。
「上下で合わせると更に輝いてますね! さっきの緑もいいけどこっちも良いな~」
……やっぱり、あやかしなんだ。
来店された時は普通の顔だったのに、いつの間にか素の姿に戻っていた。
眉毛も鼻も消えて、顔の大部分を占めるのはギョロッとした大きな眼と口だけ。
最初に記入して貰う用紙には、種族:一つ目小僧と表記されている。
図書館であやかしに関する話を読んでいなかったら叫んでいたかもしれない。
学生の時に言われてもピンとこなかったけど。このお店に就職した今なら分かる。
予習って大事だな、って。
「店員さんはどっちの方がカッコいいと思います?」
「えっ!? えーっと、そうですね」
まさかの二択に動揺して視線が泳ぐ。
どっちと言うのはいま着ているシャンパンゴールドと、ラックに掛けてある鮮やかな緑色のタキシードの事らしい。
結婚式の主役は新郎新婦。だから参列する方もTPOに合わせた服装が求められる。
だからと言ってどちらを着ても主張が強過ぎると言うか、変に悪目立ちする気がしてならない。
接客歴が長ければ無難に場を収められるのに。就職して間もない私には、この場合の正しい返答が分からずにいる。
叔父さん、早く戻ってきて!
衣装店がどんな仕事をしているか覚える為にも、今日は新郎様の接客のアシスタントをする事になった。
しかし、肝心の店長は電話対応に追われてしまい、私一人で接客を担当している。
いつも担当の武ノ内さんはお休みで、高校生の倉地さんは課外授業で休み。
ただでさえ人手が足りない新婦側は、早見さん&式場から招集された臨時スタッフニ名を加えてもフル稼働状態。
「うわっ……何そのタキシード!」
ぎょっと目を丸くするウェディングドレスの女性は、裾を持ち上げて憤然と駆け寄る。
私の横を通り抜ける純白のドレスはシンプルながら繊細なレースで清楚に仕立てたもの。
その分、落ち着いた大人の魅力が引き立つデザインになっていて、洗練された美しさと気品を感じさせる。
「どうよ? あまりに似合ってて惚れ直し」
「アニメのキャラクターじゃないんだから、派手過ぎでしょ!」
突如乱入した新婦様は市ヶ谷様の言葉に食い気味に被せる。
「市ヶ谷くんのセンスが心配で衣装選びを中断してきて良かった。危うく大事故になるところだった」
新婦様は青ざめた顔でブルッと体を震わせた。
袖の無いドレスなので、むき出しになった二の腕にポツポツ鳥肌が立っている。
「いやっ、聞いて? 新郎新婦が入場する時に茜が雷を落とすじゃん?
そこに俺がこれを着て登場したら目立つから、オリジナリティ溢れる式になると思うんだよね~!」
さすが市ヶ谷様。明らかにドン引きした様子の新婦、茜様の容赦ない物言いにも怯まない。
むしろ、人より目立つ事に快感を覚え、恍惚としているように見える。
「そういう場所で雷なんて出して引火したらどうするの! 却下よ却下!! これは脱がして良いので、カタログのこれか、これを着せておいて下さい」
ピシャッと言うだけ言うと茜様は両手で顔を覆い、どんよりした空気を背負って試着室に戻って行く。
思い返してみると、茜様の種族は雷神だったような。しっかり者の新婦様で良かった。
私はいろんな意味でほっと胸を撫でおろす。
木々が青々と生い茂り、彩り豊かな花が咲き誇る季節は、過ごしやすい気候と相まって人々も活動的になるらしい。
私の職場である衣装店Bertinaも、連休中はかなりの人で賑わっていた。
「これ、どうですか?」
「……お似合いでございます」
予め決められている台詞のように、私は淡々と言葉を返す。
新郎となる男性は特に気分を害した様子もなく、前髪をかき上げて気取ったポーズを取った。
「そうですよね! このタキシードを着こなせるのは俺しかいないと思ったんですよ」
まさか、このタキシードを気に入る方がいるとは。
シャンパンゴールドなる名称のタキシードは、眩い煌きを発する金色に輝く衣装であった。
シャンパンと言っても、薄っすら金色に色付く高級感のある色合いでは無い。どちらかと言うと、一度見たら忘れないド派手な黄色寄りの色である。
おかげで私の頭の中では「はいっ、ど~も!!」と両手を叩きながら登場するお笑い芸人の姿がチラつく。
「あっ、この角度もキマっていると思いません!?」
「……そうですね」
本日担当している新郎、市ヶ谷 宗介様は何度も細かく顔の角度を変えたり、モデルさながらのポージングを取る。
鏡に映る自分を惚れ惚れした様子で眺める市ヶ谷様に、私は密かに苦笑した。
一般的に衣装を選びに来るカップルは、新婦様の方が乗り気である事の方が多い。
三割くらいはそんな新婦様を穏やかに見守る新郎様もいるけど。大抵は手持ち無沙汰で退屈そうにしている。
だからこそ新郎様の方が乗り気で、それもタキシード、シャツ、ベストとアイテムを変えるごとに自分に酔いしれる方に初めて遭遇した。
今日だけで十八回も賛辞を求められると、さすがに褒め言葉のボキャブラリーが尽きてしまったのだ。
私の事など全く気にしていないだろうけど、一応接客中なのでそれとなくお顔を拝見する。
「上下で合わせると更に輝いてますね! さっきの緑もいいけどこっちも良いな~」
……やっぱり、あやかしなんだ。
来店された時は普通の顔だったのに、いつの間にか素の姿に戻っていた。
眉毛も鼻も消えて、顔の大部分を占めるのはギョロッとした大きな眼と口だけ。
最初に記入して貰う用紙には、種族:一つ目小僧と表記されている。
図書館であやかしに関する話を読んでいなかったら叫んでいたかもしれない。
学生の時に言われてもピンとこなかったけど。このお店に就職した今なら分かる。
予習って大事だな、って。
「店員さんはどっちの方がカッコいいと思います?」
「えっ!? えーっと、そうですね」
まさかの二択に動揺して視線が泳ぐ。
どっちと言うのはいま着ているシャンパンゴールドと、ラックに掛けてある鮮やかな緑色のタキシードの事らしい。
結婚式の主役は新郎新婦。だから参列する方もTPOに合わせた服装が求められる。
だからと言ってどちらを着ても主張が強過ぎると言うか、変に悪目立ちする気がしてならない。
接客歴が長ければ無難に場を収められるのに。就職して間もない私には、この場合の正しい返答が分からずにいる。
叔父さん、早く戻ってきて!
衣装店がどんな仕事をしているか覚える為にも、今日は新郎様の接客のアシスタントをする事になった。
しかし、肝心の店長は電話対応に追われてしまい、私一人で接客を担当している。
いつも担当の武ノ内さんはお休みで、高校生の倉地さんは課外授業で休み。
ただでさえ人手が足りない新婦側は、早見さん&式場から招集された臨時スタッフニ名を加えてもフル稼働状態。
「うわっ……何そのタキシード!」
ぎょっと目を丸くするウェディングドレスの女性は、裾を持ち上げて憤然と駆け寄る。
私の横を通り抜ける純白のドレスはシンプルながら繊細なレースで清楚に仕立てたもの。
その分、落ち着いた大人の魅力が引き立つデザインになっていて、洗練された美しさと気品を感じさせる。
「どうよ? あまりに似合ってて惚れ直し」
「アニメのキャラクターじゃないんだから、派手過ぎでしょ!」
突如乱入した新婦様は市ヶ谷様の言葉に食い気味に被せる。
「市ヶ谷くんのセンスが心配で衣装選びを中断してきて良かった。危うく大事故になるところだった」
新婦様は青ざめた顔でブルッと体を震わせた。
袖の無いドレスなので、むき出しになった二の腕にポツポツ鳥肌が立っている。
「いやっ、聞いて? 新郎新婦が入場する時に茜が雷を落とすじゃん?
そこに俺がこれを着て登場したら目立つから、オリジナリティ溢れる式になると思うんだよね~!」
さすが市ヶ谷様。明らかにドン引きした様子の新婦、茜様の容赦ない物言いにも怯まない。
むしろ、人より目立つ事に快感を覚え、恍惚としているように見える。
「そういう場所で雷なんて出して引火したらどうするの! 却下よ却下!! これは脱がして良いので、カタログのこれか、これを着せておいて下さい」
ピシャッと言うだけ言うと茜様は両手で顔を覆い、どんよりした空気を背負って試着室に戻って行く。
思い返してみると、茜様の種族は雷神だったような。しっかり者の新婦様で良かった。
私はいろんな意味でほっと胸を撫でおろす。
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