就職先は、あやかし専門の衣装店でした

らむね

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そして、いつもの日常へ

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「衣装選びの際はお世話になりました」
「姫和さん!」

 眼鏡の奥の眼差しは優しく、それでいてキラキラしている。

 姫和・クラヴェロ様。幼い頃から容姿端麗な弟と比べられて、自信をなくしていた。
 それが今は純白のドレスに身を包み、幸せそうに笑う姿を見ると胸がいっぱいになる。

「ご結婚、おめでとうございます!」

 ようやく言葉を発すると同時に泣きそうになった。

 大人しく控えめな雰囲気は変わらない。
 けれど、以前は自尊心の低さからどこか諦めたような微笑だったのに。
 今の彼女は沢山の祝福に包まれ、はにかむように笑う幸せな花嫁さんそのもの。

「ありがとうございます。お忙しい中、お呼びしちゃってごめんなさい」
「いえっ! むしろ光栄です。私、こういう機会に携わる事がなくて」
「和明さんにも話をしたら、ぜひご一緒して貰おうって言ってくれて」

 姫和さんの隣に立つ色白の男性と視線が合い、互いに会釈をする。
 新郎の海老澤様はぽっちゃり体型で、目尻の垂れた人の良さそうな笑顔が印象的。

「では写真を撮りますので、衣装室の方は新婦様の隣に立って下さい」
「はいっ!」

 前撮りだと少し雑談する機会もあるけど。
 挙式当日は新婦お父様の着替えや、着終わった衣装の回収。簡単な衣装の補修をしている。

 その為、参列者の方々に遭遇する機会はほとんど無い。初めてお会いする人ばかりの状況に視線が泳いだ。
 指定された場所に立つと参列者の視線が集中する。主役を見てるって分かるけど、出勤初日並の緊張で口の中が渇く。

「衣装室の方、表情が怖いですよ~。今日は結婚式ですからね?」
「すみません!」

 よほど私の表情がアレだったのか。その瞬間、ドッと笑いが起きる。
 その後もぐずる子供をあやすような注意を受け、三回目にてようやくシャッターが切られた。

「ホタル、お疲れ様!」
「クラヴェロさん! おめでとうございます」

 簡単に挨拶を済ませて衣装室に戻ると、後ろから足音が駆けてくる。
 振り返ると、クラヴェロさんがとろけるような笑顔で手をあげた。

 陽光に照らされるふわふわの金髪。くっきり二重の碧眼。彫刻みたいに彫りの深い顔立ちで、キリンみたいにまつ毛が長い。
 普段はユニセックスな服装を好むけど、今日は参列者としてスーツを着ている。

「はい、これ」
「ありがとうございます! 抜けて大丈夫なんですか?」
「姉さん達は今からお色直しで、参列者はトイレ休憩。それに、マナツにも会いたいから」

 手渡されたペットボトルを開封し、お行儀が悪いけどロビーで立ったままゴクゴク飲む。
 緑茶はよく冷えていて口の中がさっぱりした。

「聞いたよ! 白狐のお姫様の時、サワが大荒れで大変だったって」
「はい。草履を噛まれて、店内もすごい事になっちゃって」
「サワはBertinaのデザイナーだし、大切な商品を傷つけられて怒るのは分かるけど」
「……今、デザイナーって言いませんでした?」
「言ったよ?」

 きょとんと首を傾げるクラヴェロさん。私の脳内にネットに書かれたある文章が浮かぶ。

 Bertina。
 貸衣装店の名前がそのままブランド名でもあり、新進気鋭のドレスデザイナーと契約を交わした。

 ここ数年で人気になってきたブランドだけど。不思議な事に、どれだけ探してもデザイナーの顔が出て来ない。
 分かるのはドレス作りに込められた想いと、数々の受賞記録だけ。

 容姿、年齢、活動拠点。
 全てが謎に包まれているのに、花嫁を美しく華やかに輝かせるドレスは女性達をとりこにしていく。

「新進気鋭のデザイナーって倉地さんの事なんですか!?」
「まだ言ってなかったの? 普段はあんなに偉そうなのに、サワってば意外と恥ずかしがりやだね~!」

 他人事のようにケラケラ笑う姿に目眩がした。

(そりゃあ言えないよ!)

 婚礼の衣装をデザインしているのが少年で、それもまだ高校生なんだから。
 公表する事によるメリットより、普通の生活を送れなくなるデメリットの方が大きい。

(あれ? そう言えば私、倉地さんの前でいろいろ語ったような)

 模擬挙式を見た後に興奮冷めやらず。たまたま閉店作業で一緒になった倉地さんの前で。

《私達は衣装を届けたら後はノータッチで、実際にその瞬間に立ち会う事は無いけど。
 私達の仕事はその数時間を輝かせる為にある。
 そういう仕事をしているんだ、やっぱりブライダルの仕事はいいなぁ……って、改めて思えたと言いますか》

「いやあああああっ!?」

 思いっきり語ってる!
 顔から火が出るとはこの事だ。恥ずかしさのあまり、勤務中だという事を忘れて絶叫してしまう。

「ホタル、突然どうしたの!?」
「今の悲鳴なに!? 虫でも出た?」

 箒を持った武ノ内さんが顔を覗かせる。とりあえず、取る物を持ってすぐ来てくれたのは有りがたいけど。
 今はそっとしておいて欲しい、と言うのが本音である。

「今は一人にして貰えると」
「虫ぃ? 退治するなら化け猫の置き傘を使えばいいだろ」
「居ない人の持ち物を使うのは駄目だろ」
「そうだよ! サワ、傘の付喪神に祟られるよ!」
「違う…そういう事じゃない」

 オフモードのツンツンした倉地さんに加え、天然のクラヴェロさんまで加わるものだから。
 武ノ内さんは渋い表情で眉間を揉む。

「害虫駆除こそ蜘蛛の本領発揮。必ずや、一撃で仕留めて見せましょう!!」

 何故か得意げに胸を張る早見さん。気のせいか、ふんふんと鼻息が荒い。

「まさか早見さん、虫を食べるつもりじゃないよね?」
「何でも良いが衣装の近くで仕留めんなよ」
「そこは私もプロとしてわきまえています。相沢さん、今そっちに行きますね!」
「大丈夫です。違うんですって」

 おろおろ制止する私の声なんてお構いなし。
 戦に赴くような勇ましい早見さんの後ろで、武ノ内さんがドン引きしていた。
 動揺してクラヴェロさんに救いを求めると、アイドル顔負けの自然な動作でウインクを返される。

「マナツに良いとこ見せるチャンスだよね? ボクに任せて!」
「何も伝わってない!!」
「居るだけで拝まれる神族は引っ込んで下さい! 土蜘蛛の見せ場を奪う気ですか!?」

 ニコニコ話しかけるクラヴェロさんに対し、早見さんはクワッと目をいた。
 前に蜘蛛を見つけて叩く姿がトラウマ、って言ってた気がするけど。それはそれ、らしい。

(そもそも虫、いないんだけどね)

「あの、ですから違うと」
「相沢さん。先輩に任せて下さいね」
「一人にし……きゃああああっ!?」

 早見さんの気が昂っているからなのか。天井から「呼んだ?」と数体の蜘蛛がぶら下がり、私は涙目で絶叫する。
 何で私、職場でお化け屋敷みたいな体験をしているんだろう。

「はぁ? 虫なんて何処にいんだよ」
「マナツ! ボクが退治するからちゃんと見てて」
「神族の手出しは無用です!」
「早見さん? 本気で食べるわけじゃないよね!?」

 私の絶叫がきっかけとは言え、皆さんは存在しない虫退治に奔走ほんそうし始める。
 こうしてあやかし専門の衣装店は、騒がしい日常に戻るのだった。

【完】
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感想 19

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みんなの感想(19件)

レブン・イセブン

こんばんは、愛読してる作者さんが過去に感想の返答で推されていたので、気になって読みに参りました!確かに日常に非日常のスパイスをかけた料理のようで面白いです。軽快なトーンと細やかな謎が作る非日常…素晴らしいですね。ご自身が描きたいことと他人が求めているもの、この二つが重なるギリギリの調節が上手いようにも感じました。どちらかというと、ストーリーの展開・文章力もあるが、万人受けを狙っていない作品を好みがちだったので、この作品が私を変えたと思います。次回作、期待させてください。※コメ欄辿ると推し作者さんからのコメントもしっかり貰っていらっしゃる点、正直羨ましくもありかつ実力をしっかりと見せつけられている感が凄いです…笑

2022.01.24 らむね

感想&読んで下さり、ありがとうございます!

嬉しい言葉の数々にホッとしています。
自分の中でも「日常の中の非日常」が書きたかったので、そこに注目して貰えて嬉しいです😊✨

読者様の感想で気付く点も多く、とても興味深い感想でした!

文章の感じから沢山の本を読んでいらっしゃるのだな、とお見受けします。
そんな方にもレビューを書いて頂けて…
レブンさんの推し作者様にも感謝ですね
(*´﹀`*)

解除
ばってんがー森

まだ2話目ですが、普段自分の人生と関わることがないであろうブライダルという世界と、テンポの良い会話が癖になりそうです笑
続きも楽しませて頂きますね!

2022.01.10 らむね

ありがとうございます!

コンテストのテーマの1つがお仕事だったので、聞き慣れない単語が多いかもしれません(;^ω^)
楽しいアットホーム(?)な雰囲気が、少しでも伝わったら幸いです!

感想ありがたや~✨

解除
chiyoru
2021.12.04 chiyoru
ネタバレ含む
2021.12.04 らむね

忙しい中ありがとうございます(≧∇≦)
何故だか「ネタバレ含む」にしちゃいましたが、直せないのでこのままの表示に…。

現代が舞台のお話だし、私があまりあやかし事情に詳しくない事もあり。
あまり怖くない、読みやすい小説にしようと思ったので、そう言って貰えて嬉しいです♥

芦屋 真朱と中堂 花緒。
どうしても寿命の壁はありますが、誰かを想うのは人間もあやかしも一緒ですよね( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )

姫和の事、覚えていて下さったんですね!
彼女は蛍火の成長に関わる大事な役目なので、新郎新婦と一緒に写真を撮るなら彼女だと思っていました。
新入社員の蛍火の成長でもあり、自分に自信が無かった姫和が幸せな花嫁さんになる成長でもある。

今の時代、沢山の幸せの形があるので。結婚したから幸せとは限らないけど。
やっぱりハッピーエンド厨としては、めでたしめでたしで終わって欲しくて。

ずっと応援して下さり、感想も何回か書いて下さいましたよね✨
Chiyoruさん、ありがとうございます!



解除

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