維新竹取物語〜土方歳三とかぐや姫の物語〜

柳井梁

文字の大きさ
13 / 156
第3章 宴と留守番

ここは島原。

夜になっても三味線の音は止むことを知らず、
明るいろうそくの光に照らされて男も女も酒と色に溺れる街である。

新選組ご一行も例に漏れず、どんちゃんどんちゃんとお茶屋遊びに興じていた。


そんな中、所在なさげに座敷の隅を陣取る隊士が一人。

薫である。

くっ、と杯を煽る。

周囲を見渡せば、女に顔を緩めるもの。

仲間内で騒ぎ飲むもの。

既に酔い潰れ大の字になって寝転がるもの。


現代社会の飲み会も中々見てられないものがあったが、これほどではない。

仕方がないからと、同じく隅の方で小さくなっている河合の方を見たが、彼は既に女の虜になっていた。


「東雲!楽しんでるか!」

両肩を強い力で掴まれると、島田に酒を強要された。

酒は弱い方ではないから、手に持っていた杯を差し出すと酒を並々と継がれた。島田の顔は真っ赤である。


「いただきます。」

「硬い、硬い。楽しまなきゃ損だ。」

「せやで、東雲はん!いっつも副長がお傍にいるさかい、近寄れへんけど、今日は無礼講や!」


京言葉を操る男は監察方を務める山崎烝という。

彼とは一度も話したことはなかったが、優秀な密偵として副長の信頼を得ていることを島田から聞いていた。

「お酒美味しいです。」


杯のお酒を一気に飲み干すと二人について来た取巻きの隊士たちが歓声を上げた。

飲めや飲めやという声に煽られるようにして一杯、また一杯と酒を煽る。

「薫、実は評判がいいんだぜ。」

飲みすぎた、と男の声がガンガンと頭に鳴り響くのを聞いて思った。

視界はぼやけて、頭に霧がかかったようにはっきりともの後を考えられない。


「え?なんですかあ?」

見ろよ、この腕と二の腕を無遠慮に触られる。

「女みてえに柔らけえし、華奢だし飯は上手いし文句ねえ。」

そして何よりいい匂いがする、と見知らぬ隊士の鼻が服の上から薫の体を伝う。

おぉ、色っぺえ、と再び薫の周りが賑やかになった。


会社の人からそんなこと言われたこともない。

仕事にかまけて、恋から遠ざかっていた薫は少しだけ高揚した。

そのとき、ふとよぎったのは楠の美しい顔だった。

霞がかかっていた頭は急にはっきりとしてくる。

薫の閉じた瞼の裏で綺麗な楠の顔が赤く染まっていく。

青ざめた顔の薫に周囲の隊士たちは心配そうに様子をうかがった。


「薫、大丈夫か。」

島田に両肩を揺さぶられ、薫はようやく我に返った。

「だ、大丈夫です。ちょっと嫌なこと思い出しただけで。」

もう何も知らない自分ではいられないのだ。

この世界で生きると決めた以上、死というものは身近であり当たり前なのだ。

「酔っぱらったみたいだから、夜風に当たってきます。」

一緒に行くよ、と数人の隊士が一緒に立ち上がったけれど
薫は微笑を浮かべてひとりで行けますと返すとそれ以上誰もついて来ようとはしなかった。


感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

局地戦闘機 飛電の栄光と終焉

みにみ
歴史・時代
十四試局戦 後の三菱雷電J2Mとして知られるこの戦闘機は爆撃機用の火星エンジンを搭載したため胴体直径の増加、前方視界不良などが続いたいわば少し残念な機体である この十四試局戦計画に地方の無名メーカーが参加、雷電を超える高性能機が誕生し、零戦の後継として太平洋戦線を駆ける これは設計者、搭乗員の熱く短い6年間を描いた物語だ

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦 そしてそこから繋がる新たな近代史へ

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。