維新竹取物語〜土方歳三とかぐや姫の物語〜

柳井梁

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第12章 戦争と平和


夏が過ぎ、紅葉が赤く染まる季節が訪れた。

京の街を取り囲む山々も赤く映え、標高の高い山などは薄化粧のように白い雪を積もらせる山すらある。



薫は一仕事終えて、土方の部屋に戻ろうとしていた。

しかし、障子を開ける寸での所で部屋の中から近藤の声が聞こえ、障子を開ける手を止めた。



「永井様のお誘いを受けて、長州訊問使に名乗り出ようと思う。」



「近藤さん、その意味わかって言ってんのか。」

土方にしては珍しく動揺しているのか、声がわずかに震えている。

「もちろんだ。」

「俺に何かあれば天然理心流は総司に、新選組はトシに託す。」

「勝手なこと言ってんじゃねえ。

新選組に対する長州の恨みは近藤さんが考えているよりもはるかに凄まじいんだ。」

「わかっている。

それでも、ここで何もせずただ安穏として過ごしていることは、俺にはできない。」

近藤にとっても苦渋の決断だったのだと、唸るようなその声で土方は悟った。



「近藤さん、生きて帰って来てくれ。」

重い沈黙の末、土方は近藤の決断を後押しすることを決めたらしく、深いため息と共にそう言った。

「あぁ、必ず帰ってくる。」

近藤の言葉はどんな言葉よりも強く、そして頼りがいのあるものであった。



「薫、そこで盗み聞きしてないでさっさと入ってこい。」

障子越しに土方のいらだった声が聞こえて、薫は慌てて障子を開けた。

「ぬ、盗み聞きしようと思ったわけじゃ。」

「障子の影で丸見えだったよ。」

ハハハ、と笑う近藤は薫の行動を咎めることなく、土方の部屋から去って行った。



「近藤先生どこかへ行かれるんですか。」

「長州へ行くつもりだ。」

「ちょ、長州って…敵じゃないですか。殺されますよ。」

「そんなこたあわかってる!」

土方の怒号に薫は肩をびくつかせた。

こんなに感情を露わにする土方を見るのはいつぶりだろうか。

それほどに、近藤の身の上が心配なのだ。



薫は土方の不安を思って、一つ提案をすることにした。

「副長、私も長州へ行きます。」

「馬鹿言うな。」

「私であれば、男の人よりも疑われにくいはずです。」

「駄目だ。」

「ずっと近藤先生の会合に参加してわかったんです。

局長は出自のことで蔑まれながらも、自分の意見を聞いてもらおうと必死で戦っておられました。

今回の申し出も身分の壁を越えて、自分の意見を実践するために行動されようとしているのです。

そんな局長のために私ができることは一つ。

長州の動きをつぶさに報告し、局長のために道を開くことなんです。」

しかし、土方の反応は芳しくなかった。

「知ったような口をきくな。お前は賄い方だ。

飯を作り、俺の小姓として傍に居ればいい。出過ぎた真似をするな。」

「…失礼しました。」

これ以上何を言っても無駄だと悟った薫は頭を下げて、土方のいないどこかへ行って頭を冷やすことにした。



「相変わらず過保護だな、土方さん。」

どこからともなく現れた齋藤が、薫が開け放った障子から部屋に入る。

「盗み聞きたぁ良い度胸だ。」

文机に向かって作業をする土方は紙に目をやったまま、そう言った。

「同意の上での立ち聞きを盗み聞きというのなら。」

「食えねえな、あんたも。」

「近藤さんは伊東も連れていくつもりでしょう。」

「恐らくな。」

「薫を長州に向かわせるのは悪い話ではないかと。」

「わかっている。」

「いや、今は私情を挟む余地はありませんよ。思いの外、伊東の動きは鋭い。」

今や伊東一派は存在を無視できないほどに一大勢力になりつつある。

恐怖を以て縛り付ける土方と温情を以て隊をまとめようとする伊東とでは、隊士にとって比べるべくもない。

そこにうまく付け入り、伊東は若い連中を次々と勉強会に誘い囲い込んでいる。

尊王攘夷という名を借りて講義をしているが、その内容はむしろ倒幕のそれに近いものがある。

「今回の長州訊問使に伊東を連れて行けば、やり込められるのは長州ではなく近藤だ。

山崎一人に長州と伊東の動向を探らせるのは無理がある。」

「そのために吉村をつける。」

「彼は南部訛りが強い。西の人間は心を閉ざす。」

「女子は情に流されやすい。」

土方は齋藤に怒りの目を向けた。

齋藤もそれ以上は何も言えなかったのか、ため息にならないほど小さく息を吐いた。

「土方さんの判断に任せる。俺は薫が一番適任だと思っている。」

齋藤は後ろ手で障子を閉めると、自分の部屋のある方へ戻っていった。



くそったれ!

土方は拳を畳に打ち付け、心の底から叫んだ。

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