就職先は、あやかし専門の衣装店でした

らむね

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情熱的に

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「綺麗…!」

 うっとり囁かれる声。
 幸せな夢の中にいるような表情の女性に、隣に座る男性が温かな眼差しを向ける。

 あのカップルは結婚後も穏やかな関係を築いてくんだろうな。
 そんなカップルを微笑ましく眺めつつ、私は違う意味で新郎新婦を眺めていた。

 神父が待つ祭壇へと真っ直ぐ伸びる大理石の床。
 柔らかな太陽光が差し込み、ステンドグラスの色がマーブル模様の床に映し出される。
 床に散らばった光の粒はキャンディーの小路みたいで何だか可愛い。

(そっか。衣装店の照明で見るのと、チャペルの光の下で見るのとでは光の当たり方が違うんだ!)

 同じ白い衣装でも、チャペルで見ると柔らかな色味の印象を受ける。
 衣装店やカタログで眺めている時には気付かなかった。

 ここで行われているのは本物の挙式じゃない。
 模擬挙式。プロのモデルを雇い、当日さながらの流れを体験する。
 言わば、挙式の体験教室のようなもの。

 実際にチャペルや披露宴会場を見学して、どんな物を飾りたいのか、どんな事をしたいのか。
 頭の中にあるイメージを膨らませ、自分達らしい特別な一日を作り上げていく。

 模擬挙式は誓いの言葉に入り、横並びだった新郎新婦が位置を変えて、互いの顔を正面から見合う。

 あっ、そのポージングすごくいい! 体型が綺麗に見える!
 新郎さんのベストはチャペルの方が映えるな。

 着ているのがモデルとあって、どう動けば衣装を美しく魅せられるか。
 そんな感覚が自然と身に着いているのだろう。
 自然と私も前のめりになってきて、さながら熱血カメラマンのような目線で観察する。
 今どき、そんなテンプレ的なカメラマンがいるのか知らないけど。

 ふとした瞬間の動きを逃すまいと言うように、必死に目に焼き付ける。
 その姿はさながら猫じゃらしを追う猫のようだった。

 ◆◆◆

「今日の模擬挙式、どうだった?」
「もうっ、最高だった!」

 提携している式場から衣装が運ばれてきて、それを梱包して系列店のクリーニングに出す作業中。
 叔父さんに話しかけられ、興奮で押さえ込んでいた段ボールの蓋から手を離してしまう。

「その場で見ないと分からない事ばかりで勉強になった!」
「得られるものがあったなら何より。でも今は仕事中だから、ちゃんと敬語で話すようにね」
「はい!」

 元気な返事をして、再びボリュームのある衣装を押し込む作業に奮闘する。
 興奮冷めやらず、自然と口元が緩んでしまう。

「あの人、何歳いくつなんですか? 子供みたいな顔してますけど」

 呆れた視線を向け、不気味なものを見る表情を浮かべる毒舌美少年、こと倉地さん。
 相変わらず辛辣な物言いだな。
 喋りながら手を動かすスピードは私の倍で、なまじ私より筋力がある分、運ぶ量も倍。
 本当に優秀な人材で文句の付けようがない。

「一番年下の子にそんな事を言われてもねぇ?」
「ガキ扱いしないで貰えます? あの人より俺の方がよっぽどまともに働いているので」
「つれないなぁ。君達は結構気が合うと思うんだけどねぇ」

 のんびり店長が言うと、倉地さんは至極迷惑そうな顔をするのだった。

 そう言えば、結局倉地さんって何のあやかしなんだろう?
 聞いたところで素直に答えるわけ無いし、別に知らないままでもいいけど。

 私は十数秒の格闘の末、ようやくガムテープで封をする事が出来た。

「Chao! 女の子が楽しそうだと見ているボクも楽しくなるよ。どんな楽しい事があったの?」
「えっ?」

 声に反応して顔を上げると、私はピキッとフリーズする。
 人懐っこい笑みを浮かべて私の顔を覗き込んでいたのは、映画やドラマに登場するような美形。

 中性的な少し長めの金髪に、海を思わせるぱっちり二重の碧眼。新郎役としてモデルを務められるのではないか、と思うほど整った容姿と体型の青年。
 ユニセックスと言うんだっけ?
 着ている私服も中性的な服装をしている。

 しばらく動揺で脳がショートして、ようやく解凍されるまでに数分の時を要した。

「ボクはコハク・クラヴェロ。こんな可愛い子が居たら忘れるわけ無いんだけどなー? ボクの事は、はー君でも何でも好きに呼んでね?」
「……ちゃっ」
「ちゃ? あ、Chaoってのはね~」
「チャラい!!」
「ねぇねぇ、キミの事は何て呼んだらいい?」

 どうしよう……全然人の話を聞いてない。
 とっさに周囲を見渡すと、こんな時に限って毒舌倉地さんの姿が見当たらない。
 残った店長と目が合うと、やはりと言うべきか他人事のように眺めていた。

「おっ、じゃない……店長! この方はどなたですか!?」
「どうせやるなら、姉さん達の前でやった方が面白いのに。僕だとちゃんとした修羅場にならないよ」

 ちゃんとした修羅場って何?
 一瞬きょとんとしたものの、直ぐに私はキッと店長を睨みつけた。

「叔父さん!!」
「目が合った瞬間、叔父さんはあてにならないなって顔をしたでしょ? 心外だよねぇ。こんなに心配してるのに」
「……どの辺が?」
「あ~! もしかして、この子がユキの姪っ子? 胡散臭いユキに似なくて良かったね!」

 のらりくらりとした叔父に、陽気な謎の美青年。
 何か疲労感がすごいと思ったら、このコンビ……ツッコミ不在なんだ。
 ぐったりした倦怠感けんたいかんに襲われ、私は人知れずため息をつく。
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