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第6章 武士と正義
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明日の葬儀に来ていく着物や持ち物の準備を終えた薫は島原を訪ねた。
太夫の自室に招かれると、薫の前に一枚の手紙が差し出された。
むすびても 又むすびても 黒髪の みだれそめにし 世をいかにせむ
崩し字であったが、薫にもその意味を読み取ることができる。
これは稔麿さんの辞世の句だ…。
「吉田はんが置いていかはった。」
綺麗な字だった。
字には人柄が表れるというけれど、その通りだ。
自分でよく頭がいいなんて冗談半分に言っていたけれど、本当に頭のいい人だったのだ。
「これを、私に…。」
薫は吉田の手紙を胸で抱きしめた。
稔麿さんは、私に別れを告げに来たんだ。
今ならわかる。
「稔麿さんを殺したのは、私です。」
そう言って、薫は静かに手紙を花君太夫に返した。
「東雲薫としてこの手紙を受け取るわけにはいきません。」
薫の言葉に花君太夫は首を横に振る。
「受け取りなはれ。吉田はんは東雲薫に渡してほしい、言うて来はったんどす。」
言葉が出ない。
「どんな事情があろうとも、あんたと吉田はんの心には嘘はなかったはずどす。」
花君太夫は手紙を薫の前に突き返す。
薫は深々と頭を下げて、何も言わずその手紙を懐へしまった。
そして、立ち上がり島原を後にした。
その日の夜、不思議な夢を見た。
「東雲薫。」
枕元に立っているのは誰だろう。
暗くて顔が見えない。
「副長…。」
こんな夜更けにどうしたのか、と寝ぼけまなこで体を起こす。
目が夜に慣れ、段々と頭がはっきりしてくるうちに枕元の男が土方ではないことを悟った。
「誰…。」
「わしじゃ。」
「稔麿さん…!」
池田屋の夜に死んだはずの男が今、枕元にいる。
「どうしてここに。」
「どうしても会いたくなった。」
吉田はしゃがみこみ、薫の頬を撫でた。
「お前が仇じゃとわかっていても、恨みきれんのはわしの弱さか。」
「稔麿さん、私は…!」
「言うな。わしは最期の別れをしに来ただけだ。」
「待って。」
「さらばじゃ。」
薫は縋るように吉田の手を掴もうとしたが、薫の腕は空を切るのみで吉田を止めることはできなかった。
一陣の風が舞うと、吉田は姿を消した。
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