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第4章 菖蒲と紫陽花
6
数日後、松村は再び座敷に薫を呼んだ。
今日は桂の姿はないようだ。
この前の宴の席とは少し異なり、どこかピリピリとした雰囲気だった。
「桂さんは手ぬるいき。」
「雄藩連合が瓦解した今、挙兵の好機。」
「和泉守はこちらに向かう手筈を整えておられる。」
「そういえば、宮部殿が上京されたと。」
「これは追い風じゃ。彼ほどの人物が味方に付けば怖いことはない。」
「とにかく、我が藩の及び腰共を一掃せねばなりますまい。」
薫は何もわからないという風に黙って松村に酌をする。
松村の横顔はどこか涼しげで、そして自信に満ち溢れていた。
私とそう歳も変わらない人たちが日本を変えるため、
奔走していたのだと彼らの熱い議論を耳にして薫は実感させられる。
これから数年後に起こるであろう、明治維新は着々と実を結ぼうとしている。
薫は未来に生きる人間だからこそわかる。
ここにいる人たちは、時代の流れに乗って勝者として明治時代を切り開く人たち。
いずれ、土方も近藤も皆、時代の流れに抗って死んでいく。
もしかすれば、自分がやっていることが明治維新を遅らせるかもしれないし、反対に早めてしまうかもしれない。
自分がやっていることが正しいことなのか、間違っていることなのか薫にはわからない。
それでも、薫は必死に話に食らいついていかなければならない。
それが土方から課せられた命なのだから。
「花里、聞いているのか。」
松村の声にようやく我に返る。
「えろうすいません。難しい話でついていけへんわぁ。」
「折角花里を座敷に挙げているのに、野暮だったか。」
「とんでもおへん。松村はんのお傍にいられるだけでうちは幸せどす。」
その言葉に気をよくしたのか、松村は杯を煽った。
「踊ってくれるか。」
彼はまっすぐに薫を見つめてそういった。
「舞やったら花君さん姐さんの方が…。」
「花里の舞が見たいんじゃ。」
松村の透き通った瞳が薫の目を射抜く。
薫は決心し、立ち上がった。
花君太夫に事の次第を耳打ちし、お許しが出たところで座敷の中央に躍り出た。
三味線が鳴る。
懐から扇を取り出し、薫は花君太夫から教わったことを思い出しながら踊る。
演目は姫三社。
神楽舞を連想させるような静かな舞である。
初めて人前で踊っているせいか、体がすこしぎこちない。
けれど、一度松村と目が合って、彼の顔の楽しそうな顔を見るともっと喜ばせたいと、
いつの間にか体は解れていく。
気づいた時には拍手喝さいを受けていた。
花君太夫の方を見ると、満足気に笑顔を浮かべていた。
その顔にやっと息が吸えたような気がした。
「花里。」
帰り際、松村に呼び止められ彼の方を振り向いた。
「美しかったぞ。また、舞ってくれるか。」
「松村はんのためなら、なんぼでも。」
松村は薫の手に優しく触れる。
自分でもびっくりするほど、自然にその手を握り返していた。
今日は桂の姿はないようだ。
この前の宴の席とは少し異なり、どこかピリピリとした雰囲気だった。
「桂さんは手ぬるいき。」
「雄藩連合が瓦解した今、挙兵の好機。」
「和泉守はこちらに向かう手筈を整えておられる。」
「そういえば、宮部殿が上京されたと。」
「これは追い風じゃ。彼ほどの人物が味方に付けば怖いことはない。」
「とにかく、我が藩の及び腰共を一掃せねばなりますまい。」
薫は何もわからないという風に黙って松村に酌をする。
松村の横顔はどこか涼しげで、そして自信に満ち溢れていた。
私とそう歳も変わらない人たちが日本を変えるため、
奔走していたのだと彼らの熱い議論を耳にして薫は実感させられる。
これから数年後に起こるであろう、明治維新は着々と実を結ぼうとしている。
薫は未来に生きる人間だからこそわかる。
ここにいる人たちは、時代の流れに乗って勝者として明治時代を切り開く人たち。
いずれ、土方も近藤も皆、時代の流れに抗って死んでいく。
もしかすれば、自分がやっていることが明治維新を遅らせるかもしれないし、反対に早めてしまうかもしれない。
自分がやっていることが正しいことなのか、間違っていることなのか薫にはわからない。
それでも、薫は必死に話に食らいついていかなければならない。
それが土方から課せられた命なのだから。
「花里、聞いているのか。」
松村の声にようやく我に返る。
「えろうすいません。難しい話でついていけへんわぁ。」
「折角花里を座敷に挙げているのに、野暮だったか。」
「とんでもおへん。松村はんのお傍にいられるだけでうちは幸せどす。」
その言葉に気をよくしたのか、松村は杯を煽った。
「踊ってくれるか。」
彼はまっすぐに薫を見つめてそういった。
「舞やったら花君さん姐さんの方が…。」
「花里の舞が見たいんじゃ。」
松村の透き通った瞳が薫の目を射抜く。
薫は決心し、立ち上がった。
花君太夫に事の次第を耳打ちし、お許しが出たところで座敷の中央に躍り出た。
三味線が鳴る。
懐から扇を取り出し、薫は花君太夫から教わったことを思い出しながら踊る。
演目は姫三社。
神楽舞を連想させるような静かな舞である。
初めて人前で踊っているせいか、体がすこしぎこちない。
けれど、一度松村と目が合って、彼の顔の楽しそうな顔を見るともっと喜ばせたいと、
いつの間にか体は解れていく。
気づいた時には拍手喝さいを受けていた。
花君太夫の方を見ると、満足気に笑顔を浮かべていた。
その顔にやっと息が吸えたような気がした。
「花里。」
帰り際、松村に呼び止められ彼の方を振り向いた。
「美しかったぞ。また、舞ってくれるか。」
「松村はんのためなら、なんぼでも。」
松村は薫の手に優しく触れる。
自分でもびっくりするほど、自然にその手を握り返していた。
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