維新竹取物語〜土方歳三とかぐや姫の物語〜

柳井梁

文字の大きさ
104 / 156
第15章 前世と来世


上方の街で深雪太夫と言えば、そこそこ名の知れた太夫であったお陰か、

深雪太夫によく似た女郎が島原で働いているという噂が薫の耳に届くのにそう時間はかからなかった。

男たちからは安いお金で太夫並の女を抱けるとあって、結構な人気を博しているらしい。



「お幸さんの妹の噂、こんな形で皆さんから聞きたくなかったですけど。」

「まあ島原の女の事情と言ったら、俺の右に出る者はいねえだろう。」

子供も生まれてまだ間もないというのに、原田は自慢げにそう答えた。

「所帯持ちの吐くセリフじゃねえなぁ。」

隣に佇む永倉は呆れたように笑う。

「でも私も聞いたことがあります。

掃き溜めに鶴とかけて、巷ではお鶴ちゃんと呼ばれてます。」

意外な情報をもたらしたのは、沖田であった。

「お前もちゃっかりやることぁやってんだなぁ。

兄貴分としては安心したぜ。」

原田が沖田の肩に腕をかけ抱き寄せるようにして頬擦りしたが、沖田は嫌そうに身を引いた。

「勘弁してください。私の情報源は葛切り屋さんですから。」

んだ、つまんねえのと原田は肩を落として沖田から離れた。

「あれ、皆して何の話?」

近頃はめっきりと一緒にいる時間が少なくなった藤堂が珍しく話の輪に入って来た。

暗い話続きだったからか、薫はひさしぶりのその光景に少しだけ嬉しくなる。

「深雪太夫の妹が島原にいるって話聞いたことあるか。」

「あぁ、お鶴ちゃん。」

「藤堂先生もご存じなんですね。」

「結構有名な話じゃない?」

「どこのお店にいるか、わかりますか。」

藤堂から鶴の働く店の名前と場所まで事細かく教えてもらうと、

早速薫は島原の女郎屋が立ち並ぶ路地へと足を運んだ。



女たちの客を引く腕が狭い路地裏を埋め尽くす。

通る男たちは嬉々としてその腕を取り、赤く艶めいた暖簾をくぐるのだ。

薫はその腕を軽快に避けながら、格子窓の奥に座る女の顔を一人一人見て回った。

そして、藤堂から聞いた店の格子窓の先に探し求めていた女は

他の女たちと同じように今日の稼ぎを得ようと必死に腕を伸ばしていた。


妹とはいえ、余りにも似すぎている風貌に、

薫は少々不気味さを感じながら、「お鶴」の手を取り、店へと入った。

「鶴と申します。」

手を引かれつつ部屋に入り、三つ指をついて深く頭を下げる彼女は最早深雪太夫そのものであった。

「頭を上げてください。」

赤い蝋燭の明りで、彼女の頬は赤く染まっているようにすら見える。

あまりの色っぽさに薫はここに来るべきではなかったのではと後悔に苛まれた。

「私はあなたを買いに来たわけではないのです。」

そう言うと、女の顔は豹変した。

「なんや、『掃き溜めの鶴』を拝みに来たんかえ。」

つまらない、と言いたげに折りたたんでいた足を畳に放り出す。

「違います。人を探しているのです。」

「うちに何の用?」

「深雪太夫をご存じですか。」

「知らんなあ。」

客用に設けられた煙草盆で彼女は自前の煙管に火をつけた。

「貴方に瓜二つだと町中の人皆噂をしていました。」

勿論、彼女の耳に入ってこない訳がない。

彼女の返答は怒りの込められた視線のみであった。

「知らんって言うてるやろ。」

やはり、妹なのだろうか。

だが、深雪太夫を良く思っていないようだった。

「誰を探しているんか知らんけど、うちには関係ないことやさかい。」

白い煙を吐き出すと、カツンと音を立てて煙管を煙草盆にたたきつけた。

「抱かないんやったら、帰って。」

彼女は煙管を懐にしまうと、立ち上がり薫を部屋から追い出そうとする。

「ちょっとまだ、話は終わってません。」

「もう二度と来るな!」

彼女が薫の背中を押そうとしたとき、布団で滑って前のめりに転がりそうになった。

薫はとっさに抱き留めたが、懐に入れていた煙管の中から一枚の写真が零れ落ちた。

その写真はこの時代に撮られた写真とは大きく異なった、現代の世でよく見かけるカラー写真。

家族の集合写真か何かだろうか。

桜の木の下でセーラー服に身を包んだ彼女が写真の中で微笑んでいた。



彼女は嫌、と悲鳴に近い声を上げて写真を胸元に押しつける。

そして、薫は一つの結論に至ったのだ。

「もしかして、貴方…現代の世から来たの。」

薫の言葉に彼女の瞳は大きく見開いた。

「まさか…。」



感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

局地戦闘機 飛電の栄光と終焉

みにみ
歴史・時代
十四試局戦 後の三菱雷電J2Mとして知られるこの戦闘機は爆撃機用の火星エンジンを搭載したため胴体直径の増加、前方視界不良などが続いたいわば少し残念な機体である この十四試局戦計画に地方の無名メーカーが参加、雷電を超える高性能機が誕生し、零戦の後継として太平洋戦線を駆ける これは設計者、搭乗員の熱く短い6年間を描いた物語だ

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦 そしてそこから繋がる新たな近代史へ

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。