維新竹取物語〜土方歳三とかぐや姫の物語〜

柳井梁

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第17章 生まれと育ち

「お帰りなさい。遅かったですね。」

醒ヶ井の邸宅から屯所へ戻った薫を待っていたのは木刀を片手に携えた着流し姿の沖田であった。

「まだ起きていらっしゃったんですか。」

「なんだか眠れなくて。」

「体を休めることも大切な仕事ですよ。」

「そう言われると思って、薫さんが帰ってくる前に止めようと思っていたんですけど。

私がどんなに強くなっても、近藤先生の悪口を言う人はいなくならないものですね。」

朝の台所で見かけた隊士のやり取りを思い出した。

尊敬する師匠の出自をあげつらう連中に余程腹を立てているらしい。

「近藤先生はきっとそんな悪口、気にも留めてないですよ。」

「えぇ、先生は器の大きな男ですから。」

「出自なんて関係ないなんて言う人の方が信用できません。」

「どうしたんですか、急に。」

「近藤先生に教えてもらいました。」

「近藤先生らしいですね。」



ハハハ、と笑い声を上げると、むせたのかコホコホと沖田は咳き込んだ。

慌てて薫は沖田先生の傍に駆け寄って背中をさする。

「沖田先生。明日朝一でお医者様の所へ行きましょう。」

「ただの風邪ですよ。」

咳は止まらないのか、コホコホと咳き込みながら沖田は言った。

「取り返しのつかないことになる前に!」

「まるで、私が取り返しのつかない病に罹っているような物言いですね。」

沖田の目が薫に向けられた。

薫は沖田を直視できずに空を見上げた。

大きな月が夜空を照らしている。

「お月様が沈む前に横になりましょう。」

咳が止んだ後も薫は沖田の背中を摩る手を止めることはなかった。



「薫さん、私は死ぬのですか。」

布団に横になった沖田に毛布をかけると、沖田は子供のように怯えた声で呟いた。



悲劇の剣士。

後世ではそう語り継がれている、沖田の前で薫は歪な笑顔を浮かべることしかできない。

「先日、血を吐きました。

皆の前では返り血だと気丈に振る舞いましたが、健康な人間が血を吐くことはありませんから。」

きっと何か病にかかっているのでしょう。

沖田はそう続けた。

「今思えば、薫さんがどうして私の体調を心配していたのかわかる気がします。」

薫さん、と沖田は布団の中から手を出して薫の頬に優しく触れた。

長いこと外にいたのか、沖田の手は氷のように冷たい。

「薫さんはこうなることを知っていたんですね。」

「ち、違います。」

「貴方は本当にかぐや姫ですね。」

フフフ、と沖田は笑う。


「朝一で必ず医者の所に行きますから、近藤先生と土方さんには黙っていてください。」

沖田の今まで見たことのないほど弱った姿に薫は黙ってうなずく他なかった。

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